• 更新日 : 2025年11月4日

【一覧】年末調整の書類保管期間は何年?紙・電子の違い、紛失リスクを解説

年末調整で扱う申告書や源泉徴収簿といった書類の保管期間は、所得税法により原則7年間と定められています。そのため、税額計算の根拠となるこれらの法定調書は、法律にのっとり適切に管理しなければなりません。

担当者の中には「紙の原本はどこまで保管すべきか」「電子データで保存する場合の注意点は?」「もし紛失したらどうなるのか」といった疑問もあるでしょう。

この記事では、年末調整書類の正しい保管期間とその起算日、対象書類の一覧、紙と電子データそれぞれの具体的な保管方法、そして万が一紛失した場合の対処法まで、企業の担当者が知るべき情報を詳しく解説します。

年末調整書類の保管期間は「7年」が原則

年末調整に関連するほとんどの書類は、法律で7年間の保存が義務付けられています。これは会社側の義務であり、個人(従業員)の義務とは異なります。

なぜ7年?根拠となる法律

7年という期間の主な根拠は所得税法にあります。税務署が企業の税務申告の内容について調査(税務調査)を行う際、調査対象となる期間が原則として過去7年間にさかのぼることがあるためです。

この期間に合わせて、企業は源泉徴収の計算が正しく行われたことを証明する根拠書類として、年末調整関連の書類を7年間保管することが求められています。もし書類がなければ、控除の適用などを客観的に証明できず、追徴課税などのリスクが生じる可能性があります。

参照:No.2503 給与所得者の扶養控除等申告書等の保存期間|国税庁

いつから数える?保管期間の正しい起算日

保管期間を数え始める日(起算日)を間違えると、必要な書類を誤って早く破棄してしまう可能性があります。起算日は法律で明確に定められています。

7年保管書類の起算日:その申告書等の提出期限の属する年の翌年1月10日の翌日

少し複雑ですが、具体例で見てみましょう。

  • 対象:2024年(令和6年)分の年末調整書類
  • 提出期限の属する年:2024年(令和6年)
  • 起算日:2024年(令和6年)の翌年、つまり2025年(令和7年)1月11日
  • 保管満了日:2031年(令和13年)1月10日

実務上は「年末調整の対象年から数えて、8年目の初めまで保管する」と覚えておくとわかりやすいでしょう。

【一覧】年末調整に関連する書類の保管期間

年末調整に関連する書類は、7年保管が中心ですが、中には労働基準法や会社法に基づき異なる期間が定められているものもあります。混同しないよう、一覧で確認しましょう。

7年間の保管が義務付けられている書類

これらの書類は、税務調査などで提示を求められる可能性が高い重要な書類です。

書類名概要
給与所得者の扶養控除等(異動)申告書扶養親族の状況を申告するための書類。
従たる給与についての扶養控除等(異動)申告書2か所以上から給与を得ている場合に提出。
給与所得者の基礎控除配偶者控除等・所得金額調整控除申告書3つの控除を同時に申告する様式。
給与所得者の保険料控除申告書生命保険料や地震保険料などの控除を受けるための書類。
給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書住宅ローン控除(2年目以降)を受けるための書類。
源泉徴収簿各従業員の給与や徴収税額を記録した帳簿。

7年以外(5年・10年)の保管期間が定められている関連書類

賃金台帳のように、複数の法律で保管期間が定められている書類は、より長い方の期間に合わせて保管するのが安全です。

保管期間主な対象書類関連法
10年
  • 計算書類及びその附属明細書
  • 事業に関する重要な書類(株主総会議事録など)
会社法
5年
  • 労働者名簿 ・賃金台帳(※)
  • 雇入れ、解雇、退職に関する書類
労働基準法
2年健康保険法等

(※)賃金台帳は労働基準法では5年保管ですが、所得税法上の「源泉徴収簿」を兼ねている場合は7年間保管する必要があります。

年末調整の書類保管を怠るとどうなる?

年末調整の書類は定められた期間、適切な方法で保管しなければならず、法律で定められた企業の義務です。もしこの義務を怠った場合、追徴課税など企業はさまざまな不利益を被る可能性があります。

放置は危険!保管義務違反がもたらす罰則やリスク

書類の不備や紛失が税務調査などで発覚した場合、以下のようなリスクが考えられます。

  • 追徴課税と加算税の発生
    扶養控除などの正当性を証明できず、源泉徴収税額が本来より少なかったと判断された場合、不足分の税額(追徴課税)に加え、ペナルティとして過少申告加算税不納付加算税、延滞税などが課される可能性があります。
  • 青色申告の承認取り消し
    帳簿書類の保存状態が悪質と判断されると、税制上の優遇措置が受けられる青色申告の承認が取り消されることがあります。これにより、欠損金の繰越控除などが利用できなくなり、納税額が大幅に増加する恐れがあります。
  • 会社法上の過料
    会社法で保管が義務付けられている計算書類などを保管していなかった場合、代表者個人に対して100万円以下の過料が科される可能性があります。
  • 労務トラブルでの不利な立場
    従業員との間で未払い残業代などのトラブルが発生した際に、賃金台帳などの客観的な証拠を提示できず、企業側が不利な立場に置かれることも考えられます。

リスクを回避するための具体的な対策

こうしたリスクを未然に防ぐためには、組織として管理体制を構築することが不可欠です。

STEP1:書類管理規程を策定する

まず、社内で統一されたルールブックとして「書類管理規程」を作成しましょう。書類ごとに以下の項目を明確に定めます。

  • 保管期間:法定の期間を明記する。
  • 保管場所:紙の書類の保管棚、電子データの保存フォルダなどを指定する。
  • 管理責任者:部署単位または個人で責任者を定める。
  • 廃棄方法:保管期間満了後の廃棄手順(シュレッダー処理、データ削除など)を定める。

この規程を設けることで、担当者の変更があっても一貫した管理が可能になります。

STEP2:保管場所のルール化と物理的管理を徹底する

規程に沿って、実際の保管場所を整備します。

  • ラベリングの徹底:
    「〇〇年度 年末調整書類(保管期限:〇〇年1月10日)」のように、ファイルボックスやフォルダに内容と廃棄予定日がわかるように明記します。
  • アクセス制限:
    鍵のかかるキャビネットや書庫に保管し、権限のない従業員が触れられないようにします。
  • 定期的な棚卸し:
    年に一度は保管状況を確認し、期限切れの書類を規程に沿って廃棄する日を設けることで、保管スペースの肥大化を防ぎます。

STEP3:電子化による管理体制を強化する

人的ミスや災害による紛失・劣化リスクを根本的に減らすためには、電子帳簿保存法に準拠した電子化が有効です。スキャナ保存や年末調整システムの導入は、物理的な保管スペースを削減するだけでなく、必要な書類を瞬時に検索できるようにし、業務全体の効率を大きく向上させるでしょう。

年末調整の紙と電子データ、正しい保管方法とは?

書類の保管は、紙媒体と電子データのどちらで行うかで注意点が異なります。それぞれの正しい管理方法を理解しておきましょう。

【紙の場合】原本保管が基本!ファイリングのコツ

従業員から紙で提出された申告書は、原本のまま保管するのが大原則です。コピー(複製)での保管は原則として認められていません。

  • ファイリング方法
    「〇〇年分 扶養控除等申告書」のように、年度と書類の種類が明確にわかるようにファイルやボックスを分けましょう。従業員別にまとめるか、五十音順に並べるなど、後から探しやすいルールを決めておくと効率的です。
  • 保管場所
    鍵のかかるキャビネットや書庫など、セキュリティが確保された場所に保管します。湿気や直射日光による劣化、害虫被害を防げる環境が理想的です。

【電子データの場合】電子帳簿保存法への対応が必須

紙の書類をスキャンして電子データとして保存(スキャナ保存)したり、最初から電子データで受け取った書類を保存したりする場合は、電子帳簿保存法の要件を満たす必要があります。

  • スキャナ保存の要件
    紙の原本をスキャンして保存するには、改ざんを防ぐためのタイムスタンプの付与や、検索機能を確保できるシステム利用など、真実性と可視性を担保する要件を満たさなければなりません。単にPDF化してサーバーに保存するだけでは不十分なため注意が必要です。
  • 電子取引データの保存
    年末調整システムなどを通じて従業員から電子的に提出された申告書データは、電子データのまま保存します。この場合も、訂正や削除の履歴が残るシステムを使うなど、真実性を確保する措置が求められます。

参照:電子帳簿保存法関係|国税庁

保険料控除の証明書原本はどうする?

生命保険料や地震保険料の控除証明書(ハガキなど)は、従業員が「保険料控除申告書」に添付して提出します。会社は、この申告書と添付された証明書原本を一体の書類として7年間保管する義務があります。従業員に返却するものではないため、取り扱いには注意しましょう。

もし年末調整の書類を紛失してしまったら?

会社が保管書類を紛失した場合は追徴課税や青色申告の承認取り消しといったリスクがあり、従業員が紛失した場合は会社に再発行を依頼することで対応が可能です。書類を厳重に管理していても紛失のリスクはゼロではないため、万が一の事態に備えてそれぞれの対応を知っておきましょう。

会社が保管書類を紛失した場合の対応

会社が保管義務のある申告書などを紛失すると、税務調査の際に控除の事実を証明できず、追徴課税や延滞税が課される可能性があります。また、青色申告の承認が取り消されるといった、経営上の大きな不利益につながることも考えられます。 紛失が発覚した場合は、まず社内で経緯を調査し、税理士などの専門家に相談して税務署への対応を検討する必要があるでしょう。

従業員が源泉徴収票などを紛失した場合の対応

従業員が住宅ローン契約や確定申告などで必要になる源泉徴収票を紛失した場合、会社に再発行を依頼できます。源泉徴収票の元となる賃金台帳(源泉徴収簿)は会社に7年間保管されているため、この期間内であれば再発行が可能です。担当者は速やかに対応しましょう。

従業員個人に年末調整書類の保管義務はある?

従業員個人に法律上の保管義務はありません。しかし、確定申告や各種手続きで必要になることがあるため、源泉徴収票や控除証明書などを一定期間保管しておくことが推奨されます。

会社とは違う、個人が保管すべき書類と期間の目安

法律上の義務はありませんが、従業員個人も以下の書類は一定期間保管しておくことを推奨します。

  • 源泉徴収票:
    確定申告で医療費控除を受けたり、転職先に提出したり、ローンの審査で収入証明として使ったりする場面があります。少なくとも5年間は保管しておくと安心です。家庭での保管で十分です。
  • 各種控除証明書:
    年末調整で提出しなかった保険料控除証明書などを使い、自分で確定申告をする可能性があります。確定申告の期限から5年間は保管しておきましょう。e-Taxで申告した場合、証明書の提出は省略できますが、税務署から提示を求められる場合に備え、5年間の保管が必要です。

退職した従業員の書類の扱いはどうなる?

従業員が退職した後も、その従業員の年末調整関連書類に関する会社の保管義務はなくなりません。在籍している従業員の書類と同様に、法定の保管期間が満了するまで適切に保管する必要があります。誤って他の書類と一緒に破棄しないよう、管理を徹底しましょう。

年末調整の書類保管は7年が原則!確実な管理体制を

年末調整で扱う扶養控除等申告書や源泉徴収簿などの書類は、所得税法を主な根拠として、原則7年間保管しなければなりません。この保管期間は、書類の提出期限の年を基準に正しく計算する必要があり、対象となる書類も多岐にわたります。紙で保管する場合は原本の管理を徹底し、電子データで管理する際は電子帳簿保存法の要件を満たさなければなりません。

保管義務を怠ると、追徴課税などのペナルティを受けるリスクがあります。社内で明確な管理ルールを定め、書類の紛失などを防ぐ体制を構築することが、企業のコンプライアンスを守るうえで不可欠です。


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