• 更新日 : 2025年3月19日

令和7年度の労災保険料率は?労災保険の金額の計算方法も徹底解説

労災保険料は、労災保険料の計算に用いられる料率です。
労災事故が起こりやすい危険な業種ほど労災保険料率が高く設定され、危険が少ない安全な業種には低い労災保険料率が設定されています。多くの事業では、労災保険料と雇用保険料をあわせた労働保険料を年度更新と呼ばれる保険料の申告・納付手続きにより納付するのが一般的です。

本記事では、労災保険料率の詳細と計算方法、納付方法について徹底解説します。

労災保険料率は労災保険料の計算に用いられる料率

労災保険料率とは、労災保険料の計算に用いられる料率で、労災保険の給付財源となる保険料を決定する基準です。

労災保険料は、労災保険の給付を行うための財源となる保険料です。労働災害や通勤災害に遭ってしまった労働者に対する給付のために徴収され、保険料に従業員の負担はなく、全額事業主が負担します。

労災保険は、業務災害により負傷した労働者が必要とする給付を行うことが目的です。労災保険料率は業種によって異なり、労災保険料率は、建設業などの危険な業種ほど高く、労災事故が起こりにくい業種ほど低く設定されています。

企業が労災保険料を正しく計算するには、自社の業種に適用される料率を確認することが重要です。

労災保険料と労働保険料の違い

労災保険料は、業務災害に対する補償にあてるために、事業主が全額負担する保険料です。業務中や通勤中の事故や業務に起因する疾病が対象となり、業種ごとのリスクに応じた料率で計算されます。

一方、労災保険料と雇用保険料をあわせたものを労働保険料といいます。雇用保険料は、労働者が失業した際の給付や育児休業の際の給付にあてられるものです。労働保険料のうち雇用保険料は労働者と事業主がそれぞれ一定割合を負担します。

上記のように、労災保険料は業務災害補償を目的とし事業主が全額負担、雇用保険料は事業主と労働者がそれぞれ負担します。労災保険料は全額事業主負担であるのに対し、労働保険料のうち雇用保険料について労働者も分担する点が大きな違いです。

下記の記事では、労働保険料について具体的に解説しているため、あわせてご覧ください。

労災保険とは業務中や通勤中の怪我や病気に対して補償する保険

労災保険とは、業務災害や通勤災害に被災した労働者を対象に必要な給付を行う、労働者を使用する企業が必ず加入しなければならない社会保険制度です。

労災保険は、業務中や通勤中にした怪我だけではなく、白血病や肺がん、難聴、潜水病などの仕事によって発症する病気、脳出血やくも膜下出血、脳梗塞、心筋梗塞、狭心症などの長時間労働によって発症する病気、仕事による精神的な負担から発症する精神疾患などにも対応しています。

業務災害については、労働基準法でも使用者に災害補償を義務付けています。しかし、企業の災害補償の金額は多額となることが多いため、労災保険の給付を受けることで、企業は保険給付の範囲内で労働基準法の業務災害における災害補償の責任を免れるることが可能です。

ただし、労災保険の休業補償給付は休業4日目から行われるため、企業には休業3日目までの休業補償を行う必要があることに注意が必要です。

労災保険について、詳しくは以下の記事で説明しています。是非参考にしてください。

業務災害

業務災害とは、労働者が業務中に負った負傷や疾病、障害または死亡を指します。

「業務上」とは、業務が原因で怪我や病気になり、業務と結果に一定の因果関係があることです。業務災害に対する労災保険給付は、労働者が業務が原因で怪我や病気になった場合に支給されます。

業務上の疾病には、有害物質への曝露や劣悪な作業環境が原因で発症した病気が含まれ、事業主の指示下や支配下での単なる発症とは区別されます。

第三者行為災害

第三者行為災害とは、労災保険の対象となる事故が第三者の行動によって発生した場合のことです。

上記の場合、事故を起こした第三者には被害者への損害賠償責任があります。労災保険と第三者からの損害賠償を両方受け取ると損害額を超える可能性があるため、労災保険法により調整が行われます。

政府が先に労災保険を支給した場合、被災者に代わり第三者に損害賠償の請求が可能です。一方、被災者が先に第三者から賠償金を受け取った場合は、受け取った分だけ労災保険の支給額が減額されます。

通勤災害

通勤災害とは、労働者が通勤中に被った負傷や疾病、障害、死亡を指します。

通勤は、就業に関して住居と就業場所の往復や就業場所から他の就業場所への移動、住居と就業場所の往復に先行、もしくは後続する住居(単身赴任の場合における配偶者・子の居宅、従来より介護を行っていた父母等親族の居宅など)間の移動のことです。また、これらの移動のうち合理的な経路及び方法で行われるものに限り、業務の性質を有するものは含みません。なお、通勤経路を逸脱・中断した場合、その間やその後の移動は通勤に含まれません。

ただし、通勤途中の食事や買い物など、日常生活上必要な最小限の行動は通勤とみなされることがあります。また、途中下車や寄り道がやむを得ない範囲内であれば、通勤災害として認められることもあります。

令和7年度の労災保険率

令和7年度の労災保険料率は、令和6年度と変更はありません。労災保険料率は3年ごとに見直されますが、令和6年に改正されたばかりのため、次回の見直しまで現行の料率が適用されます。

労災保険料率は事業の種類別に区分され、業種ごとに細かく設定されています。同じ事業でも業務内容が異なれば料率も異なるため注意が必要です。具体的な料率は以下のとおりです。

分類事業の種類労災保険率
製造業(一部抜粋)食品製造業5.5/1,000
建設業(一部抜粋)水力発電施設、ずい道等新設事業34/1,000
卸・小売・飲食・宿泊全般3/1,000
その他ネットショップやコールセンターなど3/1,000

参考:労災保険率表|厚生労働省

労災保険率は、業務の危険度が高い業種ほど高く設定されています。同じ業種でも具体的な業務内容や役割によって料率が異なるため、注意が必要です。

労災保険料の計算方法

労災保険料は、「全従業員の年度内の賃金総額 × 労災保険率」で計算されます。賃金総額とは、労働者に支払った賃金を合計した金額です。

給料や賞与、手当など、労働の対価として支払われるものはすべて賃金に該当します。現金での給付以外に、通勤に使用する定期券といった現物で支給するものも賃金の総額に含まるため注意しましょう。

一般的に就業規則や賃金規則で労働者に対して支給することが規定されているものすべてが賃金の総額に含まれますが、退職金や見舞金、労働基準法に基づく休業補償などは性質上賃金の総額に含める必要はありません。

労災保険料は、先述した労災保険料率表から、賃金の総額に該当する業種の保険料率を乗じて計算します。保険料の負担割合は社会保険のように従業員との折半ではなく、全額事業主が負担します。

具体的な計算例は以下のとおりです。

例①業種舗装工事業
賃金の総額2億円
労災保険料200,000,000×9/1000=180万円
例②業種コンクリート製造業
賃金の総額1億8千万円
労災保険料180,000,000×13/1000=234万円
例③業種ビルメンテナンス業
賃金の総額1億円
労災保険料100,000,000×5.5/1000=55万円
例④業種卸売業
賃金の総額5千万円
労災保険料50,000,000×3/1000=15万円
例⑤業種不動産業
賃金の総額3千万円
労災保険料30,000,000×2.5/1000=7万5千円

建設業の場合、数次の請負によって事業が行われることが常態のため、工事全体の賃金総額を把握することが困難なケースもあるでしょう。

上記のような場合には、特例が認められています。建設業で正確な賃金総額の算出が困難な場合には、請負金額(消費税を除く)に所定の労務比率をかけて賃金総額を算定するのが一般的です。

舗装工事業の労務比率は17%(平成30年4月1日以降のもの)です。したがって、例①の場合、「請負金額(消費税を除く)×17%」は2億円となります。

参考:労災保険率表(平成30年度~)|厚生労働省

労災保険料の納付期間は6月1日から7月10日までの間

労災保険料の納付期間は毎年6月1日から7月10日までです。

事業主は、期間内に当年度の労働保険料を計算し、「労働保険概算・増加概算・確定保険料申告書」を所轄の労働基準監督署や労働局に提出し、国へ納付する必要があります。労災保険料は事業主が全額負担し、従業員の給与から天引きすることは認められていません。

納付を怠ると延滞金が発生する可能性があるため、期限内の手続きが重要です。

労災保険料の納付方法

労災保険料の納付には、現金納付・口座振替・電子納付・労働保険事務組合への委託の方法があります。

現金納付とは、労働基準監督署や労働局、銀行などに申告書を提出し、現金で納める方法です。元請事業主が提出する「一括有期事業報告書」は銀行での取り扱い不可のため、注意が必要です。

口座振替は、指定の銀行口座から自動引き落としで納付する方法を指します。利用には「労働保険 保険料等口座振替納付書送付(変更)依頼書兼口座振替依頼書」の提出が必要です。

電子納付の場合、インターネットバンキングやATMを利用して納付できます。e-Govのシステムを利用すれば、前年度の情報を取り込んで手続きを簡略化できることがメリットです。

労働保険事務組合への委託は、厚生労働大臣の認可を受けた団体が、労働保険の手続きを事業主に代わって行う方法です。概算保険料の申告・納付や労災保険の特別加入申請などを代行しますが、入会金や手数料が必要な場合があります。とくに中小企業にとっては、事務負担を軽減できる点がメリットです。

労災保険料に関する注意点

労災保険料を適切に納付するためには、納付期限の厳守や計算ミスの防止が重要です。

納付が遅れると延滞金が発生し、場合によっては督促を受けることもあります。また、保険料の算出には賃金総額や業種ごとの保険料率が関係するため、正確な確認が必要です。以下では、各注意点について解説します。

労災保険料は3年に1度改定される

労災保険料率は、業種ごとの過去3年間の災害発生状況をもとに、原則3年ごとに改定されます。

直近では令和6年度に改定され、業種平均の労災保険料率が4.5/1000から4.4/1000へ引き下げられました。特別加入保険料率や建設業の労務費率も変更されています。

上記により、事業所が負担する労災保険料が変動するため、最新の保険料率を確認し、適切に対応することが重要です。

納付期限を過ぎれば延滞金を支払わなければいけない

労災保険料を納期限までに納付しない場合、本来の保険料に加えて延滞金を支払う必要があります。

延滞金は法定納期限の翌日から発生し、未納期間に応じて年14.6%(最初の2ヶ月は軽減措置あり)が加算されます。上記は、期限内に納付した事業主との公平性を保つための措置です。

さらに、滞納が続くと財産を差し押さえて強制的に徴収される「強制処分」の対象となるため、期限を守ることが重要です。

複数事業を展開する場合は事業ごとの保険率で計算する

労災保険料の料率は事業ごとに異なるため、複数の事業を展開する場合は、それぞれの事業の内容に応じた保険率で計算する必要があります。

たとえば、通信業と飲食業を運営している場合でも、事業ごとに適用される料率が決まります。ただし、労災保険法の業種分類は労働基準法などとは異なるため、混同しないよう注意が必要です。

また、すでに複数の労災保険番号を持っている場合は、労働保険番号ごとに該当する保険率を適用することになります。

出向社員と派遣社員で取り扱いが異なる

出向社員と派遣社員では、適用される労災保険が異なります。

出向社員の場合、出向先事業の組織に組み入れられ、出向先事業主の指揮監督を受けて労働に従事する者であるため、出向先企業の労災保険が適用されます。

一方、派遣社員は派遣契約が派遣先ではなく派遣元との雇用関係に基づき、派遣元の労災保険が適用されるため、両者を混同しないように注意が必要です。

前年度の概算保険料と確定保険料の差額を精算して納付する

前年度の概算保険料と確定保険料の差額は、年度更新の手続きで精算します。

年度更新とは、前年度(3月まで)の確定保険料を申告・納付し、新年度(4月から)の概算保険料を申告・納付する手続きです。概算保険料は、4月から翌年3月までの賃金総額(見込み額)に保険料率をかけて算出し、概算で前払いします。給与変動が想定される場合は、影響を考慮して計算することが必要ですが、想定されていなかった給与の変動による過不足額は、変動後の賃金総額が見込み額の2倍を超えない限り次の年度更新で精算可能です。

なお、概算保険料はあくまで見込みの賃金額に基づいて納付するため、概算保険料と確定保険料に差額が出ることを前提としています。概算保険料が多かった場合は、確定保険料を差し引いて残る額を当年度の概算保険料から差額分を差し引くことで精算されます。少なかった場合は、不足分を当年度分に加算して納めなければいけません。

なお、納付額には雇用保険料・一般拠出金も含まれる点に注意が必要です。

労災保険料率について理解を深め、正しく労災保険料の計算を行いましょう

労災保険は労働者保護の観点から、労災事故が起こった際に保険給付を行うことを目的として設けられた公的保険制度です。労働災害補償保険法に基づき、仕事中や通勤中にケガをした労働者、業務が発症の原因となる疾病にかかった労働者などに必要な給付を行います。労災保険にかかる労災保険料の全額は事業主が負担しなければなりません。

労災保険料は、労災保険料率を用いて計算されます。業種別に定められている労災保険料率と賃金の総額をかけあわせた金額が、労災保険料の金額です。正しく計算して正確な労災保険料納付に努めましょう。

よくある質問

労災保険料率とは何ですか?

労災保険料の金額を計算する際に用いる料率で、業種別に定められています。詳しくはこちらをご覧ください。

労働保険料と労災保険料の違いは何ですか?

労働保険料は労災保険料と雇用保険料を合わせたもので、労災保険料は労災保険にかかる保険料のことです。詳しくはこちらをご覧ください。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。

関連記事