- 更新日 : 2024年8月8日
前払費用の勘定科目と仕訳例や長期・短期前払費用との違いを解説
前払費用は、貸借対照表に資産として表示される科目で、決算ではよく使われるものの一つです。
貸借対照表の資産の部には、よく見ると流動資産だけではなく、固定資産の部にも「長期前払費用」として表示されている場合があります。
この記事では、前払費用についてわかりやすく解説します。
前払費用とは?
前払費用は、英語では「Prepaid expenses」と表現します。
後に説明する長期前払費用は、頭に「長期」をつけて「Long-term prepaid expense」となります。prepaidは「プリペイドカード」などですっかりお馴染みの用語になりましたね。
前払費用とは、一定の契約に従い継続してサービスを受ける場合、まだ提供されていないサービスに対して支払われた費用のことをいいます。
たとえば火災保険などの「前もって代金を支払わないと効力が発生しない取引」における支払いの場合や、家賃などでよくある「当月に翌月分を支払う」場合、最近よく見かけるサブスクリプション料金としてむこう一年分を年間契約する場合など、法人、個人を問わず、サービス料金の前払いはよく見かけるようになりました。
これらの費用のうち翌期以降の費用の前払いとなる場合には、貸借対照表には資産として計上されることになります。上記の例でいえば、前払保険料、前払家賃、前払費用などとなります。
ワンイヤールール(one year rule:1年基準)とは、貸借対照表上の資産・負債をそれぞれ流動・固定に区分する基準です。
ワンイヤールールは、決算日の後、1年以内に回収や決済期限が到来する資産や負債を流動資産及び流動負債に分類し、回収や決済期限が1年を超えるものを固定資産及び固定負債に分類する基準です。
そして、前払費用にも「ワンイヤールール」が適用され、それぞれ前払費用、長期前払費用と分けて表示します。
ちなみに、前払費用の対となる概念である前受収益では、その前受収益が「営業活動に直接関係する」場合には正常営業循環基準が適用され、役務の提供が1年以上先であっても流動資産として表示されることになります。
前払費用と前払金の違い
企業会計原則注解の注5によれば、前払費用について次のように定義しています。
「前払費用は、一定の契約に従い、継続して役務の提供を受ける場合、いまだ提供されていない役務に対し支払われた対価をいう。従って、このような役務に対する対価は、時間の経過とともに次期以降の費用となるものであるから、これを当期の損益計算から除去するとともに貸借対照表の資産の部に計上しなければならない。また、前払費用は、かかる役務提供契約以外の契約等による前払金とは区別しなければならない。」
前払費用と前払金は一見よく似た勘定科目で、ともに将来のための支払額ですが、上記企業会計原則にもあるように、前払金は「役務提供契約以外の契約等」、つまり継続的なサービス契約以外で利用します。
したがって、前払費用と前払金には厳密な区分が必要です。
長期前払費用とは?
支払った経費が長期前払費用となるケースを考えてみましょう。
年度の途中で期間が1年を超えるサービス契約において、前払いしている期間が1年を超えている場合には、その超えた部分が長期前払費用となります。
具体的には、火災保険や自動車保険などの場合、月払や年払に比べて保険料が割引されるため、数年にわたる保険期間の保険料を最初に一括して支払うことがあります。この場合は、決算日から1年以内は短期前払費用となり、残り1年を超えている部分は長期前払費用となります。
また、長期前払費用の特殊な使い方として、法人の場合で法人税法上の繰延資産を「長期前払費用」を使って処理するケースがあります。会計上、繰延資産として計上できるものは、創立費、開業費など限定されますが、法人税法における繰延資産は、会計より広い範囲で認められています。
「中小企業の会計に関する指針」には、次に挙げる費用は法人税法独自の繰延資産に該当するとして、「投資その他の資産」に長期前払費用等の適当な項目を付して表示するとしています。
- 自己が便益を受ける公共的施設又は共同的施設の設置又は改良のために支出する費用
- 資産を賃借し又は使用するために支出する権利金、立退料その他の費用
- 役務の提供を受けるために支出する権利金その他の費用
- 製品等の広告宣伝の用に供する資産を贈与したことにより生ずる費用
- ①から④までに掲げる費用のほか、自己が便益を受けるために支出する費用
したがって、法人の貸借対照表に長期前払費用と表示されている場合、法人税独自の繰延資産が含まれていることがあります。
短期前払費用とは?
短期前払費用は、一定のサービス契約においてまだ提供されていないサービスに対して支払われた費用として、ワンイヤールールに即して流動資産の部に計上されるものですが、それに対し注意点を2つ挙げておきます。
継続契約のあるサービスの前払分がすべて短期前払費用になるとは限らないこと
短期前払費用とするためには、支払家賃や保険料のように「等質等量のサービス」で、かつ、「時間の経過に応じて費用化されるもの」である費用が要件となります。
したがって、例えば弁護士の顧問報酬や翌期に放映されるテレビCM料などは、毎月、等質等量の役務提供が継続的に提供されるとはいえないため、短期前払費用とはなりません。
雑誌などを「購読サービス料」として前払いする場合がありますが、これもは雑誌の購入代金の前払いであるため「前払金」となり、短期前払費用にはなりません。
支払った事業年度に役務提供が開始していること
短期前払費用は、継続的に毎月等質等量のサービスを受けるものが対象です。
例えば、3月決算法人で翌年度の6月からサービスが開始される契約があるとします。この場合、3月中にサービス料金を一括前払いしたとしても、3月にはまだサービスが始まっていません。したがって、このような前払いについて3月の決算で短期前払費用とすることはできません。
前払費用の会計処理のタイミング
前払費用を計上するのはいつのタイミングですればよいのでしょうか?
結果的には、支払時、決算時、どちらでもよいということになります。
原則としては、次の流れとなります。
支払時:「前払費用」として全額計上
決算時:当期分の費用のみを「前払費用」から費用に振替処理
翌期首:「前払費用」から費用へ再振替処理
しかし、実務上は次のような流れが多いかと思います。
支払時:当期の費用として全額計上
決算時:翌期分以降の費用を「前払費用」に振替処理
翌期首:「前払費用」から費用へ再振替処理
または、次の方法もよく利用されます。
支払時:当期分の費用と前払費用を計算してそれぞれ計上
決算時:処理なし
翌期首:「前払費用」から費用へ振替処理
決算の手数を減らすために、支払時にまとめて処理をするのが早いと思います。
会計処理には継続性が求められます。本年度と翌年度の計上方法を経理担当者の思いつきで変えるような統一性のない処理は正しいとはいえません。
短期前払費用の税務上の特例とは?
ここで、短期前払費用における税務上の特例をご紹介します。特例の適用により、法人税においても所得税においても、節税につながります。
法人の前払費用について、支払日から1年以内にサービスを受ける場合において、その支払額を継続してその支払日の属する年度の費用としているときは、原則にかかわらず、その支払時点で損金の額に算入することが認められています。(法人税基本通達2-2-14)
ただし、運用目的の借入金に係る支払利子のように、収益の計上と対応させる必要があるものについては、この限りではありません。
上記の特例と連動して、消費税の考え方についても気をつけましょう。
前払費用につき所得税や法人税の短期前払費用の特例を受けている場合は、その前払費用に係る課税仕入れは、その支出した日の属する課税期間において行ったものとして取り扱うこととなります。
したがって特例を適用し、費用とした支払については仕入税額控除の対象となり、ここでも消費税の節税につながります。
前払費用の仕訳の具体例
前払費用の仕訳例を見ていきましょう。ここでは支払時に費用と前払費用をそれぞれ計上する仕訳について解説します。
- 決算期が3月である法人
- 2年契約の火災保険の保険料210,000円を9月に支払った
支払時の仕訳(保険期間2年の場合)
当期分の保険料は、210,000×6ヶ月/24ヶ月=52,500となります。そして、契約期間が2年以上のものについては上記のように長短に分かれますが、契約が1年超となるため、まとめて長期前払費用に振り替える方法もあります。
では、この契約が18ヵ月であった場合はどうでしょうか?
支払時の仕訳(保険期間18ヵ月の場合)
当期分の保険料は、210,000×6ヶ月/18ヶ月=70,000となります。そして残りの期間は決算から1年以内ですので、短期前払費用となります。
次は、消費税についての仕訳例を見てみましょう。
- 決算期が3月である法人
- 2年契約のサブスクリプション料金231,000円を3月に支払った
- 消費税は税抜方式とする
この場合、サービス本体は21万円、消費税は2.1万円となります。消費税の課税仕入れの時期は、原則として、サービスの提供があった時になります。したがって、費用となった時点で消費税を認識します。
翌期以降は、前払費用が通信費などの費用となった時点で仮払消費税を認識します。
前払費用を正しく計上しよう
一見、やさしそうに思われますが、案外、税法上の特例、消費税等を考えると前払費用も奥が深い勘定科目です。
前払費用は先払いですが、後払いの費用となると未払費用として負債に計上することとなります。
これらは「前受収益」や「未収収益」とともに「経過勘定」と呼ばれ、正確な決算には欠かせないものです。
会計ソフトによっては、これらの煩雑な処理を支払時の登録によって自動起票するものもあります。決算においてはこれら経過勘定について内容をよく確認しましょう。
よくある質問
前払い費用とはどんな勘定科目?
一定の契約に従い継続してサービスを受ける場合、まだ提供されていないサービスに対して支払われた費用のことです。詳しくはこちらをご覧ください。
長期前払費用と短期前払費用の違いは?
決算日の後、1年以内に決済期限が到来するものは短期前払費用、1年を超えて期限が到来するものは長期前払費用となります。詳しくはこちらをご覧ください。
短期前払費用の税務上の特例とは?
特例を適用し費用とした支払については仕入税額控除の対象となり、消費税の節税につながります。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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