- 更新日 : 2024年12月24日
退職金の住民税・所得税は優遇されている!?
会社を辞めたときなどに受け取る退職金は、退職所得として税金が課されることになります。
ただ、給与所得などの他の所得と違い、退職所得に課される所得税・住民税の計算は優遇されています。
では、どのように優遇されているのか詳しく解説していきます。
退職金の所得税・住民税の計算方法
退職所得とは所得税法30条第1項により以下のように定義されています。
「退職手当等とは、本来退職しなかったとしたならば支払われなかったもので、退職したことに基因して一時に支払われることとなった給与をいう。したがって、退職に際し又は退職後に使用者等から支払われる給与で、その支払金額の計算基準等からみて、他の引き続き勤務している者に支払われる賞与等と同性質であるものは、退職手当等に該当しないことに留意する。」
具体的には、所得税法30条第2項に列挙されており、例えば、
・退職手当、一時恩給、その他の退職によって一時に受ける給与など
・社会保険制度や適格退職年金契約に基づいて受ける退職一時金など
・解雇予告手当や退職した労働者が弁済をうける未払賃金など
が列挙されています。
これらの退職所得は、以下の計算式によって計算されます。
退職所得の金額=(退職金の金額-退職所得控除額)×1/2
この退職所得の金額に所得税率と住民税率を掛けて税額が計算されます。つまり、退職所得の金額は、所得税・住民税の計算の基となる金額になります。また、この退職金の金額から差し引くことができる退職所得控除額は、以下のように勤続年数によって変わります。
退職所得控除額の計算の表
勤続年数(=A) | 退職所得控除額 |
---|---|
20年以下 | 40万円×A (80万円に満たない場合には、80万円) |
20年超 | 800万円+70万円×(A-20年) |
(出典:退職金を受け取ったとき(退職所得)|国税庁HP)
※勤続年数の期間に1年未満の端数があるときは、1年に切り上げ。障害者になったことが直接の原因で退職した場合の退職所得控除額は、上記の方法により計算した額に、100万円を超えた金額が加算される。
例えば、勤続年数が15年の場合と25年の場合とではどのぐらい退職所得控除額の金額が違うのでしょうか?
勤続年数25年の場合:800万円+70万円×(25年-20年)=1,150万円
勤続年数25年の場合では、15年の場合と比して550万円控除額が高くなっています。つまり、勤続年数が長いほど、退職所得控除額が大きくなります。
退職所得控除額が大きくなればなるほど、所得税・住民税の計算の基となる退職所得の金額が小さくなるので、所得税・住民税の金額を抑えることができるのです。
退職金の所得税・住民税は優遇されている?
ここまで、退職所得控除の意味・計算方法について説明してきました。ですが、退職所得の金額の計算はこれで終わりではありません。上記の退職所得の金額の計算方法をもう一度確認してみましょう。
退職所得の金額=(退職金の金額-退職所得控除額)×1/2
この計算式を見ると、退職金の金額から退職所得控除額を差し引いた金額に1/2を掛けています。この×1/2こそが、退職所得に掛かる所得税・住民税が優遇されていると言われている理由なのです。
具体的に以下の例で、所得税・住民税の金額の違いを見てみましょう。
(例) 退職金1,000万円 勤続年数15年(上記で計算した通り、退職所得控除600万円)の場合
×1/2がない場合:退職所得=1,000万円-600万円=400万円
所得税400万円×20.420%-436,478円=380,322円
住民税400万円×10%=40万円
×1/2がある場合:退職所得=(1,000万円-600万円)×1/2=200万円
所得税200万円×10.210%-99,548円=104,652円
住民税200万円×10%=20万円
このように、×1/2がある場合の方が、所得税・住民税の金額を抑えることができます。この×1/2は、給与所得などの他の所得に無いため、退職所得は税金が優遇されているということです。
ただ、退職金を支給する際に一つ忘れてはいけない書類があります。それは、「退職所得の受給に関する申告書」です。
この書類を作成しておかないと、無条件で退職金の20%の所得税が源泉徴収されてしまいます。つまり、上記の計算で退職所得の金額が0円になった場合でも、20%の所得税が発生してしまうのです。
この書類は、税務署に提出する必要はありません。ですが、税務調査が来た場合に、作成して保管しておかないと源泉徴収されてしまうことになります。作成はとても簡単です。
退職者の署名・押印が必要になりますので、退職後だと連絡を取りづらくなる可能性もあります。なので、退職日・退職金額が決定したら早めに作成するようにしましょう。
ちなみに、退職金にかかる所得税・住民税は源泉徴収されるので、基本的に自分で確定申告をする必要はありません。ですが、1年間で支払った医療費が10万円を超えて医療費控除などの所得控除を使える場合には、自ら確定申告をした方が所得税・住民税が還付される場合があります。
まとめ
みなさんは、このように退職金の所得税・住民税が優遇されていることを知っていたでしょうか?
退職金は、長年の勤労により受け取ることができるものであるため、国も税金面で優遇してくれています。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
オフサイトミーティングとは?メリット・デメリットを解説
オフサイトミーティングとは、会議室ではなく、普段とは異なる環境に身を置いて行うミーティングのことをいいます。リラックスした雰囲気や、いつもとは違う刺激を受けることで発言が促され、議論や発想を活性化させるのが特徴です。 ここでは、オフサイトミ…
詳しくみる確定拠出年金の節税効果
確定拠出年金の節税効果 確定拠出年金の加入メリットについては、「確定拠出年金の10のメリット」の項で税制上の優遇があることを紹介しました。では、確定拠出年金には実際にどのような節税効果があるのでしょうか? 今回は具体例とともに…
詳しくみる給与振込申請書とは?書き方や口座変更の注意点(テンプレート付き)
給与の支給は手渡しが原則です(労働基準法第24条)が、一般的には振り込みによって給与が支払われることが多いです。 振り込みによる給与支給には労働者側の同意が前提となるため、給与振込届出書や給与振込申請書、給与振込口座届などの書類が必要です。…
詳しくみる中小企業の平均年収は?現在の状況と今後の展望
日本の経済を支える中小企業の平均年収はどれくらいなのでしょうか。 ここでは統計データからその数値を割り出すとともに、今後経営者が従業員の賃金についてどのように対応すべきかを考えます。 中小企業の平均年収の現在の状況 中小企業の平均年収と、大…
詳しくみる住民税の第4期は何月分にあたる?各期間の納期や住民税の支払い方法を解説
住民税を普通徴収で支払う場合、4期に分けて納付できます。支払う住民税額が4期分のみ高い場合、何月分の住民税が含まれているのか気になる人もいらっしゃるでしょう。 しかし、あくまで住民税を4回に分割して納付しているため、何月分を支払っているか?…
詳しくみる離職票をもらうには、賃金台帳を何ヶ月分提出する?必要な書類をわかりやすく解説
離職票を申請する際は、離職日から遡って 11日以上出勤した月の6ヶ月分の賃金台帳の提出が求められます。賃金台帳を提出するのは、離職証明書の作成に必要な情報を正確に記載するためです。とくに賃金額や勤務状況が記録されている重要な書類です。 本記…
詳しくみる