• 更新日 : 2025年3月19日

インフルエンザで休養を取る場合、有給は使えない?会社としての対応を解説

インフルエンザで仕事を休む場合、有給休暇を取得することは可能です。ただし、有給休暇の消化を従業員に強制してはいけません。

労働基準法では、有給休暇の取得は従業員の自由な意思に委ねられています。そのため、会社が一方的に有給扱いにするのは違法です。

本記事では、インフルエンザになった従業員に対して適切な対応ができるように、企業が取るべき対応や注意点について徹底解説します。

インフルエンザの場合も有給休暇は使える

インフルエンザで休む場合も、有給休暇を利用できます。

労働基準法第39条により、有給休暇の取得は労働者の権利として認められており、事業主は正当な理由なく拒否できません。したがって、業務が忙しいという理由で申請を断ることは違法です。従業員に有給休暇の残日数があり、申請があれば有給として扱う必要があります。

ただし、企業に「病気休暇」や「インフルエンザ休暇」などの特別休暇がある場合は、規則に従う必要があります。また、従業員の申請なしに事業主が勝手に有給休暇を適用することは違法のため、注意が必要です。

有給休暇の規定については、下記の記事で詳しく解説しているため、ぜひあわせてご覧ください。

有給が残っていない場合はどのような扱いになる?

有給休暇が残っていない場合、多くの場合は欠勤扱いになります。また、傷病手当金の対象となるケースもあるため、事前に企業がルールを定めて従業員に周知することが重要です。以下では、有給が残っていない場合の扱いについて解説します。

欠勤扱いになるケース

有給休暇が残っていない場合や本人からの申請がない場合は、欠勤扱いとなります。

欠勤とは、従業員が勤務時間内に労働せず、事前に上司の承認を得ていない状態です。

企業は、欠勤による未就労分の賃金を支払う必要がありません。労働基準法41条においても「欠勤や遅刻・早退の場合、基本給から当該日数または時間分の賃金を控除できる」と定められています。

控除額の計算例として、月給制の場合は「基本給÷1ヶ月の平均所定労働時間数」、日給制の場合は「基本給÷1日の所定労働時間数」となります。

欠勤については、下記の記事で具体的に解説しているため、ぜひあわせてご覧ください。

傷病手当金の対象となるケース

インフルエンザにより4日以上連続で働けなかった場合、傷病手当金の支給対象となります。公休日や有給休暇を含めて連続4日以上の就業不能が条件です。

そもそも、傷病手当金とは健康保険の制度で、病気やケガで働けず給与が十分に得られない際に生活を保障するための手当です。支給額は、支給開始前12ヶ月間の標準報酬月額の平均をもとに算出され、1日あたりの支給額は標準報酬月額を平均した額を30で割った標準報酬日額の2/3となります。

傷病手当金の支給期間は、支給開始日から通算1年6ヶ月です。ただし、待期期間として最初の3日間は対象外で、4日目以降の労働不能な日が支給対象になります。なお、欠勤中に給与が支払われている場合は対象外ですが、支払われた給与が傷病手当金より少ない場合は、差額が支給されます。

従業員がインフルエンザに感染した際の企業の対応

従業員がインフルエンザに感染した際は、適切な対応を行うことが重要です。企業は感染拡大を防ぐとともに、従業員の健康と働きやすい環境を考慮する必要があります。

具体的な対応は、従業員の症状や意向を確認したうえで判断することが大切です。以下では、感染した従業員への配慮や企業として取るべき対応について解説します。

有給取得の強制はせず自宅療養を勧める

企業が取るべき対応として、インフルエンザに感染した従業員に対し、自宅療養を勧めることが挙げられます。

学校保健安全法施行規則では、発症後5日かつ解熱後2日間は出席停止期間と定められています。企業の対応に法的義務はありませんが、感染拡大を防ぐための参考になるでしょう。

インフルエンザは発症前日から発症後3〜7日間、解熱後もウイルスを排出するため、無理な出社は避けるべきです。企業は従業員が安心して休める環境を整え、自宅療養を推奨することが求められます。

ただし、有給休暇の取得を強制することはできません。休暇の扱いについては、従業員が有給を使用するか、欠勤とするかを自身で判断できるよう、企業が選択肢を提示することが重要です。

有給を使いたくない従業員がいる場合は自宅待機命令を出す

インフルエンザに感染した従業員が有給を希望しない場合、企業は自宅待機命令を出せます。

学校保健安全法施行規則では、発症後5日かつ解熱後2日は出席停止期間と定められており、社内での感染拡大を防ぐためには出勤停止も適切な対応です。

企業が自宅療養を勧めても従業員が自主的に休まない場合、他の従業員の健康と事業継続を考慮し、自宅待機命令を出す必要があります。

普段から業務の共有を徹底し、チームで業務ができる体制を整えることで、休みやすい環境を作ることが重要です。また、インフルエンザ発症時の対応ルールを明確にし、出社禁止のルールを設定することで、感染防止につなげられます。

自宅待機命令期間中は賃金を支払う必要はない

インフルエンザによる自宅待機命令期間中、企業は賃金を支払う義務はありません。

労働基準法第26条では、事業主の責任で休業となった場合に休業手当の支払いが必要と定められています。しかし、従業員が自主的に休む場合や、医師の診断に基づいて欠勤する場合「使用者の責に帰すべき事由」に該当せず、企業に賃金支払い義務はありません。

ただし、従業員が有給休暇を申請し、企業が承認した場合は、通常通り賃金が支払われます。企業としては、休みやすい環境を整え、感染拡大を防ぐことが重要です。

企業が出勤停止を命じた場合の有休・休業手当の基準

企業が出勤停止を命じた場合でも、状況によって休業手当の支払い義務が発生します。労働基準法では、事業主の責任による休業かどうかが判断基準です。

以下では、企業が出勤停止を命じた際の有給休暇や休業手当の具体的な適用ケースについて解説します。

季節性インフルエンザは休業手当が必要

季節性インフルエンザの場合、企業が業務命令として出勤停止を命じた際は、原則として休業手当を支払う必要があります。季節性インフルエンザは法律上の強制出勤停止の対象ではなく、企業の判断による休業となるためです。

労働基準法第26条では、事業主の都合で従業員を休ませる場合、平均賃金の60%以上の休業手当を支払う義務があると定められています。ただし、医師の診断書により労務不能と判断された場合は、体調不良による欠勤となり、企業に休業手当の支払い義務はありません。

平均賃金は、休業開始前3ヶ月間の賃金総額を暦日数で割った額で算出されます。基本給のほか、残業手当や通勤手当などの手当も含まれるため注意が必要です。

新型インフルエンザは休業手当が不要

新型インフルエンザの場合、法律に基づく就業制限があるため、企業が出勤停止を命じても休業手当を支払う必要はありません。

「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」第18条2項では、新型インフルエンザに感染した場合、都道府県知事の判断により就業が制限される可能性があります。この場合、企業側の判断ではないため労働基準法第26条の「使用者の責に帰すべき事由」には該当しません。

ただし、新型インフルエンザかどうかが確定していない段階で、企業が独自の判断で休業を指示した場合は、企業都合の休業となるため休業手当の支払いが必要です。なお、年次有給休暇を使用している場合や、会社が特別休暇として有給扱いにしている場合など、欠勤中にすでに給与が支払われている場合は休業手当の対象外となります。

社内で従業員のインフルエンザ集団感染が発生したときの対応

社内で従業員のインフルエンザ集団感染が発生すると、多くの従業員が出勤できなくなり、事業の継続が困難になる可能性があります。業務の停滞を防ぐためには、迅速かつ適切な対応が必要です。以下では、集団感染が発生した際に取るべき対応について解説します。

拡大防止対策を早期に実施する

インフルエンザには潜伏期間があり、症状がない従業員でも後に発症する可能性があります。そのため、感染拡大を防ぐには、少人数の発症が確認された段階で対策を実施することが重要です。

感染者や感染の疑いがある人には休養を促し、医療機関での受診を推奨しましょう。また、社内での手洗いやマスクの着用、換気、消毒を徹底し、感染が広がらない環境を整えることが必要です。

集団で使用するスペースを一時停止する

インフルエンザ感染者や感染の疑いがある人が多い場所で咳やくしゃみをすると、ウイルスが広がる可能性があります。

感染拡大を防ぐために、あらかじめ食堂や会議室などの密集しやすいスペースの一時的に使用停止を検討しましょう。やむを得ず使用する場合は、部屋の窓やドアを開けて換気し、マスクの着用を推奨することが重要です。

感染拡大を防ぐためにも、感染リスクを抑える環境づくりを徹底しましょう。

保健所に相談する

インフルエンザの集団感染が発生した場合、速やかに保健所へ相談することが重要です。

従業員の被害状況を把握し、必要に応じて現状を報告しましょう。報告の目安として、1週間以内に入院が必要な重症者が2名以上発生した場合や、感染者が10名以上または全従業員の半数以上に達した場合が挙げられます。

該当しない場合でも、通常より感染が拡大していると判断される際は、必要に応じて保健所へ相談しましょう。

インフルエンザによる有給休暇取得時の3つの注意点

インフルエンザによる有給休暇の取得には注意が必要です。適切に対応しなければ、法的リスクが生じる可能性もあります。

従業員が安心して休める環境を整えるためにも、事前にルールを確認し、適切に休業をサポートすることが重要です。以下では、有給休暇取得時に押さえておくべき注意点を解説します。

1. 有給休暇の取得を強制させてはいけない

インフルエンザによる休業時でも、有給休暇の取得を強制してはいけません。

有給休暇は労働者の権利であり、理由を問わず自由に取得できるものです。6ヶ月以上継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した従業員には10日の有給休暇が付与されます。しかし、事業者が強制することは違法です。

たとえば、欠勤日を勝手に有給扱いにしたり、本来の出勤日を有給に変更したり、会社の都合で休みにするために有給を使用させたりすることは認められません。違反した場合、罰則が科される可能性があるため、注意が必要です。

2. 従業員の有給日数を確認しておく

従業員の有給休暇の残日数を事前に確認しておくことが重要です。

有給休暇を使い切っている場合、インフルエンザによる休みは欠勤扱いとなり、欠勤中は給与が支払われません。有給休暇が残っているかどうかで対応が異なるため、企業側は正確な情報を把握し、従業員にも周知しておくことが必要です。

事前に確認することで、休業時の対応に関する誤解やトラブルを防ぎ、スムーズな対応につなげられます。

3. 病気休暇・インフルエンザ休暇などの特別休暇制度も検討する

インフルエンザによる休業時の負担を軽減するため、病気休暇やインフルエンザ休暇などの特別休暇制度を検討することも重要です。

有給休暇とは別に特別休暇を設ければ、従業員は有給残日数を気にせず休めます。特別休暇制度は労使間の話し合いで導入可能であり、設ける場合は就業規則に取得日数や賃金の支払い有無を明記し、従業員に周知することが必要です。

適切な制度を整えて、安心して休める環境を作ることで、従業員のストレスを軽減できて結果的に企業の成長にもつなげられるでしょう。

特別休暇制度の導入を検討している方は、下記の記事で具体的に解説しているためぜひ参考にしてください。

インフルエンザでも有給休暇を利用できることを周知しておこう

インフルエンザにより仕事を休む場合は、申請すれば有給休暇として消化可能です。ただし、残り日数がない従業員は欠勤扱いとなるため、従業員が有給休暇を気にすることなく休めるよう、特別休暇の導入を検討するのも有効です。

事前にインフルエンザによる有給休暇ルールを見直し、従業員に周知して正しく運用することで従業員も安心できる環境を整えられるでしょう。


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