- 更新日 : 2024年8月21日
財務諸表とは?財務三表の読み方を初心者向けにわかりやすく解説
財務諸表とは、一般的に決算書といわれる書類のうち、金融商品取引法で上場企業などに作成が義務付けられている書類のことです。その中でも、貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書の3つを特に「財務三表」といいます。
貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書はそれぞれどのような書類なのか、この記事では作成の目的や見方、分析方法までわかりやすく解説していきます。
目次
財務諸表とは決算書のこと
財務諸表とは、経理初心者には少し難しいかもしれませんが、上の図のように、金融商品取引法の対象になる企業の決算書を指します。また、会社法の対象になる企業の決算書を「計算書類」といいます。「決算書」または「決算書類」というのは、財務諸表や計算書類の通称で、企業が一会計期間(基本的には1年)の事業の報告のために作成する書類を総称したものです。
財務諸表の目的は、投資家や債権者などの利害関係者などに企業の財政状況や経営成績を開示することにあります。基礎的な構成のうち、重要なのが財務三表といわれる「貸借対照表」、「損益計算書」、「キャッシュフロー計算書」です。
なお、金融商品取引法の対象となる上場企業は、内閣総理大臣への有価証券報告書の提出義務および開示義務を負っています。有価証券報告書には財務諸表や連結財務諸表も含まれ、金融庁のサイトから個人でも検索・閲覧できるようになっています。
決算書(財務諸表・計算書類)の構成
- 上場企業などの場合:貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書、株主資本等変動計算書、附属明細書、など
- 上記以外の企業の場合:貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表、など
以前は、構成の中に「利益処分計算書」がありましたが、会社法が施行された2006年に廃止され、株主資本等変動計算書に内容が統合されています。上記以外の個人事業主については、法律に規定された決算書の作成はありませんが、確定申告の際に収支内訳書(青色申告なら青色申告決算書)の提出が求められます。
財務諸表の法的根拠について詳しく知りたい方は、下記を参照ください。
財務諸表(決算書)の目的
財務諸表の目的は、利害関係者に対して広く情報を公開することです。財務報告(財務レポート)として、企業の財務諸表は開示されます。
財務諸表の作成や公開の必要性、基本的な役割について、以下に説明していきます。
- 投資家
投資家は、今後投資するのに適した企業か判断したいと考えています。財務諸表は、投資家の意思決定に役立つ資料で、特に市場での株の売買や投資には重要な判断材料となります。
- 株主
株主は、投資を継続しても問題ないか、現在の経営状況を把握するために財務諸表を必要としています。
- 債権者
金融機関や売上債権を有する取引先などは、融資した資金や売上債権の回収に問題ないかを判断にするために、企業に対して財政状況がわかる財務諸表を必要としています。
- 従業員や取引先
従業員は今後も会社に所属すること、取引先は取引を継続することで問題が生じないか、会社の状況を知りたいと考えています。財務諸表は、直接開示されるものではありませんが、企業のIR情報などとしてサイトに掲載されたり、金融庁のサイトなどで調べたりすることができるため、必要な人が自由に情報を取得できるようになっています。開示されるものですので、見せたくないから、取引先や社員に見せないようにすることはできません。
- 税務当局
税務当局は、課税の源泉となる利益が過剰あるいは過少でないか、その結果として法人税等の申告・納付額に誤りがないかを確認するために、財務諸表の提出を求めています。
このように、財務諸表が必要なのは、あらゆる利害関係者に対して必要な情報を提供するためです。ほかにも、経営陣が財務分析を行ったり、経営戦略を立てたりするのにも役立ちます。
財務三表とは財務諸表のなかで重要な3つの項目
財務三表といわれる貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書はそれぞれつながりがあり、以下のように作成の目的や把握できる内容が異なります。
財務三表 | 貸借対照表(B/S) | 損益計算書(P/L) | キャッシュフロー計算書(C/F) |
---|---|---|---|
作成する目的 | 資産、負債、純資産を管理 | 収益と費用を管理 | キャッシュの出入りを管理 |
わかること | 財政状態 | 経営成績 | キャッシュのフロー |
何を表しているか | 資産―負債=純資産 | 収益―費用=利益 | 期首のキャッシュ残高+期中のキャッシュ増減額=期末のキャッシュ残高 |
期間 | 年度(四半期) | 年度(四半期累計額) | 年度(四半期累計額、ただし、第1・第3四半期については作成省略可) |
キャッシュフロー計算書で間接法を採用する場合、2期分の貸借対照表や当期の損益計算書の額をベースに金額を調整します。
- 貸借対照表:企業が保有する財産の状況を示す
- 損益計算書:一会計期間の損益を示す
- キャッシュフロー計算書:一会計期間のキャッシュ(現預金等)の流れを示す
財務三表とは、貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書で構成されます。財務三表が重要なのは、分析することで企業の経営状況などを客観的・数値的に把握できるためです。
損益計算書(P/L)は利益を見る財務諸表
財務諸表のうち損益計算書は、収益から費用を差し引いた「利益」を把握したり、利益の発生原因を把握したりするための書類です。英語では「Profit & Loss Statement」というため「P/L」とも呼ばれます。
5つの段階に分けて計算し、最終的な「当期純利益」(または当期純損失)を求める構造になっています。
損益計算書で何がわかる?
損益計算書でわかるのは「企業がどのような理由で、どれだけ儲けているか」です。
営業利益では企業の中心的な事業でどれだけ儲けているかがわかりますし、経常利益では中心的な事業以外の通常発生する範囲の収益と費用を含めどれだけ儲けているかがわかります。利益の大きさや発生理由から、企業の経営状況を分析できるのが損益計算書という財務諸表なのです。
損益計算書の見方
損益計算書の5つの重要な項目は以下の通りです。
(1)売上高−売上原価=売上総利益
(2)売上総利益−販売費及び一般管理費=営業利益
(3)営業利益+営業外収益−営業外費用=経常利益
(4)経常利益+特別利益−特別損失=税引前当期純利益
(5)税引前当期純利益−法人税、住民税及び事業税(±法人税等調整額)=当期純利益
(1)の計算結果を(2)の計算で使い、(2)の計算結果を(3)で使い……というように最初の売上高から費用を減算、収益を加算して最終的な「儲け」である当期純利益を求めます。
(1)売上高−売上原価=売上総利益
売上高は一会計期間の売上、売上原価は売上に対する仕入を表します。売上総利益は、売上から原価を差し引いた利益です。
(2)売上総利益−販売費及び一般管理費=営業利益
販売費及び一般管理費は、給料や賞与などの人件費、水道光熱費、旅費光熱費、消耗品費など、仕入以外の営業上必要な経費です。売上総利益から差し引いて、営業による利益(営業利益)を計算します。
(3) 営業利益+営業外収益−営業外費用=経常利益
営業外収益は、金融機関での現金預け入れに対する受取利息や有価証券の配当金、雑収入などです。営業外費用は、借入金などの支払利息、営業以外の雑費などが該当します。いずれも、本来の事業以外で生じた収益や費用です。これらを加減して、通常発生すると考えられる経常利益を出します。
(4) 経常利益+特別利益−特別損失=税引前当期純利益
特別利益や特別損失は、固定資産や投資有価証券を売却したときの利益または損失などを表します。通常の事業では経常的に発生しない、一時的に発生したものなどが該当します。これらを加減した額が、税引前当期純利益です。
(5)税引前当期純利益−法人税、住民税及び事業税(±法人税等調整額)=当期純利益
法人税、住民税、事業税を差し引き、税効果会計を採用している場合は法人税等調整額を加減して、最終的な当期純利益を出します。
損益計算書について詳しく知りたいかたは、下記を参照ください。
>>損益計算書(P/L)とは?見方を事例とともにわかりやすく解説
貸借対照表(B/S)とは「企業の財政状態」を表す
貸借対照表は企業の財政状態を見るための書類です。英語では「Balance Sheet」というため、「B/S」とも呼ばれます。資産、負債、純資産の3つのカテゴリに分かれた構造になっています。
貸借対照表で何がわかる?
貸借対照表で経営の財政状態がわかります。
損益計算書は利益の大きさや発生原因で企業の経営状況を分析する財務諸表でした。対して貸借対照表は「どのように資金を調達し、調達した資金をどのような資産として運用しているか」という財政状態を分析するための財務諸表です。
貸借対照表の見方
こちらが貸借対照表の概念図です。資産の運用状況を示す「資産」の数値は、「負債+純資産」と常にイコールの関係にあります。
「資産」パートは、現金や預金のほか、商品や原材料などの棚卸資産、建物や機械などの有形固定資産、M&Aなどで取得した企業の企業価値である「のれん」、商標権のような権利、子会社や関連会社株式など、集めたお金を何に使っているのか、企業が調達した資金の運用状況を示します。
向かって左側に表示する「負債」は、借入金や社債など、企業の資金調達源がどれだけ他人から借り受けたお金で成り立っているのかという、企業の他者からの資金の調達状況を示します。ただし、負債には将来費用や損失になり得る引当金などが含まれることがあります。
そして、資本金や資本準備金などの株主からの払込、当期純利益の加算額など、どれだけ自前のお金で経営をしているのかを示すのが「純資産」パートです。
それぞれのパートの具体的な内容は下図のようになっています。
貸借対照表について詳しく知りたいかたは、下記記事を参照ください。
>>貸借対照表(バランスシート)とは?見方やチェックポイントを解説
キャッシュフロー計算書とは「お金の流れを見る財務諸表」
キャッシュフロー計算書は「お金の流れ」に着目して、「営業活動」「投資活動」「財務活動」の3つの分類で企業の経営を分析するための財務諸表です。
キャッシュフロー計算書で何がわかる?
わかりにくいイメージのあるキャッシュフロー計算書ですが、キャッシュフロー計算書からは、会社の状態、戦略、経営者の意思などいろんなことが読み解けます。
【引用】日経ビジネススクール
とボナ・ヴィータ コーポレーション代表取締役であり日経ビジネススクールの講師も務める國貞克則氏は言っています。
損益計算書や貸借対照表とともに、うまく使いこなして経営分析の武器にしましょう。
キャッシュフロー計算書の見方
こちらがキャッシュフロー計算書の概念図です。
「(1)営業活動によるキャッシュフロー」とは企業が中心に据えている事業によって生じたお金のことです。このパートはプラスになるのが基本ですが、プラスの値が大きいほど企業の運転資金が豊富であるという証明になります。逆にマイナスであればその企業はかなり不安定な状況にあると言えるでしょう。
「(2)投資活動によるキャッシュフロー」は企業の投資資金の流れを指します。ここがプラスであるほど固定資産や有価証券の売却を積極的に進めて資産効率を再検討していることがわかり、マイナスであれば設備投資に積極的であるという判断が可能です。成長期の企業であれば、投資活動によるキャッシュフローがマイナスに転じることがよく見られます。
資金調達と返済の流れを示すのが「(3)財務活動によるキャッシュフロー」。ここがプラスの場合は借入や社債発行、新株発行等によって調達しているお金が返済しているお金よりも多いことを示し、マイナスの場合は資金調達したお金よりも返済額の方が多いことを示します。
具体的な項目については以下の様式例を見てください。
キャッシュフロー計算書(C/F)について詳しく知りたいかたは、下記記事を参照ください。
財務諸表の読み方・分析方法
財務諸表の分析手法は、大きく分けると、収益性分析、安全性分析、生産性分析、成長性分析、効率性分析の5つの分析手法があります。それぞれの分析方法について、代表的な指標と計算方法を取り上げます。
収益性分析
収益性分析は、企業がどれくらい稼ぐ力があるかをみる分析方法です。代表的な指標に、売上高総利益率、売上高営業利益率、総資本利益率(ROA)、自己資本利益率(ROE)、自己資本回転率などがあります。
売上高営業利益率
売上高営業利益率は、一般的に利益率といわれている指標です。売上高に対する営業利益、つまり本業でどれだけ稼ぎがあるかを表します。
ROAとROE
資本をベースにした指標で代表的なのは、ROAやROEです。それぞれ以下のように計算します。
ROA(%) = 当期純利益 ÷ 総資本金額 × 100
ROE(%) = 当期純利益 ÷ 自己資本金額 × 100
ROAは自己資本と他人資本の合計(総資本金額)に対する利益の割合、ROEは自己資本に対する利益の割合を表します。
安全性分析
安全性分析は、企業の経営がどれくらい安定しているか、企業の倒産リスクを測るのに適した分析方法です。代表的な指標に流動比率、当座比率、固定比率、株主資本比率などがあります。
流動比率
短期間(おおよそ1年以内)に変動する流動資産と流動負債を用いて、企業の短期的な資金繰りをみる指標です。100%以上あれば、資金ショートの可能性は低いと考えられます。
固定比率
固定資産額に対する自己資本の割合を示す指標です。割合が低いほど自己資本を活用して投資に回せていることがわかります。比率が高い場合は借入金により資金繰りが苦しくなる可能性もあるため注意が必要です。
株主資本比率
総資産に占める株主資本の割合を示す指標です。株主資本は借入金と異なり返済が求められない資本です。株主資本の比率が高いと、債務超過などのリスクが低いと考えられます。
生産性分析
生産性分析は、企業が経営資源を活用してどれほどの価値を生み出したのか生産性をみるための分析方法です。代表的な指標に、労働生産性、労働分配率、労働装備率などがあります。生産性分析を行うためによく用いられるのが、付加価値です。付加価値とは、企業活動により生み出された価値のことで、中小企業では、売上高から外部購入価値を控除して算出します。
労働生産性
労働に対する生産量や価値を表す指標です。以下、2通りの計算方法があります。
(物的)労働生産性 = 生産量(売上高) ÷ 労働者数
(付加価値)労働生産性 = 付加価値 ÷ 労働量(全労働者の労働時間)
労働分配率
労働分配率は、付加価値のうち人件費の占める割合を表した指標です。企業の稼ぎに対して人件費がどれくらいあるのかがわかります。
成長性分析
成長性分析は、企業の経営拡大や成長の余地について多角的に分析する方法です。代表的な指標に、売上高増加率、経常利益増加率、純資産増加率、従業員増加率、一株当たり当期純利益などがあります。
経常利益増加率
前年比の経常利益の増加率を示す指標です。経常利益とは、本業の利益である営業利益から、営業外収益と営業外費用を加算または減算した後の利益をいいます。
従業員増加率
前年比の従業員の増加率を示す指標です。企業の規模がどれくらい拡大したかがわかります。
一株当たり当期純利益
企業の投資価値を示す指標としても用いられています。1株に対する当期純利益の額を表したものです。
効率性分析
効率性分析は、資本を効率よく活用できているかどうかをみる分析方法です。代表的な指標に、総資産回転率、売上債権回転率、棚卸資産回転率、仕入債務回転率などがあります。
総資産回転率
総資産を活用してどれだけの売上高が生み出されたのか、総資産に対する効率性を示す指標です。総資本回転率といもいわれます。
棚卸資産回転率
棚卸資産の仕入れや販売が効率よく行われているかどうかを測る指標です。在庫回転率ともいわれます。
財務諸表の作り方はツールを使うと簡単で便利
財務三表を構成する貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書は、エクセルでも作成可能で、管理もできます。テンプレートを活用すれば、一から作成する手間を省くこともできるでしょう。
しかし、エクセルによる作成や管理は、課題があるのも事実です。関数を使ってある程度は自動で計算できるように設定していても、必要な箇所は入力が必要となります。貸借対照表や損益計算書を分析しようとするとさらに手間がかかるため、人件費にも影響するでしょう。
このような決算書の作成を手間なく行うには、専用のツールを使用するのがおすすめです。ツールなら、自動取得や自動計算で作成の手間を減らせるほか、ヒューマンエラーも防ぐことができます。人件費削減になるのも魅力です。
マネーフォワードのクラウド会計なら、貸借対照表や損益計算書のほか、販売費及び一般管理費の明細書や株主資本等変動計算書なども簡単に作成できるようになっています。レポート機能を活用すれば、任意の期間でキャッシュフローを確認することも可能です。
財務諸表で企業の経営状態を分析
財務諸表とは、金融商品取引法の対象になる企業の決算書を表します。財務諸表の作成目的は、企業の利害関係者へ必要な情報を開示することです。
財務諸表が重要な理由は、企業の決算情報を利害関係者に開示することで、それぞれが適切に意思決定をできるようにするためです。財務諸表のうち貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書を財務三表といいます。損益計算書は「経営成績」を、貸借対照表は「財政状態」を、キャッシュフロー計算書は「企業の状態・戦略・意思」を読み取れる重要な書類です。情報を組み合わせることで経常状況の詳細な分析もできます。
財務諸表の分析は、他社だけでなく自社の分析にも活かせますので、財務諸表の作成・提出だけ終わらず、社内でも経営状況を分析してみてはいかがでしょうか。
決算書の読み方を更に詳しく知りたい方へ
決算書は会社の成績表のようなものなので、読めると自社や競合他社のことをしっかりと理解できます。しかし最初は読み方を理解するのが難しいかもしれません。そこで、決算書の基本的な読み方について、初心者にもわかるようにご紹介する資料をご用意しました。貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書などについて解説しています。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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