- 更新日 : 2025年3月27日
労働基準法第109条とは?労働関係の書類保存ルールをわかりやすく解説!
労働基準法第109条は、労働関係に関する重要な記録の保存について規定しています。
この条文は、労働者の権利保護と、労使紛争の未然防止・解決に役立つ重要なものです。本稿では、同条の趣旨、対象となる記録、保存期間、違反した場合の罰則について、わかりやすい言葉で解説し、使用者・労働者の双方にとっての留意点を示します。
目次
労働基準法第109条とは?
労働基準法第109条は、労働関係の重要書類の保存について定めた規定です。
条文では
「使用者は、労働者名簿、賃金台帳及び雇入れ、解雇、災害補償、賃金その他労働関係に関する重要な書類を5年間保存しなければならない。」
と規定されています(ただし後述の経過措置により当面は3年間)。
条文の概要と目的
この規定の目的は、労働条件に関する記録を一定期間保存し、労使間の紛争解決や行政による監督に役立てることにあります。実際、労働基準法第109条は「労働関係の紛争解決及び監督上の必要から、その証拠を保存するため」に重要書類の保存義務を定めたものと解されています。
つまり、企業と従業員のトラブル防止や万一トラブルが発生した際の証拠確保が、この条文の趣旨と言えるでしょう。
労働基準法第109条の適用範囲
労働基準法第109条は、労働基準法が適用されるすべての事業場・使用者に適用されます。基本的には、従業員を一人でも雇っている会社であれば、この規定に従って労働関係の書類を整備・保存する義務があります。
労働基準法は原則として全ての労働者と使用者に適用されますが、一部例外として同居の親族のみを使用する事業や家事使用人(家政婦等)には適用されません(これらは労働基準法第116条等で除外)。
しかし、それ以外の一般的な企業・団体は規模の大小を問わず、第109条の義務を負います。したがって、人事労務担当者は自社が労働基準法の適用対象である以上、必ずこの書類保存義務を果たす必要があると認識しましょう。
労働基準法の他の条文で作成が義務付けられている帳簿
第109条が対象とする書類の中には、労働基準法の他の条文で作成が義務付けられている帳簿も含まれます。例えば労働基準法第107条では「労働者名簿」の作成が、第108条では「賃金台帳」の作成が義務付けられています。第109条は、それらを含めた労働関係書類全般の保存について規定しているのです。
したがって、第107条・第108条に基づき帳簿を作成した後は、第109条に従って所定の期間きちんと保存するという一連の義務が発生することになります。
労働基準法第109条で企業が遵守すべき基本ルール
労働基準法第109条に基づき、企業がまず遵守すべき基本ルールは「対象となる労働関係書類を適切に作成し、漏れなく一定期間保存する」ことです。後述する様々な労務関連の書類(労働者名簿や賃金台帳等)を整備し、それらを法律で定められた保存期間(原則5年)しっかり保管しなければなりません。
保存期間中は、必要に応じて迅速に提出・閲覧できるように管理しておくことも求められます。労働基準法第109条違反は、そのまま労働基準法違反となり、後述のように罰則の対象ともなり得ます。
基本ルールとして押さえておくべきポイントは以下のとおりです。
- 帳簿・書類の作成義務
労働者名簿や賃金台帳など法定の帳簿は所定の事項を漏れなく記載して作成する(労働基準法107条・108条等)。例えば賃金台帳であれば、各労働者の賃金額や労働日数・時間、基礎となる計算事項などを毎回の賃金支払時に遅滞なく記入する必要があります。 - 保存義務
作成した労働関係書類は最低でも法律で定める期間(5年/当分3年)保管する。保管中は労働基準監督署からの調査要請などに応じて提示できるよう、整理・管理します。 - 完全性の確保
保存する書類は改ざんや紛失がないよう適切に管理します。特に電子データで保存する場合は、データの真正性や安全性を確保し、必要に応じて紙に出力できる体制を整えておくことが重要です。 - 最新法令の反映
労働関係法令は改正されることがあるため、保存すべき書類や期間について法改正があれば速やかに社内規程や実務に反映させます。近年の法改正によって保存期間が延長されたことは後述するとおりで、人事労務担当者は常に最新情報をフォローしなければなりません。
以上が労働基準法第109条を遵守する上での基本となるルールです。次章からは、この条文で対象となる具体的な書類の種類や保存期間について詳しく見ていきましょう。
労働基準法第109条|労働関係記録の保存義務と実務対応
保存すべき記録の種類と内容
労働基準法第109条が対象とする「労働関係に関する重要な書類」には、どのようなものが含まれるのでしょうか。同条文では包括的な表現になっていますが、厚生労働省の「改正労働基準法等に関するQ&A」によれば以下の7つのカテゴリに分類できます。それぞれの書類の内容や意義を解説します。
労働者名簿
「労働者名簿」とは、従業員ごとの基本情報を一覧できる帳簿です。一般に従業員名簿とも呼ばれます。
労働基準法第107条に基づき事業場ごとに備え付ける義務があり、氏名、生年月日、性別、住所、従業員としての雇入日・退職日、契約期間などが記載されます(具体的な記載事項は労働基準法施行規則第53条)。
労働者名簿は在籍者および過去の退職者の記録として、従業員の雇用履歴や在職期間を証明する重要書類です。
例えば労働者名簿によって、特定の従業員がいつ入社し、いつ退職したかを即座に確認できます。これは解雇や退職に関するトラブル時の証拠となるだけでなく、各種保険や年金の手続き、助成金申請などでも必要とされる場合があります。
賃金台帳
「賃金台帳」は、賃金の支払い状況を従業員ごとに記録する帳簿です。
労働基準法第108条により作成が義務付けられ、各従業員について賃金計算の基礎となる事項(労働日数や労働時間、時間外労働時間数など)、支払った賃金の内訳(金額、支給日)などを毎回の賃金支払のたびに記入します。要するに、従業員ごとの給与明細情報を会社側で一覧管理する台帳です。
賃金台帳は未払い賃金の有無を確認したり、給与計算ミスを防止したりするための公式記録であり、労働基準監督署の調査でも必ず提出を求められる代表的書類です。
なお、賃金台帳は労働基準法上は保存義務がありますが、従業員に交付する給与明細(控え)については所得税法が根拠となっており、法定の保存義務はありません。とはいえ、企業実務上は給与明細のコピー等も賃金台帳と併せて保存しておくことが望ましいでしょう。
雇入れに関する書類
「雇入れに関する書類」とは、新しく労働者を雇用する際に作成・収集する各種書類のことです。
例えば、採用時の応募書類や労働契約書、労働条件通知書(労働条件を明示した書面)、履歴書、身元保証書などが該当します。
雇入れ時には、企業は労働条件通知書の交付(労働基準法第15条)など法令上の義務もありますし、採用選考過程でさまざまな書類を取り交わします。これら雇用の開始に関する書類は、採用や契約内容に関する後々のトラブル(「聞いていた条件と違う」等)に対応するための重要な証拠となります。
また、身元保証書は従業員による損害賠償を一定範囲で担保するものですが、有効期間(最長5年)もあるため、少なくとも在職中は保管が必要でしょう。雇入れ関連書類は入社時に人事が取り扱う書類一式と言え、労働基準法第109条のもと確実に保存すべき基本資料となります。
解雇に関する書類
「解雇に関する書類」とは、従業員を解雇・退職させる際に作成・授受する書類です。典型例として、解雇通知書(解雇理由を示す書面)や退職届、会社側の解雇決定に関する社内書類、解雇予告手当に関する書類などが含まれます。
特に、労働基準法第20条により解雇の予告または予告手当の支払いが義務付けられており、その予告手当の支払いに関する領収書なども該当します。さらに、労働基準法第20条ただし書きに基づき労働基準監督署長の認定(解雇予告除外認定)を受けて即時解雇した場合の認定書類も「解雇に関する書類」に含まれます。
解雇は労使トラブルになりやすい事柄です。後になって「解雇予告手当を受け取っていない」「自主退職ではなく解雇だった」等の主張が出た際、こうした書類が保存されていれば事実関係を裏付ける重要な証拠となります。したがって、退職者が発生した場合には、その退職・解雇関連の書類一式を漏れなく保管しておくことが求められます。
災害補償に関する書類
「災害補償に関する書類」とは、労働者が業務上の災害(労災事故)に遭った際の補償に関する書類です。具体的には、医師の診断書、補償金の支払記録、補償金の受領書などが該当します。労働基準法上、業務上災害が発生した場合、使用者は療養補償や休業補償等の責任を負います(労働基準法第75条~第88条)。
現在では多くの場合、労災保険(労働者災害補償保険)により給付されますが、事案によっては会社が補填するケースや、労災保険給付では足りない部分を会社が上乗せ補償する場合もあります。
災害補償に関する書類は、そうした労災対応の履歴を示すもので、労働基準監督署から労災発生状況を調査された際にも提出を求められます。
特に重篤な労災事故では、補償内容が後々争点になることもあるため、診断書や支払記録は厳重に保管しておく必要があります。
賃金に関する書類
「賃金に関する書類」は、賃金額の決定や変更に関する書類です。例えば昇給・降給の辞令、給与改定の通知書、人事評価に基づく給与変更記録、賞与の支給決定書類などがこれに当たります。賃金台帳が実際の支払い記録であるのに対し、こちらは賃金テーブルの改定や個人の給与決定プロセスに関する記録と言えます。
これらは法定で作成が義務付けられているものではありませんが、賃金に関する労使トラブル(「約束されていた昇給が反映されていない」等)が起きた際に会社側の根拠を示す資料となります。例えば、ある従業員に対して昇給を見送った場合、その決定に至る資料や通知書が保存されていれば、後日不満が出ても当時の説明や評価に基づく判断であることを示すことができます。
人事労務担当者は、給与にまつわる決定プロセスの書類も含め、賃金に係る記録は一括して保存しておくと安心です。
その他労働関係に関する重要な書類
上記以外にも、労働基準法第109条は「その他労働関係に関する重要な書類」も保存対象としています。これは労務に関する様々な記録を包括するカテゴリです。
厚生労働省の解釈例では、出勤簿・タイムカード等の勤務時間記録、労使協定書(36協定など各種協定の書面)、労働基準監督署等から得た各種許認可書、従業員の始業・終業時刻の記録(使用者が自ら記録したものや、残業命令書・残業報告書、自己申告による勤務時間報告書等)、退職関連書類(退職願、退職金の支給書類など)、休職・出向に関する書類、社内預金に関する書類等が挙げられています。
要するに、労務管理上重要なあらゆる記録がここに含まれると考えて差し支えありません。
出勤簿・タイムカード
特に出勤簿・タイムカードについては一見すると労働基準法上で直接の作成義務規定がないため疑問に思う方もいますが、第109条の「その他重要な書類」に該当するとの行政解釈が示されています。
実際、厚生労働省の通達(平成13年4月6日基発第339号)でも、「始業・終業時刻など労働時間の記録に関する書類」は第109条の保存対象に含まれることが明記されており、その例として「使用者が自ら始業・終業を記録したもの、タイムカード等の記録、残業命令書・残業報告書、労働者の自己申告による労働時間の記録」が挙げられています。
したがって、タイムカードや勤怠システムのログなども漏れなく保存する義務があると考えましょう。
労使協定書
労使協定書についても、第36条の時間外労働協定届、企画業務型裁量労働制や高度プロフェッショナル制度に係る労使委員会の議事録など、労働基準法や関連法令で作成・届出が義務付けられる協定書類は全て重要書類として保存が求められます。
年次有給休暇の管理簿
年次有給休暇の管理簿(年休の取得状況を記録する台帳)も2019年の法改正で新設され、第109条の保存義務対象となりました。
以上のように、「その他」の範疇には労務管理における広範な書類が含まれるため、人事労務担当者は自社でどのような労働関係記録を作成しているか棚卸しを行い、すべて法定の期間保存する体制をとる必要があります。
労働基準法第109条|記録の保存期間と例外規定
記録の保存期間と例外規定
保存期間は労働基準法第109条の中心的なポイントです。現在、法文上は「5年間」と規定されていますが、経過措置(猶予措置)として当分の間は「3年間」の保存で足りることになっています。まずこの経過措置について説明した上で、保存期間の起算点や他の例外について解説します。
原則の保存期間:5年(当面3年)
労働基準法第109条はもともと重要書類の保存期間を「3年」と定めていましたが、2020年4月1日施行の改正労働基準法により「5年」に延長されました。
この背景には、民法改正に伴う労基法改正で賃金請求権の消滅時効が2年から5年に延長されたことがあります(労働基準法第115条の改正)。つまり、労働者が賃金未払等を請求できる期間が長くなったため、企業側も証拠となる書類をより長く保存しておく必要が生じたということです。労働基準法第109条の保存期間5年への延長はこのような法改正の流れを受けたものです。
しかし、急な保存期間延長は企業の負担にもなるため、労働基準法第143条において経過措置が設けられました。同条には「第百九条の規定の適用については、当分の間、同条中『五年間』とあるのは『三年間』とする」と規定されています。平たく言えば、「しばらくの間は5年ではなく3年の保存でよい」という特例です。
厚生労働省も「新たな仕組みへの対応には時間や手間がかかるので、スケジュールに余裕を持たせることが経過措置の目的の一つ」と説明しており、企業の事務的混乱を避ける猶予期間という位置づけです。
2025年現在もこの経過措置は継続中であり、終了時期は未定です。したがって、法的には労働関係書類の保存期間は当面3年間とみなされますが、いずれ経過措置が終了すれば5年間保存が完全に義務化されることになります。人事労務担当者としては、猶予に甘んじることなく早めに5年保存に対応できるよう準備しておくことが重要です。
保存期間の起算日と例外
「◯年間保存」といった場合、その起算日(いつから数えて◯年か)も正確に理解しておく必要があります。労働基準法施行規則第56条では、第109条に基づく各書類の保存期間の起算日が以下のように定められています。
- 労働者名簿:労働者が死亡、退職または解雇された日から起算
- 賃金台帳:最後に記入を行った日から起算
- 雇入れ・退職に関する書類:労働者が退職(死亡を含む)した日から起算
- 災害補償に関する書類:その災害補償が終わった日から起算
- 賃金その他労働関係に関する重要な書類:当該書類が完結した日から起算
例えば、ある従業員について労働者名簿上での最終記録が「2025年3月31日退職」であれば、その退職日から起算して5年間(当面は3年間)は名簿を保存しなければなりません。
また、賃金台帳や賃金に関する書類については注意が必要です。もし当該書類に関連する賃金の支払日が上記の起算日(例えば最後の記入日や完結日)より遅い場合には、その支払日を起算日とする、と施行規則で明確化されています。
また、タイムカード(その他重要書類)が3月31日に「完結」していても、その3月分の賃金支払日が4月15日であれば、4月15日から期間を数えます。このように、支払日が遅れる場合は保存期間もその分後ろ倒しになる点に留意しましょう。
他法令による保存期間の違いにも注意が必要
以上が労働基準法第109条における原則的な保存期間の考え方ですが、他法令による保存期間の違いにも注意が必要です。
第109条は労働基準法上の義務期間を定めたものに過ぎず、他の法律でより長期の保存が求められるケースがあります。例えば、労災保険・雇用保険・社会保険関係書類では2年~7年の保存義務、健康診断結果に関する書類では5年~最大40年の保存義務が課されるものもあります。
法人税法や会社法の規定で会社の帳簿書類は原則7年間保存することも要求されます。したがって、人事労務担当者は労基法第109条の5年(3年)という数字だけでなく、関連する他の法令や会社の内部規程上のルールも総合的に考慮して、より長い方の期間に合わせて保管することが望ましいです。
労働基準法第109条|労働基準監督署の調査対応と企業リスク
労働基準法第109条違反(書類未作成・未保存)は、労働基準監督署の調査により発覚する場合が多いです。従業員から「会社が法定の書類を整備していない」などの申告があったり、定期監督や是正勧告のフォローアップで調査が入ったりした際、労基署は企業に対して労働者名簿、賃金台帳、出勤簿などの提示を求めます。ここで求められた書類を用意できないと、保存義務を果たしていないことが明らかになります。
通常、このように労基法違反が確認された場合、いきなり罰則適用とはならず、まずは労働基準監督署から是正勧告(違反を是正せよという指導)が出されます。
企業側が速やかに書類を整備し、是正勧告に従って改善すれば、その段階で罰則は科されずに済むことがほとんどです。しかし、勧告に従わない・無視するといった対応をとった場合や、明らかに悪質(意図的に書類を廃棄していた等)と判断された場合には、労働基準監督署が再調査のうえで送検し、罰則適用に踏み切る可能性があります。
労働基準法第109条の罰則
労働基準法第109条の罰則は、労働基準法第120条に規定されており「30万円以下の罰金」に処せられます。実際に罰金刑となるのは悪質なケースですが、一度でも違反が指摘されれば会社の信用リスクとなりますし、是正報告書の提出など追加の事務対応も発生します。
特に近年は労務コンプライアンスへの社会的要請が高まっているため、労基署から違反是正を受けた事実自体が社内外への信用低下につながりかねません。また、書類不備が他の違反(残業代未払など)と合わせて発覚すれば、会社に対する行政指導・処分も厳格化する可能性があります。
一方、適切な書類管理は企業を守る盾にもなります。労働基準監督官が調査に来ても、法定書類が完備されていればスムーズに説明・提出ができ、指摘を受けずに済みます。逆に言えば、書類管理のずさんな企業ほど調査が長引いたり他の違反も疑われたりするリスクが高まるのです。
人事労務担当者は、日頃から第109条に基づく書類を整備・保存しておくことで、いざという時に会社を守ることができると心得ましょう。
日本コンベンションサービス事件(大阪高裁平成12年6月30日判決)
有名な事例として、日本コンベンションサービス事件(大阪高裁平成12年6月30日判決)では、会社側が「タイムカードに退勤時刻を記録しなくてよい」と指示していたために労働時間の記録が残らず、その結果として労働者の残業代請求が認められました。このケースでは、会社自らが記録を怠ったことが裏目に出た形です。
人事労務担当者は、このように記録不備=企業側の立証負担の不利につながることを強く認識する必要があります。労働時間や賃金に関する紛争では、法律上も適正な記録を保存していることが使用者の責務であり(労基法109条)、裏を返せば「記録をちゃんと残していないのは使用者の落ち度」と評価されかねないのです。
労働基準法第109条|最新の法改正や行政通達の影響
労働基準法第109条を巡る最近の動向として、まず2020年の法改正による保存期間延長(3年→5年)が挙げられます。この改正と経過措置については既に説明した通りですが、人事労務担当者は改めて自社の書類保存規程を見直す必要があります。
多くの企業では内規で「人事書類は〇年間保存」等のルールを定めていますが、法改正を踏まえて5年保存を前提とした運用にアップデートしなければなりません。特に賃金台帳や出勤簿は誤って3年で廃棄してしまう事例がないよう、現場担当者にも周知徹底しましょう。「うっかりシュレッダーにかけて廃棄」といった事故が起これば企業にとって大きな損失です。
行政通達やガイドラインの影響
次に行政通達やガイドラインの影響です。前述のとおり平成13年の厚生労働省通達でタイムカード等が保存義務の対象と明確化されました。それ以降も、働き方改革関連法などで新たな書類作成義務が課された場合には、その都度第109条の枠組みで保存義務が追加されています(例:年次有給休暇管理簿は2019年より新設)。
人事労務担当者は厚労省から発出される通達やQ&Aをチェックし、保存すべき書類の種類が増えていないか留意しましょう。例えばフレックスタイム制の清算期間延長(2021年改正)に伴い労使協定の記録方法が変わった場合や、テレワークガイドラインで勤怠記録の在り方が示された場合なども、結果的に保存すべき記録の内容に影響します。最新の通達やガイドラインを把握することで、「実は対象だった書類を保存していなかった」というミスを防ぐことができます。
労働基準法第109条|企業が遵守すべき実務対策
労働基準法第109条の遵守を確実にし、実務に活かすための具体的な対策をまとめます。
保存すべき書類の洗い出し
まずはじめに、保存すべき書類の洗い出しを行いましょう。前述のカテゴリ一覧を参考に、自社で取り扱っている労働関係書類をすべてリストアップします。例えば就業規則に関連して労使協定を締結している場合、その協定書は全て保存対象ですし、安全衛生委員会や働き方改善委員会の議事録なども労働時間等設定改善法に基づき保存義務があります。部署横断でヒアリングを行い、漏れている書類がないかチェックしてください。
保存期間と保管場所のルールを明文化
次に、保存期間と保管場所のルールを明文化します。例えば「労働者名簿と賃金台帳は本社人事部で電子データ管理し、毎年年度末にバックアップ」「各種契約書類は原本を総務部ファイル庫で保管し、PDFコピーを人事共有フォルダに保存」など、書類の種類ごとにどこで何年間保存するかを決めます。
電子化が可能なものは積極的に電子化することを検討しましょう。労働関係書類の電子保存は、紛失リスクの低減や検索性の向上といったメリットがあります。
クラウド勤怠システムや人事管理システムを導入すれば、タイムカードや年休管理簿なども自動的にデータで蓄積され、長期保存に適した形で管理できます。紙と電子の使い分けを検討し、自社に最適な保存方法を選択してください。
定期的な見直しと最新情報の反映
3つ目に、定期的な見直しと最新情報の反映です。労働関係法令は改正が続きますので、年に一度は「法改正チェックリスト」を作成して、保存義務に変更がないか確認しましょう。
例えば、前年度に厚労省から出た通達やQ&Aを調べ、「新たに保存が必要となった書類はないか?」「保存期間の延長など変更はないか?」と点検します。社会保険労務士や顧問弁護士等から情報提供を受けるのも有効です。
万一、新たな義務が判明したら速やかに社内ルールに反映し、担当者に周知します。こうしたアップデートの仕組みをもっておけば、常に最新の法令遵守レベルを維持できます。
トラブル事例から学ぶ姿勢
さらに、トラブル事例から学ぶ姿勢も実務対策の一環です。他社で起きた労務紛争のニュースや判例をウォッチし、「自社だったら大丈夫か?」と検証してみましょう。例えば「未払い残業代で会社が敗訴した」という事例では、その原因がタイムカードの不備だったかもしれません。
自社の勤怠管理状況を振り返り、同様の弱点がないか点検します。常に最悪のケースを想定して記録を整備することが、結果的に紛争を未然に防ぐことにつながります。
経営陣への報告・提言
最後に、経営陣への報告・提言も重要です。労働基準法第109条の遵守状況やリスクは、現場担当者だけで抱えず経営層にも共有しましょう。
年次で「法定帳簿の管理状況報告」を行い、問題点があれば改善に向けたリソース(例えばシステム導入費用や人員配置)の確保を提言します。経営陣が労務コンプライアンスの重要性を理解し支援してくれれば、人事労務担当者も安心して実務対策を推進できます。
以上の対策を講じることで、労働基準法第109条の義務を確実に履行するとともに、労務管理の高度化とリスク低減を図ることができます。適切な記録管理は、「守り」の施策であると同時に、労働者との信頼関係を構築し企業の健全な発展を支える「攻め」の基盤ともなります。ぜひ本記事の内容を参考に、自社の実務へ活かしていただければ幸いです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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