- 更新日 : 2025年7月30日
社会保険の同日得喪手続き
「同日得喪」という言葉は、あまり聞きなれないと思いますが、「どうじつとくそう」と読みます。
漢字から連想される通り、社会保険の資格取得と資格喪失を「同日」に行う手続きです。
今回は、この「同日得喪」手続きについて解説します。
「同日得喪」手続きは定年再雇用時に発生します
平成25年4月より高年齢者雇用安定法が改正され、定年年齢を65歳未満に定めている事業主に対し、高年齢者の雇用確保措置を講じることが義務化され、労働者の65歳までの雇用を確保することが必要となったこと等に伴い、60歳で定年を迎えた労働者を継続雇用することが増えています。
この継続雇用では、60歳を迎えた時点で一旦定年退職とし、新たな雇用条件で雇用契約を結び直すことが多いと思います。その際、役職がなくなったり、勤務日数が減ったり等の事情等により給与額が下がることもあります。
ただし、給与から天引きされている社会保険料は、「標準報酬月額」というものを基準に料率を掛けて保険料を決定しているため、固定給の大きな変動から3ヵ月は給与額が減っても、社会保険料は前の高い給与額を元に計算された「標準報酬月額」で社会保険料が計算され、天引きされてしまいます。
そこで、定年再雇用時は「同日得喪」の手続きをすることにより、定年再雇用が行われた月分の保険料から、再雇用後の新たな雇用条件での給与を元に「標準報酬月額」を決定し、社会保険料を計算することができるようになっています。
同日得喪手続きの方法
年金事務所(保険者が健康保険組合の場合には、健康保険組合にも同様の手続きが必要です)に
・被保険者資格喪失届
・被保険者資格取得届
を、同時に提出します。
添付書類
上記書類提出の際、下記書類の添付が必要です。
・就業規則や退職辞令の写し等の退職したことがわかる書類
(就業規則において「定年」ついて記載がある箇所の写し 等)
・継続して再雇用されたことがわかる雇用契約書の写し
・従前の被保険者証
(一旦、社会保険の資格を喪失するため、今まで使っていた保険証を返却し、新しい保険証の交付を受ける必要があります。)
注意点
同日得喪制度の利用する際は下記ポイントもチェックしてください。
報酬増額時は「同日得喪」にしない
「同日得喪」制度は、定年再雇用の際、再雇用後の給与に対して社会保険料を適切な金額にするタイミングが、通常ですと遅くなってしまう為、利用するという説明をしました。定年再雇用に伴い、給与額が下がる場合は、早く社会保険料も下げるため、「同日得喪」手続きが有効です。
ただし、定年再雇用に伴い、報酬が特に変わらない場合・報酬が上がった場合は、早く社会保険料を変更する必要がないため、「同日得喪」手続きは不要です。
社会保険料が下がると・・・厚生年金額・傷病手当金額も下がります
「同日得喪」制度は、上述のとおり定年再雇用に伴い、給与額が下がる場合、早く社会保険料を下げるために行います。但し、社会保険料が下がるということは、その分、将来の厚生年金額も下がりますし、私傷病等でお休みしている間に生活保障として支給される傷病手当金も少なくなるということになります。メリットだけではないということも、頭にいれておきましょう。
まとめ
社会保険の同日得喪手続きは、従業員側にメリットが多いと思われがちですが、社会保険料は事業主と従業員の折半負担のため、事業主が支払う社会保険料も減額されるというメリットがあります。対象者が発生した場合には、間違いなく手続きが行えるよう、必要書類等の準備を進めておきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
人事労務の知識をさらに深めるなら
※本サイトは、法律的またはその他のアドバイスの提供を目的としたものではありません。当社は本サイトの記載内容(テンプレートを含む)の正確性、妥当性の確保に努めておりますが、ご利用にあたっては、個別の事情を適宜専門家にご相談いただくなど、ご自身の判断でご利用ください。
関連記事
社会保険の氏名は旧姓のままでも大丈夫?変更しないとどうなる?
働き方改革の施策の一つに、女性の活躍推進があります。最近は女性の社会進出を背景に、結婚後も職場で旧姓の使用を認める企業が増えています。 仕事で使う名刺やメールアドレスなどで旧姓を表記するというものですが、社会保険の手続きでも旧姓を使用するこ…
詳しくみる労災保険の適用対象者とは?特別加入者についても解説!
労災保険の補償対象は、業務災害と通勤災害です。対象者はすべての労働者で、特別加入制度により中小企業事業主や一人親方等、特定作業従事者、海外派遣者も給付を受けられます。療養補償等給付や休業補償等給付といった、さまざまな種類の給付があります。労…
詳しくみる社会保険の任意加入とは?メリットや任意適用事業所の申請手続きを解説!
厚生年金と健康保険からなる社会保険は、適用事業所に所属し、条件を満たした全従業員が加入しなければならない強制保険制度です。適用事業所には、強制適用事業所と任意適用事業所があります。適用されない事業所であっても、任意適用を受けることで社会保険…
詳しくみる一人親方の社会保険加入は義務?判断のポイントを解説!
建設業などで独立して一人親方になる場合、運転資金、事務所、作業車などは、事前準備の段階で比較的しっかりと手配できているものです。しかし、それに加えて重要な社会保険についてはおざなりにされ、未加入の傾向があります。一人親方は個人事業主である一…
詳しくみる厚生年金は強制加入?必ず加入しなければならない?
給与から引かれる厚生年金の保険料。「将来もらえる年金は減る」という話を耳にすると、「厚生年金に加入しなくてもいいのでは…」と考えてしまう方もいるかもしれません。しかし、適用事業所に勤務する方は、原則として厚生年金保険は強制加入です。 ここで…
詳しくみる所定給付日数とは?雇用保険における基本手当の観点から
自己都合による退職や会社の倒産など、失業しても生活の心配をしなくてよいよう、雇用保険では被保険者に対して基本手当(いわゆる失業等給付)を支給しています。この基本手当には、受給できる期間と所定給付日数と呼ばれる上限日数が決まっています。 ここ…
詳しくみる