• 更新日 : 2025年3月5日

遅刻で減給は可能?減給ルールと注意点、企業が取るべき対策を解説

遅刻による給与の控除や減給は、法律のルールを守らなければ違法になることがあります。とくに給与の減額は労働トラブルにつながる可能性があるため、企業側は正しいルールを理解することが重要です。

本記事では、遅刻による減給の法律上のルールと、企業が取るべき遅刻対策を解説します。

遅刻による減給と賃金控除の違い

遅刻をした際に給料から引かれる賃金には「賃金控除」と「減給」の2つの種類があります。

本章では、2つの違いを解説します。

遅刻した時間分の給与控除(ノーワーク・ノーペイの原則)

会社は、働いた分の給与を支払う義務はありますが、働いていない時間の給与を支払う必要はありません。これは、労働基準法第24条と民法第624条に基づく「ノーワーク・ノーペイの原則」によるものです。

たとえば、1時間あたりの給与が1,500円で、30分遅刻した場合、給与は750円引かれます。これは罰則ではなく、働いていない時間分の給与が発生しないだけです。

給与控除は労働の対価として計算されるものであり、会社が従業員に与えるペナルティではありません。

参考:
労働基準法第24条 | e-Gov 法令検索
民法第624条 | e-Gov 法令検索

関連記事:労働基準法第24条とは?賃金支払いの5原則や違反した場合の罰則を解説

懲戒処分としての減給

遅刻を繰り返す従業員に対して会社は懲戒処分として「減給」する場合があります。給与控除とは異なり、罰則として給料を減額する方法です。ただし、懲戒処分として減給を行うには、遅刻により減給する旨を就業規則に明記しなければなりません。

遅刻による減給額の決め方

減給額には法律で定められた上限があり、会社が自由に決められるわけではありません。本章では、減給額の決め方を説明します。

減給額の上限と注意点

減給額の上限は、1日分の平均賃金の半額が上限です。また、1ヶ月間に減給できる総額は、その月の賃金総額の10分の1までと決められています。上限を超えた減給は違法となるため、会社はそれ以上の減給を行えません。

減給する際は、法律の範囲内で適切に行いましょう。

基本的な計算方法

遅刻による減給は、一賃金支払期を基にした1日の給与額(平均賃金)を基準に計算します。一賃金支払期とは、従業員が給与を受け取る1回分の支払期間を指します。

たとえば、給与が月1回払いの会社であれば1ヶ月、週1回であれば1週間分が「一賃金支払期」です。月給制の場合、1ヶ月の給与を実働日数で割った1日あたりの平均賃金を基準として減給額を計算します。

月給制の場合の減給額の計算方法は以下の通りです。なお、平均賃金は1万円であると仮定しています。

月収20万円と仮定した場合詳細
1回当たりの減給額10,000円×1/2=5,000円
同月における減給の総額200,000円×1/10=20,000円

この場合、1回の遅刻による減給上限は5,000円、1ヶ月間の減給上限は20,000円となります。

遅刻による減給の3つの重要な法的要件

会社が遅刻による減給を行うには、法律で定められたルールを守る必要があります。法律に違反する減給は認められないため、法的要件を確認しておきましょう。

就業規則への明記が必須

会社が遅刻による減給を行うには、就業規則にその内容を明記することが必要です。明確な規定がない場合、減給は認められません。

就業規則には、減給の対象となる遅刻の回数や、減給額の計算方法を具体的に記載しましょう。基準が不明確な場合、労使間での認識の違いがトラブルにつながる恐れがあります。

また、就業規則が古いまま運用されている場合、法改正に対応していない可能性があります。定期的に就業規則を見直し、最新の法律に適合した内容に更新することも大切です。

客観的に合理的な理由が必要

減給を行うには、客観的に証明できる遅刻の事実が必要です。正当な理由がある場合のみ減額が認められます。感情的な理由やあいまいな基準で減給を決めることはできません。

たとえば「上司が特定の従業員だけを対象に減給を行う」「過去の遅刻について遡って減給を適用する」といったケースは、公平性に欠けるため問題になります。また、「3分の遅刻でも減給する」「月に1回の遅刻でも即減給」といった厳しすぎる基準は、相当性に欠けるとして無効と判断される可能性があります。

会社が不公平な判断をすると「懲戒権の濫用」とみなされ、無効となる可能性があるため注意しましょう。

遅刻による減給を適用する流れ

減給を実施する際は、以下の手順にしたがって慎重に進める必要があります。

手順項目詳細
1就業規則の確認就業規則に減給の明確な基準が記載されているか確認します。規則に基づかない減給は違法となるため、必ず事前にチェックすることが重要です。
2遅刻の事実確認遅刻の事実を客観的に確認し、記録を取ります。タイムカードや出勤管理システムのデータを確認し、証拠を残すことでトラブルを防ぎやすくなるでしょう。
3従業員への通知と説明減給を適用する場合は、従業員に対して理由を説明し、納得してもらうことが大切です。書面で減給の理由を伝え、本人から意見を聞く場を設けると、公平な対応だと感じてもらいやすくなります。

遅刻による減給は、法律に基づいた明確な基準と適切な手続きが必要です。会社と従業員の双方が制度を理解し公正に運用することで、トラブルを防ぎ公正な職場環境を保てます。

遅刻による減給の注意点

減給は従業員の不満につながることもあり、法律違反だけでなく、従業員との良好な関係を保つうえでも、慎重に行う必要があります。

本章では、減給する際の注意点を解説します。

遅刻を理由とした減給が違法になるケース

減給が違法となる主なケースは以下の通りです。

  • 就業規則に減給の規定がない場合
  • 減給額が法定の上限を超えた場合
  • 従業員に責任のない遅刻に対して減給を行った場合
  • 処分としての減給が厳しすぎる場合

たとえば、電車の事故で遅刻した従業員に対する減給は違法です。従業員に責任がない遅刻には、減給を適用できません。法律に違反しないよう、減給の基準を入念に確認しましょう。

従業員から不満が出やすいケース

減給は給与に直接影響するため、従業員の不満が出やすい処分です。

とくに、同じ回数の遅刻でも処分に差がある場合、不公平感が生まれ不満が生じやすくなります。また、突然厳しい基準を適用すると、従業員の反発を招きやすくなるため慎重に行いましょう。

新しい基準を導入する際には、明確なルールと従業員への事前説明をすることで、不満を最小限に抑えられます。

減給が与える影響

給与の減額は従業員のやる気や職場の雰囲気に影響を及ぼします。減給された従業員が仕事への意欲が低下したり、会社への不信感が生まれたりすると、他の従業員にも悪影響が広がる可能性もあります。

やむを得ず処分が必要になる場合も、減給を行う前に従業員と話し合いを行うことも重要です。対話を重視することで、職場の秩序を保ちつつ、公正な処分を行えるでしょう。

遅刻に対する企業側が取るべき対策

遅刻を防ぐためには、減給処分だけでなく、企業全体で対策を講じることが重要です。従業員が時間を守れるような環境づくりが大切です。

遅刻を防ぐための仕組みをつくる

職場環境を改善することで、従業員のモチベーションを高められます。

遅刻や欠勤を繰り返す従業員がいる場合は、理由を聞くことが大切です。業務に対する悩みがあると、仕事への意欲が低下し、遅刻が増えることもあります。モチベーション低下が遅刻の原因になっている場合は、面談を行い、従業員の悩みを解決することが重要です。

さらに、フレックスタイム制度を導入すれば、通勤ラッシュを避けて出勤できるため、電車の遅延による遅刻を防げます。

また、遅刻が発生した場合は、いきなり減給を行うのではなく、まずは始末書の提出を求め、改善を促す方法もよいでしょう。企業側が制度や仕組みを整えることで、自然と時間を守れる職場環境がつくれます。

関連記事:寝坊で遅刻したときの始末書とは?書き方・注意点を解説!無料テンプレートつき

就業規則の懲戒事由を細かく定める

遅刻に対するペナルティを明確にし、従業員に周知することで、ルールの理解が深まり、時間厳守の意識が高まります。就業規則には「何回の遅刻で注意指導を行うのか」「減給の対象となる基準は何か」などを具体的に記載しましょう。

また、新しいルールを導入する場合は、事前に説明会を開くなど、従業員が納得しやすい形で伝えることが大切です。

たとえば「1ヶ月に3回以上遅刻した場合、まず口頭注意を行い、5回以上で減給処分を検討する」と決めておくと、従業員もルールを理解しやすくなります。ペナルティの基準を明確にすることで、公正な職場環境をつくれます。

遅刻対策は、単なる罰則強化ではなく、働きやすい環境づくりとルールの明確化を組み合わせることで、より効果的な成果をあげられるでしょう。

遅刻による減給についてのよくある質問

遅刻を理由に減給するケースについてよくある質問に回答します。

懲戒処分の対象になる遅刻とは何回ですか?

法律上、懲戒処分の基準となる遅刻回数は定められていません。そのため、基準は会社ごとに異なります。一般的には、1回の遅刻ではなく、一定の回数を超えた場合に減給処分が適用されます。

ただし、あいまいなルールや突然の変更には注意が必要です。明確な基準がないまま処分を行うと、従業員の不満につながることがあります。

遅刻理由がやむを得ない場合はどうなりますか?

やむを得ない理由による遅刻は、状況によっては遅刻とみなされないこともあります。会社は、客観的に合理的な判断を行う必要があります。

電車の遅延や天候の影響など、従業員の責任でない遅刻は、証明書を提出すれば遅刻として扱わない場合がほとんどです。しかし、証明ができない場合や、頻繁に遅刻を繰り返す場合は減給対象とすることがあります。

たとえば、大雪で交通機関が止まり、多くの従業員が遅刻した場合は、会社側が考慮するのが一般的です。このように、やむを得ない理由がある場合は、状況を説明することが大切です。

減給に対する不服申し立てがあったらどうすればよいですか?

減給の基準が不明確だったり、突然処分が強化されたりする場合、従業員が減給処分に納得できずに不服を申し立てることがあります。就業規則に明記されていれば、その内容にしたがって処分を行いましょう。

しかし、就業規則に記載がない減給や、不当に高額な減給は違法となる可能性があります。

トラブルを防ぐためには、ルールを明確にし、公正な対応を行うことが重要です。

遅刻で減給は可能!トラブルを防ぐために就業規則を見直そう

懲戒処分として減給を行うには、就業規則に明記し、労働基準法の上限を守らなければなりません。企業が減給を適用する際は、就業規則を明確にし、合理的な判断のもとで実施する必要があります。

また、遅刻の回数や減給額の基準を定め、従業員に周知することが大切です。不公平な減給処分や厳しすぎる対応は、労使トラブルの原因となる可能性があります。

適切なルールを整えつつ、状況に応じた柔軟な対応を心がけることで、従業員が納得しやすい公正な職場環境をつくりましょう。


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