- 更新日 : 2024年9月13日
労災保険と他の保険の二重取りは可能?自賠責・医療保険・傷害保険の観点から
労災保険と他の保険の給付を両方受けることが可能なのか気になる人も多いのではないでしょうか。結論として、重複受給(請求)できる保険とできない保険があります。いざというときに適切に保険を利用できるように正しい知識を身につけておきましょう。この記事では、保険の二重取りについて、自賠責・医療保険・傷害保険の観点から解説します。
目次
保険の二重取りとは?
そもそも保険の二重取りとは、相手方からの賠償と、被害者が請求できる保険を請求し、両方の金額を受け取ることです。労災保険では、労働者が業務上の事由または通勤によってケガをしたり、病気にかかったりした場合に必要な保険給付を行います。事業主は、パート・アルバイトを含めた労働者を1人でも雇用したら必ず労災保険への加入手続きをしなければなりません。労災保険の対象者は、パート・アルバイトを含むすべての労働者です。
労災保険の保険料は全額雇用主の負担となっています。保険料は職種によって異なりますが、労災が起こりやすい職種では保険料が高い傾向です。「労災申請をすると会社が嫌がる」と聞いたことがある人もいるかもしれませんが、これは労災保険料が上昇する可能性がある、労基署による調査が煩わしいなどの理由が挙げられます。労働災害であるにもかかわらず申請しないと治療費の全額が自己負担となってしまうので、労働災害の場合は労災保険を請求しましょう。万が一、事業主が労災保険に未加入であっても、労働基準監督署に届出をすれば保障を受けられるので安心してください。
労災保険における業務災害の判断基準は以下のとおりです。
- 事業主の支配・管理下で業務に従事している場合
所定労働時間内や残業時間内に社内で業務に従事している場合が該当します。
- 事業主の支配・管理下で業務に従事している場合
- 事業主の支配・管理下にあるが業務に従事していない場合
昼休みや就業時間前後に社内にいて業務に従事していない場合が該当します。休憩時間や就業前後は私的行為となるので業務災害とは認められませんが、社内の設備など管理状況が原因で発生したものは業務災害の対象です。なお、用便等の生理的行為は事業主の支配下に伴う業務に付随する行為となるので、業務災害の対象となります。
- 事業主の支配・管理下にあるが業務に従事していない場合
- 事業主の支配下にあるが、管理下を離れて業務に従事している場合
出張や社用での外出等により社外で業務に従事している場合が該当します。積極的な私的行為を行うなど特別な事情がない限り、業務災害として認められることが一般的です。
上記のほかに、パワハラやセクハラが原因で精神疾患を患った場合も労働災害として認められる場合があります。通勤災害が認められる条件は以下のとおりです。
- 住居と勤務先との間を合理的なルートで移動していたこと
- 被災当日に就業することとなっていたこと、または実際に就業していたこと
コンビニでトイレを借りたり、ジュースを購入したりするささいな行為は合理的なルートとみなされます。そのほか、日用品の購入や通院など、日常生活上必要な行為であって、厚生労働省令で定めるものもあるので確認しておくと良いでしょう。
参考:ひとりでも労働者を雇ったら、労働保険(労災・雇用)に入る義務があります。|(一社)全国労働保険事務組合連合会広島支部・労働保険事務組合
労災保険と自賠責の二重取りについて
労災保険と自賠責の重複受給(請求)はできません。たとえば、治療費や休業補償(休業給付)は労災保険と自賠責保険の両方から支給される可能性がありますが、重複する部分は片方のみしか受けられません。重複する補償は以下のとおりです。
- 治療費
- 休業補償(休業給付)
- 後遺障害逸失利益
- 遺族年金
- 介護給付(介護補償)
- 葬祭料
労災のみ認められる補償は以下のとおりです。
- 休業特別給付金
- 障害特別支給金
- 障害特別年金、障害特別一時金
- 遺族特別支給金
- 遺族特別一時金
- 傷病特別年金、傷病一時金→傷病特別支給金
- その他(労災就学援護費、労災援護金、休業補償特別援護金支給等の制度及び社会復帰事業など)
労災保険からの保険金を受け取り、自賠責から入通院慰謝料や後遺障害慰謝料、死亡慰謝料などを受け取ることは可能です。交通事故が労災となる場合、被害者は労災保険と自賠責のどちらを利用するか選べます。労災は治療費を全額支給してもらえますが、自賠責は限度額があるので、治療費の支払が可能であれば労災を適用すると良いでしょう。
労災保険と医療保険の二重取りについて
労災保険と民間の医療保険や生命保険との併用は可能です。労災保険は加入が会社の義務であるのに対し、医療保険や生命保険は本人の任意加入となっています。従って、これらの保険はそれぞれ別の保障となるのでどちらの保険からも保証金を受け取れるのです。また、労災保険は業務上の事由や通勤中のみのケガや病気が対象ですが、生命保険は仕事中を含む日常生活のすべてが対象となります。医療保険の保険金の請求方法は以下のとおりです。
- 保険会社に連絡する(保険証券を手元に用意しておく)
- 保険会社に必要な書類を提出する
- 保険金が給付される(給付対象の場合)
労災保険と傷害保険の二重取りについて
労災保険と傷害保険の重複受給(請求)は可能です。そもそも傷害保険とは、「急激・偶然・外来の事故」によるケガを対象とした損害保険会社が扱う保険です。自賠責では事故によって生じた実際の損害額をもとに保険金が支払われる「実損払い」であるのに対し、傷害保険は契約時に定めた保険金額が支払われる「定額払い」となっています。従って、労災保険をはじめとする他の各種保険から保険金を受け取れるのです。
医療保険と傷害保険は保障対象が異なるので注意しましょう。どちらも入院や通院、手術などが必要になった場合に備える保険ですが、医療保険は病気やケガを対象としているのに対し、傷害保険の保障対象はケガのみです。例えば、自転車通勤中のケガや仕事中のケガのほか、自宅で料理している際のヤケドや旅行先のケガなどが保障されます。
傷害保険で支払われる保険金は以下のとおりです。
- 死亡保険金
- 後遺障害保険金
- 入院保険金
- 手術保険金
- 通院保険金
傷害保険の保険金の請求方法は以下のとおりです。
- 保険会社に連絡する(受傷日や受傷内容、治療期間などを伝える)
- 保険会社に必要書類を提出する
- 保険金が給付される(給付対象の場合)
二重取りを行う場合の各種手続き
労災保険の申請方法は以下のとおりです。多くの場合、事業主が手続きを代行します。
- 労災保険指定医療機関、または最寄りの取り扱い病院で診察を受ける
- 所轄の労働基準監督署または厚生労働省のホームページから請求書を入手する
- 請求書に必要事項を記入する
- 請求書と添付書類を労働基準監督署に提出する
労災保険と各種保険を二重取りしたい場合は以下の対応をとりましょう。
- 自賠責保険
治療費や休業補償(休業給付)など労災保険と重複する部分については重複受給(請求)ができません。労災保険の補償内容にはない慰謝料を自賠責保険や任意保険に別途請求するようにしましょう。
- 自賠責保険
- 医療保険
ケガや病気による入院や通院費用などの保険金と労災保険の保険金を両方受け取れるので、それぞれ手続きをしましょう。労災保険は多くの場合、事業主が代行して請求しますが、医療保険は自分で保険会社に連絡して手続きをしなければならないので注意してください。
- 医療保険
- 傷害保険
傷害保険も労災保険と併用することで両方の保険金の受け取りが可能です。医療保険と同様に、自分で保険会社へ連絡して手続きを行う必要があります。
労災事故報告書のテンプレート(無料)
以下より無料のテンプレートをダウンロードしていただけますので、ご活用ください。
医療保険や傷害保険は労災保険との二重取りが可能
ここまで、労災保険との二重取りができる保険について解説しました。医療保険と傷害保険は労災保険と併用できますが、自賠責は補償内容が重複する部分については併用できません。自賠責や任意保険では慰謝料が適用されるので別途請求しましょう。民間の医療保険や傷害保険などの保険商品から受け取れる保険金は、労災保険の保険金と全く別の保障となるので両方の保険金を受け取れます。
よくある質問
労災等の二重取りとはなんですか?
相手方からの賠償と、被害者が請求できる保険を請求し、両方の金額を受け取ることです。詳しくはこちらをご覧ください。
労災保険と自賠責の二重取りは可能ですか?
労災保険と自賠責保険の二重取りはできません。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
労災の休業補償の振込が遅い!時期の目安や遅れる理由、対応方法を解説
労災によるケガや病気で働けなくなったとき、頼りになるのが「労災保険の休業補償」です。しかし、いざ申請しても「なかなか振り込まれない」「どのくらいで支給されるのか分からない」と不安になる方は少なくありません。 本記事では、休業補償金が振り込ま…
詳しくみる失業保険とは?手当の受給資格と手続きを解説!
毎月の給与から天引きされている「失業保険」ですが、どのようなときに受け取ることができるのでしょうか。一般的には、急な解雇や会社が倒産した際に受け取ることが可能です。また、転職のため自己都合退社した場合でも、一定条件のもと受給することができま…
詳しくみる社会保険の電子申請手続き
電子申請とは、これまで紙媒体で行ってきた申請書や届出書の提出を「e-Gov(イーガブ)」という電子申請システムを利用し、インターネットで行う手続きのことです。 社会保険に関する手続き方法は、この電子申請の普及により劇的に変化しました。 電子…
詳しくみる育休中に扶養に入るとどうなる?控除額や手続きの流れを解説
育児休業は、労働者が安心して育児に専念するために欠かせない制度です。しかし、育児休業中は、どうしても収入が低下してしまいます。そこで活用したい制度が扶養です。 当記事では、育児休業中の扶養について解説します。扶養の条件や手続きの流れ、扶養手…
詳しくみる求職者給付とは?受給条件やメリットを解説!
失業すると雇用保険から失業等給付を受けることができます。基本手当は一般的に失業手当と呼ばれる給付で、労働者が雇用保険に加入していたときの給料から計算される基本手当日額が、加入期間に応じた一定の日数分、受け取れます。コロナの影響で失業した場合…
詳しくみる【2025年-28年】雇用保険法改正まとめ!図解資料も用意!
本記事では、2025年から2028年にかけて段階的に施行される雇用保険法の改正ポイントを、企業の人事労務担当者向けに解説します。 雇用保険の制度概要から始め、高年齢者雇用継続給付の支給率見直し、自己都合退職者に対する失業給付制限期間の短縮、…
詳しくみる