- 更新日 : 2025年1月10日
パワハラ研修は義務?モデルカリキュラムや効果を上げるポイントを解説
労働施策総合推進法とは、事業主に対し、労働者の就業環境が害されることのないようパワハラ防止措置を講じることを義務付けています。会社でパワハラ研修を継続的に実施することは、パワハラの発生や再発を防ぐうえで重要な施策の一つです。
本記事では、パワハラ研修のカリキュラム編成や効果的な実施方法などを紹介します。
目次
パワハラの研修は義務?
2020年6月1日に施行された労働施策総合推進法第30条の2では、事業主は、職場におけるパワーハラスメントを防止するために必要な措置を講じる義務があると定めています。
ここでは、パワハラ防止措置として事業主が行うべき対応について説明するとともに、パワハラ防止研修の重要性を説明します。
2019年の法改正によりパワハラ防止措置が義務化
パワハラ防止に向けて事業主が講じるべき措置は次の通りです。
①事業主の方針などの明確化および周知・啓発
パワハラに対する懲戒処分を行うためには就業規則に明記する必要があります。就業規則を見直し、パワハラ行為を禁止する旨を労働者に周知・啓発します。
②相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
→パワハラ相談窓口を設置し、労働者の相談にしっかり対応できる体制を整えましょう。
③職場におけるパワハラに関する事後の迅速かつ適切な対応
→パワハラの事実関係を迅速かつ正確に確認し、加害者に対し厳正な処分などを行うとともに、被害者へのケア、再発防止などの措置を講じます。
④以上のほかに講じるべき措置
→関係者のプライバシーを保護するとともに、パワハラ相談を理由とする不利益取扱いを禁止します。
パワハラ研修の重要性
パワハラを防止するためには、労働者自らがパワハラの内容を十分理解し、禁止行為を行わないという心構えを持つことが重要です。そのために有用なのが、各企業でパワハラ研修を継続的に取り組み、パワハラに関する正しい知識を深めることが挙げられます。
パワハラ研修を実施する方法
ハラスメント研修には、いくつかの実施方法がありますが、それぞれにメリット・デメリットがあります。それぞれの方法の特徴を知って、複数の方法を組み合わせると効果的です。
社内の担当者が研修を実施する場合
【メリット】
- 社内の課題を踏まえたテーマ設定やケーススタディの選択が可能
- 社員が講師となるので講師報酬が不要 →研修費を抑えることができる
【デメリット】
- 専門の講師と比べると資料や説明に不足感がある可能性が高い
- 研修前の事前チェック(※特に専門知識の内容の相違)に時間を要する
- 研修担当者の業務が増える(※場所の設営や配布資料のプリントなどの作業)
厚生労働省が公開している研修用動画や資料を活用しながら、研修を計画することとなります。
⇒ あかるい職場応援団 https://www.no-harassment.mhlw.go.jp/
外部の講師を社内研修に招く場合
【メリット】
- 自社の課題にマッチしたプログラムの編成が可能
- 配布資料の作成や法理チェックが不要
- 熟練の講師であれば質疑応答があってもスムーズに対応可能
【デメリット】
- 講師報酬が発生 →研修費のコストが高くなる可能性あり
- 研修場所の設営や講師手配に関する時間が増える
外部の研修に参加する場合
【メリット】
- 自社内での準備が不要
- 専門性の高い研修を受講可能
【デメリット】
- 受講料と交通費が発生
- 研修内容によっては自社の求めている課題と合わない可能性がある
オンライン研修
【メリット】
- 時間や場所を選ばないので参加者の都合に合わせて受講可能
- テレワークとの両立が図りやすい
【デメリット】
- 講師と受講者とのやり取りや質疑応答ができない場合がある
- 途中離席がしやすく、研修に集中しづらい場合がある
パワハラ研修のモデルカリキュラム
パワハラ問題のおおもとには、パワハラ行為の加害者の意識があります。パワハラ研修のカリキュラムを作成する場合には、一人ひとりの自覚を促すことが大事なポイントとなります。
パワハラ研修の考え方
パワハラの具体例を見ると、「加害者が自分の常識や価値観を相手に一方的に押しつけ、相手の立場や気持ちを考慮していない」というケースがあるといわれています。つまりパワハラの主要な原因は、加害者の意識の問題ということがわかるでしょう。
パワハラ研修のカリキュラムを作成するにあたり、自分の行為がパワハラに該当する可能性、被害者や会社に大きなダメージを及ぼすリスクを意識すること重要です。
パワハラ研修のカリキュラム
パワハラ研修のカリキュラムの構成は、次のように検討しましょう。
【パワハラ研修 モデルカリキュラム】
- パワハラの定義を知ったうえで、厚生労働省が提示しているパワハラ6類型を参考にし、パワハラの具体的なイメージを形成考える
→パワハラとならない注意・指導のあり方の理解につながる - パワハラ行為によって被害者が受けるダメージ(外部からはわからない内面的苦痛)を理解する
→自分の行為をコントロールできる方向につなげる - パワハラ問題が会社に及ぼす悪影響を理解する
→パワハラが職場の秩序や組織風土を乱すことを知る - パワハラに関するルールを知る
→会社の就業規則、パワハラに関する裁判例などによって、自分の行為に対する客観的規制を理解する
研修後のフォローアップも大切
研修の効果を定着させるためには、フォローアップも重要です。研修後、一定の期間が経過したタイミングで研修を振り返り、パワハラ行為の類型や注意点などを再確認します。
パワハラ研修の効果を上げるために意識するポイント
ハラスメント研修の効果を上げるポイントは、以下の通りです。
- 受講者が当事者意識を持てるよう工夫する
一人ひとりがパワハラ行為に関する具体的なイメージを形成できるまで繰り返し研修を実施することが大切。 - パワハラ行為の具体的なイメージができるよう工夫する
職位別に研修を行うだけでなく、上司と部下が一緒に研修を受ける機会を設ける。パワハラ行為がイメージできるよう、ロールプレイング手法を取り入れる。 - 研修内容を定期的にアップデートし、繰り返し受講してもらうよう促す。
パワハラ研修に関するよくある質問
パワハラ研修を実施する際、実施頻度や受講対象者の構成、実施プログラムなどさまざまな点で工夫する必要があります。ここでは、パワハラ研修に関するよくある質問について、以下の通り、まとめました。
実施頻度はどのくらいがベストですか?
パワハラ研修の頻度については、一般的には「1年に1回」が望ましいとされていますが、あくまでも目安です。研修の効果を高め定着させるには、研修の実施規模を職場全体、部門ごとに分けるなどして、年に複数回実施できるようにしておきましょう。その方が、従業員研修日程の選択肢が広がり、スケジュールの調整がしやすく便利です。
研修頻度を高めることは、パワハラの理解を深めるだけでなく、研修そのものや加害者や加害者予備軍に対するパワハラ抑止効果をもたらします。なお、実際にパワハラ事件が生じたら、その都度研修を行うのも効果的といえるでしょう。
管理監督者と一般従業員の研修は分けたほうがいいですか?
パワハラの事例を見ると、指揮命令関係と人間関係を混同しているケースや上司・先輩が仕事の進め方や価値観を押し付けるといったケースが見られます。研修プログラムを工夫することにより、管理監督者と一般従業員が混在する研修の方ほうが効果が高い場合もあります。
全雇用形態の従業員に対して研修が必要ですか?
役員、管理職、常勤社員、非常勤社員を問わず、職場にいる全ての人間が、パワハラの加害者、被害者になる可能性があります。そのため、パワハラの定義や事例、加害者と被害者の線引きについて全従業員が正しく理解できるよう、ハラスメント研修を実施することが重要です。アルバイトや派遣社員など非正規雇用の立場の弱い従業員には、ハラスメントを受けた場合の会社の救援体制の周知をしましょう。
パワハラ以外のハラスメントについても併せて研修していいですか?
パワハラを起こす人物は、セクハラ、マタハラ、ジェンハラ(ジェンダーハラスメント)などのハラスメントを起こす可能性が高いと考えられます。それぞれのハラスメントの本質は、基本的に同一だからです。
パワハラ、セクハラといった個別の領域があるのではなく、「ハラスメント」という行為の現れ方としてパワハラやセクハラがあると理解する方が現実的です。望ましい方法は、それぞれのハラスメントの特性を強調して行う研修とハラスメント全体に関する研修を併用することです。
パワハラ防止の近道は継続的なパワハラ研修の実施が有効
パワハラをはじめとするハラスメントは、労働者の就業環境の悪化だけでなく、企業の信頼やイメージにもダメージを与えます。そのため、パワハラ防止措置の構築は、労働者のためであると同時に事業主にとっても必要な取り組みです。
パワハラ防止措置を効果的に運用し、職場全体のパワハラをゼロベースにするには、パワハラ研修の実施が有効です。研修を通じて、企業で働く全ての人がパワハラの定義やその具体的な事例を正しく理解することができるようになります。そして、パワハラ研修を成功させるには、継続的に実施し、かつ全従業員が参加できる体制を築くのが大切です。パワハラ研修が高い成果を上げられるよう、この記事を活用してください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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