• 更新日 : 2025年11月26日

教育研修とは?目的や種類、具体例などを解説

企業の成長を支える根幹は「人」であり、その人材を育てる教育研修は、経営戦略の重要な一角を占めます。それは従業員のスキルを高めて事業成長を促す「攻め」の側面だけでなく、コンプライアンス遵守などを通じて企業をリスクから守る「守り」の側面も持ち合わせています。

この記事では、人事労務の初心者の方にも分かりやすく「教育研修とは何か」という基本から、その多岐にわたる目的、種類、効果的な計画の立て方、成功のポイントまでを網羅的に解説します。効果的な人材育成の第一歩として、ぜひ本記事をご活用ください。

教育研修とは?

教育研修とは、従業員が業務を遂行する上で必要となる知識、スキル、あるいは働く姿勢(マインド)を習得するために、企業が企画し、提供するあらゆる学習機会のことです。単に業務知識を教えるだけでなく、従業員のキャリア形成を支援し、ひいては組織全体のパフォーマンスを向上させることを目指す、戦略的な投資活動と言えます。

企業は、事業計画や経営戦略を達成するために、従業員一人ひとりの能力を最大限に引き出す必要があります。教育研修は、そのための具体的な手段です。

例えば、新しい技術の導入に伴うスキル習得や、管理職としてのリーダーシップ開発、全社的なコンプライアンス意識の向上など、その目的は多岐にわたります。労働安全衛生法(雇入時安全衛生教育など)で義務付けられている研修や、ハラスメント防止(男女雇用機会均等法・育児介護休業法など)に関する研修など、法律に基づいて実施が必須(または強く推奨)のものもあり、個人の成長と組織の発展を両立させる不可欠な取り組みなのです。

教育と研修の違いとは?

「教育研修」は一つの言葉として使われがちですが、「教育」と「研修」では、目的や期間、焦点の当て方が異なります。

  • 教育(Education):主に長期的・体系的な視点で、個人の潜在能力を引き出し、人間的な成長を促すこと。知識の伝達だけでなく、価値観や思考の基盤を育む意味合いが強い。
  • 研修(Training):主に短期的・実践的な視点で、特定の業務遂行に必要なスキルや知識を習得すること。「訓練」に近い意味合いで、明確な目標達成に主眼が置かれる。

企業活動においては、この両方の側面を組み合わせ、従業員の総合的な能力開発を目指すため、「教育研修」と一括りに呼ばれています。

企業が教育研修を実施する目的とは?

企業が教育研修を実施する目的は、大きく分けて「企業の持続的成長」「従業員のスキルとモチベーション向上」「企業文化の醸成」の3つに集約されます。これらは相互に関連し合い、組織力を高める原動力となります。

企業の持続的成長のため

企業の持続的成長を実現するために、教育研修は不可欠です。経営戦略や事業目標の達成に必要なスキルと、従業員の現状のスキルとの間にあるギャップを埋めることで、組織全体の生産性やサービス品質が向上し、企業価値の増大につながります。

具体的には、以下のような効果が期待できます。

  • 生産性の向上:業務効率化や新技術習得により、従業員一人ひとりのパフォーマンスが向上します。
  • 品質の向上:専門知識や技術を深めることで、製品やサービスの質が高まります。
  • イノベーションの創出:新しい知識や視点を得ることで、新たなアイデアや事業が生まれやすくなります。
  • 事業環境の変化への対応:DX(デジタルトランスフォーメーション)やグローバル化など、変化の激しい市場環境に迅速に対応できる人材を育成します。

従業員のスキルとモチベーション向上のため

従業員個人の成長を支援することも、教育研修の重要な目的です。自身のスキルアップやキャリアアップにつながる学習機会が提供されることで、従業員は会社への貢献意欲や仕事への満足度(エンゲージメント)を高めます。

研修を通じて、従業員は自身のキャリアパスを具体的にイメージできるようになります。「この会社で働き続ければ成長できる」という実感は、優秀な人材の離職を防ぎ、定着率を高める効果(リテンション効果)も期待できます。自身の成長が会社の成長に直結していると感じられる環境は、従業員の働く意欲を強力に後押しするのです。

企業文化の醸成と浸透のため

企業文化を全従業員で共有し、浸透させる上で、教育研修は非常に効果的な手段です。特に、企業のビジョン、ミッション、バリューといった根幹となる価値観を伝えるためには、言葉だけでなく、研修という共通体験を通じて深く理解を促すことが重要です。

例えば、新入社員研修では、自社の歴史や理念を学ぶことで、組織への帰属意識を高めます。また、階層別研修などで同じ役職のメンバーが顔を合わせ、会社の方向性について議論する場は、一体感を醸成し、部門間の連携をスムーズにする効果もあります。このように、人材開発は単なるスキル教育に留まらず、組織の風土を創り上げる役割も担っているのです。

企業の信頼性向上とリスク回避のため

教育研修は、攻めの成長戦略であると同時に、企業を守る「守りの経営」においても極めて重要です。

コンプライアンス研修、ハラスメント防止研修、情報セキュリティ研修などを通じて、全従業員の倫理観や法令遵守の意識を高めることは、企業の社会的信頼を維持・向上させる上で不可欠です。不祥事や情報漏洩といったインシデントは、企業のブランドイメージを大きく損ない、時には事業の存続を揺るがしかねません。

体系的な研修を通じて、企業が負う可能性のある様々なリスクを未然に防ぎ、従業員一人ひとりが安心して働ける職場環境を構築することも、教育研修の重要な目的の一つです。

教育研修にはどのような種類(分類)がある?

教育研修は、対象者や目的に応じて様々な種類に分類されます。代表的な分類方法として「階層別」「職種別」「目的別・テーマ別」の3つの切り口があります。自社の課題に合わせてこれらを適切に組み合わせることが重要です。

階層別研修

階層別研修とは、新入社員、若手・中堅社員、管理職、経営層といった、社内での役職や役割(階層)に応じて実施される研修です。それぞれの立場で求められるスキルやマインドセットを習得することを目的とします。

階層主な目的研修内容の例
新入社員研修社会人としての基礎力、自社理解、ビジネスマナーの習得企業理念、事業内容、コンプライアンス、PCスキル、報連相
若手・中堅社員研修主体性の発揮、後輩指導、専門スキルの深化フォロワーシップ、OJT指導員、ロジカルシンキング、問題解決
管理職研修組織マネジメント、部下育成、リーダーシップの発揮労務管理、目標設定、コーチング、人事評価、チームビルディング
経営層研修経営戦略の策定、組織変革の推進、意思決定能力の向上経営戦略論、財務会計、リスクマネジメント、ガバナンス

職種別研修

職種別研修とは、営業、技術、企画、人事など、特定の職務を遂行するために必要な専門知識や実践的スキルを高めるための研修です。業務内容に直結するため、参加者の学習意欲も高まりやすいのが特徴です。

  • 営業研修:商談スキル、交渉力、プレゼンテーション、顧客管理手法
  • 技術研修:特定分野の専門技術、プログラミング言語、品質管理(QC)
  • 企画・マーケティング研修:市場分析、フレームワーク活用、商品開発、デジタルマーケティング
  • 人事・労務研修:採用面接、人事評価制度、労働法、社会保険手続き

目的別・テーマ別研修

目的別・テーマ別研修は、階層や職種に関わらず、特定のテーマやスキルについて全社的、あるいは部門横断的に実施される研修です。企業のコンプライアンス強化や、特定のスキルセットの底上げなどを目的とします。

  • コンプライアンス研修:法令遵守、情報セキュリティ、個人情報保護
  • ハラスメント研修:パワハラ・セクハラの防止、アンコンシャスバイアス(無意識の偏見)
  • リーダーシップ研修:次世代リーダー候補の育成、様々なリーダーシップ理論
  • DX研修:ITリテラシー向上、データ分析、AI活用
  • コミュニケーション研修:アサーティブコミュニケーション、交渉術、ファシリテーション
  • グローバル人材育成研修:語学力(英語・中国語など)、異文化コミュニケーション、海外赴任前研修

【具体例】教育研修の方法

教育研修の実施方法(手法)は、職場内での実務を通じた学習から、外部の専門機関を利用するものまで多岐にわたります。それぞれのメリット・デメリットを理解し、研修の目的や内容に合わせて最適な方法を選択することが成功の鍵です。

OJT(On-the-Job Training):実務を通じた育成

OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)とは、実際の業務を行いながら、上司や先輩社員が指導役となって必要な知識やスキルを教える育成手法です。実務に即した内容を、個々の習熟度に合わせてタイムリーに指導できるのが最大のメリットです。

  • メリット
    • 実務と直結しているため、学習内容が定着しやすい。
    • 個人のレベルに合わせて柔軟に指導できる。
    • 外部委託コストがかからず、比較的低予算で実施可能。
  • デメリット
    • 指導者のスキルや熱意によって教育効果に差が出やすい。
    • 指導者の負担が大きくなる場合がある。
    • 体系的な知識の習得には向かないことがある。

Off-JT(Off-the-Job Training):職場を離れた学習

Off-JT(オフ・ザ・ジョブ・トレーニング)とは、職場や通常の業務から離れて行われる研修のことです。集合研修(セミナー)、外部講習への参加、カンファレンスなどがこれにあたります。業務から切り離された環境で、体系的な知識やスキルを集中して学ぶことができます。

  • メリット
    • 専門家から体系的・網羅的に知識を学べる。
    • 一度に多くの従業員を対象に、均質な教育を提供できる。
    • 他社の参加者との交流を通じて、新たな視点や人脈を得られる。
  • デメリット
    • 研修内容が実務に直結しにくい場合がある。
    • 受講費用や会場費などのコストがかかる。
    • 研修期間中は業務を離れるため、人員調整が必要。

SD(Self-Development/自己啓発):従業員の自発的な学習支援

SD(自己啓発)とは、従業員が自らの意思で行う学習活動を、会社が支援する制度のことです。全ての研修を会社主導で行うのではなく、従業員の主体的な学びを促し、組織全体の学習文化を醸成することを目的とします。支援策の例は以下の通りです。

  • 書籍購入費用の補助
  • 資格取得支援制度(受験料補助、報奨金など)
  • 外部セミナーや通信教育の受講料補助
  • eラーニングプラットフォームの導入

近年注目される研修手法

近年、教育研修の手法はeラーニングやマイクロラーニングなど、その選択肢が大きく広がっています。この背景には、時間や場所を選ばずに学習したいというニーズの高まりと、それを実現するテクノロジーの進化があります。

  • eラーニング:PCやスマートフォンを使い、時間や場所を選ばずに学習できる手法。反復学習に適しており、知識の定着に効果的です。
  • マイクロラーニング:1回あたり数分程度の短い動画コンテンツなどで、隙間時間に学習する手法。多忙な従業員でも継続しやすいのが特徴です。
  • ブレンディッドラーニング:eラーニングでの事前学習と、集合研修でのディスカッションや実践演習を組み合わせるなど、複数の手法を統合した学習形態。それぞれの長所を活かし、学習効果の最大化を図ります。

教育研修の計画はどのように立てる?

教育研修を成功させるには、場当たり的な実施ではなく、戦略に基づいた綿密な計画が不可欠です。以下の4つのステップに沿って計画を進めることで、研修の効果を最大化することができます。

ステップ1. 現状の課題とニーズを分析する

まず初めに、会社の経営課題や事業戦略と、従業員の現状のスキルレベルを照らし合わせ、そのギャップを明確にすることから始めます。理想と現実の差が、育成すべき課題となります。

分析方法の例
  • 経営層へのヒアリング:会社のビジョンや中期経営計画から必要な人材像を把握する。
  • 従業員アンケートや面談:現場が感じているスキル不足や学習ニーズを収集する。
  • 人事データ分析:パフォーマンス評価、離職率、勤怠データなどから組織課題を抽出する。

ステップ2. 研修の目的とゴールを明確化する

課題分析の結果に基づき「何を(What)」「なぜ(Why)」「どのレベルまで(To what extent)」達成するのか、研修の目的とゴールを具体的に設定します。ゴールは、可能な限り測定可能な指標で設定することが望ましいです。

例えば「新任管理職の部下育成スキルを向上させる」という目的であれば、「研修後3ヶ月以内に、部下一人ひとりとの1on1ミーティングを月1回以上実施し、その内容を記録する」といった行動レベルの具体的なゴールを設定します。

ステップ3. 研修対象者と内容、手法を選定する

設定したゴールを達成するために、「誰に(Who)」「何を(What)」「どのように(How)」学んでもらうかを決定します。対象者の役職、経験、スキルレベルを考慮し、最適な研修コンテンツと、OJT、Off-JT、eラーニングといった手法を組み合わせます。

選定のポイント
  • 内容:ゴール達成に直結する知識・スキルに絞り込む。
  • 手法:知識習得ならeラーニング、実践演習なら集合研修など、内容に合った手法を選ぶ。
  • 講師:社内講師か外部講師か、それぞれのメリットを考慮して選定する。

ステップ4. 実施と効果測定、改善を行う

計画に沿って研修を実施し、終了後は必ず効果測定を行います。測定結果を分析し、次回の研修企画に活かすPDCAサイクルを回すことが、研修の質を継続的に高める上で不可欠です。

効果測定のモデル例(カークパトリックの4段階評価法)
  • レベル1(反応):受講後のアンケートで満足度を測る。
  • レベル2(学習):理解度テストやレポートで知識の習得度を測る。
  • レベル3(行動):研修後の行動変容を上司や同僚へのヒアリングで確認する。
  • レベル4(結果):生産性向上や売上増加など、組織への貢献度を業績指標で測る。

教育研修を成功させるための注意点

研修を成功に導くには、押さえるべき3つの重要な注意点があります。たとえ質の高い研修を企画・実施しても、これらのポイントが抜けていると、期待した効果を得ることは難しくなります。

1. 経営層のコミットメントを得る

教育研修は、人事部門だけで完結するものではなく、全社的な取り組みです。特に、経営層が人材育成の重要性を理解し、積極的に関与する姿勢を示すことは、研修の成功に極めて大きな影響を与えます。

経営トップから「なぜ今この研修が必要なのか」というメッセージが発信されることで、従業員は研修の重要性を認識し、学習意欲が高まります。また、予算の確保や業務の調整など、研修実施に必要なリソースを円滑に得られるようになります。

2. 研修を「やりっぱなし」にしない仕組みを作る

研修で学んだことを実際の業務で活用し、定着させてこそ、研修は成功と言えます。研修を実施して終わり、という「やりっぱなし」の状態を防ぐための仕組み作りが重要です。

仕組みの例
  • 研修後に実践課題を課し、上司がその進捗を確認・フィードバックする。
  • 数ヶ月後にフォローアップ研修を実施し、実践状況の共有や課題の解決を図る。
  • 学んだスキルを活かせる業務を意図的に割り振る。
  • 研修内容を職場で共有する報告会を開催する。

3. 受講者の主体性を引き出す

研修が「会社からやらされている」という受け身の姿勢では、学習効果は半減してしまいます。受講者が「自分のために学ぶ」という当事者意識を持てるよう、主体性を引き出す工夫が必要です。

研修の冒頭で、研修内容が自身の業務やキャリアにどう繋がるのかを丁寧に説明することが有効です。また、一方的な講義形式だけでなく、グループディスカッションやケーススタディ、ロールプレイングといった、受講者が能動的に参加できるプログラムを組み込むことで、学習への没入感を高めることができます。

成長の機会となる教育研修を始めよう

本記事では、教育研修の定義から目的、具体的な手法、計画の立て方までを解説しました。教育研修は、未来の成長を創出する「攻め」の投資であると同時に、企業の信頼性を高め、経営基盤を固める「守り」の活動でもあります。企業の成長と安定の両輪を回す効果的な人材開発を計画・実行し、組織全体の力を最大限に引き出していきましょう。


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