- 更新日 : 2025年3月18日
外国人留学生を新卒採用する状況は? メリット・デメリットや流れ、注意点を解説
日本で働く意欲のある外国人留学生を、新卒で採用したい経営者・採用担当者もいるのではないでしょうか。新卒採用する場合は、在留資格の変更が必要など、いくつかポイントがあります。
本記事では、外国人留学生を新卒採用するメリット・デメリットや流れ、注意点について解説します。
目次
外国人留学生の日本企業への就職状況
留学を終えた外国人留学生のうち、一体、何人の外国人留学生が日本企業へ就職しているのでしょうか。まずは、外国人留学生を取り巻く状況をみていきましょう。
日本における外国人留学生数
日本に留学する外国人は年々、増加しています。
独立行政法人日本学生支援機構の「外国人留学生在籍状況調査」によると、2023年5月1日時点の外国人留学生数は279,274人と、コロナ禍以降はじめて増加しています。国籍別では、中国からの留学生がもっとも多い傾向です。
参考:文部科学省|「外国人留学生在籍状況調査」及び「日本人の海外留学者数」等について
このうち卒業後、日本企業で働きたい外国人留学生は54.5%に上ります。しかし、2022年中に在留資格を「留学」から「就職」に変更することが許可された人数は、33,415人(特定技能の在留資格変更は除きます)となっています。
留学後、日本企業で働きたい外国人留学生は半数以上いるものの、実際に日本企業へ就職するケースはあまり多くない現状です。
参考:出入国在留管理庁|令和4年における留学生の日本企業等 への就職状況について
外国人留学生が日本企業に就職しにくい理由
外国人留学生が日本企業へ就職しにくい理由に、外国人留学生向けの求人が少ないことが挙げられます。次に、就職活動の仕組みが複雑なことです。
日本では「新卒一括採用」が主流です。たとえば、4年制大学の学生は3年生の春ごろから就職活動をスタートさせます。多くの日本企業は毎年10月に内定式をおこない、秋ごろにゴールを迎えます。
一方、海外では「通年採用」が主流です。欠員などの人材が必要になったタイミングで募集・採用をします。外国人留学生は、「新卒一括採用」になじみがなく、時期を逃してしまうことが考えられます。
また、高度な日本語能力が求められる点も就職の障壁となるでしょう。文部科学省がおこなったアンケート調査によると、外国人留学生の就職活動上の課題に「日本語による適正試験や能力試験が難しい」や「日本語での面接対応が難しい」といった声が見受けられます。
参考:外国人留学生の就職促進について(外国人留学生の就職に関する取組等)
これらを踏まえて、外国人留学生へ採用の意思を積極的にアピールし、採用フローを平易な日本語で説明することが大切です。
外国人留学生を新卒採用するメリット
外国人留学生を新卒採用した場合、海外進出への足がかりになったり、職場が活性化されたりといったメリットを享受できるでしょう。具体的には以下のとおりです。
- 日本の生活や文化に慣れている
- 海外進出への足がかりになる
- 職場が活性化される
日本の生活や文化に慣れている
日本に一定期間在住する外国人留学生は、日本の生活や文化に慣れているはずです。そのため、日本人ばかりの職場でも、比較的すぐに適応できる可能性があります。
さらに、留学時に必要な手続きや書類申請の経験も有しています。就職する際に必要な在留資格の変更も、スムーズにおこなえるでしょう。
海外進出への足がかりになる
外国人留学生は日本語のほか、母国語をいかして働くことが可能です。実際、日本の企業に就職した外国人留学生は、翻訳・通訳の仕事をしていることが多い傾向にあります。
参考:出入国在留管理庁|令和4年における留学生の日本企業等 への就職状況について
日本語以外の言語を流暢に話せたり、読み書きができる人材がいることは、将来的に海外進出を計画している企業にとっても大きな戦力となるでしょう。
職場が活性化される
外国人留学生を採用することで、職場に活気も生まれます。日本人にはない積極性に感化され、建設的な意見交換ができるかもしれません。
また、外国人留学生の受け入れ体制を整えることで、労働環境の改善にもつながります。たとえば、残業を抑えられるなど不必要な業務を見直すことで、社内メンバーの仕事へのモチベーションが向上するでしょう。
外国人留学生を新卒採用するデメリット
外国人留学生の新卒採用はメリットがある一方で、デメリットもあります。
- 在留資格を変更する手間がかかる
- 丁寧なフォローが必要になる
在留資格を変更する手間がかかる
外国人留学生が就職するタイミングで、在留資格を「留学」から「技人国(ぎじんこく)」または「特定技能」に切り替える必要があります。切り替えにかかる手続きは原則、本人がおこないますが、企業側が作成しなければならない書類もあります。
また、外国人を雇用する事業主には「外国人雇用状況の届出」が義務づけられているため、ハローワークへの届出も必要です。届出を怠った場合は、罰金が科されるおそれもあるので注意しましょう。
丁寧なフォローが必要になる
外国人留学生は、ビジネスシーンで使用する日本語に不慣れな可能性があります。言葉がうまく伝わらず、お客さまとトラブルに発展するおそれも否定できません。
また、そもそも日本の商習慣に慣れていない可能性もあります。「雰囲気を察する」ことや「場の空気を読む」ことを求めるのではなく、指示は明確に伝えたほうが親切です。
言葉や商習慣に慣れるまでは、とくに丁寧なフォローが必要になることを覚えておきましょう。
外国人留学生を新卒採用する流れ
外国人留学生を新卒採用する流れを解説します。手順は以下のとおりです。
- 求人掲載
- 説明会
- 選考
- 内定
1. 求人掲載
まずは、求人情報を掲載しましょう。掲載先は、求人媒体や学校のキャリアセンターなどが一般的です。求人情報には、以下のような事柄を記載します。
- 外国人留学生に特有の強みをいかして働けること(数か国語を話せるなど)
- 採用スケジュールについて
なお、採用スケジュールについては、英語や簡単な日本語で記載しましょう。
2. 説明会
次に、説明会を実施します。先述のとおり、外国人留学生は、日本特有の「新卒一括採用」システムに慣れていません。説明会では、就職活動のスケジュールが把握できているかを、なるべく平易な日本語でヒアリングしてみましょう。
また、参加者に渡す資料は、なるべく英語・中国語などの多言語で用意します。外国人材を積極的に採用している印象を、求職者へ与えられるでしょう。
3. 選考
続いて、書類選考や面接を進めます。業務に問題がない日本語レベルか、選考時に確認しましょう。
また、国外では採用時に業務内容が明確に決められる、ジョブ型雇用が一般的です。事前に知らされていない業務は、自分の担当外とみなされて断られるケースがあります。仕事の内容や雇用条件などを、あらかじめ擦り合わせておきましょう。
くわえて、在留資格を変更できるか、在留資格の変更にあたって法的な問題はないかも確認しておくと安心です。
4. 内定
最後に、内定の可否を決めましょう。外国人留学生が日本企業へ就職する場合は、在留資格を変更しなければなりません。
在留資格の変更には、時間がかかることがあります。たとえば4月1日入社の場合は、その前年の11月末までに内定を出すなど、余裕をもって進めましょう。
外国人留学生を新卒採用する際の注意点
ここからは、外国人留学生を新卒採用する際の注意点を解説します。具体的には以下のとおりです。
- 在留資格を変更する
- 在留カードの在留期間を確認する
- オーバーワークになっていないか
- 日本人と同額以上の給与か
在留資格を変更する
外国人留学生が就職するタイミングで、在留資格を「留学」から切り替える必要があります。代表的な在留資格は「技人国(ぎじんこく)」、または「特定技能」の2つです。
技術・人文知識・国際業務(技人国)
「技術・人文知識・国際業務」は、日本において技術者や通訳、語学教師として働くための在留資格です。頭文字から「技人国(ぎじんこく)」とも呼ばれ、次のような活動が該当します。
本邦の公私の機関との契約に基づいておこなう理学、工学その他の自然科学の分野若しくは法律学、経済学、社会学その他の人文科学の分野に属する技術若しくは知識を要する業務または外国の文化に基盤を有する思考若しくは感受性を必要とする業務に従事する活動(入管法別表第一の一の表の教授、芸術、報道の項に掲げる活動、二の表の経営・管理、法律・会計業務、医療、研究、教育、企業内転勤、介護、興行の項に掲げる活動を除く。)
「技術・人文知識・国際業務」の申請にあたっては、以下のような要件を満たさなければなりません。
- 学歴と業務内容に関連性があること
- 一定の学歴または職歴があること
- 採用側の経営が安定していること
- 日本人と同等またはそれ以上の給与条件であること など
「学歴と業務内容に関連性があること」とは、本人の学術的な素養をいかせる仕事であることを意味します。マニュアルさえあれば誰でもできる、単純な労働については認められません。
「日本人と同等またはそれ以上の給与条件であること」とは、すなわち同一賃金同一労働のことです。これに反している場合、在留資格が不許可になるおそれがあります。
なお、在留資格の変更は、原則本人がおこないます。直近(2024年4月〜6月許可分)では、申請から許可にいたるまで平均71. 1日かかるため、入社日から逆算し、余裕をもって進めましょう。
特定技能
特定技能は、人材確保が難しい産業分野において、一定の専門性や技能などを有し、即戦力になる外国人を受け入れる仕組みを構築するために創設された在留資格です。1号と2号に分類されます。
特定技能1号は、以下16の産業分野で働く在留資格です。特定技能1号では合計5年間、日本で働くことが可能です。日本語教育など、さまざまなサポートを受けられます。
【特定技能1号で働ける産業分野】
介護 ビルクリーニング 工業製品製造業 建設 造船・舶用工業 自動車整備 航空 宿泊 自動車運送業 鉄道 農業 漁業 飲食料品製造業 外食業 林業 木材産業
一方、特定技能2号は以下11の産業分野で働く外国人向けの在留資格です。在留できる期間に上限がないうえ、家族を連れて来られるなど、特定技能1号より優遇されています。そのため、特定技能1号より高度な技能試験に合格し、一定の実務経験がなければなりません。
【特定技能2号で働ける産業分野】
ビルクリーニング 建設 工業製品製造業 造船・舶用工業 自動車整備 航空 宿泊 農業 漁業 飲食料品製造業 外食業
在留資格「留学」から「特定技能」に変更する場合は、日本語試験と各分野の技能試験に合格する必要があります。余裕をもって手続きを進めましょう。
在留カードの在留期間を確認する
外国人留学生を新卒採用する際は、在留カードの在留期間を確認しましょう。在留カードとは「証明書」や「許可証」としての性格を有する、日本に中長期在留する外国人に交付されるカードです。
在留カードには、氏名・生年月日・性別・国籍・地域が記載されているほか、種類によっては在留期間が記されています。在留期間を超過し、日本に滞在することはできません。
また、在留カードの偽造が近年横行しています。偽造が判明した場合、本人はもちろん事業主も処罰の対象になるおそれがあります。チェックを怠らないようにしましょう。
不安な場合は、出入国在留管理庁が配布している「在留カード等読取アプリケーション」を活用するのもひとつです。
参考:出入国在留管理庁|在留カード等読取アプリケーション サポートページ
オーバーワークになっていないか
在留資格の変更前に、アルバイトをし過ぎていないか確認しましょう。外国人留学生であっても、「資格外活動許可」を得ていれば働けますが、上限が週28時間以内と決まっています。
上限を超えた場合は、在留資格の変更が不許可になる可能性が高いです。上限を超えている認識が本人になくとも、在留資格の変更時に提出する源泉徴収票で発覚するケースもあります。
事前に週何時間アルバイトをしていたか、万が一に備えて確認しておきましょう。
日本人と同額以上の給与か
外国人留学生の給与は、日本人と同額以上でなければなりません。2020年4月1日より「同一賃金同一労働」が施行されています。
「同一賃金同一労働」とは、同一企業や団体における正規雇用者と非正規雇用者の間に生じる、不合理な待遇の差を解消することを目的に導入されたものです。外国人留学生だからを理由に、日本人より給与を下げることは避けましょう。
外国人留学生の新卒採用には体制構築が重要
外国人留学生の採用には、在留資格の変更やフォロー体制の構築が必要など、さまざまな手間がかかります。一方で、日本の会社で働く意欲ある外国人留学生を採用できれば、会社にとってプラスになります。人材不足に困っている場合は、外国人留学生の新卒採用を視野に入れてみましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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