• 更新日 : 2025年7月7日

育休は勤続年数に含まれる?有給や退職金、賞与への影響などを解説

育児休業(以下、育休)を取得する際、多くの方が気になるのが「勤続年数」の扱いです。勤続年数は、昇進昇格、退職金、年次有給休暇の付与日数など、様々な労働条件に影響を与えるため、その正しい理解は従業員・人事担当者双方にとって不可欠です。

この記事では、育休取得の前提知識と勤続年数の基本的な考え方、そして出産・育児に関連する主要な休業制度が勤続年数にどのようにかかわるのかを解説します。

育児休暇について詳しく知りたい方は、こちらの記事も併せてご覧ください。

育休期間は勤続年数に含まれる?

育休を取得した際、その期間が勤続年数にどのように影響し、結果として年次有給休暇、退職金、賞与、昇進・昇格といった処遇にどう反映されるのかは、従業員にとって大きな関心事です。ここでは、それぞれの項目別に具体的な影響を解説します。

年次有給休暇の付与日数

年次有給休暇の付与日数は、労働基準法によって勤続年数に応じて定められています。育休、産休、子の看護休暇、介護休業の期間は、年次有給休暇の権利発生要件である出勤率(原則8割以上)の算定において、「出勤したものとみなす」と法律で明確に規定されています。

したがって、育休期間中であっても、その期間は勤続年数としてカウントされ、年次有給休暇が付与されるための勤続年数も増えていきます。例えば、入社1年6ヶ月後に1年間の育休を取得した場合、復職時には勤続2年6ヶ月として扱われ、それに応じた日数の年次有給休暇が付与されます。この点は法律で保障された権利であり、企業側の裁量で変更することはできません。

退職金の算定

退職金に関する勤続年数の扱いは、二つの側面から考える必要があります。

  1. 退職所得控除(税法上の扱い)
    退職金を受け取る際、税負担を軽減するための退職所得控除があります。この控除額の計算に用いられる勤続年数には、所得税法上、育休期間も含まれます。これは法律で定められているため、企業の規定とは関係なく適用されます。
  2. 退職金額の算定(企業規定上の扱い)
    企業が実際に支払う退職金の額を計算する際の勤続年数に育休期間を含めるかどうかは、原則としてその企業の就業規則(退職金規程)によります。
  3. 就業規則で育休期間を算入しないと定めることは可能ですが、育児・介護休業法は育休取得を理由とする不利益な取扱いを禁止しており、その規定が不利益な取扱いに該当しないよう注意が必要です。例えば、育休取得によって退職金が全く支払われなくなるような規定や、実際の休業期間を超えて不利に扱うことは認められません。厚生労働省のモデル就業規則では、育休期間を勤務したものとして勤続年数を計算する例が示されています。

このように、税法上の勤続年数と、企業が定める退職金額算定のための勤続年数の扱いは異なる場合がある点を理解しておくことが重要です。

賞与(ボーナス)の査定・支給額

賞与の支給については、まず就業規則等で賞与が賃金の一部として明確に位置づけられているかどうかがポイントです。規定がある場合、育休中の従業員に対しても、支給基準を満たせば原則として支払う義務が生じます。

育休を取得したことのみを理由として賞与を不支給としたり、減額したりすることは、不利益な取扱いに該当し、育児・介護休業法違反となる可能性があります。

ただし、賞与の算定方法が、査定期間中の実際の勤務日数や業績への貢献度に基づいている場合、育休により実際に勤務していない期間があるため、結果として賞与額が減額されることはあり得ます。この減額は、あくまで「勤務しなかった」という事実に基づくものであり、育休取得そのものへのペナルティであってはなりません。厚生労働省のモデル就業規則でも、賞与算定対象期間に育休期間が含まれる場合、出勤日の勤務成績等を考慮して計算した額を支給する、という例が示されています。賞与の算定期間や算定基準が就業規則で明確に定められていることが、トラブル防止の観点からも重要です。

昇進・昇格・昇給

育休の取得を理由として、昇進・昇格の機会を奪うことや、昇給させないといった取扱いは、不利益な取扱いに該当し、法律で禁止されています。

例えば、昇格要件として「3年連続A評価以上」といった基準がある場合、育休期間を挟んだことで評価期間がリセットされるような扱いは不適切です。育休期間中は業務を行っていないため、その期間の評価はできませんが、休業前後の期間の評価を適切に行い、不当に不利にならないよう配慮する必要があります。

昇給に関しても、特に年功的な要素を含む賃金制度の場合、育休期間を除いた期間の勤務実績を無視して一律に昇給を見送ることは、不合理とされる可能性があります。厚生労働省のモデル就業規則では、育休期間中に定期昇給日が到来した者については、復職後に昇給させるという考え方が示されています。これは、昇給の機会を遅らせることはあっても、権利自体を奪うものではないという趣旨です。

企業は、育休取得者が復職後にキャリア形成上の不利益を被ることがないよう、公平な評価制度と運用を心がける必要があります。

育休期間の勤続年数への算入比較

制度法的根拠/原則勤続年数への算入備考(企業裁量の余地など)
年次有給休暇労働基準法算入される(出勤したものとみなす)企業裁量なし
退職所得控除(税法)所得税法算入される企業裁量なし
退職金額算定(企業支給)就業規則(退職金規程)企業規定による(算入しないことも可能だが、不利益取扱いに注意)厚生労働省モデル規程では算入例あり。不支給や過度な控除は不可。
賞与(ボーナス)就業規則、育児・介護休業法(不利益取扱い禁止)企業規定によるが、育休取得のみを理由とする不支給・減額は不可。勤務日数に応じた減額はあり得る。算定基準の明確化が重要。
昇進・昇格・昇給育児・介護休業法(不利益取扱い禁止)育休取得のみを理由とする不利益な扱いは不可。評価の継続性や公平な判断が求められる。復職後の昇給など、遅延はあり得るが機会剥奪は不可。厚生労働省モデル規程では復職後昇給例あり。

「勤続年数」の基本的な考え方

勤続年数とは、一般的に「一つの会社において、入社日から退社日まで継続して勤務した年数」を指します。計算方法は、入社日から退社日までの期間を合計し、1年未満の端数は切り上げて1年として計算することが多いです。例えば、22年10ヶ月勤務した場合、勤続年数は「23年」として扱われることがあります。

ただし、勤続年数の具体的な計算方法や、試用期間、休職期間などを算入するか否かは、年次有給休暇の付与のように法律で定められている場合を除き、各企業の就業規則によって異なります。退職金や社内独自の表彰制度などでは、企業が自由に勤続年数の算定ルールを定めることができます。

出産・育児に関連する主要な休業制度と勤続年数の関係

出産や育児に関する休業制度はいくつかあり、それぞれ勤続年数の取扱いが異なる場合があります。

育児休業(育休)

育休期間を勤続年数に算入するかどうかは、目的によって扱いが異なります。

  • 年次有給休暇の付与
    労働基準法に基づき、育休期間は出勤したものとみなされ、勤続年数に通算されます。
  • 退職金の算定
    退職所得控除の計算上は、所得税法により育休期間も勤続年数に含まれます。しかし、企業が支給する退職金の額そのものの計算基礎となる勤続年数については、就業規則の定めによります。就業規則で育休期間を算入しないと定めることも可能ですが、不利益な取扱いにならないよう配慮が必要です。
  • 昇進・昇格、賞与など
    これらも基本的には就業規則の定めによりますが、育休取得を理由とした不利益な扱いは禁止されています。

産前産後休業(産休)

産休とは、出産予定日の6週間前(多胎妊娠の場合は14週間前)から、出産後8週間まで取得可能な休業制度です。勤続年数や雇用形態にかかわらず、すべての女性労働者が取得できます。

  • 年次有給休暇の付与
    産休期間も出勤したものとみなされ、勤続年数に通算されます。
  • 退職金の算定
    育休と同様、退職所得控除の計算では勤続年数に含まれます。退職金額の算定基礎については、就業規則の定めによりますが、産休期間を勤続年数から除外するには、その旨の明確な規定が必要です。一般的には、産休期間は勤続年数に算入する企業が多いと考えられます。

子の看護休暇・介護休業期間の取扱い

  • 子の看護休暇
    小学校3年生修了前の子を看護するために取得できる休暇です。年次有給休暇の算定においては、出勤したものとして扱われるのが原則です。
    賞与や退職金算定における勤続年数への算入は、就業規則の定めによりますが、不利益な取扱いとならないよう注意が必要です。勤続6ヶ月未満の従業員を労使協定により対象外とすることも可能です。
  • 介護休業
    要介護状態にある家族を介護するために取得できる休業です。2022年の法改正で有期契約労働者の勤続期間要件が緩和され、介護休暇では2025年の改正で労使協定による除外における勤続期間要件が撤廃されるなど、取得しやすくなる方向で制度が見直されています。年次有給休暇の算定では出勤扱いとなります。その他の処遇は就業規則によりますが、不利益な取扱いは許されません。

企業の人事担当者は、これらの法改正の動向を常に把握し、就業規則を適切に整備・周知することが求められます。従業員側も、自社の制度をよく確認することが大切です。

育休と勤続年数の注意点

育休取得者への対応は、法的な側面と実務的な側面の両方から慎重な検討が求められます。人事担当者は、関連法規を遵守し、従業員が安心して育休を取得し、円滑に職場復帰できる環境を整備する責務があります。

育児・介護休業法と不利益取扱いの禁止

育児・介護休業法は、労働者が育児休業や介護休業、その他関連する措置(短時間勤務など)の申し出・取得を理由として、解雇、雇止め、降格、減給、不利益な配置転換、賞与・昇給等における不利益な算定など、あらゆる不利益な取扱いを行うことを禁止しています。

この「不利益取扱いの禁止」は、勤続年数の算定においても重要な原則です。育休期間を勤続年数から除外すること自体が直ちに違法となるわけではありませんが(年次有給休暇を除く)、その除外が他の休業(例えば私傷病休職など)と比較して著しく不均衡であったり、実質的に育休取得者へのペナルティとして機能したりする場合は、不利益取扱いに該当する可能性があります。企業は、育休取得がキャリアにおいて過度なハンディキャップとならないよう、公平な制度設計と運用を徹底する必要があります。

就業規則への適切な規定と従業員への周知

勤続年数の定義、育休期間の取扱い(退職金、賞与、昇進昇格の基準等)、各種休業制度の利用条件などは、就業規則に明確に規定することが不可欠です。曖昧な規定は、後のトラブルの原因となり得ます。特に、育休期間を退職金算定のための勤続年数から除外する場合などは、その旨を具体的に明記する必要があります。厚生労働省が提供するモデル就業規則も参考に、自社の実情に合わせて整備するとよいでしょう。

また、企業には、育休制度の内容や育休期間中の待遇、復職後の労働条件などについて、従業員に周知する義務があります。妊娠・出産の申し出があった際には、個別に制度説明を行い、取得意向を確認することも求められています。透明性の高い情報提供は、従業員の不安を軽減し、信頼関係の構築に繋がります。

育休取得をめぐるトラブルの防止

育休取得に関するトラブルは、主に以下の点で発生しがちです。

  • 育休取得の拒否(特にパートタイム労働者や勤続1年未満の従業員に対し、誤った認識に基づくケース)
  • 育休期間中や復職後の給与・賞与、評価、配置に関する不利益な取扱い
  • 復職支援の不足

これらのトラブルを未然に防ぐためには、以下の対応が求められます。

  1. 法改正のキャッチアップと正確な理解
    育児・介護休業法は頻繁に改正されます。最新情報を常に把握し、正確に理解することが基本です。
  2. 就業規則・労使協定の整備と周知徹底
    法令に準拠した明確な社内ルールを整備し、全従業員に周知します。特に、労使協定によって育休対象者から除外できるケース(勤続1年未満など)については、協定の存在と内容を明確にする必要があります。
  3. 相談体制の整備と丁寧なコミュニケーション
    従業員が育休取得に関して気軽に相談できる窓口を設け、個別の状況に応じた丁寧な情報提供や意向確認を行います。
  4. 管理職への教育・啓発
    部下の育休取得や復職後のマネジメントについて、管理職の理解と意識を高める研修を実施します。
  5. 客観的で公平な評価と処遇の担保
    育休取得の事実が、人事評価や処遇決定において不当な不利益とならないよう、客観的な基準とプロセスを確立します。

企業が育休制度の運用において、単に法律の条文を守るだけでなく、その趣旨を理解し、従業員が安心して子育てと仕事を両立できる環境づくりに積極的に取り組む姿勢が、優秀な人材の確保と定着、ひいては企業全体の生産性向上にも繋がります。先進的な企業では、法定を上回る育休制度や復職支援策を導入し、成果を上げています。

育休と勤続年数を正しく理解し、円滑な職場復帰へ

育児休業期間が勤続年数にどのように影響するかは、従業員のキャリアや処遇にとって重要な問題です。この記事で解説してきた通り、その取扱いは制度によって異なります。

従業員にとっては、自身の権利を理解し、勤務先の就業規則を確認することが第一歩です。不明な点があれば、人事部門に積極的に問い合わせることが推奨されます。

企業の人事担当者にとっては、関連法規の遵守はもちろんのこと、公平で透明性の高い社内規程を整備し、それを従業員に丁寧に周知することが求められます。育休を取得しやすい、そして復帰しやすい職場環境を整えることは、従業員のエンゲージメントを高め、多様な人材が活躍できる企業文化を醸成する上で不可欠です。

育休と勤続年数に関する正しい知識は、労使双方にとって、より良い職場環境と円滑なキャリア継続を実現するための基礎となります。法改正も頻繁に行われる分野であるため、常に最新の情報に注意を払い、適切に対応していくことが重要です。


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