- 更新日 : 2025年11月26日
社宅の更新手続きはどのように進める?注意すべきポイントも解説
社宅の更新手続きは、人事労務担当者にとって慎重に進めるべき重要な業務です。この手続きには、貸主や従業員との意思確認、家賃や更新料の条件交渉、税務処理、火災保険の更新など、多くのステップが伴います。
本記事では、社宅の更新手続きの基本的な流れを7つのステップで解説するとともに、担当者が見落としがちな5つの注意点、更新料の税務上の扱い、更新しない場合の対応まで、実務に必要な知識を網羅的に解説します。
目次
社宅の更新手続き、基本的な流れとは?
社宅の更新手続きは、一般的に「更新時期の管理」「関係者への意思確認」「条件交渉」「書類作成と締結」「費用支払い」「情報共有と保管」という流れで進めます。
特に借り上げ社宅の更新では、貸主と従業員双方への早めの確認が、スムーズな進行の鍵となります。
ステップ1. 更新時期の確認と管理
まずは、社宅に関する賃貸借契約書を確認し、契約期間の満了日と更新に関する条項を正確に把握することがスタート地点です。
多くの賃貸借契約は2年契約であり、契約満了の3ヶ月~6ヶ月前には貸主(不動産管理会社や大家)から更新の案内が届くのが一般的です。人事労務担当者は、複数の社宅契約を管理しているケースが多いため、Excel(エクセル)やGoogleスプレッドシートなどで「社宅管理台帳」を作成し、物件ごとの契約満了日や更新時期を一覧で管理することが不可欠です。
ステップ2. 貸主(大家・管理会社)への更新意思の確認
貸主側から更新の案内が届いたら、企業として契約を更新する意思があることを伝えます。この段階で、次回の更新条件(更新後の家賃、更新料、その他条件変更の有無など)の提示を求め、書面で取り交わすようにしましょう。もし貸主から連絡がない場合でも、契約満了の3ヶ月前を目安に企業側から能動的に連絡を取ることが望ましいです。
ステップ3. 従業員への更新意思の確認
次に、現在その社宅に入居している従業員に対して、引き続き入居を希望するかどうかの意思確認を行います。異動や退職、自己都合での転居などを理由に従業員が退去を希望する場合、更新手続きは不要となり、解約手続きへと移行します。従業員の意思は、後のトラブルを避けるためにも、必ず書面や記録の残るメールなどで確認しておきましょう。
ステップ4. 更新条件の交渉と確認
貸主から提示された更新条件を精査します。特に、家賃や管理費の値上げが提示された場合は、その根拠を確認し、必要であれば周辺の家賃相場などを基に交渉を行います。また、契約内容に変更点がないかもしっかりと確認しましょう。企業と従業員のどちらが更新料や手数料を負担するかは、事前に社宅規程で明確に定めておく必要があります。
ステップ5. 必要書類の準備と作成
更新の条件について貸主と合意に至ったら、更新契約に必要な書類を準備します。契約内容によって異なりますが、一般的には「更新合意書」「入居者の住民票」などが必要となりますので、必ず貸主側に確認してください。
ステップ6. 契約書の締結と更新料の支払い
準備した書類を貸主に提出し、更新後の新しい契約書(または更新合意書)に記名・捺印します。その後、請求書に基づき、定められた期日までに更新料や更新事務手数料などを支払います。支払いが遅れると契約更新が完了しないため、経理部門とも連携し、確実に支払いを行いましょう。
ステップ7. 関係者への通知と書類保管
契約締結と支払いが完了したら、更新済みの契約書の写しを一部は会社で保管し、一部は入居している従業員へ渡します。これにより、従業員も自身の住居の契約状況を正確に把握できます。
社宅の更新手続きはなぜ重要なのか?
社宅の賃貸借契約を継続するために不可欠な法的手続きだからです。この手続きを通じて、貸主と借主(企業)の双方が契約内容を再確認し、合意の上で契約を延長します。もし更新手続きを怠れば、従業員が住居を失うリスクや、企業としての信頼問題に発展する可能性があります。
契約関係を明確にし、トラブルを防ぐため
社宅の更新手続きは、現在の契約内容が実態と合っているかを確認し、必要に応じて条件を見直す重要な機会です。
例えば、家賃や管理費の改定、禁止事項の追加など、社会情勢や物件の状況に応じて契約内容は変化することがあります。手続きを正式に行うことで、貸主と企業、そして入居者である従業員との間の権利義務関係を明確にし、後の「言った言わない」といったトラブルを未然に防ぐことができます。
更新を怠った場合に起こりうるリスク
万が一、更新手続きを忘れてしまった場合、法的には「法定更新」とみなされることがあります。法定更新とは、期間の定めのない契約として同一条件で契約が継続されることですが、この状態では貸主は(正当事由があれば)いつでも解約を申し入れることが可能になるため、企業の立場が不安定になる可能性があります。最悪の場合、貸主から立ち退きを求められ、従業員の住環境を急遽確保しなければならないという事態にもなりかねません。
社宅の更新手続きで特に注意すべき5つのポイント
手続きを円滑に進めるためには、費用負担や契約内容の変更、付随契約の更新など、見落としがちなポイントを事前に押さえておくことが肝心です。
1. 更新料や手数料の負担区分と相場を把握する
更新料などを企業と従業員のどちらが負担するかは、社宅管理規程で明確に定めておく必要があります。担当者として、まずは以下のポイントを把握しておきましょう。
- 法的性質:法律で定められた費用ではなく、地域や契約に基づく慣習です。
- 地域性:特に関東圏で慣習として定着しており、関西圏など地域によっては更新料がない場合も多くあります。
- 費用の相場:更新料が発生する場合の目安は以下の通りです。
- 更新料:家賃の1~2ヶ月分
- 更新事務手数料:家賃の0.5ヶ月分程度(※更新料とは別に請求される場合があります)
このように更新関連費用は高額になる可能性があるため、負担に関するルールが曖昧だと従業員とのトラブルに発展しかねません。一般的には企業が全額負担するケースが多いですが、一部従業員の自己負担とする場合は、規程への明記と、入居前の十分な説明・合意形成が不可欠です。
2. 契約内容(特に家賃)の変更点をしっかり確認する
更新を機に、家賃や管理費の値上げを要求されることがあります。提示された金額が妥当か、近隣相場と比較検討しましょう。また、特約事項など賃料以外の部分で不利な変更がないかも隅々まで確認してください。
3. 従業員の退職や異動とタイミングが重なる場合
更新時期と従業員の異動や退職が近い場合は特に注意が必要です。安易に更新してしまうと、直後の退去で更新料が無駄になるだけでなく、契約期間の途中で解約するための違約金(中途解約金)が発生する二重の損失を招く恐れがあります。
こうした事態を避けるため、更新の案内が届いた時点で必ず従業員の今後の居住意向を確認してください。もし退去の可能性がある場合は、安易に更新はせず、解約手続きを進めるのが原則です。事前のヒアリング一つで、不要なコストの発生を防ぐことができます。
4. 火災保険などの付随契約も忘れずに更新する
賃貸借契約では、火災保険(または同等の家財保険)への加入が義務付けられているケースがほとんどです。もし保険の更新を忘れ、無保険の期間に火災や漏水事故などを起こしてしまうと、会社が多額の損害賠償責任を負うことになります。
物件本体の契約更新と保険の契約更新は、必ずセットで管理しましょう。貸主から更新後の保険証券の写しの提出を求められることも多いため、手続き漏れがないよう注意が必要です。
5. 手続きのスケジュール管理を徹底する
社宅の更新手続きは、貸主・管理会社・従業員・社内の経理部門など関係者が多く、それぞれに確認や依頼が必要です。一つの確認が遅れると全体のボトルネックとなり、最悪の場合、更新手続きが期日に間に合わないという事態も起こり得ます。
更新案内が届いたら、すぐに「更新意思の通知期限」「書類の提出期限」「更新料の支払期日」といった主要な期日を洗い出し、カレンダーや管理台帳に登録することを徹底しましょう。これにより、抜け漏れなく計画的に手続きを進めることができます
社宅の更新料に関する税務・経理上の扱いは?
社宅の更新料を会社が支払う場合、税務や経理の観点からの正しい知識が不可欠です。ここでは「給与課税」「消費税」「勘定科目」の3つのポイントに分けて解説します。
更新料の会社負担分は給与課税の対象?
家賃補助(住宅手当)として更新料を支給する場合には、給与所得として課税の対象となります。
一方で、借り上げ社宅において、会社が従業員から一定額以上の家賃(賃料相当額の50%以上が目安)を徴収していれば、会社が支払う家賃は給与として課税されません。
ただし、役員の場合は賃料相当額の計算方法が一般従業員と異なるため、より注意が必要です。会社負担とする場合は、この給与課税のルールを正しく理解しておきましょう。
更新料に消費税はかかる?
居住用物件の更新料に消費税はかかりません(非課税取引)。 住宅の家賃が非課税であるのと同様に、契約更新に伴って支払う更新料も消費税の課税対象外です。貸主から送られてくる請求書に消費税が上乗せされていないかを確認しましょう。ただし、社宅を事務所など事業用途と兼用している場合は、事業用部分に対応する更新料は課税対象となるため按分計算が必要です。
更新料はどの勘定科目で処理する?
企業の会計方針によりますが、「地代家賃」や「支払手数料」で処理するのが一般的です。 更新料の勘定科目は、その性質をどう捉えるかによって異なります。
社宅を更新しない、または個人契約へ切り替える場合はどうする?
更新のタイミングは、現在の契約を終了させたり、契約形態を見直したりする機会でもあります。ここでは主な2つのケースについて解説します。
更新せずに解約する場合の手続き
従業員の退去などにより契約を更新しない場合は、賃貸借契約書に定められた予告期間(通常1~3ヶ月前)までに、貸主に対して書面で解約を申し出る必要があります。その後は、退去の立ち会い、原状回復費用の精算といった通常の解約手続きを進めます。
「借り上げ社宅」から「個人契約」へ切り替える際の流れと注意点
従業員が退職後も同じ物件に住み続けることを希望する場合などには、法人契約から個人契約への切り替えが必要になります。 この切り替えは、貸主の承諾がなければできません。手続きをスムーズに進めるには、更新時期が近づいたタイミングで、企業・従業員・貸主(管理会社)の三者間で協議の場を設けるのが理想的です。
- 三者間での合意形成:企業が契約を終了すること、従業員が新たに個人として契約したいことについて、貸主の合意を得ます。
- 法人契約の解約:企業と貸主との間で、現在の賃貸借契約の解約手続きを行います。
- 個人での新規契約:従業員と貸主との間で、新たに個人としての賃貸借契約を締結します。これに伴い、従業員は入居審査を受ける必要があります。
- 初期費用の支払いと各種名義変更:従業員は敷金、礼金、仲介手数料、保証料といった初期費用を新たに支払う必要があります。また、火災保険なども個人名義で再加入します。
注意点として、法人契約から切り替えることで、従業員はこれまで会社が負担していた家賃補助などがなくなり、自己負担額が大幅に増える可能性があります。企業側は、こうした変更点を事前に従業員へ丁寧に説明する責任があります。
更新手続きは社宅代行サービスの利用もおすすめ
社宅の契約や更新手続きは、専門知識が求められる上に時間もかかるため、担当者の大きな負担となりがちです。もし担当者が一人しかいない、または他の業務と兼任している場合、これらの業務を外部の専門家に委託する「社宅代行サービス」の利用が有効な選択肢となります。
社宅代行サービスを利用するメリット
社宅代行サービスを導入することで、企業は以下のようなメリットを得られます。
- 担当者の業務負担を大幅に軽減:物件探しから契約、更新、解約、支払い管理といった一連の煩雑な手続きをすべて代行してもらえます。これにより、人事労務担当者はコア業務に集中することができます。
- 専門知識によるリスクの低減:賃貸借契約に関する専門知識を持つプロが対応するため、契約内容の不備や更新手続きの漏れといったリスクを防ぐことができます。地域ごとの慣習(更新料の有無など)にも精通しているため、適切な対応が期待できます。
- トータルコストの削減:外部委託費用はかかりますが、担当者の人件費(残業代など)の削減や手続きミスによる違約金の防止などを通じて、結果的にコスト削減に繋がるケースも少なくありません。
- 従業員満足度の向上:入居から退去までの一連の手続きがスムーズに進むため、従業員は安心して新生活を始めることができます。専門窓口によるサポートは、従業員満足度の向上にも貢献します。
導入時に注意すべきポイント
一方で、導入を検討する際には以下の点に注意が必要です。
- 委託コストの発生:当然ながら、サービス利用料がかかります。委託したい業務範囲と費用対効果を慎重に比較検討する必要があります。
- 代行会社との連携:自社の社宅規程を代行会社に正確に伝え、ルールに沿った運用をしてもらう必要があります。情報共有がスムーズに行えるか、信頼できるパートナーを選ぶことが重要です。
計画的な準備でスムーズな社宅契約の更新手続きを
本記事では、社宅の更新手続きの基本的な流れから、税務・経理上の注意点、さらには個人契約への切り替えといった実務的なポイントまで詳しく解説しました。
社宅の更新手続きは、単なる事務作業ではなく、従業員の生活基盤を守り、企業の資産と信頼を維持するための重要な業務です。管理台帳の整備や社内規程の明確化など、日頃からの計画的な準備を行うことで、トラブルなく円滑な契約更新を実現できます。ぜひ、本記事の内容を貴社の社宅管理業務においてご活用いただければ幸いです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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