- 更新日 : 2025年4月17日
非財務情報とは?開示すべき理由や具体例をわかりやすく解説
企業が持続的に成長するためには、「非財務情報」の開示が欠かせません。環境対策や人的資本、知的財産など、数値では表しにくい要素が投資判断や企業評価に大きく影響するためです。
本記事では、非財務情報の概要や財務情報との違い、開示の必要性、具体例などについてわかりやすく解説します。
目次
非財務情報とは|企業が持つ数値で表しにくい財務以外の情報のこと
非財務情報とは、企業の経営成績や財務状況を示す数値以外の情報のことです。「定性情報」とも呼ばれ、数値化できる「定量情報」と対比される概念です。
数値化しにくい要素は、具体的に以下のようなものが含まれます。
- 経営者の能力やリーダーシップ
- 企業理念や経営方針
- 社員のモチベーションやスキル
- 社内のノウハウや技術力
- 商品開発力やイノベーションの強み
- 信頼できる取引先との関係
上記のような情報は数値化が難しいため、適切な方法での開示が求められます。企業の持続的成長やステークホルダーとの信頼関係を築くためにも、非財務情報を正しく理解し、活用することが欠かせません。
非財務情報と財務情報の違い
非財務情報と財務情報の違いは、数値で示されるかどうか、また企業の評価対象となる側面です。
財務情報は、企業の経済的な透明性や業績を示す数値データです。貸借対照表や損益計算書などの財務諸表に記載され、企業の経営状況や財務状況を評価する基礎情報となります。
一方、非財務情報は、企業の持続可能性や社会的責任を評価するための情報です。持続可能性報告書や社会的責任報告書、従業員や顧客からのフィードバックなどが含まれます。
財務情報が企業の収益性や経済的健全性を評価するのに対し、非財務情報は環境・社会・ガバナンス(ESG)への取り組みを判断するために活用されます。近年、投資家やステークホルダーは、ESG要素を重視する傾向が強まっており、非財務情報の開示は企業価値の向上において必要です。
企業の総合的な価値を評価するには、財務情報と非財務情報の両方を考慮することが重要です。
財務諸表については、下記の記事で詳しく解説しているため、あわせてご覧ください。
非財務情報を開示すべき理由
非財務情報の開示は、企業の持続可能性や社会的責任を明確にし、ステークホルダーの信頼を得るために重要です。非財務情報を理解することで、企業の長期的な成長や競争力向上のメリットを把握できます。以下では、非財務情報を開示すべき理由について解説します。
企業価値の判断に必要のため
非財務情報の開示は、企業価値の判断において重要な役割を持ちます。
従来は財務情報を分析することで企業の成長を評価していましたが、分析のみでは将来性を正確に判断することが困難です。そこで、企業の環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)に関する取り組みを開示すれば、投資家は持続可能性を評価できます。
また、非財務情報を通じ、企業が直面する潜在的なリスクや新たなビジネスチャンスが明確になり、企業の強みや魅力を適切に伝えられるようになります。
サステナビリティに関する情報の開示が義務化されているため
サステナビリティに関する情報の開示は、法的に義務化されています。
EUでは、2022年11月に「企業持続可能性報告指令(CSRD)」が正式に採択され、2023年1月に発効しました。指令により、大企業や上場中小企業は、環境・社会・人権・ガバナンス要因に関する情報を開示することが義務付けられました。
日本でも、2023年3月期から有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の開示が義務付けられています。とくに「ガバナンス」や「リスク管理」は必須記載事項となり、「戦略」や「指標及び目標」は、企業の重要性に応じた開示が求められます。
ESG経営において重要性が高まっているため
ESG経営の重要性が高まり、近年では非財務情報の開示が強く求められています。
ESGとは、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の要素を指し、投資家は企業の長期的な持続可能性を評価するために重視しています。
2008年のリーマン・ショック以降、ESGは企業の存続可能性を測る指標として世界的に普及しました。現在では、ESGを考慮した投資である「ESG投資」が拡大しており、企業がESGに配慮した経営を行っているかが重視されています。
また、透明性の高い情報開示は、投資家や消費者、従業員との信頼関係の構築につながるため、ESG経営において重要な要素とされています。
ESG経営については、下記の記事で詳しく解説しているため、あわせてご覧ください。
非財務情報の5つの具体例
非財務情報を理解することで、企業の持続可能性や成長性を正しく評価できます。また、投資家や消費者、従業員との信頼関係を築くうえでも非財務情報の開示は重要です。以下では、非財務情報の具体例について解説します。
1. 製造資本
製造資本とは、建物や設備、道路、港湾、橋梁、廃棄物・水処理工場などのインフラを含む物的資産のことです。
企業が販売目的で製造する資産や、自社で使用する設備も製造資本に含まれます。物的側面の価値は財務資本として扱われますが、単なる資産として捉えるのではなく、培われた知識やノウハウ(形式知・暗黙知)を活用することが重要です。
製造資本の活用により、製造プロセスの効率化や技術革新が促進され、企業の競争力向上につながります。
2. 知的資本
知的資本とは、特許や著作権、ソフトウェア、ライセンスなどの知的財産を指します。さらに、知識やノウハウを活用して超過収益を生み出す能力も含まれます。
企業の暗黙知やシステム、業務手順、プロトコルなどの組織的資本も知的資本の一部です。知的資本は人によって創造されるため、企業は基盤となる人材を重視し、知識の蓄積と活用を促進する経営が求められます。
知的資本の管理と活用により、競争力の強化や持続的成長が可能になります。
3. 人的資本
人的資本とは、人材が持つ知識や経験、スキルなどを企業の付加価値を生み出す資本として捉える考え方です。
単なる労働力ではなく、組織の戦略を理解し、開発・実践する能力も人的資本に含まれます。また、国際機関や各国の会計基準・情報開示基準関連団体、研究者などが人的資本の評価指標を提示しています。
人的資本経営は、人を「資本」として捉え、価値を最大限に引き出す手法のため、中長期的な企業価値の向上を目指せるでしょう。
4. 社会・関係資本
社会・関係資本とは、コミュニティやステークホルダーとの関係性、情報共有を通じた個人および集団の幸福向上を指します。
人と人の関係を資本として捉え、共通の価値観や行動、共有された規範、企業のブランドや評判などの無形資産も資本と考えます。米国の政治学者ロバート・パットナム氏は、社会・関係資本を「個人間のつながりや社会的ネットワーク、そこから生じる互酬性と信頼性の規範」と定義しました。
したがって、企業にとって社会・関係資本の強化は、持続可能な成長と信頼関係の構築につながるといえます。
5. 自然資本
自然資本とは、再生可能・非再生可能な天然資源の総称であり、主に空気や水、土地、鉱物、森林などを指します。
また、地域独自の特産品や観光資源を活用することで、魅力的な商品やサービスを生み出し、他の地域から人を集める要素ともなり得ます。
自然資本の価値を適切に評価し、管理することは、国民の生活の安定や企業の持続可能な経営につながるでしょう。そのため、企業には環境負荷の低減と自然資本を活かした事業展開が求められています。
非財務情報を開示する3つのメリット
非財務情報の開示には、企業価値の向上や投資家との信頼構築などのメリットがあります。企業が持続可能な経営を実現するためには、メリットを理解し、適切に情報を開示することが重要です。
以下では、非財務情報を開示することで得られるメリットについて解説します。
1. 企業の透明性が向上する
非財務情報を開示することで、企業の透明性が向上します。
財務情報と非財務情報の両方を開示することで、投資家は企業の全体像を把握しやすくなり、適切な投資判断が可能になります。
さらに、投資家との建設的な対話を促進し、経営の質を向上させることで、持続的な企業価値の向上につながるでしょう。また、国際的に認知されたサステナビリティ報告基準に基づく非財務情報の開示は、資本市場の透明性・効率性を高め、企業の信頼性向上に効果的です。
2. 企業の強みや特徴をアピールできる
非財務情報を開示すると、企業は自社の特長や強みを明確に伝えられます。
たとえば、漢方製剤を製造するツムラは、アニュアルレポートや株主通信において漢方の特徴やビジネスモデルをわかりやすく解説し、株主や投資家の理解を深めることに成功しています。
上記の事例のように、企業の取り組みを効果的にPRすることで、外部からの評価や支持を得ることが可能です。非財務情報の開示は、企業の独自性を強調し、競争力を高める重要な手段となります。
3. 投資家と企業の関係が良好になる
非財務情報を開示すれば、投資家は企業の持続可能性やリスク管理能力を評価しやすくなります。
非財務情報の開示により企業への信頼が高まり、長期的な投資を促進することが可能です。さらに、非財務情報を戦略的に開示することで、企業は自社の強みや特長を投資家へ的確に伝えられます。
自社の魅力を伝えることにより、投資家との対話の質が向上し、相互理解が深まります。投資家の投資行動を後押しすることで、企業との関係をより良好にする効果が期待できるでしょう。
非財務情報の開示における課題
非財務情報の開示にはメリットがありますが、課題も存在します。企業が適切に情報を開示するためには、課題を理解し、対策することが重要です。以下では、各課題について解説します。
明確な定義が定まっていない
非財務情報の開示においては、明確な定義や指標が十分に整備されていません。
ESG経営は歴史が浅く、とくに気候変動や人的資本以外の分野では、評価基準が未確立の状況です。そのため、開示情報が曖昧になりやすく、投資家やステークホルダーに正確な情報を伝えることが難しくなります。
情報開示の際は、事実や現状、将来予測を明確にし、具体的に記載することが重要です。
企業価値とのつながりがわかりにくい
非財務情報の開示では、企業価値とのつながりが不明確になりやすいことが課題です。
経営者や担当者が情報開示の目的を明確にしない場合、開示内容が企業の成長や競争力向上とどのように結びつくのかが伝わりにくくなります。
また、情報開示の目的が曖昧なままでは、投資家やステークホルダーに十分な評価を得られない可能性があります。そのため、情報開示を行う際は目的や意図を明確にし、内容を具体的に示すことが重要です。
情報の収集や整理が難しい
非財務情報の収集や整理は、企業にとって大きな課題です。
管理する部署が分散している場合、情報の取りまとめが難しくなり、データを数値として明記することが困難になることがあります。正確で一貫性のある情報を開示するには、適切なデータ管理が必要です。
非財務情報の管理体制を整備し、マネジメント体制を強化することで、効果的な開示が可能になります。また、組織全体での情報共有と一元管理が重要です。
企業価値向上のためにも非財務情報を活かそう
非財務情報は、企業の強みや将来性を示し、投資家やステークホルダーの信頼を得る重要な要素です。
財務情報だけでは伝えきれない企業価値を明確にし、持続的な成長につなげるためにも積極的な開示が求められます。メリットだけでなく課題も理解し、自社に合った形で非財務情報を活用することが、今後の経営において大きな強みとなるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
パワハラで内部通報制度の利用があったらどうする?匿名や退職後のケースについても解説
公益通報者保護法の改正により、アルバイト、派遣労働者、契約社員なども含め常時301人以上の労働者を使用する企業には内部公益通報制度の整備が義務付けられました。 本記事では、内部通報制度の概要と、パワハラによる内部通報を受けた場合の対応策を中…
詳しくみるMECE(ミーシー)とは?意味や活用方法を解説!
MECEは主にビジネスで活用される思考方法で、「漏れなく・重複せず」を意味します。ロジカルシンキングの1つで、MECEな思考をすることで論理的に物事を考え、問題解決が図れるとされています。さまざまなビジネスシーンで活用できますが、特に売上拡…
詳しくみるメンバーシップ型雇用とは?向いている企業やジョブ型との違い、企業事例
メンバーシップ型雇用とは、労働条件を限定しない雇用方法です。日本では一般的に採用されていますが、近年では海外で採用されているジョブ型雇用に移行する企業も出てきています。 この記事では、メンバーシップ型雇用の概要やジョブ型雇用との違いとともに…
詳しくみるロールモデルとは?意味や見つけ方、キャリアにおけるポイントを解説
ビジネスシーンで「ロールモデル」という用語が登場することがあります。人材育成において、ロールモデルを有効に活用している企業もあり、その存在を知っておくことは有益です。この記事では、ロールモデルの意味、人材育成における意義などの基礎知識のほか…
詳しくみるカタルシスとは?意味やカタルシス効果の活用方法を解説!
カタルシスは、もともとは演劇用語として使われていた言葉ですが、現代では浄化や解放という意味の心理学用語として多く用いられています。「カタルシスを感じる」などと用い、カタルシス効果を得ることにはストレスが軽減できる、不安が解消できるといったメ…
詳しくみる年功序列とは?メリット・デメリット、維持や廃止へのポイントを解説
年功序列制度とは、年齢や勤続年数で賃金が上昇していく長期雇用を前提とした賃金制度をいいます。勤務年数が長いほど賃金が高くなる制度であり、従業員にとっては賃金上昇による安心感が得られ、企業も長期的な人材育成が可能です。 ただし、人件費の高騰や…
詳しくみる