• 作成日 : 2023年2月22日

ESG経営とは?メリットや企業事例について解説!

ESG経営とは環境や社会に配慮しながら企業統治に取り組み、健全で持続可能な発展を目指す経営手法のことです。

ESG経営の取り組みは投資家の評価を高め、企業イメージを向上させるなどのメリットがあります。

本記事ではESG経営を行う目的や注目される背景・効果・メリットとともに、課題・デメリットも解説します。取り組む企業の事例も紹介しますので、ぜひ参考にしてください。

ESG経営とは?

ESG経営とは、環境や社会への配慮、コーポレート・ガバナンスの遵守を重視する経営スタイルのことです。2006年に国連が発表した「責任投資原則(PRI)」の条文でESG経営という言葉が用いられたことをきっかけとして、注目されるようになりました。

ここでは、ESG経営の定義や目的、注目される社会的背景についてご紹介します。

ESG経営の定義

ESG経営の「ESG」とは「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の頭文字をとった略語で、ESG経営はこれら3つの要素を重視する経営手法を指します。

ESG経営が初めて登場したのは、2006年に国連で提唱されたPRI(責任投資原則)です。PRIは財務情報に加えて、ESG要素を投資の分析や株式所有の意思決定、株主行動に組み込むことを定めた行動原則であり、投資家が企業を評価するための指標として注目を集めました。

3つのESG要素の内容は、主に以下のとおりです。

Environment(環境)
・気候変動への取り組み
・二酸化炭素(CO2)排出量の削減
・廃水・廃棄物による生態系汚染の対策
・再生可能エネルギーの使用
Social(社会)
・適切な労働条件・労働環境の整備
・男女平等など職場での人権対策
・ダイバーシティの推進
・ワーク・ライフ・バランス
・地域社会への貢献
Governance(企業統治)
・コーポレートガバナンスの整備
・業績悪化に直結するような不祥事の回避
・適切な情報開示
・リスク管理のための情報開示・法令順守

PRIではこれらESG要素が、長期的な企業の発展・成長に大きな影響を与えるとしています。

ESG経営の目的

ESG経営の主な目的は、企業が持続的に成長・発展することです。目先の利益や評価だけではなく、環境や社会への配慮、企業統治を重視することによって、持続可能な発展を目指します。

現在の市場においては、ESG経営に取り組む企業が増え続けており、ESG経営を重視しない企業は投資家や顧客などからの評価を得にくい状況になりつつある状況です。ESG経営を目指すことは、企業価値を高めるためにも必要とされています。

ESG経営が注目される社会的背景

ESG経営が注目される背景には、以下のような社会の変化が挙げられます。

  • SDGsの普及
  • リーマンショック
  • 課題・リスクの多様化

SDGsとは「持続可能な開発目標」という意味で、2015年9月25日に国連総会で採択された17の国際目標を指します。人類は貧困や紛争、気候変動など多くの課題に直面しており、その解決のため、2030年までに達成すべき目標として可決された世界共通の具体的な目標です。

ESGに取り組むことがSDGsへの貢献につながるとして、ESG経営にも注目が集まっています。

2008年に起きたリーマンショックによる株価大暴落も、ESG経営に注目が集まる理由のひとつです。近年における投資家の動向は、資金力など財務を重視した投資から、環境・社会・ガバナンスの課題に取り組む経営を評価するESG投資へと変化しています。

ESG経営に反する企業や国際規範に従わない企業は投資対象から除外される傾向が強くなる一方、積極的にESG経営に取り組む企業は評価されやすくなっているのが特徴です。

変化が激しく先行きの予測が困難な時代にあっては、企業が直面するリスクも多様化しています。さまざまなリスクを予測・対応していくためには、環境・社会・ガバナンスの問題に意識を向けたESG経営に取り組むことが必要と考えられています。

ESGとSDGsの違い

ESGと持続可能な開発目標であるSDGsは、どちらも環境問題や雇用問題、多様性の尊重などへの取り組みという点で共通しています。SDGsは国連・各国政府全体の目標として掲げられたものであるのに対し、ESGは企業経営に関して用いられる点で異なります。

SDGsは持続可能な世界を実現するため、企業だけでなく、すべての組織・個人が取り組むべき目標です。一方、ESGは企業価値を高めるために企業や団体が取り組むもので、それぞれ取り組みの主体が異なります。

ただし前に説明したように、ESGへの取り組みはSDGsの達成にもつながるため、SDGsに取り組む一環としてESG経営を導入する企業も増えています。

ESG経営の効果やメリットとは?

ESG経営に取り組むことは、投資家の評価が高まるなど多くのメリットをもたらします。ここでは、ESG経営の効果やメリットについてみていきましょう。

投資家の評価が高まる

ESG経営への取り組みは投資家からの評価が高まり、資金調達につながりやすいことがメリットです。

近年は財務情報だけでなく、ESGやSDGsへの取り組みなど非財務情報をもとに投資先を決める投資家も増えています。

2008年のリーマンショック以降、企業の長期的な存続という観点で、ESG経営は投資の新しい評価基準として注目されている状況です。

経営リスクの逓減につながる

ESG経営の要素のひとつ「Governance(企業統治)」に取り組むことで、管理体制を強化し、経営リスクを逓減できる点はメリットです。

近年はリスクが多様化しており、利益のみを追求する企業経営では想定外の事態で経営が打撃を受ける可能性も十分あるでしょう。企業統治により適切な管理を行うことで、不正を未然に防ぎながらさまざまなリスクに対応できます。

労働環境の改善が期待できる

ESG要素の「Social(社会)」では、労働環境の改善が大きなポイントです。国際規範に沿ったESG経営により、働きやすい環境づくりが期待できます。

また多様な人材を受け入れるダイバーシティ&インクルージョンの推進により、誰もが活躍できる職場への変革がもたらされ、従業員の定着率も上がり、優秀な人材が集まる企業になることも期待できます。

企業のイメージアップになる

ESG経営への取り組みは、利益だけを追及するのではなく、環境問題や社会問題に取り組むという姿勢をアピールできます。企業のイメージアップにつながり、信頼性も高まるでしょう。

企業イメージの向上は従業員のモチベーションを高め、企業に貢献したいという従業員エンゲージメントにもつながります。仕事のパフォーマンスが上がり、生産性も高まるでしょう。求職者からの人気も出て人材不足を解消するなど、多くのメリットをもたらします。

ESG経営の課題やデメリットは?

メリットの多いESG経営ですが、明確な定義がないなどの課題やデメリットな側面もあります。具体的な内容をみてみましょう。

明確な指標や基準がない

ESG経営の歴史は浅く、明確な定義や価値基準・判断の指標がありません。これからESG経営に取り組む企業は、方向性に迷うこともあるでしょう。

具体的な指標や基準は、今後ESG経営に取り組む企業が増えていくことで少しずつ明確になり、確立していくと考えられます。それまでは、自社で判断しながら取り組む必要があるでしょう。現在ESG経営に取り組んでいる企業の事例を参考にするのも、ひとつの方法です。

長期的な取り組みが必要

ESG経営は3つの要素から課題解決への取り組みを行うもので、社会貢献を目的とします。施策に対する結果がすぐに得られるものではなく、短期間で達成できる取り組みではありません。

長期的な取り組みが必要で、取り組みへのフィードバックを得るまでにも多くの時間がかかります。

成果を可視化するには、ESGのうち組織内部の課題解決となる「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の施策を積極的に推進する方法が有効だといえるでしょう。

ESG経営の企業事例は?

ESG経営に取り組む企業は増えており、各社が独自のアプローチで推進しています。代表的な事例を3つご紹介します。

ESG経営のランキング上位【SOMPOホールディングス】

SOMPOホールディングス株式会社は、損害保険ジャパン株式会社をはじめとする保険会社などをグループ企業とする持株会社です。2006年の国連の責任投資原則立ち上げ時から、損保ジャパン株式会社は日本の保険会社としては初めて署名をしています。

ESG経営に優れた企業ランキングでは4年連続1位を獲得するなど、積極的な活動が評価されています。

特に気候変動による自然災害の増加は保険金支払いなど事業に大きな影響を受けると考え、次のような取り組みを推進しているのが特徴です。

  • 全国の各自治体と協定を結び、森林整備活動や環境教育を実施
  • 社員食堂等でコーヒー等のカップをプラスチック製から紙製に変更

また、同社ではダイバーシティ&インクルージョンを、グループの成長に欠かせない重要な経営戦略のひとつと位置づけ、ダイバーシティ推進本部を設置しました。

取り組みの成果として、2021年3月末時点の管理職に占める女性の比率は24.2%と高い水準を達成しています。

「イノベーションの創出」と「社員の幸福度、やりがいの向上」により、グループの持続的な成長を促進し、企業価値の向上を図っていくことを目的としています。

4つの重要課題に取り組む【ANAグループ】

ANAグループは、日本の最大手航空会社・全日本空輸株式会社を中心とする企業グループです。ESG経営として、「環境」「人権」「地域創生」「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」の4つの重要課題に取り組んでいます。

ANAグループが推進するESG経営のサイクルは、具体的に以下のとおりです。

  • すべての事業活動で安全を最優先し、コンプライアンスを遵守するとともにリスクマネジメントを徹底する
  • ステークホルダーとの対話から社会要請を把握し、取り組みに反映させる
  • インパクト評価から特定した重要課題の解決に向けて、事業活動を通じた取り組み状況を随時Webサイトなどで開示し、開示情報をもとにステークホルダーと定期的に対話する

ANAグループでは社会的価値と経済的価値を同時に創出し、持続可能な社会の実現と企業価値向上を目指すとしています。

企業理念とも合致【キヤノン】

大手精密機器メーカー・キヤノン株式会社も、ESG経営への積極的な取り組みを推進している企業です。企業理念として「共生」を掲げ、顧客やビジネスパートナーだけでなく、国・地域・自然・地球環境とも良い関係を作り、社会的な責任を果たすことを宣言しています。この理念はSDGsやESG経営にも合致するものです。

キヤノンでは、ESG経営について主に次のような取り組みを行っています。

  • 環境活動:製品の省エネルギー設計や工場・オフィスでの使用電力の削減
  • 社会:さまざまな個性や価値観を持つ人材を受け入れ、互いに高め合いながら成長する
  • ガバナンス:経営における透明性の向上と経営監視機能の強化

ESG経営を導入するときのポイントは?

ESG経営の内容は多岐にわたりますが、自社に導入する際は必ず押さえておきたいポイントがあります。ここでは、ESG経営導入のポイントを解説します。

サステナビリティ(持続可能性)に取り組む

ESG経営の導入では、SDGsの主目的である「サステナビリティ(持続可能性)」への取り組みが欠かせません。

サステナビリティとは、「環境・社会・経済」の観点から、長期間にわたり地球環境を壊さず良好な経済活動を継続するという考え方です。

目先の利益だけを考えるのではなく、長期的な影響を考えて行動できるシステムやプロセスであり、具体的には次のような行動を指します。

  • 環境:森林伐採や海洋汚染、温室効果ガスの排出問題などの課題を解決していく
  • 社会:教育格差やジェンダー問題などの課題を解決する
  • 経済:良好な労働環境整備、セーフティネットなど社会保障の拡充

多様性を推進する

社会の多様性に合わせた組織づくりを考えることも、ESG経営の導入の必須事項です。性別・国籍・人種・考え方の多様性を尊重し、受け入れるというダイバーシティ&インクルージョンの考え方は、これからのビジネスでは避けられません。

多様な人材を受け入れ、それぞれの能力が最大限発揮できる機会を提供することでイノベーションを生み出します。

労働環境を改善する

労働環境改善への取り組みも、ESG経営では不可欠です。長時間労働や正規雇用者・非正規雇用者の格差がある職場は、速やかな改善が求められます。

産休・育休制度の整備やワークライフバランスに配慮した施策などへの取り組みも必要です。労働環境の整備や待遇改善は、従業員のモチベーションを高め、生産性向上にもつながるでしょう。

コーポレート・ガバナンスを徹底する

法律や社会規範を遵守するコーポレート・ガバナンスの徹底も大切なポイントです。コーポレート・ガバナンスは環境や社会の諸課題に対応するための大前提であり、中長期的に企業価値を高める施策ともいえます。

具体的には、以下のような取り組みがコーポレート・ガバナンスにあたります。

  • 内部統制の構築・強化(公正な市場競争の実施、汚職や不正の根絶など)
  • 第三者の視点による監視体制の構築

また、コーポレート・ガバナンスの強化として、積極的な情報開示も必要です。

ESG投資とは?

投資判断にESG経営の内容を取り入れる、ESG投資という考え方があります。ESG投資とはどのようなものか、詳しくみていきましょう。

投資を通じたサステナビリティへの取り組み

ESG投資とは、企業の財務情報のみを参考に投資するのではなく、ESG経営の「環境」「社会」「ガバナンス」の3要素を投資判断に含める考え方です。

投資先のESGの取り組みをチェックして投資対象を選ぶことで、ESG課題への継続的な配慮を促します。投資を通じて、持続可能な社会の実現を目指す取り組みといえるでしょう。

7つの分類

ESG投資は、投資戦略として次の7つに分類されています。

ネガティブ・スクリーニング・倫理から外れた行為で売上を上げている企業に投資しない
・武器やアルコール、タバコ、原子力発電、性産業など
ポジティブ・スクリーニングESG関連の評価が相対的に高い企業に投資する戦略
規範に基づくスクリーニングESG投資の国際基準をクリアできていない企業を投資先リストから外す
ESG統合投資先の選定で、財務情報だけでなく非財務情報も含めて分析をする
サステナブル・テーマ投資・サステナブルな経営を行っている企業に積極投資する
・再生可能エネルギー、持続可能な農業、男女同権、ダイバーシティなど
インパクト投資社会・環境に貢献する技術やサービスを提供する企業へ積極投資する
エンゲージメント・議決権行使株主総会や情報開示請求などを通じ、企業へESGを意識した経営を積極的に提言する

これら7つの手法は、単独ではなく重複して用いられることも少なくありません。

ESG経営は企業イメージアップに貢献

ESG経営は環境・社会・企業統治の観点を経営に取り込み、企業の持続的な成長・発展を目指す手法です。ESG経営への取り組みは投資家からの評価が高まる傾向にあり、企業イメージアップにも貢献します。
ただし、歴史が浅いために定義や価値基準が明確でなく、取り入れる際の方向性が難しい側面もあります。
今まで紹介した企業事例も参考に、ESG経営の導入を検討してみましょう。

よくある質問

ESG経営とは?

「Environment(環境)」「Social(社会)」「Governance(企業統治)」の3つを重視する経営手法のことです。詳しくはこちらをご覧ください。

ESG経営の企業事例は?

ANAグループやキヤノンなど、大企業を中心に多くの企業が取り組みを行っています。詳しくはこちらをご覧ください。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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