- 更新日 : 2025年10月31日
厚生年金保険は20年加入するとお得?受給額はいくら増える?
現行制度では、厚生年金は10年以上かけると65歳以降に老齢年金を受給することが可能です。さらに、20年以上かけると加給年金が加算され、支給額が増額されます。厚生年金に20年加入した場合と20年未満では、いくらくらい受給額に差が出るのでしょうか。この記事では、厚生年金に20年以上加入するメリットについて紹介します。
目次
厚生年金保険に20年加入するメリット
厚生年金保険とは、会社員や公務員など、会社や組織に雇用されている方が加入する公的年金制度です。同じく公的年金に分類される国民年金は、個人事業主や自営業者、学生や無職の方が加入します。
日本は国民皆年金制度を敷いているため、20歳以上60歳未満の全国民は国民年金に加入しなければなりません。そのため、厚生年金保険の加入者は、同時に国民年金の加入者でもあります。なお、厚生年金に加入年齢は規定されておらず、厚生年金適用事業所に就職した時点で加入となり、70歳に到達するまで保険料を納付しなければなりません。例えば、20歳未満で就職した場合、20歳になるまでは厚生年金には加入していて国民年金には未加入という状態になるため気をつけましょう。
現行制度においては、国民年金もしくは厚生年金に10年以上加入することで、65歳から老齢年金を受給することができます。国民年金加入者は老齢基礎年金を、厚生年金加入者は老齢基礎年金に加えて老齢厚生年金も上乗せ受給可能です。さらに、厚生年金に20年以上加入している方は、加給年金も上乗せして受給することができます。ここでは、厚生年金に20年以上加入することで得られるメリットについて解説しましょう。
受給額が増える
厚生年金加入者が65歳以降に受給できる年金は、老齢基礎年金と老齢厚生年金に分けて考えることができます。老齢基礎年金は元々「定額部分」と呼ばれており、加入期間に基づき計算される年金です。一方、老齢厚生年金は「報酬比例部分」と呼ばれ、加入期間と報酬額に比例します。日本の年金制度は2階建て構造になっており、国民年金加入者は老齢基礎年金のみ受給可能です。厚生年金加入者は老齢基礎年金に加え、老齢厚生年金も上乗せして受給することができます。

現行制度では、国民年金もしくは厚生年金に10年以上加入することで、65歳以降に老齢年金を受給することが可能です。老齢基礎年金は、40年間保険料を納付することで満額受給することができます。老齢厚生年金は加入期間とその間の報酬に比例するため、加入期間が長ければ長いほど、その間の報酬が高ければ高いほど年金も多く受給することができるでしょう。
老齢基礎年金・老齢厚生年金ともに加入期間に応じて受給額が増えるため、20年以上加入する大きなメリットとなります。
参考:年金を受けとるために必要な期間が10年になりました|厚生労働省
加給年金と老齢年金がもらえる
さらに、厚生年金に20年以上加入すると、老齢年金に加えて加給年金も受給することができます。加給年金とは、20年以上厚生年金加入期間のある方が65歳に到達したとき、その方に生計を維持されている配偶者または子がいる場合に支給される年金です。

65歳到達後に加入期間が20年以上となった場合は、在職定時改定時もしくは退職改定時、または70歳到達時に加算されます。在職定時改定は、働きながら老齢厚生年金を受け取る、いわゆる在職老齢年金を受けている方が毎年基準日に年金額が改定される新たな制度です。退職改定では、働いていた方が退職する際に、退職後の年金受給額が決まります。さらに、厚生年金は70歳で資格を喪失するため、その際にも加給年金の加算を受けることが可能です。
加給年金には年齢制限があり、配偶者または子が下記の年齢に到達した時点で加算は終了します。さらに、離婚や死別等で生計維持関係が終了した場合も加算が終了するため気をつけましょう。
| 対象者 | 加給年金額 | 年齢制限 |
|---|---|---|
| 配偶者 | 223,800円(※1) | 65歳未満であること(※2) |
| 1人目・2人目の子 | 各223,800円 | 18歳到達年度の末日までの間の子(※3) |
| 3人目以降の子 | 各74,600円 | 18歳到達年度の末日までの間の子(※3) |
※1 受給権者の生年月日に応じて、配偶者の加給年金額に一定額が特別加算されます。
※2 大正15年4月1日以前に生まれた配偶者には年齢制限はありません。
※3 1級・2級の障害の状態にある子は20歳未満となります。
配偶者加給年金額の特別加算額(令和4年4月~)
| 受給権者の生年月日 | 特別加算額 | 加給年金額の合計額 |
|---|---|---|
| 昭和9年4月2日~昭和15年4月1日 | 33,100円 | 256,900円 |
| 昭和15年4月2日~昭和16年4月1日 | 66,000円 | 289,800円 |
| 昭和16年4月2日~昭和17年4月1日 | 99,100円 | 322,900円 |
| 昭和17年4月2日~昭和18年4月1日 | 132,100円 | 355,900円 |
| 昭和18年4月2日以後 | 165,100円 | 388,900円 |
厚生年金を20年以上かけることで、一定期間加給年金を受け取ることができるのもメリットの1つです。
参考:さ行 在職老齢年金|日本年金機構
参考:令和4年4月から在職定時改定制度が導入されました|日本年金機構
参考:加給年金額と振替加算|日本年金機構
20年以上加入した場合の厚生年金受給額の計算方法 – 年収との関係
それでは、厚生年金に20年以上加入した場合、実際いくら年金を受け取ることができるのかを計算してみましょう。まず、厚生老齢年金の基礎となる報酬比例部分の計算方法を紹介します。
報酬比例部分=A(総報酬制導入前の加入期間)+B(総報酬制導入後の加入期間)
A=平均標準報酬月額×7.125/1000(給付乗率)×(平成15年3月までの加入期間の月数)
B=平均標準報酬額×5.481/1000(給付乗率)×(平成15年4月以降の加入期間の月数)
報酬比例部分は、計算の基礎となる標準報酬月額の総額を加入期間で除した値に給付乗率と加入期間の月数を乗じた金額です。平成15年4月以降は、算定に賞与を含める「総報酬制」に基づき、標準報酬月額と標準賞与額の総額を加入期間で除した値に給付乗率と加入期間の月数を乗じた金額となります。
この計算式を用いて、下記の条件に従って年金受給額を計算してみましょう。ここでは計算がわかりやすいよう、報酬比例部分と加給年金にのみ着目します。
- 条件1
- 年収480万円(平均標準報酬額は40万円)
- 総報酬制導入後の水準で計算(給付乗率は5.481/1000)
- 65歳未満の配偶者と18歳未満の子が1人の3人家族
- 昭和18年4月2日以後生まれ
- パターン1:厚生年金加入期間10年
報酬比例部分=400,000円×5.481/1000×120=263,088円
加給年金=0円(配偶者)+0円(子)=0円
厚生年金受給額=263,088円+0円=263,088円
- パターン2:厚生年金加入期間20年
報酬比例部分=400,000円×5.481/1000×240=526,176円
加給年金=388,900円(配偶者)+223,800円(子)=612,700円
厚生年金受給額=526,176円+612,700円=1,138,876円
- パターン3:厚生年金加入期間40年
報酬比例部分=400,000円×5.481/1000×480=1,052,352円
加給年金=388,900円(配偶者)+223,800円(子)=612,700円
厚生年金受給額=1,052,352円+612,700円=1,665,052円
厚生年金の受給額を決定づけるのは、加入期間と報酬額です。例えば、上記の方が年収720万円、平均報酬額60万円だった場合、加入期間に応じて厚生年金の支給額は下記のようになります。
- 条件2
- 年収720万円(平均標準報酬額は60万円)
- 総報酬制導入後の水準で計算(給付乗率は5.481/1000)
- 65歳未満の配偶者と18歳未満の子が1人の3人家族
- 昭和18年4月2日以後生まれ
- パターン4:厚生年金加入期間10年
報酬比例部分=600,000円×5.481/1000×120=394,632円
加給年金=0円(配偶者)+0円(子)=0円
厚生年金受給額=394,632円+0円=394,632円
- パターン5:厚生年金加入期間20年
報酬比例部分=600,000円×5.481/1000×240=789,264円
加給年金=388,900円(配偶者)+223,800円(子)=612,700円
厚生年金受給額=789,264円+612,700円=1,401,964円
- パターン6:厚生年金加入期間40年
報酬比例部分=600,000円×5.481/1000×480=1,578,528円
加給年金=388,900円(配偶者)+223,800円(子)=612,700円
厚生年金受給額=1,578,528円+612,700円=2,191,228円
報酬額と加入期間に比例し、厚生年金の受給額が増えていることがわかるでしょう。加入期間・年収と年金受給額との関係をまとめると、下記のようになります。
特に加入期間20年以上で加給年金が加算されると、年金受給額は大幅に増加します。現在厚生年金に加入されている方は、20年を一つの目安に考えるとよいでしょう。
参考:は行 標準報酬月額|日本年金機構
参考:は行 標準賞与額|日本年金機構
20年以上の加入で受け取れる加給年金の仕組みを理解しよう
厚生年金保険の加給年金について解説しました。現行制度では、10年以上年金をかけることで65歳から老齢年金を受け取ることができます。さらに、厚生年金を20年以上かけている方は、老齢年金に加えて加給年金も受け取ることが可能です。加給年金は、20年以上厚生年金加入期間のある方が65歳に到達したとき、その方によって生計を維持されている配偶者または子がいる場合に支給されます。配偶者は65歳未満、子は18歳到達年度の末日までという年齢制限はあるものの、まとまった金額が加算されるため重要な制度といえるでしょう。
当記事後半では、加入期間と報酬に基づく厚生年金の受給額を紹介しました。加給年金が加算されることで年金受給額は大幅に増額されるため、厚生年金に加入している方は20年を一つの目安として考えてみましょう。
よくある質問
厚生年金保険に20年以上加入することで、得られるメリットについて教えてください
厚生年金の加入者が老後に受け取れる老齢厚生年金は加入期間と報酬に比例するため、長期間にわたって年金をかけると年金受給額が増えます。さらに、20年以上加入することで加給年金の上乗せ受給も可能です。詳しくはこちらをご覧ください。
老齢年金と加給年金とはなんですか?
老齢年金は、国民年金や厚生年金に10年以上加入した方が65歳以降に受け取れる年金です。加給年金は、20年以上厚生年金加入期間のある方が老齢年金受給時に生計を維持する配偶者や子がいる場合に支給されます。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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