• 更新日 : 2024年11月1日

労働保険の年度更新とは?時期や電子申請・申告書の作成方法、効率化を解説

労災保険や雇用保険の年度更新は、電子申請の導入により、効率的な申告が可能となっています。これにより、平日の日中に労働局や労働基準監督署に出向く必要がなく、休日や夜間でも自宅から申告できるようになりました。

本記事では、労働保険の年度更新について、その時期や電子申請の流れ、申告書の作成方法などを詳しく解説します。

労働保険の年度更新とは?

労働保険の年度更新は、労働者を雇用する事業所に義務付けられた労働保険料の年度ごとの申告・納付に必要な手続きです。労働保険の年度更新は、毎年4月1日から翌年3月31日までの年度期間ごとを単位として計算する仕組みになっています。

事業所は、毎年度、労働者に支払う賃金総額の概算額をもとに当年度の労働保険料を算出し、前払いの形で納付します。そして、年度が終了した3月時点の支払済みの賃金総額によって確定した労働保険料を算出し、清算します。そして、新年度の概算保険料を算出し、前払いで納付します。これが労働保険料の年度更新です。過不足があればなお、新年度の労働保険料に不足額として加算するか、充当するという処理になります。

労働保険料である労災保険料と雇用保険料は、保険事故のリスクを考慮し、業種によって定められています。雇用保険料は労働者負担と事業主負担がありますが、労災保険料は事業主が全額負担となっています。

参考:「労働保険の年度更新とは」厚生労働省

参考:「労働保険料の申告・納付」厚生労働省

労働保険の年度更新の実施概要

労働保険の年度更新では、次の実施内容が必要になるでしょう。

実施概要
労働保険の申告期限毎年6月1日~7月10日の期間

※土日祝日は除外

労働保険の対象者事業所が雇用する労働者
必要な提出書類申告書(労働保険概算・確定保険料/石綿健康被害救済法一般拠出金申告書)
年度更新書類の提出先
  • 金融機関(銀行、信用金庫、郵便局など)
  • 黒色と赤色で印刷された申告書:所轄都道府県労働局または諸葛労働基準監督署
  • ふじ色と赤色で印刷された申告書:所轄都道府県労働局
年度更新書類の提出方法年度更新前に送られた申告書に必要事項を記入し、保険料などを添えて提出
申告・納付の対象
  • 申告の対象:事業所が雇用するすべての労働者に支払ったその年度の賃金総額に事業で定められた保険料率を乗じた金額
  • その年度に支払った賃金総額に一般拠出金率(1000分の0.02)を乗じた金額

参考:「労働保険の年度更新とは」厚生労働省

労働保険料の納付方法・納付期限

労働保険料は、労働局から届いた申告書に必要事項を記入し、労働基準監督署や労働局に提出したうえ、金融機関に納付します。

また、労働保険料の年度更新は、申告書を電子申請による電子納付が可能です。

労働保険料の納付期限は、毎年6月1日から7月10日の期間(土日祝日は除外)となっています。この期間内に必ず手続きを行う必要があります。期限内に納付できない場合は、政府が保険料や拠出金の額を決定し、追徴金としてその納付すべき保険料・拠出金の10%相当額を課すことがありますので、十分に注意が必要です。

労働保険料は、延納(分割納付)ができます。延納の対象となる事業所は、概算の保険料額が40万円以上(労災保険または雇用保険のどちらか一方の保険関係だけが成立している事業所は20万円以上)または、労働保険事務所に労働保険事務の委託をしている事業所です。条件を満たしている事業所は、労働保険料の延納を3回に分割して納付できます。分割納付ができるパターンは、次の3つです。

前年度に成立した事業場
第1期納期第2期納期第3期納期
分割納付期間4月1日~7月31日8月1日~11月30日12月1日~3月31日
納付期限7月10日10月31日1月31日
4月1日~5月31日に成立した事業場
第1期納期第2期納期第3期納期
分割納付期間成立した日~7月31日8月1日~11月30日12月1日~3月31日
納付期限成立した日の翌日から数えて50日10月31日1月31日
6月1日~9月30日に成立した事業場
第1期納期第2期納期
分割納付期間成立した日~11月30日12月1日~3月31日
納付期限成立した日の翌日から数えて50日1月31日

成立の対象は、保険関係(労災保険や雇用保険)です。また、保険関係が成立した日から50日に関しては、10月1日以降の成立では、延納が認められないルールになっています。10月1日以降に成立した事業所は、成立日から3月31日までの期間の保険料を一括納付しなければなりません。

※表データなど参考:「労働保険料の申告・納付」厚生労働省

そもそも労働保険とは?

労働保険は、労働者のための2つの保険(雇用保険と労災保険)を総称した保険制度です。ここでは、それぞれの保険について概要などを解説します。

雇用保険

雇用保険は、労働者が失業した際の失業給付や新しい仕事先へ向けた教育訓練などを支援するための保険制度です。雇用保険の目的は、労働者が失業した場合などに必要な給付を行い、労働者の生活および雇用の安定を図るとともに再就職の援助を行うことです。保険給付事業以外に雇用安定事業、能力開発事業という雇用保険二事業も行っています。

保険料については、事業主は、保険給付事業分を被保険者である労働者と折半するほか、雇用保険二事業分は全額負担することになります。

雇用保険の被保険者となるには、次の加入条件をクリアしなければなりません。

  • 1週間の所定労働時間が20時間以上
  • 継続した雇用が31日以上見込まれる

また、失業した際、転職までの生活保障となる基本手当の支給要件は、原則として、離職前2年間に被保険者期間が12カ月以上必要となります。

労災保険

労災保険は、労働者に業務災害および通勤災害が生じた際に本人または遺族に対して、事業主に代わって補償する保険です。保険給付には、次の種類がありますが、通勤災害の場合は事業主に補償責任がないため、「補償」という文言はつきません。

  • 療養(補償)など給付
  • 休業(補償)など給付
  • 障害(補償)など給付
  • 遺族(補償)など給付
  • 葬祭料など(葬祭給付)
  • 介護(補償)など給付

労災保険料率は、全額事業所が負担します。負担割合は、業種によって異なりますが1000分の2.5〜1000分の88の範囲です。

※参考:令和2年度概算保険料の計算「労働保険(雇用保険・労災保険)」TOKYOはたらくネッ

また、原則として労災保険に加入できるのは、雇用されている労働者だけですが、例外として特別加入制度があります。特別加入制度は次の対象者が加入できます。

  • 第一種:中小企業主(小規模事業の経営者など)
  • 第二種:一人親方(個人事業主・自営業者など)
  • 第三種:海外派遣者など
  • 特定作業従事者:農業関連、介護作業、芸能関係、情報処理などの作業従事者

※参考:労災保険の特別加入制度「一般社団法人全国労働保険事務組合連合会」

労災事故報告書のテンプレート(無料)

以下より無料のテンプレートをダウンロードしていただけますので、ご活用ください。

労働保険の年度更新の計算方法と保険料率

労働保険の年度更新では、雇用保険および労災保険それぞれに次の計算方法で保険料率が決定します。

雇用保険の保険料率

雇用保険の事業別保険料率は、次の通りです。雇用保険二事業は、失業給付金制度と失業者の教育支援に関する2つの事業が該当します。

労働者負担事業主負担労働者負担+事業主負担を合算した雇用保険料率
事業主負担失業給付・育児休業給付の保険料率雇用保険二事業の保険料率
一般的な事業0.6%0.95%0.6%0.35%1.55%
農林水産・清酒製造事業0.7%1.05%0.7%0.35%1.75%
建設事業0.7%1.15%0.7%0.45%1.85%

※参考:「令和6年度の雇用保険料率について」厚生労働省

これらの雇用保険料率をもとに総支給額30万円の給料で計算した場合、雇用保険料は、次の結果となりました。

【雇用保険料率計算条件】

  • 雇用保険対象期間:2024(令和6)年4月1日~2025(令和7)年3月31日
  • 事業区分:一般
  • 労働者の支払:源泉控除
  • 総支払額(毎月の給与):30万円

【計算結果】

  • 従業員負担:1,800円(0.6%)
  • 事業主負担:2,850円(0.95%)
  • 雇用保険料率:4,650円(1.55%)合算

労災保険の保険料率

労災保険の場合は、複数の事業区分に分けて保険料率が適用されます。ここでは、いくつかの事業の労災保険料率を紹介しましょう。単位は(1/1,000)です。

※法令上、%では表記されていないため、表の「労災保険料率」

事業のカテゴリー事業の種類労災保険料率
林業林業52
鉱業金属鉱業88
採石業37
建設事業舗装工事業9
既設建築物設備工事業12
製造業食料品製造業5.5
コンクリート製造業13
電気機械器具製造業3
運輸業交通運輸事業4
港湾荷役業12
その他の事業その他の各種事業3

その他の事業など詳しくは、以下の資料を参照ください。

※参考:令和6年「労災保険率表」厚生労働省

労災保険についても、平均的な従業員の給与をもとに保険料を計算してみました。

【労災保険料率計算条件】

  • 労災保険対象期間:2024(令和6)年4月1日~2025(令和7)年3月31日
  • 事業区分:その他の各種事業
  • 従業員数:20人
  • 平均年収:420万円(退職金および一時金は除外)

【計算式】

労災保険料率 = 3/1,000(0.3%)

平均年収420万円×20人=総賃金8,400万円

【計算結果】

8400万円×0.3%=25万2,000円 
25万2,000円÷20人=一人当たり1万2,600円

一般拠出金の計算

労災保険適用事業場では、アスベスト(石綿)による健康被害の救済に一般拠出金の負担が求められます。

※労災特別加入者や雇用保険の未加入の事業場は除外

一般拠出金の料率は、業種を問わず一律0.002%の一般拠出金率です。次の計算式で割り出します。

事業主が前年度従業員に支払った賃金総額 × 一般拠出金率0.002%

【計算例】賃金総額が2,000万円の場合

賃金総額2,000万円×0.002%=400円

一般拠出金は、全額事業所の負担となっています。

参考:「一般拠出金の申告・納付」厚生労働省

労働保険の年度更新の流れや手続き

労働保険の年度更新は、作成の流れや時期について理解が必要です。ここでは、申告書の作成方法について解説します。

①年度更新の書類の到着

労働保険の年度更新に必要な書類(年度更新申告書用紙)は、各事業所に年度更新期間前後を目安として到着します。到着後は、年度更新期間内に申告書を作成し保険料の納付を進めましょう。

②賃金集計表を作成する

厚生労働省の公式ホームページでは、主要様式ダウンロードコーナー(労働保険適用・徴収関係主要様式)を設けています。

「確定保険料算定基礎賃金集計表」も上記のリンクからExcelでダウンロード可能です。

なお、「確定保険料算定基礎賃金集計表」には、申告する年度の4月1日から翌年3月31日までに使用した全被保険者に支払った賃金総額を記入して算出します。賃金を記入する際、年度内賃金の支払いが決定しているが、実際の支払いは次年度だとしても書面上の年度に含めて計算しましょう。

③申告書を作成する

「確定保険料算定基礎賃金集計表」は、申告年度に支払った賃金の総額から確定保険料の暫定基礎額が計算できます。申告書には、計算できた算定基礎額を転記し、確定保険料の金額を計算しましょう。

さらに、確定保険料額と前年度に申告した概算保険料額の過不足分を計算し、申告済み概算保険料額の不足額を記入できれば申告書は完成です。

④申告書の提出と保険料の納付

完成した申告書を提出する際は、申告書の1枚目(提出用)であることを確認してください。申告書の2枚目は、「事業主控」です。申告書の2枚目「事業主控」に受付印が必要な場合は、申告書の1枚目と一緒に労働局に提出しましょう。

完成した申告書は、提出期間内(6月1日〜7月10日)に3つの方法から選び提出しましょう。

  • 来庁による提出
  • 郵送による提出
  • 電子申請による提出
来庁による提出
提出先申告書注意事項
金融機関提出用を持参口座振替および納付金額がない場合は金融機関での提出不可
管轄の労働局提出用を持参
労働基準監督署不要
社会保険・労働保険徴収事務センター(年金事務所内)提出用を持参
※申告書同封のお知らせに上記機関以外の提出方法が記載されている場合もある

参考:「申告書の提出、保険料の納付の方法」厚生労働省

郵送による提出の場合は、提出用の申告書を申告書が送られてきた所轄の労働局あてに郵送しましょう。申告書の2枚目「事業主控」に受付印が必要な場合は、返信用封筒の同封が必要です。

保険料の納付は、申告書から領収通知書を切り離していない状態で金融機関へ提出のうえ納付します。保険料の納付は、口座振替や電子納付でも納付が可能です。電子申請による提出については、この後の項で説明します。

労働保険の年度更新で間違えやすいポイント

労働保険の年度更新を作成する際は、いくつか書き方や計算方法で間違いやすいポイントがあります。注意すべきポイントについて解説しましょう。

申告書や納付書の印字数字・文字は一切訂正不可

申告書や納付書(領収済通知書)に金額を記入する際は、あらかじめ印字されている数字や文字は、訂正できません。また、納付書に記入する内訳や納付額の金額も訂正できないので注意しましょう。訂正が必要な場合は、所轄の都道府県が使用する新しい納付書で作り直しましょう。

受付印が必要で返信用封筒を同封する際は切手を貼る

申告書の提出時に提出用の申告書だけではなく、事業主控の申告書に受付印が必要な場合があります。その際、返信用封筒の同封が必要ですが、返信用封筒に切手を忘れずに貼りましょう。

労働保険の年度更新を電子申請でする場合

労働保険の年度更新は、電子申請でも対応可能です。2020年4月より、資本金などが1億円以上の法人や相互会社、投資法人、特定目的会社などの法人は、電子申請の一部の手続きが義務化されました。

参考:「電子申請義務化リーフレット」厚生労働省

労働保険の年度更新を電子申請で対応することは、次のメリットをもたらします。

  • 迅速な申請および記入漏れ・記入ミスの防止ができる
  • 来庁不要で自宅やオフィスから24時間365日いつでも申請できる
  • 申請用紙や来庁までの移動コストが削減できる

労働保険の年度更新は、電子申請に切り替えることで人為的なミスやコストの削減が期待できます。さらに、来庁などのための時間的な制約も不要なため、業務負担の軽減につながるでしょう。

e-Govから電子申請する手続き

労働保険の年度更新を電子申請で行うには、e-Gov電子申請を利用します。e-Gov電子申請は、パソコンを介してインターネット上で申請手続きを進める電子申請サービスです。使い方は、次の手順で進めます。

  1. e-Govアカウント登録
  2. ブラウザの設定
  3. パソコン用のアプリインストール

初期設定の利用環境が整えば、準備完了です。労働保険料などは、金融機関に口座振替納付として申込みができます。また、利用しているネット銀行が対応可能であれば電子納付も可能です。

労働保険の年度更新に関するよくある質問

労働保険の年度更新に関しては、いくつかのよくある質問があります。ここでは、よくある質問と回答を紹介します。

年度更新の申請後に訂正はできる?

年度更新の申請後の訂正は、「労働保険訂正申告理由書」を添えて訂正申告ができます。訂正申告に必要な書類や提出は、「労働保険訂正申告理由書」に記載されている内容に沿って用意しましょう。

労働保険の年度更新が遅れたらどうなる?

労働保険の年度更新の手続きが遅れた場合は、政府が保険料や拠出金の額を決定します。その決定した金額に追徴金を課して請求されるでしょう。

労働保険の年度更新を効率化するには?

労働保険の年度更新を効率化するには、マネーフォワード クラウド社会保険の導入で解決できます。マネーフォワード クラウド社会保険では、労働保険の年度更新に対応し、必要な帳票の編集や出力を行うことが可能です。

例えば、労働保険の年度更新手続きは、各種情報の閲覧から編集まで詳細に設定できます。前年度の設定をそのまま使うことや、新年度で改正された内容を反映させ、すべて設定しておけば申請時期がきても慌てずに済むでしょう。

労働保険の年次更新は電子申請で効率化しよう

労働保険の年次更新は、来庁による申告・納付や郵送による提出など、小さな不備があれば訂正申告や申告書の再度作成が必要になります。その打開策にもなる方法が電子申請・電子納付です。

労働保険の年次更新は、電子申請が可能です。厚生労働省の提供するe-Govなどの電子申請システムの活用が業務の負担を軽減するでしょう。また、クラウド会計システムとのシームレスな連携が可能なマネーフォワード クラウド社会保険を活用すれば、会社の申告書関連の電子化を進めることができます。


※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。

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