• 更新日 : 2025年11月4日

年末調整の対象者になる条件とは?対象外の人や手続きを解説

年末調整は、会社に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出している従業員が対象者となる、所得税の過不足を精算する手続きです。そのため、従業員一人ひとりの状況に応じて、年末調整の対象になるかどうかが決まります。

「アルバイトの年末調整はどうする?」「中途退職した人は?」といった疑問がつきものですが、対象者の条件を正しく理解すれば、年末の繁忙期でもスムーズに手続きを進めることができるでしょう。本記事では、年末調整の対象者となる具体的な条件、対象外となるケース、そして会社側の手続きについて詳しく解説します。

目次

年末調整の対象者になる具体的な条件とは?

年末調整は、原則として「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を会社に提出している従業員全員に対して行います。その上で、従業員の勤務状況によって対象者が細かく分かれます。

「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出していること

年末調整を行うための大前提は、従業員が自社に「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出していることです。この申告書は、主たる給与の支払者(通常は1社のみ)に提出されるもので、提出をもって「甲欄」として源泉徴収税額が計算されます。

この申告書を提出していない従業員(副業などで、他社を主たる給与の支払者としている場合など)は「乙欄」適用者となり、年末調整の対象にはなりません。

参照:A2-1 給与所得者の扶養控除等の(異動)申告|国税庁

年末まで勤務している

一般的な年末調整の対象者は、その年の最後まで会社に在籍している従業員です。

1. 1年を通じて勤務している人

1月1日から12月31日まで、継続して同じ会社に勤務している人は、原則として全員が年末調整の対象です。正社員、契約社員、パート、アルバイトといった雇用形態は問いません。

2. 年の途中で就職し、年末まで勤務している人

新卒入社や中途採用などで年の途中に入社し、年末(12月31日)まで在籍している人も対象となります。その年に前職の会社から給与を受け取っている場合は、前職の源泉徴収票を提出してもらう必要があります。現在の会社が前職分の給与と源泉徴収税額を合算して、年間の所得税を正しく計算するためです。

年の途中で退職しても対象になる場合

原則として、年の途中で退職した人は年末調整の対象外ですが、特定の事情がある場合は例外的に対象となり、会社は退職時に年末調整を行う必要があります。

  • 死亡により退職した人:
    従業員が年内に死亡した場合、会社はその従業員の死亡日までに支払った給与について年末調整を行います。
  • 著しい心身の障害により退職した人:
    重い病気やけがなどが原因で退職し、その状況から年内に再就職することが明らかに難しいと見込まれる場合も、退職時に年末調整の対象となります。
  • 12月分の給与を受け取った後に退職した人:
    12月中に支給されるべき給与の支払いを受けた後に、年末を待たずに退職した場合も対象です。
  • パート・アルバイトで、年収が123万円以下の人:
    パートタイマーなどが退職した場合で、その年の給与総額が123万円以下である場合も、退職時に年末調整を行います。ただし、本人が退職後に他の勤務先で働く見込みがある場合は対象外です。

海外転勤などで「非居住者」となった

年の途中で海外の支店へ転勤したり、1年以上の予定で海外出向したりして、日本の「非居住者」となった人も、年の途中での年末調整の対象です。年末調整は、非居住者となる時までに支払われた給与を対象に行います。

年の途中でも年末調整が必要なケースとタイミング

上記の例外ケースに該当する場合、年末を待たずに年末調整を実施します。

対象者年末調整を行う時期
海外支店等への転勤により非居住者となった人非居住者となった時
死亡によって退職した人退職の時
著しい心身の障害のために退職した人退職の時
12月に給与の支払を受けた後に退職した人退職の時
年収123万円以下のパートタイマー等が退職した人退職の時

参照:No.2665 年末調整の対象となる人|国税庁

年末調整の対象とならない人は?

扶養控除等申告書を提出していても、以下のいずれかに該当する人は年末調整の対象になりません。 対象外の人は、自身で確定申告を行い税額の精算をする必要があります。

給与の年間収入金額が2,000万円を超える人

その年の主たる給与の収入金額が2,000万円を超える人は、年末調整の対象外です。給与以外の所得の有無にかかわらず、この条件に該当する人は自身で確定申告を行わなければなりません。

災害減免法の規定により、その年の所得税の徴収猶予や還付を受けた人

地震や風水害などの災害によって住宅や家財に損害を受け、「災害減免法」の規定にもとづき、その年の給与に対する所得税の源泉徴収の徴収猶予や還付を受けた人は、年末調整の対象になりません。自身で確定申告を行う必要があります。

2か所以上から給与を受け取っている人(サブの勤務先)

複数の会社で働いている場合、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出できるのは主たる給与を受け取っている1社のみです。したがって、年末調整もその1社でしか行えません。申告書を提出していないサブの勤務先では年末調整の対象外です。

年の途中で退職し、例外条件に当てはまらない人

年の途中で退職した人のうち、前述の「年の途中で退職しても対象になる人」の例外条件に当てはまらない人は、年末調整の対象となりません。例えば、転職を理由に10月に退職し、年内に再就職しなかったケースなどが該当します。

非居住者

年の途中からではなく、年初から海外に居住しているなど、日本の「非居住者」に該当する人は対象外です。

日雇労働者など、継続して同一の雇用主に雇用されていない人

日雇い労働者など、日々雇用される人は原則として年末調整の対象になりません。

そもそも年末調整とは?

年末調整とは、会社が従業員に毎月支払う給与から源泉徴収した所得税の年間の合計額と、その従業員が本来納めるべき年間の所得税額を比較し、差額を精算する手続きです。

多くの給与所得者は年末調整で税金の精算が完了するため確定申告が不要になります。ただし、医療費控除や副業収入などがある場合は確定申告が必要です。

年末調整の目的は所得税の過不足を精算すること

多くの従業員は、毎月の給与や賞与から所得税が天引き(源泉徴収)されています。しかし、この源泉徴収額はあくまで概算の金額です。給与の変動や年末にしかできない生命保険料の控除、扶養家族の状況といった個人の事情は反映されていません。

そこで、年末に個人の状況を反映して正確な税額を再計算し、源泉徴収した合計額との差額を調整する必要が出てきます。この手続きが年末調整であり、税金を払いすぎていれば還付され、不足していれば追加で徴収されます。

参照:Ⅱ年末調整とは|国税庁
参照:No.2662 年末調整のしかた|国税庁

年末調整と確定申告の違い

年末調整と確定申告は、どちらも所得税を精算するための手続きですが、対象者と手続きを行う人が異なります。

項目年末調整確定申告
対象者主に給与所得者個人事業主、年末調整の対象外の人など
手続きする人会社(給与の支払者)本人
時期年末(11月~翌年1月)翌年2月16日~3月15日

会社員でも、医療費控除を受けたい場合や、副業の所得が20万円を超える場合など、年末調整に加えて確定申告が必要になるケースがあります。

年末調整の対象で手続きしなかった場合は?

もし会社で年末調整を受けられなかったり、忘れてしまったりした場合は、従業員自身が確定申告で対応することになります。

年末調整を忘れた・間に合わなかった場合

従業員が必要書類の提出を忘れたり、会社の定めた期限に間に合わなかったりした場合は、その従業員の年末調整を行うことはできません。その従業員は、自分で確定申告をして所得税の精算を行う必要があります。会社側は、その従業員の源泉徴収票を発行し、確定申告に使うよう案内しましょう。

控除の追加・修正をしたい場合(医療費控除など)

年末調整では適用できない控除を受けたい場合も、確定申告が必要です。代表的なものが医療費控除や寄附金控除ふるさと納税ワンストップ特例制度を利用しない場合)、雑損控除です。 また、年末調整で生命保険料控除などの申告を忘れてしまった場合も、確定申告をすることで控除の適用を受け、払いすぎた税金の還付を受けられます。

参照:確定申告が必要な方|国税庁

年末調整の手続きと注意点

人事・労務担当者は、年末調整を円滑に進めるため、従業員への適切な案内と正確な事務処理が求められます。

STEP1:対象者の確認と従業員への案内

まずは、年末調整の対象者と対象外の従業員をリストアップします。 その上で、以下の点を従業員に案内・指導することが大切です。

  • 扶養控除等申告書の提出依頼:
    1か所から給与の支払を受けているにもかかわらず、まだ申告書を提出していない従業員には、提出するように指導しましょう。
  • 確定申告の案内:
    年末調整の対象とならない従業員には、自身で期限までに確定申告が必要であることを伝えましょう。

STEP2:必要書類の配布と回収

対象者に対して、年末調整に必要な各種申告書を配布し、記入を依頼します。生命保険料や地震保険料などの控除証明書も一緒に回収します。

STEP3:書類の確認と年税額の計算

回収した申告書の内容に不備がないか、添付書類は揃っているかを確認します。すべての情報が揃ったら、年税額を計算し、源泉徴収済税額との差額(還付額または徴収額)を確定させます。

STEP4:過不足額の精算と税務署への提出

計算が完了したら、通常は12月または翌年1月の給与で過不足額の精算を行います。その後、翌年の1月31日までに、税務署に法定調書合計表や源泉徴収票などを、市区町村に給与支払報告書を提出します。

【補足】賞与を先に支払う場合の年末調整

通常、年末調整はその年最後に給与を支払う時に行いますが、12月中に給与より先に賞与を支払う場合は、その賞与を支払う際に年末調整を行ってもよいとされています。 ただし、その後の給与支払額が見積りと異なった場合は、年末調整をやり直す必要があります。

役員や社長の年末調整は必要?注意点を解説

会社の役員や社長も、会社から受け取る報酬は「給与所得」に該当するため、基本的には従業員と同じように年末調整の対象となります。

役員報酬も給与所得のため年末調整の対象

代表取締役や取締役などの役員が会社から受け取る役員報酬は、税法上、給与所得として扱われます。したがって、他の従業員と同様に、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を会社に提出していれば、年末調整の対象となります。

社長が年末調整をしないケースとは?

社長が年末調整の対象外となる代表的なケースは、年間の役員報酬が2,000万円を超える場合です。この場合は、従業員と同様に、自身で確定申告を行わなければなりません。 また、社長が不動産収入や講演料など、役員報酬以外に多額の所得がある場合も、確定申告が必要です。たとえ会社で年末調整を行ったとしても、他の所得と合算して確定申告をし直す必要があります。

年末調整の対象者とその条件を正しく理解し手続きしよう

年末調整の対象者は、原則として「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」を提出し、年末まで在籍している従業員です。アルバイトやパートもこの条件を満たせば対象に含まれます。一方で、年収2,000万円超の方や、年の途中で退職して未就職の方、副業先では対象外となるなど、いくつかの例外があります。

人事・労務担当者は、これらの年末調整の対象者の条件を正確に把握し、誰が対象で誰が対象外なのかを事前にリストアップすることが、円滑な手続きの第一歩です。もし対象外であったり、手続きに間に合わなかったりした従業員には、確定申告が必要であることを丁寧に案内しましょう。


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