- 更新日 : 2025年6月24日
福利厚生による節税の仕組みとは?経費になる条件や節税効果の高い制度も解説
福利厚生は、従業員の働きやすさや満足度を向上させる制度として広く認識されていますが、実は企業にとって法人税を軽減する「節税対策」としての側面も持っています。特に、法定外福利厚生費の中には、一定の要件を満たすことで損金算入が可能となり、税務上のメリットを得ることができるものが多数存在します。本記事では、福利厚生と節税の関係を基礎からわかりやすく解説し、節税効果の高い制度や導入時の注意点、よくある税務上の疑問までを網羅的に紹介しています。制度を有効活用したい経営者・人事担当者の方はぜひご一読ください。
目次
福利厚生による節税対策の仕組みとは
福利厚生と節税は、一見すると別のテーマのように見えるかもしれません。しかし、企業にとってはこの2つを上手に組み合わせることで、従業員の満足度を高めながら、税負担を軽減するという大きなメリットが生まれます。
ここでは、まず「福利厚生」と「節税」の基本的な意味を確認したうえで、福利厚生費がなぜ節税につながるのかを解説します。
福利厚生とは
福利厚生とは、企業が給与や賞与とは別に、従業員とその家族の生活を支えるために提供する制度やサービスのことです。従業員の健康管理、生活支援、教育支援など、さまざまな形があります。
福利厚生は、法律により企業に義務づけられている「法定福利厚生」と、企業が任意で提供する「法定外福利厚生」に分けられます。
法定外福利厚生は、企業ごとの独自性が出やすく、従業員にとって魅力的なポイントになります。
節税とは
節税とは、法律で認められた制度や仕組みを活用し、合法的に税金の負担を減らすことです。誤解されがちですが、脱税とは異なり、あくまでも合法な手段による税務戦略を指します。
企業が節税を行う目的は、単に税金を減らすことではありません。税金の支払いを適切に抑えることで、手元に残る資金(キャッシュフロー)を増やし、次の投資や人材育成、経営資源の充実に充てることが可能になります。
主な節税の方法としては、次のようなものがあります。
- 損金(必要経費)として認められる支出を正しく計上する
- 各種控除や減税制度を活用する
- 福利厚生費を税務上の経費として処理する
この中で特に重要なのが、福利厚生費として損金処理することによる節税です。
福利厚生費が節税対策になる理由
福利厚生費のうち、一定の要件を満たすものは、税務上「損金」として認められます。損金として処理されることで、その分だけ法人税の課税対象となる所得が減り、結果として企業の税負担を軽減することができます。これが、福利厚生が節税に結びつく基本的な仕組みです。
また、従業員側にもメリットがあります。福利厚生制度の種類によっては、従業員の所得税や社会保険料の負担が軽くなるものもあります。例えば、非課税の通勤手当や社宅制度、一定の条件を満たす食事補助などは、従業員の可処分所得を増やす効果もあるのです。
福利厚生費と交際費・消耗品費の違い
企業活動におけるさまざまな支出は、税務上、適切な科目で分類しなければなりません。特に、福利厚生費・交際費・消耗品費といった支出は、目的や相手先が似ているケースも多いため、誤って処理されやすい項目です。
福利厚生費とは、従業員とその家族の生活を支援するために企業が提供する制度やサービスにかかる費用であり、一定の要件を満たすことで全額を損金算入できるという税務上のメリットがあります。社宅制度、社員旅行、食事補助、慶弔見舞金、健康診断、資格取得支援などがこれに該当します。
一方、交際費とは、取引先や顧客など、社外の関係者との関係を円滑にすることを目的とした接待や贈答、接遇費用などを指します。交際費は福利厚生費とは異なり、税務上の損金算入に上限が設けられているため、同じように見える支出でも取り扱いが大きく変わってきます。
例えば、社員向けの懇親会であれば福利厚生費に該当しますが、取引先を含む宴席の場合は交際費として分類される可能性があります。税務署は、対象が社内か社外か、また支出の目的が従業員支援か営業活動かという点に注目して区別を判断します。
さらに、消耗品費とは、日常業務で使用する文房具やコピー用紙、清掃用品などの物品購入にかかる支出です。これらは物理的な使用を前提とした経費であり、福利厚生費や交際費とは目的がまったく異なります。
このように、見た目は似ていても、福利厚生費・交際費・消耗品費は税務処理上の扱いが異なり、損金算入の可否や範囲に差が生じます。そのため、支出の目的、対象、使用実態を明確にし、正しく仕訳・分類することが重要です。特に福利厚生費として処理したい場合は、税務要件を満たしているかどうかをあらかじめ確認しておくと安心です。
福利厚生の種類
福利厚生は、法定福利厚生と法定外福利厚生の2つに分類され、それぞれに異なる性質と節税効果があります。ここでは、両者の違いや、税務上どのような扱いを受けるのかを詳しく見ていきます。
法定福利厚生とは
法定福利厚生とは、法律によって企業に導入・実施が義務づけられている福利厚生のことです。日本では、以下の6種類が定められています。
- 健康保険:業務外の病気やケガ、出産、死亡などに対して、医療給付や手当金などを支給する制度です。保険料は労使で折半されます。
- 介護保険:介護が必要となった人に、介護サービスを受けるための給付金を支給する制度です。40歳以上の従業員に加入義務があり、保険料は労使で折半されます。
- 厚生年金保険:公的年金制度の一つで、企業に勤務するすべての従業員に加入義務があります。保険料は労使で折半され、年金は原則として65歳以降に支給されます。
- 雇用保険:従業員が失業した場合に失業手当を給付したり、再就職支援や教育訓練などのサービスを提供する制度です。保険料の負担割合は事業の種類によって異なりますが、一般的には企業側の負担が大きくなっています。
- 労災保険:業務中や通勤中の事故によるケガや病気、障害、死亡に対して給付金を提供する制度です。保険料は全額企業が負担します。
- 子ども・子育て拠出金:児童手当の支給や仕事と育児の両立支援事業などに充てられる税金の一種で、企業に納付義務があります。費用は全額企業が負担します。
企業が負担するこれらの保険料は、税務上「法定福利費」として扱われ、法人税の計算において損金算入が認められます。つまり、企業の課税所得を減らすことができるため、節税効果があるということです。このように、法定福利厚生は企業が必ず導入しなければならないものであり、自然と節税につながる重要な費用となっています。
法定外福利厚生とは
法定外福利厚生は、法律で義務づけられたものではなく、企業が任意で導入する福利厚生制度です。その種類は多岐にわたり、企業の理念や従業員のニーズに合わせて自由に設計することができます。法定外福利厚生費も、一定の要件を満たすことで税務上の「福利厚生費」として損金算入が可能となり、節税効果が期待できます。
以下に、主な法定外福利厚生の種類と、それらがどのように節税につながるかについて解説します。
通勤・住宅関連
- 通勤手当:従業員の通勤にかかる費用を補助する手当です。一定の非課税限度額内であれば、所得税の課税対象とならず、企業側も福利厚生費として損金算入できます。
- 社宅・社員寮:企業が従業員に住居を提供する制度です。従業員から一定額以上の家賃を徴収するなどの要件を満たせば、企業が負担する家賃の一部を福利厚生費として損金算入でき、従業員も家賃負担を軽減できます。直接現金で支給する住宅手当は、原則として課税対象となります。
健康・医療関連
- 健康診断:従業員の健康維持・増進を目的とした健康診断の費用は、一定の要件(全従業員が対象、一般的な検査内容、企業が医療機関に直接支払いなど)を満たせば、福利厚生費として損金算入できます。
- その他:人間ドック費用の補助、インフルエンザ予防接種、メンタルヘルスサポートなども、福利厚生費として認められる場合があります。
食事関連
- 食事補助:社員食堂の運営、食事券の配布、宅配弁当の提供など、従業員の食事を補助する費用は、一定の要件(従業員が半額以上負担、企業負担額が月額3,500円以下など)を満たせば、福利厚生費として損金算入でき、従業員の所得税も非課税となります。
慶弔・災害関連
- 慶弔見舞金:結婚祝い金、出産祝い金、弔慰金、災害見舞金などは、社会通念上相当な金額であれば、福利厚生費として損金算入でき、課税の対象とはなりません。現金での支給も例外的に認められています。
文化・体育・レクリエーション関連
- 社員旅行・研修旅行:全従業員を対象とした一定の要件(旅行期間、参加割合など)を満たす社員旅行や研修旅行の費用は、福利厚生費として損金算入できます。
- その他:スポーツクラブの利用補助、社内サークル活動への補助、レクリエーションイベントの費用なども、福利厚生費として認められる場合があります。
財産形成関連
- 財形貯蓄制度:従業員の財産形成を支援する制度で、給与から天引きされる貯蓄に対して利息が非課税となるなどのメリットがあります。企業によっては奨励金を補助する場合もあり、その費用は福利厚生費として扱われることがあります。
自己啓発・能力開発関連
- 資格取得支援:従業員のスキルアップを支援するための資格取得費用や研修費用の補助は、業務に関連する場合など一定の要件を満たせば、福利厚生費として認められることがあります。
その他
- 企業型確定拠出年金:企業が拠出する年金制度で、掛金は全額損金算入でき、従業員の退職金準備として活用できます。
- 永年勤続表彰:長年勤務した従業員に対する表彰記念品の贈呈や旅行招待などの費用は、一定の条件を満たせば福利厚生費として損金算入できます。
福利厚生費が経費として認められるための条件
福利厚生制度には節税効果がある一方で、税務上のルールを誤ると損金算入が認められず、課税対象とされることもあります。
税務処理の正確性を担保するために、以下のポイントを押さえておく必要があります。
原則として現物支給であること
福利厚生費として損金算入されるためには、原則として現物支給であることが求められます。現金支給の場合は、給与とみなされて所得税や社会保険料の対象になる可能性があります。ただし、通勤手当や慶弔見舞金のように、例外的に現金支給でも非課税扱いとなるケースもあります。
全従業員に公平に提供すること
制度が全従業員を対象として提供されていることが、税務上の要件となります。特定の役員や一部の従業員だけを対象とした制度は、福利厚生費ではなく役員報酬や給与として扱われる場合があります。公平性が確保されているかどうかは、税務署の判断に大きく影響します。
社会通念上妥当な金額・内容であること
提供される福利厚生の内容や金額が、社会通念上妥当であることも必要です。高額すぎる社員旅行や、換金性の高い贈答品などは、福利厚生ではなく給与扱いと判断される可能性があります。常識的な範囲で制度を設計することが求められます。
社内規程と運用記録を整備すること
税務調査に備えて、社内規程を文書として整備しておくことに加え、実際の制度運用状況を記録しておくことも大切です。誰が、いつ、どの制度を利用したのか、企業がどのように費用負担したのかなど、適切な証拠を残しておくことで、税務上のトラブルを回避できます。
企業規模別|福利厚生による節税対策
福利厚生制度は、企業にとって人材定着や職場環境の向上を図るうえで欠かせない取り組みです。しかし、どのような制度が適しているかは、企業の規模や業種によって大きく異なります。ここでは、企業規模別、業種別に見た福利厚生と節税戦略の違いと、それぞれの効果的な取り組み方について解説します。
中小企業の場合
中小企業の場合、福利厚生制度の設計においては、大企業に比べてリソースや予算の制約が大きい傾向にあります。そのため、まずは導入や運用が比較的簡単で、かつコストパフォーマンスの高い制度を選ぶことが現実的です。例えば、通勤手当や食事補助、慶弔見舞金のように、少額でも従業員の満足度に直結しやすい制度は中小企業に向いています。
また、中小企業には税制上の特例が設けられている場合があります。例えば、30万円未満の減価償却資産の一括損金算入や、中小企業向けの法人税率軽減措置などが挙げられます。福利厚生費についても、これらの優遇措置と組み合わせることで、より高い節税効果を実現できます。
さらに、中小企業にとっては、社員数が少ないからこそ従業員との距離が近く、一人ひとりのニーズに応じた柔軟な福利厚生の設計が可能です。高額で複雑な制度にこだわらず、実用的で持続可能な施策を導入することが、制度の定着と税務上のメリットを両立するための鍵となります。
大企業の場合
大企業の場合、予算的な余裕があるだけでなく、制度の運営や管理にあたる専門部署が存在するため、より幅広く手厚い福利厚生を導入できる環境にあります。社宅制度や確定拠出年金、カフェテリアプランなど、個々の従業員のライフステージに応じた選択肢を提供する制度がよく見られます。
こうした制度は従業員満足度を高めるだけでなく、企業ブランドの向上にもつながるため、優秀な人材の採用・定着に効果を発揮します。税務上も、支出の規模が大きくなる分、正しく損金算入されることで法人税への影響も大きくなり、戦略的な節税が実現しやすくなります。
ただし、大規模な制度を導入する場合は、税務処理が複雑になることがあるため、明確な社内規定の整備と運用ルールの統一が不可欠です。また、制度が従業員全体に公平に提供されているかどうかも重要な論点であり、税務調査の際にはその運用状況が問われる可能性があります。
業種別|福利厚生による節税対策
企業の業種によっても、求められる福利厚生の内容や導入の優先順位には違いがあります。
IT業界の場合
例えば、IT業界のように技術職が多く、スキルアップが重要視される業種では、資格取得支援やオンライン研修、書籍購入補助などの自己啓発支援制度が重視される傾向にあります。また、フレックスタイムやテレワーク制度を導入する企業であれば、それに合わせた在宅勤務手当などの導入も、業務環境の変化に対応した新たな福利厚生として注目されています。
建設業や製造業などの場合
一方、建設業や製造業など、現場での作業が中心となる業種では、安全面や健康面への配慮が欠かせません。そのため、健康診断の充実や労災保険の上乗せ補償、作業環境改善に向けた制度が重視されることが多く見られます。
営業職が多い業種の場合
営業職が多い業種では、出張にかかる実費補助や、インセンティブに連動した福利厚生制度が導入されることもあります。また、不動産業や保険業などでは、従業員の信用力や生活の安定性が重視されるため、社宅制度や団体保険制度の導入が効果的とされています。
業種によって従業員の働き方やニーズは大きく異なります。したがって、他社の制度を参考にしつつも、自社の事業内容や人材構成に最適な制度を選択し、税務上のルールに則って設計・運用することが重要です。
節税効果の高い福利厚生の種類
福利厚生制度にはさまざまな種類がありますが、その中でも特に節税効果が高いとされる制度はいくつか存在します。これらの制度は、企業にとって税務上の損金として処理しやすく、かつ従業員にも非課税メリットがあるため、企業と従業員の双方にメリットが大きいのが特徴です。
ここでは、節税効果が高いとされる代表的な福利厚生の種類を紹介し、それぞれの制度がどのように税負担の軽減につながるのかを解説します。
社宅・社員寮制度
社宅制度は、企業が従業員に住居を提供するもので、福利厚生の中でも特に節税効果が高い制度のひとつです。
一定の家賃相当額を従業員から徴収するなど、税務上の条件を満たせば、企業が負担した家賃のうち一定部分を福利厚生費として損金算入することが可能になります。
また、従業員側も家賃補助が現物支給である限り、所得税の課税対象とならないケースが多いため、実質的な可処分所得の増加につながります。現金での住宅手当支給は原則課税対象になるため、社宅提供という形がより有利とされています。
通勤手当
通勤手当は、一定の非課税限度額内であれば従業員の所得税がかからず、企業側もその支出を全額損金算入できるという、非常に効率的な制度です。
従業員にとっては、日々の通勤費が非課税で支給されることから手取りが増え、企業にとっても給与としての課税リスクを回避できる点で、双方にとってメリットのある制度といえます。支給額が上限を超える場合は、超過分が課税対象となるため注意が必要です。
企業型確定拠出年金(企業型DC)
企業型確定拠出年金は、企業が従業員の退職後の生活資金を準備するために掛金を拠出し、従業員自らが運用を行う制度です。
この掛金は全額を損金処理することが認められており、企業にとって大きな節税効果があります。
さらに、運用益は課税対象とはならず、将来的な受給時にも税制優遇措置が適用されます。福利厚生の中でも、中長期的なインセンティブ制度として活用されるケースが増えています。
健康診断・人間ドック費用の補助
従業員の健康維持を目的とした健康診断や人間ドック費用の補助も、福利厚生費として認められる代表的な支出です。全従業員を対象とし、一般的な内容であり、企業が医療機関に直接支払うなどの要件を満たすことで、損金算入が可能となります。
定期健康診断の実施は労働安全衛生法により義務化されているため、企業にとっては法令遵守の一環として導入しやすく、税務リスクも比較的低い制度のひとつです。
社員旅行・レクリエーション
社員旅行やレクリエーション活動も、節税効果のある福利厚生として活用されています。
ただし、「全従業員を対象とする」「参加割合が一定以上」「旅行日数や金額が社会通念上妥当」といった条件を満たす必要があります。
条件をクリアすれば、旅行費用は福利厚生費として損金処理され、従業員にとっても所得課税が発生しません。制度設計時には、旅行の目的やスケジュール、対象者範囲などを明確にし、記録を残しておくことが推奨されます。
節税目的で福利厚生を導入する場合の注意点
福利厚生制度には税務上の節税効果がある一方で、「節税のためだけ」を目的に制度を導入した場合には、思わぬリスクや問題が生じる可能性もあります。
税務上の扱いには明確な基準が定められており、それを満たさない場合は、損金算入が否認されるだけでなく、給与課税として処理されることもあるため、十分な注意が必要です。
この章では、福利厚生を節税目的で導入する際に企業が必ず押さえておきたいポイントを整理して解説します。
実態のない制度は認められない
税務上、福利厚生としての支出が認められるためには、実際に制度が存在し、継続的に運用されていることが前提です。形式的に規程だけ作成し、実際には運用されていない場合や、利用者が極端に限られている場合は、制度としての実態がないものと判断され、損金算入が否認される可能性があります。
例えば、名目上は「社員旅行」として経費処理していても、実際には一部の役員のみが参加していた場合、それは交際費または役員給与とみなされるおそれがあります。
従業員の福利を目的としている必要がある
福利厚生制度はあくまで、従業員の健康増進・生活支援・業務環境の向上を目的としたものであることが前提です。節税を主目的とした制度とみなされると、税務署から否認されるリスクがあります。企業の費用負担があまりに過大であったり、対象者が限定的すぎたりする制度は、税務上の疑義を持たれやすくなります。
税制優遇のために形だけ整えた制度ではなく、「従業員にとって意味のある制度」であることが重要です。実際に利用されているかどうかという点も、税務署のチェックポイントになります。
節税効果ばかりを強調しない
社内外への説明において、「節税になるから導入した」と明言することは避けた方が賢明です。福利厚生は、従業員の職場満足度向上や人材定着、健康支援といった「本来の目的」があってこそ制度としての価値があります。
節税メリットはあくまでも「結果としての副次的効果」であるというスタンスを取ることで、制度への信頼性も高まり、税務的にも健全な対応が可能となります。
専門家と連携して制度設計する
税務上の誤りや見落としを防ぐためには、制度設計の段階から税理士や社会保険労務士などの専門家と連携することが効果的です。特に、社宅制度や確定拠出年金、特別な報奨制度など、制度設計が複雑になりやすい場合は、法令と照らし合わせて要件を満たしているかを事前に確認することが重要です。
制度導入後も、法改正や判例の変更に応じて、継続的な見直しや改善を行うことで、節税効果を持続的に享受することができます。
福利厚生が節税効果についてよくある質問
福利厚生と節税に関する知識は、経営者や人事担当者にとって重要である一方で、税務上の取り扱いや制度の設計に不安を感じる方も多いのではないでしょうか。ここでは、読者から寄せられることの多い疑問について、初心者にもわかりやすくお答えします。
福利厚生費を計上すれば法人税を減らせる?
福利厚生費は、一定の条件を満たすことで法人税の課税所得から差し引くことができる損金として扱われます。つまり、適正に計上された福利厚生費は、法人税を合法的に軽減する手段となります。
ただし、すべての福利厚生費が無条件で損金になるわけではありません。税務上の要件(現物支給であること、全従業員に対する公平性、金額の妥当性など)を満たさない場合は、損金算入が認められず、課税対象として再計算される可能性もあります。
制度導入の際には、事前に税務要件を確認し、社内規程や記録管理を徹底することで、法人税対策としても安心して活用できる仕組みが構築できます。
福利厚生費の上限はいくらまで?
福利厚生費全体には明確な上限はありませんが、項目ごとに非課税となる上限額が定められている場合があります。例えば、交通機関を利用する場合の通勤手当は月額15万円までが非課税となり、これを超える部分は課税対象となります。また、食事補助については、企業が負担する金額が従業員一人につき月額3,500円までであり、かつ従業員が食事代金の50%以上を負担していることが条件となります。これらの条件を満たさない場合、福利厚生費として認められず、課税対象となる可能性があるため、注意が必要です。
中小企業の福利厚生で特別な節税優遇措置はある?
中小企業には、福利厚生や税制に関していくつかの優遇措置が用意されています。例えば、30万円未満の少額資産を一括で損金算入できる特例や、中小企業倒産防止共済制度に加入することで掛金全額を損金にできる制度があります。
また、法人保険の取り扱いにも一定の優遇があり、福利厚生と関連づけた形で活用する企業も少なくありません。こうした制度を福利厚生の一環としてうまく活用することで、税務上のメリットを最大限に引き出すことが可能です。
プライベートカンパニーも福利厚生費を経費に計上できる?
法人である以上、プライベートカンパニー(少人数の家族経営や一人法人)であっても、福利厚生費を法人の経費(損金)として計上することは可能です。ただし、注意すべきなのは「法人の福利厚生」である以上、従業員全体に対して公平かつ合理的に提供されていることが求められる点です。
例えば、役員しか存在しない会社や、実質的に家族のみで構成されている法人の場合、福利厚生費が個人的な生活費とみなされやすく、税務上の否認リスクが高くなります。
社員旅行や社宅提供、食事補助なども「全従業員が対象」であり、「業務に関連した福利提供」であるという実態がなければ、福利厚生費としての経費処理は認められにくくなります。そのため、制度の内容を明確にし、客観的な記録を残すことが特に重要です。
法定福利費と法定外福利厚生費の税務上の扱いは異なる?
法定福利費とは、企業が法律に基づいて支払う義務のある社会保険料などの費用を指します。例えば、健康保険、厚生年金、雇用保険、労災保険などがこれに該当します。
これらは税務上、当然に全額損金算入が認められる費用であり、特別な条件は不要です。
一方、法定外福利厚生費は、企業が任意に設ける制度(通勤手当、社員旅行、社宅、食事補助など)にかかる費用で、損金として扱うには一定の税務要件を満たす必要があります。
特に、「対象者の公平性」「現物支給であること」「社会通念上の妥当性」といった条件を満たしていない場合は、給与課税として扱われることもあります。
このように、法定福利費は自動的に損金扱いされるのに対し、法定外福利厚生費は制度の内容と運用の実態に応じて判断されるという違いがあります。
役員と従業員の福利厚生の税務上の扱いは異なる?
役員に対しても福利厚生を提供することは可能ですが、従業員とは異なる取り扱いとなる場合があります。特に社宅や慶弔見舞金などを役員に提供する場合、給与や役員報酬とみなされる可能性があるため、税務処理には慎重な判断が求められます。
また、役員だけを対象にした福利厚生制度は、税務上の「福利厚生費」としては原則認められません。役員も従業員と同じ制度を利用する場合であれば、同様の税務処理が認められるケースがありますが、条件の整備や社内規程の明確化が不可欠です。
飲み会補助費用は福利厚生費として処理できる?
従業員向けの社内懇親会や歓送迎会など、業務の一環として実施される飲み会費用は、一定の条件を満たせば福利厚生費として損金算入することが可能です。
ポイントは、次のような条件を満たすことです。
- 参加者が全従業員、または部門単位で公平に招待されていること
- 金額が社会通念上妥当な範囲であること(1人あたり5,000円〜1万円前後が目安)
- 取引先や顧客ではなく、社内向けであること
これらの要件が満たされていれば、飲み会費用は福利厚生費として処理でき、法人税の課税所得を減らす効果が期待できます。
一方で、外部の関係者が含まれる場合や、金額が高額すぎる場合は、「交際費」として処理する必要があり、損金算入に上限が設けられる可能性があるため注意が必要です。
福利厚生は企業の節税対策に有効な手段
福利厚生制度は、従業員満足度の向上や人材定着といった効果に加え、企業の税負担を軽減する節税手段としても非常に有効です。損金算入が可能な福利厚生費を正しく理解し、適切な制度を整備・運用することで、企業は健全な経営基盤を築きながら法令順守と財務最適化を両立できます。ただし、税務上のルールを満たさない制度は、課税対象とされるリスクもあるため注意が必要です。この記事で紹介した制度例や注意点を参考に、貴社に最適な福利厚生の形を検討し、実務に活かしていただければ幸いです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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