- 更新日 : 2025年3月10日
AIによる勤怠管理の方法は?シフト作成や給与計算の自動化についても解説
近年、多くの企業が勤怠管理にAIを活用し、出退勤の管理を効率化しています。本記事では、AIを活用した勤怠管理の概要やメリット、具体的な活用場面などを詳しく紹介します。勤怠管理のAI活用によって何が実現可能になるのかを理解し、業務効率化に役立ててください。
目次
AIによる勤怠管理とは
AIを活用した勤怠管理とは、出退勤の記録や勤務状況の把握を人工知能によって自動化する仕組みのことです。従来は手作業で行っていた勤怠チェックやデータ集計を、AIがリアルタイムで収集・分析し、一元管理します。これにより、管理者の負担が軽減されるだけでなく、入力ミスや不正打刻を防ぐことができます。
近年では、生体認証による打刻やAIチャットボットを使った勤怠関連の問い合わせ対応など、AIの活用が広がっています。また、蓄積された勤怠データを分析することで、労務管理の課題を発見し、働き方改革やコンプライアンスの強化にもつながります。
AIによる勤怠管理のメリット
AIを勤怠管理に導入することで得られるメリットは多岐にわたります。人事担当者の方が抱える日々の勤怠業務の課題を、AIがどのように解決できるのか確認してみましょう。
業務の効率化
AIが打刻データを自動で収集・集計するため、人事担当者の手作業を大幅に削減できます。勤怠記録のチェックや入力ミスの修正もAIが行い、管理の負担を軽減します。また、AIチャットボットを導入すれば、就業規則や休暇残日数の問い合わせに24時間自動対応でき、業務がスムーズになります。
不正打刻の防止
AIによる生体認証(顔認証・指紋認証など)を活用することで、同僚に頼んで代理でタイムカードを押すような不正行為を防止できます。他人のICカードを拾った第三者による侵入なども防止することが可能です。さらに、深夜の連続打刻などを検知できるため、過重労働の早期発見にもつながります。
労務管理の精度向上
AIが勤怠データを分析し、長時間労働や有給未取得の傾向を把握できます。従来は見落とされがちだった過重労働の兆候も、AIがデータを監視していれば見逃しません。管理者はリアルタイムで問題を察知し、必要な対策を講じることができます。また、AIは離職リスクの予測や生産性向上のヒントを提供するため、より戦略的な労務管理が可能になります。
コスト削減
AIの導入により、勤怠管理業務の時間削減が可能となり、人件費の節約につながります。また、不正打刻や計算ミスを防ぐことで、給与の過払い・未払いを回避できます。シフトの最適化によって無駄な人員配置を減らし、残業代の削減や適正な労働力配分も実現できます。
AIによる勤怠管理を活用する場面
AIを導入することで、勤怠管理のさまざまな業務が改善・自動化されます。ここでは、特に効果が大きい「シフト作成」「給与計算」「労務状況のリアルタイム把握」の3つの場面について解説します。
シフト作成
AIを活用することで、シフト作成の負担が大幅に軽減されます。従来、担当者は従業員の希望休や勤務可能時間を集計し、必要な人数やスキルバランスを考えながら手作業でシフトを作成していました。しかし、AI搭載の勤怠管理システムを導入すれば、これらの作業を自動化できます。
AIは、各従業員の希望シフトや勤務可能時間を分析し、必要な人員数を満たすように自動で割り当てを行います。また、過去の業務データをもとに曜日や季節ごとの繁忙度を学習し、人員配置を最適化することも可能です。例えば、小売業では、レジ対応が得意なスタッフを繁忙時間帯に多く配置し、在庫管理が得意なスタッフを閉店後の棚卸業務に割り当てるといった調整も自動で行えます。
給与計算
勤怠管理とAIを組み合わせることで、給与計算も自動化できます。これまで担当者が手作業で行っていた出退勤データの集計や、残業・深夜勤務の割増賃金計算は、AIによって瞬時に処理されるようになります。例えば、AIは従業員の労働時間や手当を自動で計算し、所定の給与テーブルに当てはめることで、正確な給与額を算出します。
また、有給休暇の取得状況を自動で反映し、欠勤控除や有給残日数の管理もスムーズに行えます。これにより、計算ミスによる給与の過払い・未払いを防ぐことができ、給与計算の精度が向上します。特に、拠点が複数ある企業では、各拠点の勤怠データを一元管理し、まとめて給与計算を行うことが可能になるため、担当者の負担が大幅に軽減されます。
さらに、AIが支給明細の発行まで自動化するシステムもあり、給与計算業務全体の効率化が進みます。これにより、担当者は給与計算にかける時間を大幅に削減でき、より戦略的な業務に集中できるようになります。
リアルタイムの労務状況把握
AI勤怠管理システムを導入すると、従業員の労務状況をリアルタイムで把握できるようになります。クラウド上で勤怠データが管理されているため、現在誰が出勤・退勤・休憩中なのか、どの部署で何人が勤務しているのかを即座に確認できます。これにより、管理者はオフィスや工場、店舗など、さまざまな職場の勤務状況を一目で把握できるようになります。
また、AIは勤怠データを監視・分析し、異常な勤務パターンや労務リスクを早期に発見することが可能です。例えば、特定の従業員が法定の残業時間上限に近づいている場合や、ある部署で有給休暇の取得が極端に少ない場合など、AIが自動で検知し、管理者にアラートを通知します。これにより、長時間労働や未取得の有給休暇の問題を事前に把握し、適切な対策を講じることができます。
特に、テレワークやフレックスタイム制を導入している企業では、従業員の勤務状況を把握することが課題となることが多いですが、AIはログイン状況や業務システムへのアクセスデータを分析することで、実際の勤務実態を把握することができます。そのため、管理者はオフィスにいない従業員の労務状況もリアルタイムで管理でき、適切なフォローが可能になります。
さらに、AIが作成する労務データのレポートを活用すれば、企業全体の残業時間の推移や有給取得率、勤怠不良者の割合などを可視化することができます。これらのデータは、経営層への報告資料としても活用でき、労務管理の精度向上につながります。
AIによる勤怠管理の導入事例
ここでは、実際にAIを活用した勤怠管理を導入した企業の事例を紹介します。企業の規模や業界によって導入の背景や得られた効果は異なりますが、自社に近いケースを参考にすることで、AIの導入による具体的なメリットをイメージしやすくなります。
中小企業の導入事例
中小企業では、人手不足や業務負担の軽減を目的に、AIを活用した勤怠管理が導入されることが多くあります。特に、シフト制勤務のある小売・飲食業界では、AIによる自動シフト作成機能が活躍しています。従業員の希望休や過去の勤務データをもとに最適なシフトを自動で作成し、欠員が出た場合には適切な従業員に通知を送ることで、スムーズな運営を実現しています。また、代理打刻などの不正防止のために、顔認証打刻を導入する企業も増えており、出退勤の正確性が向上しています。
製造業では、総務担当者が勤怠管理から給与計算までを兼務しているケースが多く、AIを活用したシステムによって、打刻データの自動集計や残業時間の計算が容易になります。これにより、給与計算時の作業時間が大幅に削減されるだけでなく、計算ミスによるトラブルのリスクも軽減できます。
現場ごとの労務管理が課題となる建設業でも、AIを活用したシステムによって作業員の出退勤データをリアルタイムで一元管理できるようになります。これにより、適正な労働時間の把握が可能です。
大企業の導入事例
大企業では、全国に支店や拠点を持つ企業が多いため、勤怠管理の統一やデータの一元化が求められます。ある企業では、AIを活用した勤怠管理システムを導入することで、国内外の従業員の勤怠情報をリアルタイムで管理できるようになりました。これにより、各拠点ごとに異なっていたルールを統一し、コンプライアンスを強化することに成功しました。
また、サービス業やIT企業などの大企業では、フレックスタイム制やリモートワークの普及により、労働時間の把握が難しくなっています。そのため、AIを活用し、ログイン履歴や業務システムの使用状況と勤怠データを連携させることで、実際の勤務実態を適切に管理できるようになりました。さらに、AIが長時間労働や有給取得率の低い社員を自動で検知し、管理者に通知する機能を活用することで、労務リスクの未然防止にもつながっています。
大企業では、膨大な勤怠データの管理や分析が必要になるため、AIの活用により労務管理の効率化を図るとともに、働き方改革の推進にも役立てています。また、AIを活用したチャットボットを導入し、人事部への問い合わせ対応を自動化することで、業務の負担を大幅に削減する企業も増えています。
AIを活用した勤怠管理の注意点
AIを活用した勤怠管理は多くのメリットがありますが、導入・運用時にはいくつかの注意点もあります。以下のポイントを適切に対応することで、AIのメリットを最大限に活かしながら、トラブルを防ぐことができます。
プライバシーの保護
AI勤怠管理では、出退勤時刻や労働時間だけでなく、場合によっては顔認証や指紋データといった個人情報を扱うため、プライバシー保護が不可欠です。
生体認証を利用する場合は、事前に従業員の同意を得ることが必要です。さらに、取得したデータは厳重に暗号化し、用途を限定して管理することが求められます。クラウド型システムを使用する場合は、サービス提供会社のセキュリティ体制も確認し、データの保管場所やアクセス権限の管理が適切に行われているかを把握しておくことが重要です。
また、AIによる勤怠管理が「監視」と受け取られないよう配慮することも必要です。常時カメラで勤務状況を記録するような過度な管理は、従業員の不信感を招く可能性があります。あくまで勤怠データの収集と業務効率化に留めるなど、適切な運用方針を明確にし、従業員に説明することが大切です。
導入コストや費用対効果の計算
AI勤怠管理システムの導入には、初期費用や月額利用料が発生するため、コストと費用対効果の検討が不可欠です。
初期費用としては、生体認証端末の購入や既存システムとの連携開発が必要になる場合があります。一方で、クラウド型サービスなら初期費用がかからないプランもあり、企業の規模やニーズに応じた選択が可能です。
ランニングコストは、従業員数や拠点数に応じた月額料金が発生することが多く、適切なプランを選ぶことでコストを抑えられます。例えば、小規模企業なら低価格プラン、大企業ならエンタープライズ向けプランの導入が適しています。
また、費用対効果の計算では「業務削減時間×人件費」のシミュレーションを行い、導入によりどの程度のコスト削減が見込めるかを試算することが重要です。さらに、労務リスクの低減やコンプライアンス強化といった定性的なメリットも加味し、総合的に判断しましょう。
導入後すぐにすべての機能を活用できるとは限らないため、最初は基本機能のみを導入し、効果を確認しながら段階的に拡張する方法も有効です。
従業員の理解と教育
AI勤怠管理システムをスムーズに運用するには、従業員の理解と協力が不可欠です。新しいシステムを導入すると、特にITに不慣れな従業員にとっては戸惑うことも多いため、導入前に説明会やトレーニングを実施し、操作方法を丁寧に説明することが大切です。例えば、生体認証を使用する場合は、事前にデモを行い、実際に顔認証や指紋認証を試してもらうことで、不安を解消できます。
また、従業員にとってのメリットを強調することで、スムーズな受け入れにつながります。たとえば「タイムカードの提出が不要になる」「給与明細がオンラインで素早く確認できる」といった実用的な利便性を伝えることが効果的です。
運用開始後も、従業員からのフィードバックを収集し、システム改善につなげることが大切です。例えば「スマホアプリの操作が分かりづらい」「打刻忘れのリマインド通知がほしい」といった意見があれば、提供会社に改善を依頼したり、社内マニュアルを整備するなど、使いやすさを向上させましょう。
AI搭載の勤怠管理サービスを選ぶポイント
AIを活用した勤怠管理サービスを導入することで、業務の効率化や労務管理の精度向上が期待できます。しかし、サービスごとに搭載されている機能や特長が異なるため、導入前に慎重に選定することが重要です。適切なサービスを選ぶための主なポイントを解説します。
勤怠管理における課題を明確にする
まず、自社の勤怠管理における課題を明確にすることが必要です。例えば、シフト作成の手間を減らしたいのか、不正打刻を防ぎたいのか、それとも給与計算との連携を強化したいのかによって、必要な機能は変わります。AIがどのような業務を自動化し、負担を軽減できるのかを理解したうえで、最適なサービスを選びましょう。
AI機能の精度と実用性を確認する
次に、AI機能の精度と実用性を確認することが重要です。AIがどの程度の業務を自動化できるのか、どのようなデータを学習し、どのように精度を向上させるのかを確認するとよいでしょう。例えば、AIがシフト作成を行う場合、従業員の希望や過去のデータを考慮した適切な割り当てができるのか、または単に人数を均等に振り分けるだけなのかでは、実用性が大きく異なります。
他のシステムと連携できるか
また、他のシステムと連携できるかも検討すべきポイントです。既に勤怠管理システムを使用している場合、AI搭載の新しいシステムがスムーズに統合できるかどうかを確認する必要があります。給与計算ソフトや労務管理システムとの連携ができると、データの手入力や転記ミスが減り、より一貫した管理が可能になります。クラウドサービスを導入する場合は、API連携の有無や対応しているソフトウェアを事前にチェックしましょう。
セキュリティ対策が十分か
セキュリティ対策も重要な判断基準です。AIを活用する勤怠管理では、従業員の出退勤データや勤務状況、場合によっては顔認証や指紋認証などの個人情報を扱うことになります。そのため、データの暗号化やアクセス制限が適切に設定されているか、クラウドサービスの場合はサーバーの管理体制がしっかりしているかを確認することが不可欠です。個人情報保護の観点から、システムの運用が法令に準拠しているかもチェックしましょう。
導入後のサポート体制が十分か
導入後のサポート体制も考慮するべきポイントです。AI勤怠管理システムは、導入後すぐにすべての機能を使いこなせるわけではありません。特に、従業員が新しいシステムに慣れるまでの期間は、操作方法の質問やトラブルが発生する可能性があります。そのため、サポート窓口の対応時間や、導入後のフォローアップ体制が整っているかを確認することが大切です。電話やメール対応に加え、オンラインチャットやFAQの充実度も比較するとよいでしょう。
自社の規模や予算に合ったプランがあるか
コスト面についても慎重に検討する必要があります。AI搭載の勤怠管理サービスには、導入時の初期費用と月額費用が発生するものが多く、サービスによって料金体系が異なります。例えば、従業員数に応じた課金制なのか、拠点ごとの定額制なのかによって、コストの負担が変わるため、自社の規模や予算に合ったプランを選ぶことが重要です。また、無料トライアルが用意されているサービスであれば、実際に使用してみて機能を確かめたうえで導入を決めることができます。
従業員が使いやすいか
最後に、従業員が使いやすいかどうかを考慮することも重要です。勤怠管理システムは、主に管理者が利用するだけでなく、従業員が日常的に打刻や申請を行うため、操作のしやすさが業務効率に影響を与えます。シンプルで直感的に使えるUIであるか、スマートフォンアプリに対応しているかなどを確認し、従業員が負担なく利用できるサービスを選ぶことが理想です。
AIによる勤怠管理の導入を前向きに検討しましょう
勤怠管理へのAI活用で、出退勤チェックの自動化や業務効率化、不正打刻の撲滅、労務管理の精度向上、さらにはコスト削減といった多くのメリットが得られることが分かりました。一方で、プライバシー保護や従業員教育など適切な配慮も欠かせません。これらを踏まえ、自社の課題に合ったAI勤怠管理の導入を検討することが重要です。勤怠管理のような定型業務こそAIとの親和性が高く、人事担当者は戦略的業務に注力できるようになります。ぜひ、本記事で得た知識を活かして、AIによる勤怠管理の導入を前向きに検討してみてください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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