- 更新日 : 2025年5月21日
職場に監視カメラを設置するとパワハラ?設置の注意点や個人情報の管理について解説
監視(防犯)カメラは、職場における安心・安全の確保、効率的な監視などのメリットをもたらします。一方で、従業員からは、「意図もせず自分自身が映像に入り込み、パワハラにつながらないか」「個人情報の漏洩になるのでは」などの懸念が寄せられます。本記事では、監視カメラの設置によるメリットと運用における注意点を中心に解説します。
目次
職場に監視カメラを設置するとパワハラになる?
職場に監視カメラを設置すること自体は、法律違反ではありません。ここでは監視カメラを設置する目的と管理について解説しましょう。
職場に監視カメラを設置する目的と知っておきたいこと
職場に監視カメラを設置する主な目的は以下の3点です。
- 職場の秩序
- 従業員の安全確保
- 生産性の向上(例:製造工程の品質管理) など
カメラを設置すること自体が法律に違反することはありません。むしろ、カメラを設置することにより、パワハラやセクハラを抑制する効果と相談があった際の事実認定にも役立ちます。
ただし、カメラに記録された映像は個人情報です。設置場所や利用方法、保存方法については明確な基準を設け、社内に周知することが必要です。
撮影した映像の管理は?監視カメラ設置による不快感をどう考える?
前述のとおり、監視カメラの設置は、職場の秩序や安全の確保、生産性の向上など職場全体の利益を目的としているものです。国が定めているパワハラの定義の観点から見ても、監視カメラの設置という行為がパワハラに該当することは考えられません。
しかし、従業員の中には監視カメラの設置に対し嫌悪感やストレスを抱く人もいます。監視カメラの設置をする際には、個人情報保護の観点から適切な措置を講じることが重要です。
職場の監視カメラはパワハラ防止に効果的?
パワハラ問題では、加害者がパワハラの自覚を持っていない、自分の言動を正当化するという傾向があると言われています。この場合、パワハラが顕在化することなく進行し、良からぬ方向に事態が進む可能性があるため、従業員に監視カメラを設置する(設置した)旨について周知することが、心理的抑止力として一定の効果があるとされているのです。
また、パワハラの認定や処分を適正に行ううえで、カメラ映像は一定の判断材料となり得ます。ただし、音声の記録がなければ言葉によるハラスメントの確認は難しい場合もあるため、他の証拠と併用することが適切です。
職場に監視カメラを設置する目的
デジタルデバイスとしてのカメラは、映像の再現性、加工や操作の自在性、設置位置の任意性、高い遠隔操作性などの特性があるため、職場でもさまざまな利用が可能です。
犯罪や不正行為の防止
職場に監視カメラを設置することにより、監視の眼が強化され、犯罪や不正行為を未然に防ぐだけでなく、パワハラやセクハラなどの発言や行動の抑止にもつながります。また、従業員からセクハラやパワハラの相談があったときには、カメラ映像を確認することで事実を正確に把握しやすくなり、適正な対応が可能です。
セキュリティの向上
多くの人が来訪する職場では、不審者が侵入する可能性が高く、来訪者や従業員に危険が及ぶ恐れがあります。また、機密情報などを保管しているスペースでは、部外者の侵入により情報が漏洩する危険もあります。社内で監視カメラの設置情報を共有しておくことは、こうした危険を未然に防止する効果をもたらすでしょう。
業務効率化
ここではカメラを活用した業務効率化の事例をご紹介します。今日の製造現場では、部品の取付け位置やねじ止め位置などの確認を目視検査からカメラ映像処理システムへの変更による自動化が進んでいます。また、多数の工作機械の動作をカメラにより常時操作する、異常な動作を瞬時に確認することも可能となりました。これによって不良品の発生を最小限に抑えるとともに、映像のチェックにより問題点を容易に発見することができるようになっています。
労務管理
カメラの設置によって、個々の従業員の出勤状況、業務遂行の様子、退社の時刻、許可のない残業の有無などを把握することも可能です。特に勤怠管理については、タイムカードなどのデータと併用することによって、詳細な労務管理が期待できます。勤務に問題のある従業員の場合、勤務態度を記録し、これをデータ化することによって的確な指摘と正当な処分を行うこともできるようになっています。他にも、建設現場の遠隔監視による効率的な安全管理も容易いなりました。
職場に監視カメラを設置する場合の注意点
従業員の容姿が写っている監視カメラ映像は、個人情報に含まれます。個人情報保護法に基づき、カメラ設置に関しても細心の注意を払わなくてはなりません。ここでは主な注意点をご紹介します。
カメラの設置目的や場所を事前に全従業員に通知する
監視カメラと隠しカメラは、同じようなイメージを持つ方がいるかと思いますが、実際のところ、目的に相違があります。無用なトラブルを避けるためにも、事業者や管理者は、カメラを設置する目的や必要性を従業員や来訪者に対し明示しなくてはなりません。また、監視カメラの設置を明示することは、撮影に対する苦情や反発、混乱を減らすだけでなく、犯罪抑止効果も期待できます。
社内規程にルールを明記する
監視カメラを設置するにあたっては、設置目的、設置場所、映像の利用目的、映像の保管期間、映像の利用手続き、映像の管理責任者などについて就業規則などの社内規程に詳細ルールを定めておく必要があります。
自治体の条例やガイドラインを確認する
監視カメラ(防犯カメラ)の設置に関しては、個人情報保護法だけでなく地方公共団体が制定している条例やガイドラインも確認しておく必要があります。
自治体によっては、公共の場所に防犯カメラを設置するには、事前の届け出を義務付けているところもあります。
ご参考までに政府機関や公的法人と自治体が定めているガイドラインは、以下のとおりです。
公益社団法人日本防犯設備協会「防犯カメラシステムガイド」
公益財団法人日本防犯設備協会「防犯カメラと個人情報保護法の取扱い」
総務省「カメラ画像利活用ガイドブック」
経済産業省「カメラ画像利活用ガイドブック」
社員のストレスをケアする
従業員のストレスをケアする最善の方法は、双方が納得したルールに基づき監視カメラを設置・運用することです。
当然のことですが、職場における監視カメラの設置は必要最低限とし、従業員のプライバシーに関わる空間(トイレ、更衣室、ロッカー、休憩室など)を設置しないよう配慮が必要です。また、労務管理の一環であっても、監視カメラの映像を用いた指導や叱責は、パワハラ防止法に抵触する恐れがあるため、慎重に取り扱いましょう。
録画したデータを適切に保存する
録画した映像データの管理にあたっては、個人情報保護法に基づき、組織的、人的、物理的、技術的安全管理措置を考えなければなりません。管理するポイントは、データにアクセスできる人員を必要最低限とし、アクセス権限の管理、アクセスログの記録や監視を厳格に行うことです。また、映像データの暗号化やセキュリティ管理を行い、映像データの保存期間も適切に設定しましょう。
監視カメラの画像は個人情報に該当する?
監視カメラによる映像によって、個人を特定できる情報である場合は、個人情報保護法に定める個人情報に該当します。したがって、監視カメラを設置する事業主は、個人情報保護法に定める義務を負うことになります。
ご参考までに関連情報のリンクは以下の通りです。
政府広報オンライン「2 どんな情報が『個人情報』になるの」
e-GOV法令検索「個人情報の保護に関する法律」§16~
監視カメラの画像は個人情報
個人情報保護法における「個人情報」とは、個人に関する情報で、氏名、生年月日、住所、顔画像など特定の個人を識別できる情報のことです。監視カメラによって撮影された映像の中には、顔がはっきり写っている映像はもちろん、衣服とオフィスの様子から個人を特定できる映像もあります。これらは個人情報に該当します。
監視カメラを設置し個人情報を取り扱う事業主は、個人情報保護法に基づき、さまざまな義務が課されています。また、この義務に違反した場合には、個人情報保護法に基づき、刑事罰や民事上の損害賠償責任を負う可能性があります。
安全管理措置を講じる必要がある
監視カメラを設置した場合、事業主はカメラによって撮影された個人情報について次のような義務を負うことになります。
- 撮影された映像の利用目的をできる限り特定し、その目的を公表しなければなりません。利用目的の範囲を超えて映像データを利用する場合には、あらかじめ本人の同意を得る必要があります。
- 特定した利用目的の範囲を超えた撮影や利用はできません。例えば、防犯目的で設置した監視カメラの映像を従業員の勤務態度の確認などに使用することは利用目的の範囲外となります。
- 事業主は、監視カメラで撮影した個人情報が外部に流出することを防ぐために必要な安全管理措置を講じなければなりません。具体的には、組織的安全管理措置(取扱責任者の設置など)、人的安全管理措置(従業者の教育など)、物理的安全管理措置(映像データ記録媒体の厳重な保管など)、技術的安全管理措置(アクセス制御、データセキュリティソフトの導入など)が求められます。
監視カメラの設置には従業員への配慮と全社での共通認識を持たせることが重要
社内に監視カメラを設置することは、従業員が自らの勤務態度を律する効果やパワハラの抑制がある反面、職場のストレスが増える恐れもあります。設置位置に関しては個人情報も絡むため、慎重に考えなければなりません。
監視カメラの設置にあたっては、事業主ならびに管理者と従業員が監視カメラの設置目的や利用方法などについて共通認識を持てるよう準備することが重要です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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