- 更新日 : 2024年10月30日
定額減税について年末調整時の対応を解説!人事労務担当者が行うこと
令和6年6月から実施された定額減税は、企業の担当者にとって煩雑な税務処理だと言えるでしょう。年末調整時の年調減税は、令和6年9月頃から国税庁HPに随時掲載する予定とされているため、頭の痛い問題です。
本記事では、現時点で確認できる年調減税の基本的な概念から対象者の確認方法、減税額の計算、対応プロセスなどについて解説します。
目次
年調減税とは?
年末調整時の定額減税(年調減税)とは、年末調整の対象者が受けられる減税制度のことです。令和6年の税制改正により、同年6月から所得税の特別控除として「定額減税」が実施されました。給与を支払う企業では、「月次減税」と「年調減税」の2種類の定額減税額を差し引く処理を行う必要があります。
年調減税の対象者
年調減税の対象者は、年末調整の対象となる給与所得者です。具体的には、令和6年6月1日以以降に、以下の条件に該当する人になります。
- 令和6年分の年末調整時に給与の支払者に扶養控除等申告書を提出している従業員
- 年の中途で退職した人のうち、死亡により退職した従業員
- 年の中途で退職した人のうち、 著しい心身の障害のため退職した人で、その退職時期から見て、本年中に再就職ができないと見込まれる従業員
- 年の中途で退職した人のうち、12月中に支給期の到来する給与の支払いを受けた後に退職した従業員
- 年の中途で海外の支店へ転勤したことなどの理由により、非居住者となった従業員
ただし、年末調整の対象とならない従業員、例えば給与収入が2,000万円を超える従業員や、扶養控除等申告書を提出していない従業員は、年調減税の対象外となります。また、合計所得金額が1,805万円を超えると見込まれる従業員も対象外です。いずれも本人が確定申告で月次減税額の精算を行うことになります。
年調減税の減税額
年調減税の減税額は、定額減税の対象者に対して一律に適用される金額です。具体的には、所得税については本人3万円、同一生計配偶者3万円、扶養親族1人あたり3万円が減税されます。個人住民税については、本人1万円、控除対象配偶者1万円、扶養親族1人あたり1万円が減税されます。
年調減税額の計算は、扶養控除等申告書や配偶者控除等申告書などから、年末時点の扶養親族や配偶者の人数を確認し、それに基づいて行います。
例えば、扶養親族が2人いる場合、所得税の年調減税額は3万円×3人=9万円となります。この金額を年末調整で計算した所得税額から控除し、最終的な税額を確定します。
年調減税の対応プロセス・方法
では、年調減税の事務手続は、どのようなプロセスで行えばよいのでしょうか。最終的に年調所得税から年調減税額を控除し、年調年税額を計算するまでの流れを順に説明します。
① 従業員が定額減税の対象者か確認する
定額減税の対象者を確認するためには、まず従業員が年末調整の対象となるかどうかを確認する必要があります。
前述のように、年末調整の対象者が原則として年調減税の対象となります。具体的には、企業に「扶養控除等申告書」を提出している従業員、12月31日までに給与を受け取り企業を退職する従業員、6月1日以降に年度の途中で死亡により退職した従業員、年度の途中で退職し年度中に再就職できない従業員、そして年度の途中で海外転勤により非居住者となった従業員が含まれます。
しかし、年末調整の対象者であっても給与所得以外の所得を含めた合計得金額が1,805万円を超えると見込まれる従業員は、年調減税額を控除しないで年末調整することになります。この場合、1,805万円を超えるかどうかを判断する際、基礎控除申告書で把握した合計所得金額を用います。
② 定額減税対象者の減税額がいくらになるか確認する
次に定額減税対象者の減税額を計算します。年調減税額は、「扶養控除等申告書」や「配偶者控除等申告書」などを基に、年末調整時の現況における同一生計配偶者の有無および扶養親族(いずれも居住者に限る)の人数を確認し、「本人30,000円」と「同一生計配偶者および扶養親族1人につき30,000円」の合計額を求めます。
なお、年調減税額の計算に含まれる「同一生計配偶者」は、次のいずれかに該当する配偶者です。
- 「配偶者控除等申告書」に記載された控除対象配偶者
- 合計所得金額が48万円以下であり、年調減税額の計算に含める配偶者として「年末調整に係る定額減税のための申告書」に記載された配偶者
③ 住宅ローン控除等を加味して計算を行う
年調減税額では、住宅ローン控除等の特別控除を加味する必要があります。通常の方法で年末控除を行い、住宅ローン控除適用後の年調所得税を算出します。その後、年調減税額を控除することになります。
また、年調減税額を控除した金額に102.1%を乗じ、復興特別所得税を含めた年調年税額を計算します。
そのうえで、年調年税額と毎月の徴収税額の合計額を比較して過不足の精算という流れになります。
④ 年調年税額の計算フロー
所得金額の計算後、所得税率を乗じて税額を計算することになります。年調所得税から年調減税額を控除し、年調年税額を計算するまでの計算フローを示すと次のようになります。
年調減税における注意点 ・ 還付と徴収判断
年調減税は年末調整時に適用され、最終的な所得税額の精算が行われます。従業員の扶養家族の増減や入社時期、合計所得見積額などの要素によって、精算の結果が変わってくるため、適切な対応が求められます。
① 扶養家族が増加した場合
扶養家族が増加した場合、年調減税額が増加するため、従業員の最終的な税額が減少します。増加した扶養家族については、扶養控除等申告書に記載し、年末調整時に反映させます。例えば、子供の出生や親の同居などで扶養親族が増えた場合、これを申告し、年末調整で正確に控除額を反映させる必要があります。
② 扶養家族が減少した場合
逆に子供が独立した場合や、配偶者の収入が増加した場合などは、年末調整時に扶養控除や配偶者控除が減ります。最終的な所得税額が増加するため、毎月の源泉徴収税額の合計額よりも年調減税後の年税額が大きくなり、不足税額の追加徴収が必要になる可能性があります。従業員は扶養控除等申告書を提出し、適切に申告する必要があります。
③ 6月2日以降に入社した従業員の場合
6月2日以降に入社した従業員は、月次減税の対象外となるため、年末調整時に年調減税を受けることになります。この場合、毎月の源泉徴収税額には定額減税が反映されていないため、年調減税後の年税額が小さくなり、還付金が発生する可能性があります。
④ 合計所得見積額が1805万円を超えた従業員
合計所得見積額が1,805万円を超える従業員は、年調減税の対象外となります。このため、年末調整時に定額減税が適用されず、毎月の源泉徴収税額の合計額と年税額が同額となります。ただし、確定申告で最終的な精算が行われるため、追加徴収や還付が発生する可能性があります。
年調減税の具体的な例
前述の「年調減税の対応プロセス・方法」で示した計算フローを踏まえ、具体例を見てみましょう。下記の事例をご覧ください。
【本人+扶養家族3人のケース】
- 1.所得金額の計算
- 給与等の総額 7,770,000円
- 税額 204,810円(実際に源泉徴収した税額)
- 給与所得控除後の給与等の金額 5,893,000円
- 差引課税給与所得金額 3,011,00円
※「所得税の速算表」により、「1,950,000円~ 3,299,000円」は所得税率(10%)であるため、3,011,00円×10%=301,100円、税額控除額は同表によって97,500円となり、301,100円-97,500円=203,600円。
- 2.税額の計算
- 算出所得税額 203,600円
- 住宅借入金等特別控除 40,000円
- 年調所得税額 163,600円(203,600円-40,000円)
- 年調減税額120,000円(30,000円×4人分)
- 年調減税額控除の年調所得税43,600円(163,600円-120,000円)
- 年調年税額 44,500円(43,600円×102.1%)※100円未満は切り捨て
- 差引超過額 160,310円(204,810円-44,500円)
- 差引還付する金額 160,310円この事例では、月次の徴収税額の方が高額であるため、年調減税事務によって160,310円が還付されることになります。
年調減税に必要な書類
年調減税事務では、最終的に還付または納付金額を算出することになりますが、精算するには年調減税額に含める同一生計生計配偶者や扶養親族の有無、人数を把握する必要があります。
これらは扶養控除等申告書や配偶者控除等申告書を申告書によって確認することになります。
また、令和6年中の所得金額の見積額が1,000万円を超える場合、従業員の同一生計配偶者について年調減税額の算定に含めるときは、年末調整の時期までに年末調整に係わる申告書の提出が求められます。
年末調整でも定額減税を適切に実施しよう!
年末調整における定額減税の対応は、従業員の税負担を軽減するために重要な業務です。年調減税の対象者を正確に確認し、適切な減税額を計算することが求められます。
詳細はこれから国税庁HPに随時掲載するということですが、今から年末調整時の定額減税についての理解を深め、適切な対応を心掛けることが大切です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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