- 更新日 : 2025年8月26日
労働基準法や民法による退職は何日前?1ヶ月、2週間、即日ルールを解説
労働者には退職の自由があり、会社のルールに従って手続きをすれば会社を退職することができます。しかし、人手不足の昨今、会社を退職したいと思っても、引き止められるケースもあるでしょう。
従業員が退職するには何日前までに申し出ればよいのか、退職する際の義務や手続きを解説するとともに、退職に関するトラブルの事例なども紹介します。
目次
労働基準法や民法に退職ルールはある?
労働者が自らの意思で退職する「退職の自由」については、労働基準法には一般的な退職手続きや予告期間の明文化規定は設けられていないものの、民法には雇用契約を終了する際の基本的なルールが規定されており、実務上も民法の定めに沿って退職が取り扱われるのが一般的です。
これは、労働基準法がもともと使用者(会社側)の義務や労働条件の最低基準を定めることを目的とした法律であり、労働者による退職については原則として民法第627条などの「雇用契約の終了」に関する規定に委ねられているためです。
もっとも、労働基準法にも退職に関係する規定がまったくないわけではありません。
たとえば、雇用契約の内容と実際の労働条件が異なっていた場合に即時退職を認める規定(第15条第2項)や、契約期間が1年を超える有期雇用契約について、就業から1年が経過すれば途中退職できるとする特例(附則第137条)など、限定的な条件下で退職を可能とする条文も設けられています。
労働条件の相違があった場合の即時退職
労働基準法第15条第2項では、使用者が雇用契約締結時に明示すべき労働条件が実際と異なっていた場合、労働者は即時に契約を解除できるとされています。これは、入社後に「聞いていた条件と違う」といったケースで、退職の自由を保障する例外的な規定です。
(労働条件の明示)
第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
② 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
③ 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から十四日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。
たとえば、「雇用時に週休2日制と説明されていたのに、実際には週1日しか休めない」といった場合に、この条文が根拠となり、即日でも退職の申し出が可能となります。
有期契約の特例的な途中退職
労働基準法では、有期雇用契約を結んだ労働者については、原則として契約期間中の退職は認められていません。
しかし、例外的に契約期間が1年を超える場合には、一定の条件を満たせば契約途中でも退職できるという特例が附則第137条に定められています。
(附則第137条)
期間の定めのある労働契約を締結した労働者は、当該労働契約の期間の初日から一年を経過した日以後においては、その使用者に申し出ることにより、いつでも退職することができる。
この規定により、たとえば2年間の有期契約で雇用された労働者が、勤務開始から1年1か月経過した時点で退職を申し出た場合でも、契約期間の満了を待たずに退職が認められます。
ただし、この特例は「契約期間が1年を超える」労働契約に限って適用されるものであり、1年以内の契約には適用されません。
加えて、有期雇用契約の契約期間については、労働基準法により原則3年以内(高年齢者や専門的職種などの例外は5年以内)と定められており、長期契約による拘束を防ぐ仕組みも整えられています。
参考:有期の労働契約を結ぼうと思っているのですが、労働基準法には契約期間の制限はありますか。|厚生労働省
労働基準法での解雇の手続き
労働基準法には解雇についての定めがありますが、これは解雇する際の手続きを定めた規定です。その解雇が有効か無効かは別の話しであり、労働基準法に定めがある解雇予告を行ったからといって、必ずしも解雇が有効になるわけではありません。
解雇とは、会社の申し出によって労働契約を一方的に終了させることです。労働基準法第20条では、解雇する際の手続きを以下のように定めています。
(解雇の予告)
第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
② 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
③ 前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。
会社は従業員を自由にいつでも解雇できるわけではありません。解雇は労働契約法16条で判断され、解雇することに客観的合理的な理由があり、社会通念上相当と言えるだけのやむを得ない理由がなければ、無効になります。つまり、解雇するだけのきちんとしたルールや事実があって、常識に照らして納得できる程度の事情がなければ有効とは判断されず、簡単にはできないことに注意する必要があります。
労働基準法と民法の関係性
退職に関する基本的なルールは、民法に定められており、実務でも民法に沿って手続きが行われるのが一般的です。
民法では、たとえば無期雇用であれば2週間前の申し出で退職できること(第627条)などが明記されています。
一方、労働基準法は、使用者の義務や労働条件の最低基準を定める法律であり、退職手続きについては原則として扱っていません。
ただし、労働条件の相違による即時退職(第15条第2項)や、有期契約の途中退職に関する特例(附則第137条)など、一部の条件に限って退職に関わる規定も設けられています。
労働基準法や民法で退職は何日前に申し出ればよい?
労働基準法では退職の申し出に関する具体的な規定はありませんが、民法に基づくルールによると、無期雇用の労働者が退職を申し出る場合は、原則として退職日の2週間前に伝えれば、会社の同意がなくても契約を終了できます。
労働基準法は、解雇や労働条件の明示、安全衛生など「使用者(会社側)の義務」に主眼を置いており、労働者からの一方的な辞職(退職)については民法に委ねられています。
民法には退職(辞職)する際のルールが定められていますが、
雇用期間に定めがない無期雇用のケースと、雇用期間に定めがある有期雇用のケースとではルールが異なることに注意しましょう。
無期雇用の場合(正社員など)
正社員など、雇用期間に定めがない「無期雇用契約」の場合、退職の申し出に関しては民法第627条第1項が適用されます。これは、労働者が会社の承諾を得ずに退職できる「辞職」のルールを示したものです。
(期間の定めのない雇用の解約の申入れ)
第六百二十七条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
この条文により、労働者は退職日の2週間前に退職の意思を示せば、一方的に契約を終了させることができます。
会社の了承や承認は不要であり、退職の自由が保障されている仕組みです。
ただし、引き継ぎなどに配慮し、円滑な対応を心がけるとよいでしょう。
なお、近年では退職代行サービスを利用して辞職するケースも増えています。これらのサービスの多くは、民法に基づき2週間前の申し出を根拠として退職手続きを行っています。法的にはこのような方法でも退職は成立しますが、実務上は事前の調整や周囲への説明も踏まえた行動が望ましいといえます。
有期雇用の場合(パート・アルバイトなど)
パート・アルバイト、契約社員など契約期間のある有期雇用契約の場合は、無期雇用と異なり原則として雇用契約期間中は退職することができないため注意が必要です。民法第628条では、「やむを得ない事由」があるときに退職できることになっています。
(やむを得ない事由による雇用の解除)
第六百二十八条 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。
ここでの「やむを得ない事由」とは、健康悪化、家庭の事情、職場のパワハラなど、継続勤務が著しく困難な事情を指します。
なお、従業員に過失があり、過失によって損害が発生した場合は、会社が従業員に対して損害賠償を請求できるケースもあります。会社は損害が発生したことを立証しなければならず、損害賠償が請求できるケースは限定されると考えたほうがよいかもしれません。
就業規則が「1ヶ月前」でも法的には問題なし?
多くの会社では就業規則や雇用契約書に「退職は1ヶ月前に申し出ること」と記載されていますが、これは会社内部のルールであり、民法の規定に優先するものではありません。こうした社内規定は、従業員と会社との合意によって調整される「合意退職」の手続きを定めたものであり、法的な拘束力は限定的です。
一方、民法第627条第1項では、無期雇用の労働者が退職を申し出た場合、2週間を経過すれば労働契約は終了すると定められています。
このため、たとえ就業規則で1ヶ月前の申出が求められていても、労働者が2週間前に辞意を伝えれば、会社の同意がなくても退職は成立します。
実務上は、合意退職として1ヶ月前や3ヶ月前の申し出を前提とする会社もありますが、労働者が辞職というかたちで退職を申し出た場合、会社が拒否することはできません。
ただし、現場では引き継ぎや人手不足などを理由に「もっと早く言ってほしかった」と不満を持たれることもあります。
労働基準法における退職までの有給休暇の取り扱い
従業員が退職する際にトラブルが多く発生するのが、年次有給休暇の取り扱いです。従業員退職時の年次有給休暇の取り扱いについて解説します。
会社側は退職者の有給休暇申請を拒否できない
従業員が退職する際、原則として年次有給休暇の取得を断ることはできません。年次有給休暇は、「事業の正常な運営を妨げる場合」には時季を変更して与えることができます。これは時季変更権と呼ばれ、会社側の正当な権限・権利でもあります。
しかし、年次有給休暇は退職後に取得することはできないため、時季変更権を行使する余地がなければ認めざるを得ません。退職する従業員が年次有給休暇を申請してきた場合は、業務の引継ぎを理由に拒否することはできませんが、就業規則に退職時の引継ぎについての規定を設けておくことが望ましいでしょう。
有給休暇の買い取りは可能?
労働基準法では年次有給休暇の買い取りは原則として認めていません。これは、買い取りを認めてしまうと、従業員が年次有給休暇を利用しなくなり、年次有給休暇の法的な趣旨が損なわれてしまうからです。
ただし、従業員の年次有給休暇の取得を妨げるものでなければ、年次有給休暇を買い取ることは法律違反とはなりません。消化しきれなかった年次有給休暇の残日数分を退職時に買い取ることまで禁止しているわけではありません。一方、会社に年次有給休暇を買い取る義務はないため、従業員から買い取りを請求されたとしても、必ずしも応じる必要があるわけではありません。
労働基準法に退職する従業員の義務は定められている?
労働基準法に退職する従業員の義務に関する定めはありません。しかし、退職する従業員の義務を定めておかなければ、事業に支障が生じることがあります。退職時の従業員が守るべき義務について解説します。
予告義務
従業員が辞職により退職するケースでは、期間の定めがない雇用契約の場合、2週間前の予告が必要です。従業員が民法上の規定を守らずに退職して会社に損害を与えた場合には、会社が従業員に損害賠償を請求することもあり得ます。
退職願の提出期限・予告期間については、労働基準法や民法に規定があるわけではありません。労働契約の条件の1つとして、就業規則や労働契約書に定めることになります。就業規則や労働契約にルールを定めることによって、退職願の提出期限・予告期間を守るように従業員に義務付けることができます。引き継ぎなどを円滑に行い、円満に退職するためのルールであり、会社で予告期間の長さは任意に設定することが可能です。
引き継ぎの義務
引き継ぎの義務についても同様です。就業規則や労働契約に「退職前に引き継ぎを完了しなければならない」などと引き継ぎの義務を定めることによって、引き継ぎを行うことを労働条件として従業員に義務付けることができます。
退職する際、退職後に担当業務で支障が生じないように引き継ぎを行うのは当然と言えるでしょう。顧客への連絡や仕掛中の案件の進捗状況の説明、必要な情報の提供などを行わなければ、会社に迷惑をかけることになります。たとえ退職代行を利用して一方的に退職するにしても、引き継ぎの義務が免除されるわけではありません。
会社の正当な利益を不当に侵害しない義務
従業員が会社の正当な利益を不当に侵害して損害を与えるようなことがあれば、会社は従業員に損害賠償を請求することが可能です。以下のような行為は、会社の正当な利益を侵害すると言えるでしょう。
- 虚偽の報告書や引き継ぎ資料の作成
- 退職時に会社の重要な情報や業務上必要な情報を削除するなどといった妨害行為
- 会社に損害を与える目的でほかの従業員が退職するように誘う行為
- 退職時に機密情報・顧客情報を持ち出す行為
退職のトラブルの事例
従業員が退職する際には、トラブルが発生しやすいものです。退職時に発生しやすいトラブルについて解説します。
アルバイトが一方的に退職する場合
パートやアルバイトなどの非正規の従業員であっても、労働者であることには変わりはありません。民法や労働基準法などの法律が同様に適用されます。
「代わりを見つけなければ退職を認めない」などというのは認められません。また、年次有給休暇についても、残日数が残っていれば、会社は断ることはできません。
退職者が引き継ぎせず辞めた場合
就業規則や労働契約で引き継ぎすることが義務付けられていれば、退職者が引き継ぎをせずに辞めれば業務命令違反や誠実義務違反などの対象になります。
退職する従業員が他の競業企業に就職した際に、開発データを持ち出したり、引き継ぎを行わずにいなくなったりすることで、会社の従業員に対する損害賠償が認められた裁判例もあります。労働契約上の誠実義務の観点からも、担当業務の遂行に支障が生じないよう、適切に引き継ぎは行うべきでしょう。
試用期間中に退職した場合
試用期間中であるからといっても、退職するかしないかは労働者の自由です。企業としては、募集・採用にかかった費用、研修・教育費などさまざまな費用がかかっており、試用期間中に退職されてしまっては大きな損害となるため、損害賠償を請求したいと考えてしまうこともあるでしょう。
しかし、試用期間だからといって損害賠償が認められるケースは限定され、簡単に認められるものではありません。試用期間中に退職する従業員が多く発生するのであれば、研修や教育方法、自社の雇用管理の制度を見直す必要があるかもしれません。
労働条件に相違があった場合
労働基準法第15条第2項では、明示した労働条件が実際と異なる場合には、労働者は直ちに労働契約を解除することができることが定められています。「賃金が明示されていた条件と違う」「出勤日数が多い」「休日が少ない」などということがあればトラブルになります。
労働条件通知書や労働契約書は実態と合った内容にしなければ、労働基準法違反で指導を受ける可能性もあります。ひな型などを利用している場合にも、法律に合っているかを定期的に見直ししましょう。
参考:2024年4月から労働条件明示のルールが変わります ー 厚生労働省|厚生労働省、「2024年4月からの労働条件明示のルール変更 備えは大丈夫ですか?」
会社側が違法な引き止めを行った場合
退職の自由を妨害するような方法は認められませんが、従業員の自由な意思を尊重して、会社を辞めないように説得したり、退職日を話し合って変更するように交渉したりすることは可能と考えられます。しかし、懲戒処分をチラつかせたり、損害賠償を請求するなどと脅かしたりすることは、当然ながら認められません。
労働基準法では「前借金と賃金の相殺の禁止(第17条)」「損害賠償を予定する契約の禁止(第16条)」「強制労働の禁止(第5条)」などを定めており、不当な手段で労働者を拘束することが禁止されています。そのため、借金があるからといって退職を拒むこともできません。
退職防止のために従業員エンゲージメント向上が大切
従業員には退職の自由があり、実際に退職を申し出てきた従業員を引き止めるのは困難なケースが多いでしょう。離職防止には、雇用管理をしっかりを行い、従業員のエンゲージメント向上に取り組むことが大切です。
従業員エンゲージメントとは、会社と従業員との信頼関係や従業員の会社に対する愛着心などを意味します。従業員が働きやすい職場環境をつくり、従業員が仕事を通じて成長し、会社に貢献したいと思うことは、会社の成長にもつながるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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