- 更新日 : 2025年10月1日
年末調整における国民健康保険料の控除とは?対象期間などを解説
国民健康保険料は、年末調整や確定申告時に社会保険料控除の対象となります。ここでは、国民健康保険料の控除を受ける場合の基礎知識について解説。控除対象となる期間や、納税通知書の必要性について説明します。国民健康保険に加入している、もしくはご家族の国民健康保険料を支払っている方は、年末調整や確定申告の参考にしてください。
目次
国民健康保険とは
国民健康保険とは、日頃から一定額の保険料(税)を納めることで、病気やケガのときに、一部の負担金のみで病院の診察を受けたり入院したりすることができる制度です。一般的に企業に雇われているときに加入する社会保険(健康保険)とは異なり、国民健康保険は、市区町村が運営する国民健康保険、建設業や医師・歯科医師のように業種や職種によって加入することができる組合員によって構成された国民健康保険組合があります。
国民健康保険では、配偶者や子が加入する場合は加入する人数分の保険料を支払わなければいけない点や、出産手当金や傷病手当金が出ないという点などで、社会保険と比べて受けられる給付の内容に違いがあります。国民健康保険組合の場合には、組合によって給付の内容が異なります。
保険料の違いなどさらに詳しく知りたい人はこちら
国民健康保険に加入している対象者
国民健康保険の加入の対象者となるのは、以下の人々です。
- 自営業者(個人事業主を含む)
- 農業者、漁業者
- 会社を退職した人
- パート・アルバイトで会社の健康保険などに加入していない人
- 家族の健康保険の扶養から外れた人
- 無職の人
- 上記の人々の家族
言い換えれば、企業勤めの人が加入する社会保険(健康保険)や、国家公務員や教職員が加入する共済組合、75歳以上が対象となる後期高齢者医療制度など、そのほかの公的医療保険制度の対象とならない人が加入するのが国民健康保険といえます。
年末調整における社会保険料控除と国民健康保険
国民健康保険に加入して支払った保険料は、年末調整時に社会保険料控除として控除を受けられます。社会保険料控除とは、所得控除のひとつです。年末調整の際に、その年に支払った保険料を所得から控除することで、最終的に国に納める所得税や住民税が安くなります。
社会保険料控除の対象となる代表的なものには、国民健康保険料(税)、健康保険(被用者保険)・厚生年金保険・国民年金の保険料、介護保険の保険料、高齢者医療保険の保険料、国民年金基金の掛金などがあります。
確定申告における社会保険料控除と国民健康保険
個人事業主や年の途中で退職した場合など、年末調整の対象とならない人が、社会保険料控除を受けるには確定申告時に申請します。確定申告書に、1年間に納付した国民健康保険料の金額を記載すれば、控除を受けることが可能です。
たとえば、これまで会社勤めで年末調整をしており、退職後、確定申告をするのは初めてという方もいるかもしれません。 特に年の途中で退職したケースでは、忘れずに確定申告を行うことをおすすめします。
会社勤めの期間は源泉徴収として税金を支払っていたはずです。退職後に国民健康保険や国民年金の保険料を支払っていた場合には、これらの保険料を確定申告時に社会保険料控除として申請することで、所得税の還付を受けられるケースが多くあります。
生計同一の配偶者や家族の保険料を代わりに払っていた場合にも社会保険料控除の対象になるため、忘れないように申請しましょう。
控除の対象となる納付期間は?
社会保険料控除の対象となる納付期間は、年末調整の場合はその年の1月1日から12月31日まで、確定申告を行う場合は手続きをする年の前年の1月1日から12月31日までです。この間に納付した保険料が社会保険料控除の対象になり、前倒し(前納)した保険料も含めることができます。
たとえば、12月に翌年3月までの国民健康保険料を納付した場合、支払った全額の保険料を社会保険料控除に含めて申告をすることが可能です。
申告書に記入するべき保険料がいつからいつまでのものかわからなくなった場合は、口座履歴や領収書などを確認し、前年1月から12月までに納付した金額を調べましょう。
控除の金額はいくらになる?
社会保険料控除は、生命保険料控除とは異なり控除される金額の上限がありません。そのため、支払った国民健康保険の保険料をすべて控除して申告することができます。控除が支払う税金額に与える影響を、社会保険料控除を申請した場合と申請しなかった場合とで見てみましょう。
【年の途中で退職したAさんのケース】
- 9月末に退職
- 退職までの年間給与総額は350万円
- 給与総額に対する徴収税額は10万円
- 給与から天引きされた健康保険料は40万円
- 退職後支払った国民健康保険料は9万7千円
社会保険料控除で国民健康保険料を申請しなかった場合
給与の収入金額から所得控除後の所得金額「237万円」とします。
Aさんの合計所得金額237万円から基礎控除額を求めると、「令和7年分の基礎控除額の表」より88万円になります。
参考:令和7年分 年末調整のしかた|国税庁、「令和7年分の年末調整のための算出所得税額の速算表」
よって、そこから基礎控除額88万円と社会保険料として支払った40万円を控除します。このとき、退職後に支払った国民健康保険料は申請しなかったものとしましょう。
所得金額の237万円から基礎控除と社会保険料控除を差し引き、課税給与所得税額が「109万円」となりました。これが、所得税額を計算するもととなります。
「令和7年分の年末調整のための算出所得税額の速算表」にもとづき、税率5%で計算すると税額は54,500円です。これに1.021をかけた「55,644円」がAさんが納めるべき納税額です。
Aさんはすでに10万円を雇用されていた時期に源泉徴収されているため、10万円から55,640円を差し引いた「44,356円」が払い戻されます。
収入金額等 | 給与として350万円 |
---|---|
所得金額(a) | 237万円 |
基礎控除(b) | 88万円 |
社会保険料控除(c) | 40万円(国民健康保険分の申請はなし) |
課税給与所得金額 a-(b+c) | 109万円 |
納税額(d) | 55,644円 |
還付金(d-徴収税額10万円) | 44,356円 |
社会保険料控除で国民健康保険料を申請した場合
確定申告時に、Aさんが3か月間支払った9万7千円を社会保険料控除に含めると、控除額が大きくなり、支払うべき納税額が少なくなります。課税給与所得金額が「99万3千円」となるので、本来納めるべき税額は「50,692円」です。
したがって還付金が「49,308円」となり、国民健康保険料を控除申告しなかった場合より、「6,336円」多く税金が払い戻されました。もし、もっと長い期間の国民健康保険料を支払っていた場合や、生計を共にする親族の分も負担していた場合には、控除される金額も大きくなります。税額に与える影響は少なくないため、国民健康保険料もしっかりと控除して申告するとよいでしょう。
収入金額等 | 給与として350万円 |
---|---|
所得金額(a) | 237万円 |
基礎控除(b) | 88万円 |
社会保険料控除(c) | 40万円+9万7千円(国民健康保険料)=49万7千円 |
課税給与所得金額 a-(b+c) | 99万3千円 |
納税額(d) | 50,692円 |
還付金(dー徴収税額10万円) | 49,308円 |
年末調整における国民健康保険料控除の手続き
ここでは、国民健康保険の保険料についての年末調整での控除の手続きについて見ていきます。
国民健康保険の保険料控除を受けるために記入する書類は「給与所得者の保険料控除申告書」です。その中にある社会保険料控除の項目に記入して控除を受けます。
出典:A2-3 給与所得者の保険料控除の申告|国税庁、「令和7年分 給与所得者の保険料控除申告書」を加工して作成
①社会保険の種類・・・「国民健康保険」と記入します。
②保険料支払先の名称・・・国民健康保険料を支払った支払先を記入します。(記入例:「東京都豊島区」)
③保険料を負担することになっている人の氏名・・・支払った国民健康保険料が誰の分なのかを記入します。
④あなたが本年中に支払った保険料の金額・・・実際に支払った国民健康保険料について納付書などを確認しながら金額を記入します。
⑤合計(控除額)・・・その年に支払った社会保険料の合計額を記入します。
年末調整における国民健康保険料控除の注意点
国民健康保険で、配偶者の分を代わりに支払っている場合や、控除証明書がない際の注意点を解説します。
控除のために証明書の添付は必要?
国民健康保険料を社会保険控除として申請する場合、納付書や領収書の添付は必要ありません。たとえば、年の前半は就職活動をしており国民健康保険料を納付、年の後半は就職し会社勤めという場合、年末調整で国民健康保険料の控除を申告することになります。このとき、必要書類に対象期間に納付した保険料の合計を記載すれば、控除を受けることができます。
ただし、会社側から納付した保険料の証明を求められた際は、市区町村から送られてきた納税通知書(納付済証明書など市区町村によって名称が異なる)、振込履歴、領収書などを提出しましょう。納付した金額がわからない場合には、市区町村の窓口でも納付したことがわかる証明書を発行してもらえます。証明書の申請は郵送も可能です。
詳しくは市区町村のホームページなどで確認しましょう。
なお同じ社会保険料控除でも、国民年金の保険料や国民年金基金の掛け金を申告する場合は控除証明書の添付が必要となるので注意しましょう。
証明書の添付が必要となるもの、ならないもの
国民健康保険料 | 不要 |
後期高齢者医療保険料 | |
介護保険料 | |
国民年金保険料 | 必要 |
国民年金基金の掛け金 |
納税通知書の名前(世帯主)と納付者(妻など)が異なる場合
市区町村から世帯に送付される納税通知書(納付したことがわかる証明書)の名前と、実際に保険料を支払った納付者が異なる場合でも、国民健康保険料の控除を受けられます。この場合、実際に支払った方の控除の対象となります。
たとえば、世帯主Aさんとその配偶者である妻のBさんがおり、納税通知書はAさん名義で送られてきます。しかし実際には、AさんとBさんはそれぞれ自分の保険料を納付しています。この場合、Bさんも実際に納付した金額分は社会保険料控除として申告できるのです。
ただし、配偶者や家族が受け取る年金から引かれている国民健康保険料(特別徴収)は、年金から引かれている家族本人の社会保険料控除の対象になります。妻の国民健康保険料を夫の口座から口座振替により自動引落をしているケースのように、口座振替により家族の国民健康保険料や後期高齢者医療保険料を支払った場合には、夫が口座振替により支払ったのであれば、夫の控除の対象となることも覚えておきましょう。
納付した国民健康保険料は忘れずに控除を申告しよう
国民健康保険料は、会社を辞めた後など、個人で支払います。そのため、控除を受けるには自分が納付した保険料を把握し、年末調整や確定申告のタイミングでしっかりと申告することが重要です。
社会保険料控除には上限が定められていないため、自分で納付した保険料分は控除が受けられます。納税額に関わってくる部分ですので、忘れずに申告するようにしましょう。
よくある質問
国民健康保険料控除の対象となる期間について教えてください
年末調整であればその年の1月1日から12月31日までに納付した保険料が対象です。確定申告の場合は、手続きをする前年の1月1日から12月31日までに納付した保険料が対象となります。詳しくはこちらをご覧ください。
控除の金額はおおよそいくらになりますか?
社会保険料控除には上限がありません。そのため、実際に納付した保険料が所得金額から控除されます。国民健康保険料の控除を申告するかしないかで、最終的に納税する(還付される)金額が変動します。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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