• 更新日 : 2025年3月31日

労働基準法第56条とは?未成年者・年少者・児童の労働についてわかりやすく解説

労働基準法第56条は、事業主が一定年齢未満の年少者(未成年者)を働かせることを原則禁止する規定です。本記事では、労働基準法第56条の基本内容(適用対象や具体的な制限事項、例外規定)を解説し、違反時の罰則や企業が負うリスクについて説明します。

また、人事労務担当者が未成年者を雇用する際に注意すべきポイントや、関連する法令(他の労働基準法条文・児童福祉法等)との関係、最新の裁判例や解釈も含めて詳しく解説します。最後に、企業がコンプライアンスを確保する方法や労働基準監督署への対応、社内規定の整備など実務対応策をまとめます。

労働基準法第56条とは

労働基準法第56条は、労働者として働かせることのできる最低年齢を定めた規定です。ここでいう「児童」とは、満15歳に達した日(誕生日)以後の最初の3月31日が終了するまでの者を指します。

簡単に言えば、中学校卒業前の年齢の者(義務教育修了前の児童)は原則として労働者として使用できません。

事業主(使用者)は、この年齢に達していない児童を労働させてはならないと法律で厳格に規定されています。例えば、中学生や小学生をアルバイトとして雇用することは、第56条違反となり原則禁止されます。

労働基準法上、年少者・未成年者の用語も区分されています。「年少者」とは満18歳に満たない者を指し、「未成年者」労働基準法とは民法上の成年に達していない者のことです(2022年4月以降は満18歳未満が未成年者)。

労働基準法の就業制限や保護規定は主に「年少者」(18歳未満)を対象としており、18歳以上については成年労働者と同様の扱いになります。したがって、高校生など18歳未満の労働者には特別な制限が適用されますが、18歳を迎えれば労働時間や深夜業等の制限は解除されます(後述)。

なお、労働基準法第58条・59条など「未成年者」という表現がある規定は、成人年齢引下げ後は18歳未満に適用される解釈となっています。

第56条はすべての事業分野に原則適用されます。製造業やサービス業といった業種を問わず、使用者は年齢基準を守る必要があります。

また、正社員・アルバイトなど雇用形態も問いません。年少者が学校に在籍しているかどうかも関係なく、年齢基準によって判断されます。

仮に義務教育終了前であれば、学校を休学・中退していても「児童」に該当し、使用は禁止です。以上が労働基準法第56条の適用範囲と基本的な定義です。

労働基準法第56条による児童の使用禁止

労働基準法第56条第1項は、

「使用者は、児童が満15歳に達した日以後の最初の3月31日が終了するまで、これを使用してはならない。」

と定めています。

これは義務教育を修了していない年齢の児童について、原則として労働契約を結んで働かせること自体を禁止するものです。この規定により、企業は中学生以下(概ね15歳未満)の者を従業員として雇用することはできません。

労働基準法上、中学生(概ね13〜15歳未満)や小学生(概ね12歳以下)をアルバイトや従業員として店頭に立たせたり工場で働かせたりすることは、本条に違反する行為となります。

例えば、14歳の中学生に飲食店で接客のアルバイトをさせる、11歳の小学生に工場の軽作業を手伝わせるといったケースは、第56条違反として法的に問題となります。実際に「中学生以下の児童を働かせていた」として行政指導や摘発を受ける事例もあり、企業は特に注意が必要です。

さらに、家業の手伝いであっても注意が必要です。労働基準法が適用される「労働者」に当たる形で児童を使っていれば第56条違反となり得ます。

例えば、家族経営の飲食店で中学生の子どもが従業員同様の業務(接客や調理補助など)を継続的・有償で手伝う場合、形式上家族であっても労働基準法上の「使用」に該当する可能性があります。この場合も原則は禁止です。ただし、純粋に家族として短時間手伝う程度で労働契約が成立しないようなケースであれば、労働基準法の適用外となり違反に問われない場合もあります(この点は曖昧になりやすいため慎重な判断が必要です)。

いずれにせよ、児童を実質的に“働かせる”行為には法律上の厳しい制限があることを認識しましょう。

労働基準法第56条の例外規定

労働基準法第56条には、限定的な例外規定も設けられています。同条第2項により、一定の条件下では年少者の就業を認める特例が存在します。

まず、満13歳以上の児童については、以下の条件をすべて満たす場合に限り、行政官庁(所轄労働基準監督署長)の許可を受けて就労させることが可能です(労働基準法56条2項)。その条件は、次のとおりです。

満13歳以上の児童が就労できる条件(以下すべてを満たす)
  • 業種が非工業的事業であること:製造業・土木建築業・鉱業等の工業的な事業ではなく、農林水産業や商業サービス業などの非工業的分野に限る。典型例として新聞配達や農業などが該当します。
  • 作業が児童の健康・福祉を害さないこと:業務内容が肉体的・精神的に過度な負担を与えず、児童の健全な成長を妨げないものであること。有害物質を扱う仕事や過度に危険な作業は認められません。
  • 労働が軽易なものに限られること:業務が比較的簡単で、児童でも無理なく行える程度のものであること。重量物の運搬や重機の操作などは除外されます。
  • 修学時間外に限ること:就学中の児童であれば、学校の授業時間を妨げない範囲(放課後や休暇中)で働かせること。授業を欠席させて働かせることはできません。
  • 所轄労働基準監督署長の許可を得ること:上記の条件を満たしたうえで、所轄の労働基準監督署長に申請を行い、使用許可を取得する必要があります。許可なく13〜14歳を働かせれば違法となります。

上記の許可要件を満たし、行政官庁の許可が下りた場合に限り、13歳以上の児童でも例外的に労働が認められます。

例えば、新聞配達は非工業的事業かつ軽易な業務の代表例であり、所轄監督署の許可を得て中学生(満13歳以上)を早朝の配達業務に就かせることが認められるケースがあります。もっとも、この場合でも深夜・早朝の就業時間帯に制限があり、午後8時〜午前5時は就労不可(深夜業の禁止)とされます。実際に新聞配達で中学生以下を使う場合、午前5時前の早朝配達は認められないため注意が必要です。

次に、満13歳未満の児童については、原則いかなる労働も禁止ですが、56条2項但書により更に限定的な例外が定められています。

それは、映画の製作又は演劇の事業に限って適用される例外です。映画撮影や舞台公演等の芸能活動において、13歳未満の児童(子役など)であっても、上記と同様の条件(健康・福祉に有害でない軽易な作業、修学時間外、労基署長の許可)を満たす場合には、例外的に就労が認められます。

例えば、小学生の子役が映画やドラマの撮影に参加することは、所轄署の許可のもとで可能です。これも労働基準監督署の厳正な許可が必要であり、無許可で子役を働かせれば違法となります。

以上のように、第56条には児童労働禁止の例外規定が存在しますが、その範囲は極めて限定的です。あくまで「例外的に許される場合」を定めたものであり、一般のアルバイトや通常業務に中学生以下を就かせることを容認するものではありません。

企業としては、例外規定に該当する特別なケース以外で児童を雇用してはならず、やむを得ず児童を起用する場合でも行政の許可手続きを確実に踏む必要があります。

許可を得て児童を使用する場合でも、労働時間や深夜業に関してはより厳しい制限が適用されます。例えば1日の労働時間は就学時間と通算して7時間まで、午後8時以降就業禁止などです。これらの詳細は労働基準法施行規則などで定められており、企業は遵守しなければなりません。

労働基準法第56条に違反した事例

現実に起きた違反事例として、児童労働の摘発事例をいくつか紹介します。

直近では2024年5月、愛知県の建設業者の事案が報道されました。このケースでは、建設会社の社長らが10〜13歳の児童4人を1年間にわたり廃材処理やトラック荷下ろしといった作業に従事させていた疑いで逮捕されています。中には当時11歳の児童に油圧ショベル(重機)の運転まで行わせていた例もあり、これは第56条違反に加えて危険有害業務の禁止(労働基準法62条)にも抵触する極めて悪質な事案です。

低年齢の児童を違法就労させる行為は、悪質性が高いと判断されれば経営者が逮捕されるケースもあります。実際、本件では「児童が働いている」との通報を受けた警察が捜査に乗り出し、結果的に逮捕に至っています。刑事事件化することで企業名も報道され、社会的非難は免れません。

また、未成年者の深夜業違反の事例も発生しています。

例えば、2018年には引越業大手のアートコーポレーション社が、当時17歳のアルバイト少年を深夜(午後10時~翌午前5時)に計25回にわたり就労させたとして、労働基準法違反容疑で書類送検されています。支店長ら管理者4人は、少年が18歳未満であることを認識しながら業務多忙を理由に午後10時以降も働かせていたとされます。

このケースは第56条そのものの違反ではなく、労働基準法第61条(年少者の深夜業禁止)違反ですが、年少者保護規定に反した労務管理の典型例です。18歳未満を午後10時以降に働かせることは原則禁止であり、この違反も6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金刑に処され得る重大な違法行為です。大手企業であっても違反が明るみに出れば書類送検・企業名公表の対象となり、コンプライアンス上大きなダメージを受けます。

さらに興味深い判例として、保護者の同意や依頼があっても違法は免れないことを示す事例があります。

1949年の「日本製網事件」では、工場長が15歳未満の少年少女をその保護者から「働かせてほしい」と懇願されたため使用したところ、第56条違反で起訴・有罪となりました。裁判所は、保護者の懇請を容れて児童を就労させても法定の除外事由がない限り違法であり、事業主は刑事責任を免れないと判断しています。

つまり、親の了承があったとしても、第56条の禁止規定の適用除外にはならないということです。このような判例からも、児童保護規定の厳格さがうかがえます。

労働基準法第56条に違反した場合の罰則

労働基準法第56条に違反した場合、1年以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられるのが基本です。これは労基法上、強制労働禁止規定違反に次ぐ重い罰則となっています。実際の事案では罰金刑が科されるケースが多いですが、悪質性によっては懲役刑もあり得ます。

例えば、前述の児童違法就労事件(建設会社の事案)でも、労働基準法第56条違反容疑で社長らが逮捕・送検されています。裁判になれば刑事罰の適用対象となり、状況次第では実刑判決も考えられます。

また、2018年の深夜業違反のケース(アートコーポレーション社)では、労働基準法違反(年少者使用禁止等)で書類送検されており、最終的に罰金などの処分が科されたものと推察されます。大企業であっても違反を犯せば刑事手続きに乗るという厳しい姿勢が示されています。

労働基準法には両罰規定(第121条)もあります。これは、違反行為を行った事業主本人だけでなく法人(会社)としての企業にも罰金刑を科すことができる規定です。

したがって、現場の担当者や管理者が処罰されるだけでなく、会社自体も同額の罰金を支払う責任を負う可能性があります。刑事罰となると前科が付くことにもなり、企業としての社会的信用に傷がつくのは避けられません。

さらに、行政上の制裁も考慮すべきです。労働基準監督署は違反企業に対し是正勧告を行い、従わない場合や悪質な場合には送検措置をとります。

是正勧告を受けた時点で、企業は速やかに違法状態を是正しなければなりません。仮に是正後も違反が続けば、より厳しい監督や立入検査が繰り返され、最終的には司法処分(罰則適用)に至るでしょう。

なお、児童の違法就労は警察が直接捜査することもあり、その場合は逮捕・送致から起訴という刑事手続きに直結します。

労働基準法第56条に関して企業が注意すべきポイント

企業の人事担当者が未成年者(年少者)を雇用する場合、以下のように重要な確認事項(注意点)があります。

年齢を必ず確認する

まず採用時に応募者・被雇用者の年齢を必ず確認してください。具体的には、住民票記載事項証明書や生年月日の分かる公的身分証で満18歳以上か否か、また満15歳を超えているかどうかを確認することが重要です。

年齢詐称などを見逃すと、知らぬ間に労働基準法違反状態になる恐れがあります。特に高校生アルバイトなど18歳未満を採用する場合、身分証コピーを人事ファイルに保管し戸籍や住民票で年齢を確認したうえで、戸籍証明書を備え付けることが労働基準法で義務付けられています(労働基準法57条)。必ず戸籍証明書を事業場に備え付けましょう。

年少者にさせてよい仕事か確認する

予定している業務が年少者にさせてはいけない業務に該当しないか確認します。
労働基準法第62条では満18歳未満の者に就かせてはいけない危険有害業務を規定しており、施行規則で具体例が列挙されています(重量物の取り扱い、刃物・プレス機械の操作、ボイラーやクレーンの運転、有害物質の取扱い等)。もし採用予定の未成年者に従事させる業務がこれら禁止業務に該当する場合、配置転換や業務内容の見直しが必要です。

例えば、重機の操作や危険な機械の清掃・整備などは年少者には絶対に任せてはいけません。また、第63条で坑内労働(地下作業)も禁止されています。人事担当者は職場の業務リストと照らし合わせ、年少者に適した安全な業務かを確認しましょう。

労働時間・シフトを管理する

年少者(18歳未満)には労働時間や深夜業に関する特別な制限があります。法定労働時間の厳守はもちろんのこと、時間外労働や休日労働についても制限があります。例えば、週40時間・1日8時間の上限を超えて労働させることは年少者には原則許されません。

変形労働時間制の適用も年少者には原則認められないため、シフト制で高校生を働かせる場合も一人だけ長時間シフトにならないよう注意が必要です。

また休日についても、少なくとも週1日(もしくは4週4日)の休日を与えなければなりません。これらは36協定があっても年少者には適用されないので、高校生アルバイトに過度な残業や連勤をさせることは違反となります。

深夜業を禁止する

満18歳未満の者は、原則として午後10時から午前5時までの深夜時間帯に働かせてはいけません(労働基準法61条)。これは繁忙期であっても例外はほとんどなく、違反すると先述のように送検事例もある重大な規制です。

交替制勤務で16歳以上の男性を深夜に配置する場合など一部例外はありますが(労働基準法61条ただし書)、基本的に高校生以下は夜10時以降のシフトに入れないようシフト管理を徹底してください。

例えば、コンビニエンスストアで高校生バイトを雇う場合、22時以降は必ず大人の従業員に交代させる、飲食店でも高校生は夜間営業の時間帯には上がらせる、といった運用が必要です。仮に18歳の誕生日直前などの場合も、誕生日を迎えるまでは深夜勤務禁止の年少者ですので、管理を誤らないよう注意しましょう。

親権者の同意を得る

労働契約の締結に関しては、親が代理で契約を結ぶことは禁止されています(労働基準法58条1項)。必ず未成年者本人と労働契約を締結してください。たとえ親が「うちの子をお願いします」と言っても、契約書への署名者は本人でなければなりません。もっとも、募集要項に「未成年者は親の同意書提出」といった内規を設けている企業もあります。

民法改正で18歳が成年となった現在、18歳・19歳の新入社員やアルバイトについて親の同意書を求めることは法的には不要(児童に関しては、親権者の同意書および学校長の証明書が必要)ですが、企業判断で引き続き求める場合もあります。

ただし法的拘束力はなく、本人の同意が何より重要です。なお、労働基準法58条2項では未成年者に不利な契約の場合に親権者や後見人、行政官庁が契約を将来に向かって解除できる規定もあります。

極端に未成年者に不利益な労働条件を結ばないことは当然ですが、適正な契約であっても本人の意思と理解に基づき締結されるよう配慮しましょう。

労働基準法第56条に違反しないよう確認を徹底しましょう

労働基準法第56条は、満15歳に達した日以後の最初の3月31日までの児童を労働者として使用することを原則禁止し、未成年者・年少者の健全な成長を保護するための基本規定です。

違反すれば1年以下の懲役または50万円以下の罰金という罰則が科され、企業・責任者は刑事責任を負います。

そのため、企業の人事・法務担当者は、未成年者(年少者)を雇用する際には本記事で述べた注意点を踏まえて慎重に対応する必要があります。年齢確認や適切な業務配分、深夜勤務の禁止など、基本的なポイントを徹底しましょう。


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