• 更新日 : 2025年3月5日

固定残業代40時間は問題ない?計算方法や注意点を徹底解説

固定残業代40時間は、正しく理解して導入すれば問題ありません。制度の仕組みを把握し、従業員の働き方と労働時間を照らし合わせることが重要です。

本記事では、固定残業代の計算方法や注意点を解説し、正しく導入するポイントをお伝えします。

固定残業代40時間は問題ない

結論、固定残業代40時間は適切に運用されていれば、法的に問題ありません。

労働基準法では「1日8時間、1週間40時間を超えて労働させてはならない」と定められています。ただし、36協定(時間外労働協定)を締結すれば、月45時間、年360時間までの時間外労働が可能です。そのため、上記の範囲内であれば、固定残業代40時間も問題ありません。

固定残業代とは、実際の残業時間にかかわらず、一定時間分の残業代を含めて事前に支払う制度です。固定残業代制を採用する際は、超過分の残業代を追加で支払うことや固定残業代を除いた基本給の額、固定残業代に関する労働時間数と金額の計算方法を明示する必要があります。

正しく運用すれば、企業側も従業員側も安心して利用できる仕組みであるため、適切に運用できるよう努めましょう。

関連記事:固定残業代とは?計算方法やメリットを解説

固定残業代を導入するメリット

企業が固定残業代を導入することで、給与計算の負担軽減や生産性の向上が期待できます。

まず、毎月の時間外労働手当が一定となるため、人件費の予測がしやすく、給与計算の手間を減らせます。また、従業員が収入を増やす目的で不要な残業を行う事態を防ぎ、効率的な働き方の促進も可能です。

残業しても収入が変わらないことは、短時間で業務を終わらせたほうが効率的だという考え方につながり、生産性向上にも貢献するでしょう。

従業員側にとっても、固定残業代が支払われることで収入が安定しやすいことは大きなメリットです。さらに、時間外労働を減らしたほうが有益だと感じることで、効率的に働くモチベーションが高まります。

関連記事:固定残業代のメリットは?やめとけと言われる理由や効果的な導入を解説

固定残業代を導入するデメリット

固定残業代の導入は給与計算の安定化が図れる一方、企業側にとってデメリットとなる場合があります。

まず、固定残業代制にすると実際の残業時間が40時間に満たなくても、40時間分の残業代を支払う義務があります。そのため、人件費が割高となる可能性があるため注意が必要です。

反対に、設定時間を超えた場合は追加の残業代を支払う必要があり、支払いを怠ると違法となります。

また、「固定残業代40時間込み」と求人に記載すると、求職者に長時間労働のイメージを与える可能性があることもデメリットです。残業が前提であるという誤解を招くと、優秀な人材の応募を逃すリスクもあるため、固定残業代の導入により求人票の魅力が低下してしまう可能性について、あらかじめ知っておく必要があります。

固定残業代の計算方法

固定残業代制度を適切に運用するためには、正確な計算方法を理解しておくことが重要です。計算方法を理解していれば、企業の人件費管理がスムーズになり、法的リスクを回避できます。以下では、固定残業代の具体的な計算方法を紹介します。

手当の場合の固定残業代

固定残業代を手当として支給する場合、基本給とは別に計算する必要があります。計算方法は以下のとおりです。

  • 月平均所定労働時間=(365日 – 年間休日) × 1日の所定労働時間 ÷ 12ヶ月
  • 1時間あたりの賃金:割増賃金の基礎となる総額 ÷ 月平均所定労働時間
  • 固定残業代=1時間あたりの賃金 × 固定残業時間 × 割増率

たとえば、月給30万円・年間休日120日・所定労働時間・固定残業時間40時間の場合、上記の計算に当てはめると以下のように求められます。

【1時間あたりの賃金】

  • 月平均所定労働時間 = (365日 – 120日)× 8時間 ÷ 12ヶ月=163.3時間
  • 1時間あたりの賃金 = 30万円 ÷ 163.3時間 = 1,837円

【固定残業代】

1,837円 × 40時間 × 1.25(割増率) = 91,850円

計算の結果、固定残業代91,850円を基本給とは別の手当で支給することとなります。

基本給に含まれる場合の固定残業代

基本給に固定残業代を含める場合、給与総額から固定残業代を引いて基本給を調整する方法が用いられます。基本給に固定残業代を含める場合の計算方法は「基本給 + 固定残業代= 給与総額 ÷ {月平均所定労働時間 + (固定残業時間 × 1.25)} × 固定残業時間 × 1.25」です。

たとえば、給与総額30万円・月平均所定労働時間160時間・固定残業40時間・割増率0.25の場合は、以下のように求められます。

30万円 ÷ {160時間 + (40時間 × 1.25)} × 40時間 × 1.25 = 71,430円

上記の計算結果により、基本給に含まれる固定残業代は71,430円であるとわかります。

また、固定残業代を含めた基本給を月平均所定労働時間 +(固定残業時間 × 1.25)で割ると1時間あたりの賃金を計算できます。基本給に固定残業代を含める場合、1時間当たりの賃金が最低賃金を下回ることのないよう注意しましょう。

固定残業時間を超えた場合の固定残業代

実際の残業時間が固定残業時間を超えた場合、超過分の残業代を別途支給する必要があります。超過分は、固定残業代に含まれていないため、実際の残業時間に応じて追加で支給しなければいけません。

超過分の残業代の計算方法は「1時間あたりの賃金 × 残業時間 × 割増率」です。割増率は通常0.25倍ですが、60時間を超える場合は0.5倍です。

たとえば、給与総額30万円・月平均所定労働時間160時間・固定残業40時間、実際の残業時間50時間、割増率0.25倍の場合、以下のような計算となります。

1時間あたりの賃金:30万円 ÷ 160時間 = 1,875円

超過残業代:1,875円 × 10時間(超過分 )× 1.25 =23,437.5円≒23,438円

上記のように、実際の残業時間が固定残業時間を超えた分は別途支払いが必要です。

固定残業代が違法になるケース

固定残業代は適切に運用しなければ違法となるケースがあります。違法にならないためには、固定残業代の設定方法や条件を正しく理解したうえで運用することが重要です。以下では、固定残業代が違法になるケースについて解説します。

就業規則や雇用契約書に記載されていない

固定残業代を導入する場合、規則や雇用契約書に具体的な要件を記載する必要があります。もし、就業規則に規定されておらず、労働者ごとの個別契約にも記載がない場合、固定残業代は無効とされる可能性があります。

無効となった場合、固定残業代を割増賃金の基礎に含め、残業代を支払うよう命じられる可能性があるため注意が必要です。

上記の理由により、固定残業代を導入する際は、労働契約において内容を明示することが重要です。労働者と企業双方が認識を共有し、明確に契約書に記載することでトラブルを未然に防げます。

固定残業代の支給額が明確に示されていない

固定残業代を導入する場合、労働時間に対する賃金部分と割増賃金部分を明確に記載する必要があります。とくに、残業時間に対する固定残業代の明示が重要です。

支給額が不明確な場合、残業代が適切に支払われているか判断できない可能性があり、労働者が不利益を受ける恐れがあります。

さらに、固定残業代の支給額が明確でないと、契約が無効と判断される可能性が高く、企業側が追加の残業代を支払うよう命じられるリスクが生じます。法的なトラブルを避けるためにも、固定残業代の支給額を明記しましょう。

固定残業代を除いた基本給が最低賃金を下回っている

固定残業代は、必ず最低賃金を上回るように設定しましょう。

最低賃金は労働者の生活を安定させるために定められた法定賃金で、最低賃金を下回る契約は同意があっても無効となります。また、固定残業代は最低賃金の計算に含めないことにも注意が必要です。

つまり、固定残業代を含めると最低賃金を上回っているが、固定残業代を除くと最低賃金を下回っている場合、最低賃金法違法となります。固定残業代の金額・相当時間数が不明である場合も同様です。

最低賃金法違反とならないよう、固定残業代の額・相当する時間数を明示し、最低金額を確実に上回るように設定しましょう。

固定残業代が月45時間を上回っている

法定労働時間は1日8時間、週40時間、法定休日は週1日または4週4日までと定められています。時間外労働や休日労働をさせる場合、36協定を締結し、労働基準監督署に届出を行う必要があります。

ただし、36協定を結んでいても労働時間には上限、月45時間・年360時間が設けられており、臨時的な事情がなければ超えることはできません。

また、臨時的な特別の事情があり、労使が合意する場合であっても、年720時間、複数月平均80時間以内(休日労働を含む)、月100時間未満(休日労働を含む)と定められています。

過去には月45時間を大幅に超えた固定残業時間が設定されていたことにより、固定残業代制のすべて、または一部が無効となり支払い命令を出された事例もあります。

月45時間を超えられるのは年6ヶ月が限度であり、違反すれば6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰則を科される恐れがあるため、運用の際は注意が必要です。

規定時間を超えた際の残業を支給していない

固定残業代制では、あらかじめ定められた時間数以上の労働があった場合、超過分に対して別途残業代を支払う必要があります。

固定残業代を超過した分について、追加で支払いをしないという合意があっても、無効となり、企業は追加で超過分残業代を支払う必要があります。適切に支払わなければ労働基準法違反となるため、固定残業代分とは別の残業が発生した場合は勤怠管理を徹底して別途支払うことが重要です。

固定残業代を導入する際のポイント

固定残業代を導入する際には、いくつかの重要なポイントを抑えておくことが重要です。適切な運用を行うためには、法令を遵守し、労働者と企業双方の負担を減らすことが求められます。以下では、固定残業代を導入する際のポイントを具体的に解説します。

就業規則に詳細なルールを記載する

固定残業代制を導入する際は、従業員が制度を理解できるようにわかりやすく就業規則に記載して周知することが重要です。

とくに、固定残業代が何時間分の時間外労働に対するものであるか明確に記載し、基本給と残業代をそれぞれわけて記載する必要があります。わけて記載することで、従業員は自分の給与構成について正確に把握でき、後のトラブルを避けられます。

また、個人の給与総額についても、雇用契約書に明記することが大切です。記載が適切に行われていなければ、契約が無効と判断されるリスクがあるため注意しましょう。

関連記事:就業規則とは?作成手順や記載項目を解説!

従業員の労働時間をしっかり管理する

固定残業代制度を導入するには、従業員の勤務状態を適切に把握することが重要です。残業時間や勤怠管理は固定残業代制度の基礎部分であるため、従業員の労働時間を正確に記録する必要があります。

労働時間の管理が必要であることを従業員に周知し、勤怠管理を徹底することで、適正な給与支給が可能です。また、給与総額に関しては、雇用契約書に記載し、固定残業代の金額・相当時間を明確にすることで法的リスクを回避できます。

固定残業代を導入する際に注意すべきこと

固定残業代制を導入すると、労働者の安定した収入と企業の利益を両立できますが、導入の際は注意点があります。注意点を確認しておくと、法的トラブルの回避や労働者との信頼関係の維持が可能です。以下では、各注意点について解説します。

36協定の締結が必要である

固定残業代制を導入する場合、36協定の締結が必要です。

法定労働時間を超えて労働させることは違法ですが、36協定を締結し、労働基準監督署に届け出ると法定労働時間を超えて労働者に時間外労働させられます。

ただし、36協定を結んでも、上限は月45時間・年360時間までと定められています。

特定条項付きの36協定を結ぶと、時間外労働を延長することも可能です。しかし、年720時間以内であり、時間外労働と休日労働は月100時間未満、2〜6ヶ月平均80時間以内、月45時間を超える回数は年6回以内という制限があります。

固定残業代制を導入する場合は、36協定を締結したうえで適切な労働時間管理を徹底しましょう。

関連記事:36協定とは?違反した場合の罰則や事例を解説

残業が発生していない月も支払う必要がある

固定残業代制を導入する場合、残業が発生していない月でも、事前に定められた固定残業代を支払う必要があります。

したがって、従業員が残業していない月でも一律で固定残業代を支払い、給与の支給額は一定となります。

上記の点から、残業が発生していない月も固定残業代を支払う必要があることを理解したうえで、固定残業代制を導入することが重要です。

求人情報に固定残業について記載する必要がある

固定残業代制の導入にあたり、求人情報に固定残業代について記載する必要があります。

明記することにより、求職者は労働条件を事前に確認でき、入社後の給与に関する誤解も回避できます。もし、求人情報に固定残業代の記載がなければ、後々、給与や労働時間をめぐるトラブルが発生する可能性があるため注意が必要です。

そのため、給与に固定残業代が含まれている場合、金額・時間数を明示することが義務付けられています。また、給与に固定残業代が含まれる場合、残業を前提とした求人と誤解され、応募が少なくなってしまう可能性があることを理解しておきましょう。

固定残業代を導入する際は勤怠管理を徹底しよう

固定残業代を正しく導入するためには、適正な勤怠管理が重要です。実際の労働時間が固定残業時間を上回る場合、未払い残業代のリスクが生じる可能性があるため注意が必要です。

労働時間の正確な記録と適切な残業管理を徹底すると、法的トラブルを予防でき、適切な労働環境を維持できます。


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