• 更新日 : 2025年7月25日

業務委託も産休・育休を取得できる?個人事業主・フリーランスの制度や対応方法を解説

業務委託契約で働くフリーランスや個人事業主にとって、妊娠・出産は大きな喜びであると同時に、「産休・育休はどうなるの?」「収入が途絶えてしまうのでは?」といった不安がつきまとうものです。

会社員とは異なり、労働基準法に基づく産休・育休制度が直接適用されないため、ご自身で知識をつけ、主体的に準備を進める必要があります。

この記事では、業務委託で働く方が安心して産休・育休期間を過ごせるよう、知っておくべき基本知識から、具体的な準備、利用できる公的制度までわかりやすく解説します。

業務委託に法律上の産休・育休制度はない

まず知っておくべき最も重要なことは、業務委託契約で働く場合、労働基準法で定められた産前産後休業(産休)や、育児・介護休業法に基づく育児休業(育休)の制度が適用されない、という点です。

これらの法律は、会社などに雇用されている「労働者」を保護するためのものであり、対等な立場で業務を請け負う個人事業主やフリーランスは対象外となります。

そのため、「産休を取得する」という考え方ではなく、「クライアントとの合意のもと、一定期間業務を休む」という形になることを覚えておきましょう。

また、2024年11月に施行されたフリーランス新法では、契約期間が6カ月以上の業務委託契約を結ぶフリーランスから申出があった場合には、育児休業と両立が行えるような配慮をすることが、企業に義務付けられました。

業務委託と会社員の違い

産休・育休期間中の待遇について、業務委託と会社員では具体的にどのような違いがあるのか、以下の表で確認しましょう。

項目業務委託(フリーランス)会社員
産休・育休制度法律上の制度はない(クライアントとの交渉次第)法律で保障されている
出産手当金対象外あり(健康保険から支給)
育児休業給付金対象外あり(雇用保険から支給)
社会保険料の免除国民年金・国民健康保険は免除制度あり健康保険・厚生年金は免除
出産育児一時金対象(50万円)対象(50万円)

このように、業務委託には休業中の収入を直接補償する手当や給付金がありません。この違いをしっかり認識し、自ら資金計画を立てることが不可欠です。

産後はいつから働けるのか

業務委託の場合、体調に問題がなければ、出産直前まで働いたり、産後すぐに仕事を再開したりすることも可能です。いつから休み、いつ復帰するかは、ご自身の体調とクライアントとの契約内容によって決まります。

ただし、出産は母体に大きな負担がかかるため、絶対に無理は禁物です。医師と相談の上、心と体の回復を最優先し、余裕を持ったスケジュールを組むことが賢明です。

フリーランス・個人事業主が妊娠中にやるべきこと

安心して出産・育児に臨むためには、妊娠中の周到な準備が不可欠です。クライアントとの良好な関係を維持しつつ、スムーズに休業期間に入れるよう、計画的に行動しましょう。

1. クライアントへの妊娠報告

妊娠16〜27週(5〜6カ月目)頃、安定期に入ってから報告するケースが多いですが、つわりが重いなど、業務への影響が考えられる場合は、早めに相談することも大切です。

報告の際は、単に「休みます」と伝えるのではなく、今後の意向を誠実に伝え、相手に安心感を与えることが信頼関係を維持するカギです。

【報告メール例文】

件名:今後の業務についてのご相談

株式会社〇〇 〇〇様

いつもお世話になっております。

〇〇(あなたの名前)です。

私事で大変恐縮なのですが、この度新しい命を授かり、現在妊娠5カ月でございます。

出産予定日は〇年〇月頃となっております。

つきましては、〇月頃から〇月頃まで、産前産後のお休みをいただきたく、ご相談させていただけますでしょうか。

後任の方への引き継ぎは、責任を持って丁寧に行います。

また、体調が許す限り、休業期間の直前まで業務に尽力させていただく所存です。

まずはご報告とご相談をと思い、ご連絡いたしました。

お忙しいところ恐れ入りますが、今後の進め方について一度お打ち合わせの機会をいただけますと幸いです。

引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。

2. 契約内容の確認と調整交渉

現在の業務委託契約書を改めて確認しましょう。契約期間や契約解除に関する条項は特に重要です。長期契約の場合は、休業期間中の契約の扱い(一時停止や期間延長など)について、クライアントと交渉する必要があります。

交渉の際は、休業期間、復帰時期、引き継ぎ方法、復帰後の業務内容などを具体的にまとめた提案書を用意すると、話がスムーズに進みます。代替案を複数用意しておくことも有効な交渉術です。

3. 休業期間の収入シミュレーションと資金計画

産休・育休期間は収入が途絶える可能性が高いです。その間の生活費、出産費用、育児用品の購入費などを具体的に洗い出し、どれくらいの資金が必要かシミュレーションしましょう。

利用できる公的制度(出産育児一時金など)からの収入を計算に入れ、不足分を貯蓄でどれだけカバーできるか把握します。これを機に、家計全体を見直し、固定費の削減などを検討するのも良いでしょう。資金計画を立てることで、精神的な安心にも繋がります。

4. 後任者や業務の引き継ぎ準備

クライアントの信頼を損なわないために、丁寧な引き継ぎは極めて重要です。休業期間中に業務を代行してくれる後任者を探すか、クライアント側で手配してもらうか、早めに相談しましょう。

業務マニュアルの作成、連絡先リストの整理、進行中案件の進捗共有など、誰が見ても分かるような形で情報をまとめておきます。休業に入る1カ月前には引き継ぎを完了させ、後任者が一人で業務を回せる状態にしておくのが理想です。

5. 利用できる公的制度のチェック

会社員のような手厚い補償はありませんが、フリーランスでも利用できる公的な支援制度はあります。これらを漏れなく申請し、経済的な負担を少しでも軽減しましょう。

フリーランス・個人事業主が産休・育休中に利用できる公的制度

業務委託契約者には会社員のような手厚い休業補償はありませんが、活用できる公的な支援制度は存在します。これらを漏れなく申請し、経済的な負担を少しでも軽減しましょう。

出産育児一時金

出産育児一時金は、加入している公的医療保険(国民健康保険など)から、子ども一人につき原則50万円(2023年4月以降)が支給される制度です。これは、雇用形態にかかわらず、日本の公的医療保険に加入している場合には対象となります。

多くの場合、医療機関が直接保険者に請求する「直接支払制度」を利用できるため、窓口での支払い負担を軽減できます。事前に出産予定の病院で制度の利用可否を確認しておきましょう。

国民健康保険料の産前産後期間免除制度

国民健康保険に加入している個人事業主やフリーランスは、産前産後期間の保険料が免除されます。対象期間は、出産予定日(または出産日)が属する月の前月から4カ月間です(多胎妊娠の場合は3カ月前から6カ月間)。

この制度は自動的に適用されるわけではなく、市区町村の役所への届け出が必要です。忘れずに手続きを行いましょう。これにより、年間で数万円の負担削減になる可能性があります。具体的な保険料の金額は個人の所得等により異なるため、個別に計算してください。

参考:産前産後期間の国民健康保険料免除

国民年金保険料の産前産後期間免除制度

国民年金の第1号被保険者も、国民健康保険料と同様に、産前産後期間の保険料が免除されます。免除期間も同じく、出産予定月の前月から4カ月間です。

免除された期間も、保険料を納付したものとして将来の年金額に反映されるため、デメリットはありません。こちらも役所への届け出が必要ですので、妊娠がわかったら早めに確認し、忘れずに申請してください。

参考:国民年金の産前産後期間の保険料免除制度について|厚生労働省

育児休業給付金は対象外

会社員が育児休業中に受け取れる「育児休業給付金」は、雇用保険の制度です。雇用契約のない業務委託契約者は雇用保険に加入できないため、この給付金を受け取ることはできません。

この点が会社員との最も大きな違いであり、収入面の計画を立てる上で最も注意すべきポイントです。収入減に備えるためには、事前の貯蓄や後述する民間保険の活用が重要になります。

産休・育休中の収入減をカバーする方法や産後の働き方

公的制度だけでは、生活費のすべてを賄うのは難しいかもしれません。収入減をカバーするための対策と、無理なく仕事を再開するコツを紹介します。

民間の医療保険

妊娠・出産の際に健康上の問題が発生すると、予期せぬ出費が生じる場合もあります。そのような予期せぬ事態に備えるため、医療保険に帝王切開などをカバーする特約を付けておくことで、出費の補填を受けることができます。

パートナー(男性)の育休取得

パートナーが会社員の場合、育児休業を取得してもらうのは非常に有効な選択肢です。パートナーが育休を取得すれば、雇用保険から育児休業給付金が支給されるため、世帯収入の減少を緩和できます。

特に2022年10月から始まった「産後パパ育休(出生時育児休業)」は、子の出生後8週間以内に4週間まで取得でき、2回に分割して取ることも可能です。夫婦で協力して育児に取り組む体制を築くことは、何よりも心強い支えになります。

産休・育休中の税金と確定申告

休業中であっても、個人事業主である限り税金の問題は避けて通れません。特に確定申告については、通常時と異なる点があるため注意が必要です。

産休・育休中も確定申告は必要

年間の所得が48万円を超えた場合、課税所得が発生し、事業所得者やフリーランスでは確定申告が必要になります。年の途中で産休に入り、それまでに一定の所得があった場合は、忘れずに行いましょう。給与所得者は年末調整等で対応可能な場合もあります。

逆に、年間の所得が48万円以下であれば確定申告の義務はありませんが、国民健康保険料の算定などのために、住民税の申告は行っておくのが望ましいです。また、青色申告で赤字を繰り越せるメリットもあります。

経費にできるもの・できないもの

休業期間中であっても、事業を継続するために必要な支出は経費として計上できます。例えば、サーバー代、ドメイン代、仕事で使うツールの年会費などが該当します。

一方で、出産費用や育児用品などは事業とは直接関係のない「家事費」となるため、経費には計上できません。この線引きを明確にしておくことが重要です。不明な点は税務署や税理士に確認しましょう。

配偶者控除・扶養控除の適用について

ご自身の年間の合計所得金額が58万円以下であれば、納税者である配偶者は「配偶者控除」を受けることができます。これにより、配偶者の所得税や住民税が軽減されます。

また、合計所得金額が58万円を超えて133万円以下の場合でも、「配偶者特別控除」が適用される可能性があります。産休・育休により自身の所得が減少した場合は、パートナーの年末調整や確定申告で忘れずに手続きをしてもらいましょう。

計画的な準備で、安心して新しい家族を迎えよう

業務委託契約で働くフリーランスや個人事業主には、法律で定められた産休・育休制度はありません。しかし、それは何もできないという意味ではありません。

  • クライアントとの誠実な交渉
  • 利用できる公的制度のフル活用
  • 周到な資金計画と引き継ぎ準備

これらを計画的に進めることで、会社員とは違う形ではありますが、安心して出産・育児に臨める環境を自ら作り出すことが可能です。この記事が、あなたの不安を解消し、前向きな一歩を踏み出すきっかけとなれば幸いです。


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