• 更新日 : 2025年9月26日

年末調整を外注するには?メリット・デメリットや選び方まで

年末調整は、年に一度の重要な手続きですが、書類の回収やチェック、複雑な計算など、経理や人事担当者にとって大きな負担となりがちです。法改正への対応も求められ、コア業務を圧迫していると感じる企業も多いのではないでしょうか。

この記事では、年末調整業務を外部に委託する「アウトソーシング」について、法的なルールから依頼できる業務範囲、メリット・デメリット、そして自社に合った委託先の選び方まで、わかりやすく解説します。

年末調整は外注(アウトソーシング)できる?

年末調整業務は法的に外注可能ですが、依頼できる業務範囲は委託先の資格によって決まるため、そのルールを理解することが重要です。

法的ルールと依頼できる相手

年末調整に関わる書類の回収や入力は誰でも可能ですが、「税務相談」や「税務書類の作成」といった税理士法で定められた独占業務は、税理士または税理士法人でなければ行えません。この法律上の区分が、依頼先を選ぶ上で最も重要なポイントとなります。

主な年末調整の依頼先は以下の2つです。

  • 税理士・税理士法人
    年末調整に関する計算代行から、節税に関するアドバイス、税務署への提出書類の作成代行まで、すべての業務を依頼できます。
  • BPO事業者(代行会社)
    書類の回収やデータ入力、計算代行といった事務処理は依頼できますが、税務上の判断や相談に応じることはできません。

なお、社会保険労務士は、税務相談や税額計算はできませんが、給与計算業務の補助として事務処理支援を行うことはあります。

また、会計ソフトへの入力といった単純作業のみを個人に依頼することは可能ですが、入力内容の最終的な責任は会社側が負います。例えば「この控除は使えるか」といった質問に答えるなど、作業が税務判断に及んでしまうと法に抵触するリスクがあるほか、個人情報管理の観点からも、専門業者へ依頼する方が安全といえるでしょう。

依頼できる業務範囲の具体例

年末調整の外注で依頼できる業務は、準備段階から完了後の手続きまで多岐にわたります。自社の状況に合わせて、依頼する範囲を柔軟に選ぶことが可能です。

依頼できる業務内容
① 準備
  • 年末調整の実施スケジュールの策定支援
  • 従業員への案内文の作成、配布
  • 各種申告書(扶養控除等申告書など)の配布と回収
  • 従業員からの問い合わせ一次対応
② 処理
  • 回収した申告書の内容チェック、不備の確認と差し戻し
  • 生命保険料控除証明書などの添付書類の確認
  • 給与データと申絡内容の突合
  • 各種控除額の計算、年税額の算出
  • 還付金・追徴金の計算
③ 完了後

年末調整を外注するメリット・デメリット

年末調整の外注は、業務負担の軽減といった大きなメリットがある一方、コストや情報管理のリスクといったデメリットも存在するため、両方を理解した上で判断しましょう。

メリット
  • 担当者の負担を大幅に軽減し、コア業務に集中できる
    年末調整の時期は、通常業務に加えて数週間から1ヶ月以上にわたり、担当者の業務が集中します。この負担をなくすことで、担当者は人事評価や採用活動、制度設計といった、より戦略的な業務にリソースを割けるようになります。
  • 法改正にも対応した、正確な処理が期待できる
    所得税法は毎年のように改正が行われます。専門家へ委託することで、最新の法令に準拠した正確な計算が保証され、計算ミスや申告漏れによる追徴課税のリスクを大幅に低減できます。
  • 人件費や採用・教育コストを削減できる
    繁忙期のために派遣社員を雇用したり、担当者が長時間残業したりする必要がなくなります。また、専門知識を持つ人材を採用・育成するコストと比較しても、外注の方がトータルコストを抑えられる場合があります。
デメリット
  • 外部への委託コストが発生する
    当然ながら、外注には費用がかかります。従業員数や依頼範囲によって金額は変動するため、自社の予算と照らし合わせて費用対効果を慎重に検討する必要があります。
  • 個人情報の漏えいリスクがある
    従業員のマイナンバーや収入、家族構成といった機微な個人情報を外部へ提供することになります。委託先のセキュリティ体制が脆弱な場合、情報漏えいのリスクが伴います。
  • 社内にノウハウが蓄積されにくい
    業務を完全に外部へ依存すると、年末調整に関する実務的な知識や経験が社内に蓄積されません。将来的に内製化を考えた際に、担当者の育成が課題となる可能性があります。

【比較】年末調整の主な外注先と特徴

年末調整の依頼先は、大きく「税理士法人・会計事務所」と「BPO事業者」の2つです。どちらを選ぶべきか、それぞれの特徴や依頼できる内容を詳しく見ていきましょう。

税理士法人・会計事務所

税理士は税務のプロフェッショナルであり、年末調整に関わるすべての業務を安心して任せられる存在です。その最大の強みは、税務相談が可能な点です。「この控除は適用できるか?」といった専門的な判断を伴う相談や、より有利な税務処理に関するアドバイスを受けられます。

複雑な所得控除(例:外国税額控除)がある従業員がいる場合や、役員の年末調整など、個別の判断が必要なケースでも的確に対応します。

依頼できる内容

計算代行や書類作成はもちろんのこと、税務調査への対応や、年末調整だけでなく月次の給与計算から決算申告まで、経理・税務全般をワンストップで依頼できます。

こんな企業におすすめ
  • 顧問税理士がいない、または現在の顧問税理士の業務範囲外である中小企業
  • 従業員数は少ないが、役員や特殊な雇用形態の従業員がいる企業
  • 税務に関する専門的なアドバイスを受けながら、正確性を最優先したい企業

BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)事業者

BPO事業者は人事労務分野の業務プロセスを専門に請け負う企業であり、効率化やシステム化を得意とします。大量のデータを効率的に処理するノウハウとシステム基盤を持っています。

クラウド型の年末調整システムを提供している事業者が多く、ペーパーレス化の推進や業務全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)を得意とします。従業員がスマートフォンから直接情報を入力できる仕組みを導入し、書類の回収・チェックの手間を根本から削減することも可能です。

依頼できる内容

年末調整の事務処理フロー全体の代行が中心です。従業員からの問い合わせ対応窓口(ヘルプデスク)の設置、各種書類のスキャニング・データ化、他システムとの連携など、幅広いサービスを提供しています。ただし、税務相談や税法に関する最終的な判断は行えません。

こんな企業におすすめ
  • 従業員数が数百名以上の大企業
  • 書類のやり取りが多く、紙ベースの運用に課題を感じている企業
  • 年末調整を機に、人事労務業務全体の効率化やペーパーレス化を進めたい企業
比較項目税理士法人・会計事務所BPO事業者
専門性税務(税の専門家)業務プロセス(効率化の専門家)
税務相談◎ 可能× 不可(法律で禁止)
強み信頼性、個別・複雑な案件への対応力効率性、大量処理、システム連携、DX推進
料金傾向比較的高め比較的安め(大量処理によるスケールメリット)
主な対象中小企業、個人事業主中~大企業

年末調整の外注先を選ぶ際の比較ポイント

外注先選びで失敗しないためには、料金だけでなくセキュリティや実績、サポート体制といった複数のポイントを総合的に比較検討することが不可欠です。

1. セキュリティ体制は万全か

最も重視すべき項目です。従業員の個人情報を預ける以上、委託先の情報管理体制は厳しくチェックする必要があります。

確認ポイント
  • プライバシーマーク(Pマーク)やISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)認証を取得しているか。
  • データの暗号化、アクセス制限、オフィスの入退室管理などが徹底されているか。
  • 万が一の事故に備え、損害賠償保険に加入しているか。

2. 業務実績と専門性は十分か

豊富な実績は、信頼の証です。とくに自社と同じ業界や企業規模での実績があるかを確認すると、スムーズな連携が期待できます。

確認ポイント
  • 年末調整の代行実績が何社・何名分あるか。
  • 頻繁な法改正に対し、どのような情報収集・研修体制を整えているか。
  • 公式サイトに導入事例や顧客の声が掲載されているか。

3. 業務範囲は自社のニーズに合っているか

「どこまで任せたいか」を明確にし、その範囲を過不足なくカバーしてくれるかを見極めます。

確認ポイント
  • 基本プランとオプションの範囲は明確か。
  • スポット(単発)での依頼は可能か。
  • 現在利用している給与計算ソフトや勤怠管理システムとのデータ連携は可能か。

4. コミュニケーションは円滑か

委託後は担当者と密に連携をとる必要があります。質問や確認事項に対して、迅速かつ的確に回答してくれるかどうかが重要です。

確認ポイント
  • 専任の担当者はつくか。
  • 連絡手段は何か(電話、メール、チャットツールなど)。
  • 見積もり依頼や問い合わせ時のレスポンスの速さや丁寧さ。

年末調整の外注を依頼する流れと準備

外注をスムーズに進めるためには、契約から納品までの一般的な流れを理解し、事前に必要な書類を準備しておくことが大切です。

依頼から業務完了までの6ステップ

  1. 委託先の選定と比較検討
    複数の候補をリストアップし、Webサイトや資料で情報収集。2~3社に絞り込みます。
  2. 問い合わせ・ヒアリング・見積もり取得
    各社に問い合わせ、自社の従業員数や課題を伝えます。詳細なヒアリングを受けた後、正式な見積書と提案書を受け取ります。
  3. 契約締結
    提案内容、料金、サービス範囲、責任の所在などを契約書で十分に確認し、契約を締結します。この際、個人情報の取り扱いに関する「秘密保持契約(NDA)」も結ぶのが一般的です。
  4. キックオフミーティング・情報提供
    委託先の担当者と、具体的なスケジュールやデータの受け渡し方法などをすり合わせます。年末調整に必要な従業員データや給与データを提供します。
  5. 年末調整業務の実施
    委託先が申告書の回収・チェック、計算、帳票作成などの実務を行います。進捗状況は定期的に報告されます。
  6. 成果物の納品と確認
    源泉徴収票や給与支払報告書などの成果物が納品されます。内容を最終確認し、市区町村や税務署への提出、従業員への配布を行います(提出・配布まで委託することも可能)。

事前に準備すべき書類・情報

委託をスムーズに進めるため、以下の情報を整理しておくと良いでしょう。

  • 従業員データ:従業員名簿、前職の源泉徴-収票(中途入社者分)など
  • 給与データ:1年間の給与台帳、賞与台帳など
  • 各種申告書:従業員から回収した扶養控除等申告書、保険料控除申告書、住宅ローン控除申告書など
  • 控除証明書:生命保険料や地震保険料の控除証明書、住宅ローンの年末残高証明書など

年末調整を外注する際の注意点

年末調整の外注を成功させるには、契約内容や責任の所在といった注意点を事前に把握し、トラブルを未然に防ぐことが重要です。

会計ソフトでの連携範囲と責任分界点を明確に

現在使用している会計ソフトや給与計算ソフトと連携して業務を依頼する場合、どこまでを自社で行い、どこからを委託先が担当するのか、責任の分界点を明確にすることが不可欠です。たとえば、「データのCSVエクスポートは自社、インポート後のチェックと計算は委託先」というように、具体的な作業レベルで役割分担を決めましょう。これを曖昧にすると、「どちらかがやってくれると思った」という認識のズレから、作業漏れや二度手間が発生する原因となります。

契約前に業務範囲と追加料金の条件を確認する

契約書には、委託する業務の範囲(Scope of Work)を可能な限り具体的に記載してもらいましょう。「年末調整業務一式」といった曖昧な表現ではなく、「源泉徴収票の作成・従業員への個別封入まで含む」など、詳細に定義することが重要です。

とくに、イレギュラーな対応(年の途中の再年調など)が発生した場合や、当初の想定を超えて問い合わせが多発した場合に追加料金が発生するのか、その条件と単価も契約前に必ず確認し、書面に残しておくべきです。

損害賠償責任の所在を契約書で定める

どんなに信頼できる委託先でも、ヒューマンエラーが起こる可能性はゼロではありません。もし委託先のミスによって税務署から追徴課税や延滞税を課された場合、その損害を誰が負担するのかを契約書で明確に定めておく必要があります。

通常、委託先に過失がある場合は、その損害額を上限として賠償責任を負う、といった条項が盛り込まれます。この上限額や適用範囲が自社にとって不利な内容になっていないか、契約締結前にしっかり確認しましょう。

丸投げにせず、自社でも進捗管理と最終確認を行う

アウトソーシングは「丸投げ」とは異なります。業務を委託した後も、依頼主である企業側には、業務が適切に行われているかを管理する責任があります。委託先と定期的にコミュニケーションを取り、進捗状況をしっかり確認しましょう。

そして、最終的に納品された源泉徴収票などの成果物は、必ず自社の担当者が内容をチェックし、承認した上で従業員へ配布するプロセスを踏むべきです。最終的な責任は会社にあるという意識を持つことが、トラブルを未然に防ぎます。

年末調整を外注依頼する際は依頼範囲に注意する

年末調整は外注可能ですが、依頼範囲は税理士法で制限されています。書類回収や入力は誰でも行えますが、税額計算や税務相談は税理士のみ対応可能です。依頼先は税理士法人・会計事務所とBPO事業者が中心で、前者は専門判断に強く、後者は大量処理やDX推進に強みがあります。

費用は「基本料+従業員数×単価」が一般的で、数万円~数十万円と幅広いです。外注のメリットは負担軽減・法改正対応・コスト削減ですが、個人情報管理リスクやノウハウ不足といったデメリットもあります。

契約時は範囲や責任分界点を明確化し、最終確認を社内で行うことが重要です。外注を活用すれば年末調整を負担から効率化の機会に転換できます。


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