- 更新日 : 2025年4月1日
労働基準法第64条の3とは?妊産婦の重量物の制限をわかりやすく解説!
労働基準法第64条の3は、労働者が扱う重量物(重い物体)に関する制限を定めた規定です。特に女性労働者の健康と安全を守ることを目的としており、過重な肉体負担による事故や健康障害を防止する狙いがあります。
例えば、労働災害の約6割が職場における腰痛であり、重い物の取り扱いは労働者の腰や身体に大きな負担をかけるため注意が必要です。
以下では、人事労務担当者向けに労働基準法第64条の3の概要と目的、具体的な規制内容、そして実務上の注意点について解説します。
目次
労働基準法第64条の3とは?
労働基準法第64条の3は、妊娠中の女性と出産後1年以内の女性(妊産婦)を、その妊娠、出産、哺育などに有害な可能性のある業務から保護することです。特に、重量物の取り扱い業務は、母体や胎児に過度な負担をかけ、流産や早産、また産後の回復を妨げる可能性があるため、妊産婦に対しては一律に禁止されています 。
この条文は、妊産婦以外の女性についても、妊娠または出産に係る機能に有害な業務については、厚生労働省令で同様の就業制限を適用できるとしており、女性労働者の健康保護の範囲を広げることを意図しています。
背景として、重い荷物を持ち運ぶ作業は腰痛の大きな原因となり得るため、法によって安全基準を設け、労働災害の予防を図っています。労働基準法第64条の3(および関連規定)は、労働者の健康確保と安全な労働環境づくりのための最低限のルールと言えるでしょう。
重量物とは
労働基準法第64条の3における「重量物」とは、一律に定められた特定の品物を指すのではなく、労働者の年齢、性別、そして作業の種類(断続作業か継続作業か)によって、取り扱いが制限される一定以上の重さの物を指します 。
例えば満18歳以上の女性であれば、30kg以上(断続的な作業の場合)または20kg以上(継続的な作業の場合)の物が「重量物」に該当します。18歳未満ではさらに低い基準が設定されています。
労働基準法第64条の3の重量物の取り扱い規制が適用される業種
重量物の取り扱い規制は業種を問わず適用されます。労働基準法は全ての事業に共通して適用される法律であり、第64条の3の規定も例外ではありません。
そのため、製造業、建設業、運送・物流業、倉庫業、小売業など、重い荷物や資材を手作業で運搬する可能性がある職場すべてが対象となります。
例えば工場での資材運搬、建築現場での建材の持ち運び、倉庫内作業や引越し作業、さらには介護・医療現場での患者や器材の移動なども、人力で重量物を扱う場面がある職種です。
労働者の年齢、性別、作業の種類(断続作業か継続作業か)に応じて、取り扱える重量の上限が労働基準法や関連法規(女性労働基準規則、年少者労働基準規則)によって定められています 。
特に、妊娠中の女性や産後1年以内の女性(妊産婦)に対しては、重量物の取り扱いが全面的に禁止されています .
事業者は、これらの規制を遵守し、労働者の安全と健康を確保するために、適切な作業方法の指導、機械化・省力化の推進、複数人での作業体制の構築などの対策を講じる必要があります 。
労働基準法第64条の3に基づいた重量物取扱いの制限
労働基準法第64条の3等に基づく重量物の取扱い制限は、労働者の年齢と性別によって細かく数値が定められています。これは、「若年者ほど、また女性ほど軽い重量から健康被害が生じやすい」という前提に立った保護規定です。
重量基準は厚生労働省令(年少者労働基準規則第7条および女性労働基準規則第2条)により以下のように定められています。
男性労働者の重量物の制限
労働者の区分 | 断続作業 | 継続作業 | 備考 |
---|---|---|---|
満16歳未満の男子 | 15kg以上禁止 | 10kg以上禁止 | 中学生~高校1年生相当 |
満16歳以上 18歳未満の男子 | 30kg以上禁止 | 20kg以上禁止 | 高校生~18歳未満 |
満18歳以上の男性 | 法令上の制限なし | 法令上の制限なし | 厚生労働省指針で体重の約40%以下が目安 |
女性労働者の重量物の制限
労働者の区分 | 断続作業 | 継続作業 | 備考 |
---|---|---|---|
満16歳未満の女子 | 12kg以上禁止 | 8kg以上禁止 | |
満16歳以上 18歳未満の女子 | 25kg以上禁止 | 15kg以上禁止 | |
満18歳以上の女性 (妊産婦を除く) | 30kg以上禁止 | 20kg以上禁止 | 厚生労働省指針で男性の60%程度が望ましい |
妊娠中および産後1年以内の女性(妊産婦) | 全面禁止 | 全面禁止 |
この表を見ると分かる通り、女性や年少者ほど厳しい(扱える重量の上限が低い)設定になっています。特に成人男性には法定の上限が無い点が特徴ですが、厚生労働省は安全配慮の観点から指針により以下のような目安を示しています。
- 成人男性:体重の約40%以下を一人で持ち上げる重量の目安とする。例えば体重60kgの男性なら24kg程度が目安です。
- 成人女性:男性の60%程度(≒体重の約24%以下)に留めるのが望ましい。これは「女性の筋力・持ち上げ能力は平均的に男性の60%程度である」というデータに基づきます。例えば体重50kgの女性なら単純計算で12kg程度が推奨上限となります。
成人男性についても法律上は無制限ながら、現場では25kg前後を超える重量物は一人で扱わない方がよいとされています。実際、多くの企業では社内ルールで「〇kg以上の荷物は二人以上で持つこと」「〇kg以上は台車等を使うこと」といった取り決めを設けて、性別を問わず安全確保に努めています。
断続作業と継続作業
断続作業とは、間欠的に荷物を運ぶ作業を指し、例えば、荷物を運んだ後に運転業務など他の作業を挟む配送業務などが該当します 。
一方、継続作業とは、仕分け作業のように同一の荷物運搬作業が中断なく続く場合を指します 。継続作業の方が身体への負荷が大きいため、重量制限はより厳しく設定されています 。
企業としては、自社の作業がどちらに該当するかを見極め、該当する基準を適用しなければなりません。例えば、荷物の積み下ろしと運転を交互に行う配送作業であれば「断続作業」となり30kgまでOKな場合がありますが、倉庫内でひたすら荷物を仕分けて運ぶ作業なら「継続作業」となり20kgまでしか許されません。
この判断を誤らないよう、人事担当者や現場監督者は作業実態を正しく把握することが重要です。
労働基準法第64条の3:企業が実施すべき安全対策
重量物を扱う業務がある企業では、法律を守るだけでなく労働者の安全を確保するために様々な安全対策を講じる必要があります。以下に、人事労務担当者の立場で実施すべき主な対策を挙げます。
一人ではなく複数人での作業を徹底する
法定の重量制限を超えるような重量物を労働者一人に持たせてはいけません。違反が発覚すれば労働基準法違反となりますし、何より労働者の大怪我や健康被害に直結します。現場に法定基準を周知徹底し、「これは一人で持てる重さか?」を常に確認する文化を根付かせましょう。
やむを得ず重い荷物を運搬しなければならない場合、2人以上で行わせるようにしますチームを編成する際には、身長差の少ないメンバーを組ませる、持ち方のタイミングをそろえるなど、負担の分散にも配慮します。
人力作業の機械化や作業環境の見直し
台車・昇降機・フォークリフト・クレーンなどのマテハン機器(マテリアルハンドリング機器)を導入し、人力作業を機械化しましょう。たとえば倉庫ではパレットジャッキやローラーコンベヤーの設置が効果的です。
また、荷物を持ち上げる動作が極力発生しないよう、棚や作業台の高さ、荷物の配置を工夫します。一般には、床から膝~胸の範囲に荷物を配置することが推奨されています。
安全な作業方法のマニュアル化
社内で重量物を扱う際の手順書やマニュアルを整備し、安全な持ち方・運び方を周知します。例えば「荷物はできるだけ身体に近づけて持つ」「腰を落として膝の力で持ち上げ、決して腰だけで持ち上げない」「無理だと感じたら躊躇なく応援を頼む」といった安全作業上のポイントを明文化し、現場に掲示するなどすると良いでしょう。
女性や若年労働者への作業配分
女性や18歳未満の労働者には軽作業を中心に割り当て、必要があれば配置転換も検討します。作業のルールとして「重量物は2人以上で運ぶ」と定めておくことで、間接的に適正な配慮が行えます。
妊娠が判明した労働者は、ただちに重量物作業から外し、業務内容を見直します。これは法令上の義務でもあり、産業医との連携のもと、安心して働ける職場環境の整備が求められます。
労働基準法第64条の3:人事労務担当者の管理手順
1.現場の実態把握とリスクの洗い出し
どの部署でどのような荷物が誰によって扱われているかを把握します。定型業務で持ち運ぶ荷物の平均重量や最大重量を把握し、それが法定基準内に収まっているか確認しましょう。
特に倉庫や工場、配送センターなど、重量物が日常的に扱われる職場は重点的に確認します。
2.要配慮労働者の配置を確認する
女性や18歳未満の労働者が重量物作業に就いていないかをチェックし、問題がある場合は即座に是正します。法定基準内に収まっていても、慎重な対応が求められます。
仮に「17歳の高校生アルバイトが20kgの荷物を運んでいる」ようなことが判明したら、それは即改善が必要です。
3.作業割り当てを工夫する
体力や経験に応じた作業割り当てを行いつつ、性別や年齢による過度な差別的取扱いとならないよう留意します。ルールの明文化により、現場での自然な運用を促します。
例えば「重量物は基本2名以上で持つ」というルールにしておけば、結果的に自然と男性が補助に入る形になり、女性一人で無理をすることを防げます。
4.正しい持ち方や安全ルールの周知
重量物作業では、腰を落として膝で持ち上げる、荷物を体に密着させるといった基本動作を新人研修やOJTで実技指導します。「20kg以上は2人で運ぶ」「台車を必ず使う」といったルールも明文化し、全員に共有します。
腰痛対策としては腰痛体操やサポートベルトの正しい使い方を伝え、痛みを感じたら作業を中止して報告する意識づけも必要です。こうした教育は定期的に繰り返すことが重要です。
労働基準法第64条の3:最新の法改正や行政通達
重量物の取り扱いに関する規定は長年大きな変更はありませんが、人事労務担当者は最新の法改正情報や行政からの通達にも注意を払う必要があります。法律や制度が変われば、社内ルールや対応もアップデートしなければならないからです。
近年の動向として、以下のポイントが挙げられます。
行政通達・指針の策定
厚生労働省は平成25年(2013年)に「職場における腰痛予防対策指針」を改訂し、重量物取り扱い作業に関する具体的な指針を示しました。この指針では、前述のように「女性は男性の60%の重量まで」「重量オーバーの場合は2人以上で運搬」など、安全に作業を行うための基準や工夫が盛り込まれています。
法改正ではありませんが、行政から示された基準として企業は十分尊重すべき内容です。人事担当者はこのようなガイドラインに目を通し、自社の安全管理規程に取り入れることが求められます。
法改正による女性保護規定の見直し
男女雇用機会均等の観点から、過去には女性の深夜労働禁止や坑内労働禁止規定が撤廃されてきた経緯があります。しかし重量物の取り扱いに関する規制は依然として維持されており、妊産婦のみならず一般女性にも適用されています。
直近でこの規定が緩和・撤廃されたという改正はありません(令和5年現在)。むしろ、この分野は労働者保護の必要性が高いとして今後も維持される見通しです。したがって、企業としては「女性だからといって重労働をさせてはならない」という旧来からのルールを引き続き遵守する必要があります。
労働安全衛生法や関連法令との関係
重量物そのものの取り扱いは労基法第64条の3等で規制されていますが、関連して労働安全衛生法でも「安全な作業方法の周知」などの規定があります。
また、腰痛を含む作業関連疾患の労災認定基準の改定など、周辺分野での行政の動きにも注意しましょう。直接の法改正ではなくとも、厚生労働省が示すガイドラインや各種通達が実務に影響を与える場合があります。
重量物の取り扱い規制に違反した場合の罰則と企業のリスク
労働基準法第64条の3等に違反した場合、使用者(企業)には厳しい罰則が科される可能性があります。
重量物規制の違反は法的リスクと労務リスクの双方を引き起こします。単に「法律違反で罰則が怖い」というだけでなく、「従業員に重大な健康被害を与え会社の信用も損なう」危険があることを認識しましょう。人事労務担当者は現場がこれら規制を順守しているか日頃から点検し、もし問題があれば早急に対策を講じる責任があります。
刑事罰
労働基準法は罰則を設けており、第64条の3違反や第62条違反については「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」に処されると定められています(労基法第119条)。
例えば18歳未満の年少者に法定以上の重さの荷物を運ばせていた場合や、妊婦に重量物運搬作業を行わせていた場合、これらに該当します。実際に労働基準監督署の臨検などで発覚すると、是正勧告を受けるだけでなく悪質な場合は送検・起訴されるケースもあります。
企業に対する罰金(両罰規定)
労働基準法には両罰規定(第121条)もあり、違反行為を行った現場責任者個人だけでなく法人としての企業にも罰金刑が科されることがあります。つまり「現場のミスでした」では済まされず、会社ぐるみで責任を問われるリスクがあるということです。
労働災害発生時の責任
仮に重量物の無理な取扱いによって労働者が怪我や疾病(腰痛など)を負った場合、それが労働災害と認定されれば労災保険給付の対象になりますが、それだけでは済まない場合もあります。
使用者に安全配慮義務違反(適切な重さ管理を怠った過失)があったとして、民事上の損害賠償責任を問われることも考えられます。実際に、重量物運搬の負担で腰椎を損傷した女性労働者が会社に対して損害賠償請求を行った裁判例もあります。違法とまでは言えない重量(20kg程度)の反復作業でも、健康被害が出れば争いに発展しかねません。
行政指導・企業イメージの低下
違反が発覚すれば労働基準監督署からの是正指導や勧告は避けられませんし、場合によっては企業名の公表など行政上の措置が取られることもあります。安全管理が杜撰な会社という評価が広まれば、従業員の士気低下や採用難、取引先からの信頼失墜にもつながりかねません。
労働基準法第64条の3を理解し現場に活かそう
労働基準法第64条の3に限らず、労働関連法規の改正情報を見逃さないことは人事労務担当者にとって重要な責務です。
日々の業務に追われると法改正チェックは後回しになりがちですが、労働法令は定期的に見直し・改正が行われるものです。重量物に関する規定も将来的に変更がないとは言い切れません。常にアンテナを高く張り、最新情報をキャッチアップする姿勢を維持しましょう。
人事労務担当者は法律と現場実態の橋渡し役として、法規制を単なる禁止事項として捉えるのではなく「安全で快適な職場づくり」の指針として活用してください。重量物の取り扱いルールを守り、作業環境を整えることで、従業員の安心・健康と企業の生産性向上の双方を実現していきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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