- 更新日 : 2025年11月25日
平均賃金の計算方法は?休業手当や解雇予告手当などの用途や注意点を解説
平均賃金は、単なる給与の平均額ではなく、労働基準法で定められた労働者を守るための重要な指標です。この指標は、会社都合による休業や解雇といった万が一の事態が発生した際に、労働者の生活を保障するための休業手当や解雇予告手当などを算出する際の基礎となります。
この記事では、平均賃金の正しい計算方法から具体的な用途、計算する上での注意点まで、計算例を交えながら分かりやすく解説します。
そもそも平均賃金とは?
平均賃金とは、労働基準法第12条に定められた、労働者の生活を保障するための各種手当などを算出する基礎となる1日あたりの賃金額のことです。算定すべき事由(休業など)が発生した日より前の3ヶ月間に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数(暦日数)で割って算出します。
平均賃金は、私たちが日常的に使う「平均給与」や「平均年収」といった言葉とは意味合いが異なります。あくまで、会社都合で労働者が普段通りの賃金を受け取れない状況において、公平な補償額を算出することを目的としています。
平均賃金の計算方法
平均賃金の計算は、原則として「算定期間中の賃金総額 ÷ その期間の総日数(暦日数)」で計算します。ただし、パートタイマーやアルバイトなど労働日数が少ない方の場合、この計算式では著しく金額が低くなる可能性があるため、最低保障額が設けられています。
計算の結果、以下の2つのうち、金額が高い方が平均賃金として採用されます。
- 原則の計算方法:賃金総額 ÷ 期間の総日数(暦日数)
- 最低保障額の計算方法:(賃金総額 ÷ 期間中の労働日数) × 60%
それでは、具体的な計算手順を3つのステップに分けて見ていきましょう。
1. 算定期間を特定する
最初に、計算の基礎となる「算定期間」を明確にします。算定期間とは、平均賃金を計算する理由が発生した日(算定事由発生日)の直前の賃金締切日から遡った3ヶ月間です。算定事由発生日の「当日」は期間に含まれない点に注意してください。
- 賃金締切日:毎月末日
- 算定事由発生日(例:休業開始日):8月10日
この場合、8月10日の直前の賃金締切日は7月31日です。そこから3ヶ月遡るため、算定期間と総日数は以下のようになります。
| 期間 | 日数(暦日数) |
|---|---|
| 5月1日~5月31日 | 31日 |
| 6月1日~6月30日 | 30日 |
| 7月1日~7月31日 | 31日 |
| 合計 | 92日 |
この92日間が、計算式の分母となる「総日数」です。
2. 賃金総額の内訳を確認する
次に、計算の分子となる「賃金総額」を確定させます。賃金総額には、基本給や各種手当など、労働の対償として支払われる原則すべてのものが含まれます。ただし、公平性を保つため、臨時的な手当や3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賞与(ボーナス)などは除外されます。
- 結婚手当、見舞金などの臨時の手当
- 賞与(ボーナス)など3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金
- 退職金
- 会社が費用を負担する福利厚生費
- 業務に使う道具や制服など現物給与(法令で定められたものは除く)
特に間違いやすいのが、通勤手当と賞与です。所得税法上非課税となる通勤手当も、労働基準法上の賃金には含まれます。一方で、年2回や3回支給される賞与は、通常3ヶ月を超える期間ごとに支払われるため、平均賃金の計算からは除外します。
3. 具体的な計算例でシミュレーションする
ここまでのステップに基づき、具体的な求め方をシミュレーションします。このような計算は、Excel(エクセル)やGoogleスプレッドシートなどの表計算ソフトのほか、Web上の平均賃金計算ツールなどを活用すると効率的です。
ケース1. 月給制の正社員の場合
- 賃金締切日:毎月末日
- 算定事由発生日:8月10日
- 月給:300,000円(基本給25万円、役職手当3万円、通勤手当2万円)
- 算定期間中の残業代総額:45,000円
- 算定期間中の勤務状況
- 5月:22日勤務
- 6月:21日勤務
- 7月:22日勤務
- 算定期間と総日数の特定
- 期間:5/1~7/31
- 総日数(暦日):31日(5月) + 30日(6月) + 31日(7月) = 92日
- 実労働日数:22日(5月) + 21日(6月) + 22日(7月) = 65日
- 賃金総額の計算
- 月給3ヶ月分:300,000円 × 3ヶ月 = 900,000円
- 残業代総額:45,000円
- 賃金総額:900,000円 + 45,000円 = 945,000円
- 平均賃金の算出
- 原則の計算
945,000円 ÷ 92日 = 10,271.739…円 - 最低保障額の計算
900,000円 ÷ 92日 = 9,782.6087…円
(45,000円 ÷ 65日) × 0.6 = 692.307…円 × 0.6 = 415.384円
合計:9,782.608+ 692.307=10,474.916…円
- 原則の計算
このうち、金額が高い10,271.74円が平均賃金となります(銭未満は切り捨て)。
ケース2. 時給制のパート・アルバイトの場合
- 賃金締切日:毎月末日
- 算定事由発生日:8月10日
- 時給:1,200円
- 算定期間中の勤務状況
- 5月:15日勤務(105,600円)
- 6月:16日勤務(110,400円)
- 7月:14日勤務(98,000円)
- 算定期間と総日数の特定
- 期間:5/1~7/31
- 総日数:92日
- 実労働日数:15日 + 16日 + 14日 = 45日
- 賃金総額の計算
105,600円 + 110,400円 + 98,000円 = 314,000円 - 平均賃金の算出
- 原則の計算
314,000円 ÷ 92日 = 3,413.04円 - 最低保障額の計算
(314,000円 ÷ 45日) × 0.6 = 6,977.77…円 × 0.6 = 4,186.66円
- 原則の計算
このうち、金額が高い4,186.66円が平均賃金となります。
平均賃金の主な用途
平均賃金は、労働者の生活を守るためのセーフティーネットとして、以下のような場面で活用されます。
1. 休業手当の計算
会社の都合で労働者を休業させる場合、会社は平均賃金の60%以上の休業手当を支払う義務があります。これは労働基準法第26条で定められており、経営不振などを理由に従業員を休ませる際に、生活を保障するための重要な制度です。
休業手当の計算式は以下の通りです。
たとえば、平均賃金が10,000円の労働者が会社の都合で5日間休業した場合、会社は少なくとも「10,000円 × 0.6 × 5日 = 30,000円」を支払う必要があります。
2. 解雇予告手当の計算
会社が労働者を即時に解雇する場合、原則として30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければなりません。労働基準法第20条に基づくこのルールは、労働者が突然収入を失い、生活に困窮することを防ぐ目的があります。
解雇予告手当の支払いは、以下のように日数で調整することも可能です。
たとえば、10日前に解雇を予告して即日解雇した場合は、差額の20日分以上の平均賃金を支払う必要があります。
3. 年次有給休暇を取得した日の賃金計算
年次有給休暇(有休)を取得した日の賃金の支払い方法として、平均賃金を用いることが認められています。労働基準法第39条第9項では、通常の賃金、平均賃金、標準報酬月額の30分の1相当の金額(標準報酬日額)のいずれかで支払うことと定めており、どの方法を採用するかは就業規則で定める必要があります。
4. 労災保険の休業(補償)給付などの計算
業務中や通勤中の怪我・病気で休業する際に支給される労災保険の給付額は、平均賃金に相当する「給付基礎日額」を基に計算されます。この給付基礎日額は平均賃金と同じ方法で算出されますが、1円未満の端数を1円に切り上げる点が平均賃金の計算とは異なります。給付基礎日額は被災した労働者の生活保障の根幹をなす重要な値です。
5. 減給制裁の上限額の計算
就業規則違反などを理由に減給の懲戒処分を行う場合、その減給額には平均賃金を基準とした上限が設けられています。これは労働基準法第91条に基づき、労働者の生活を過度に脅かす不当な減給を防ぐためのルールです。
減給制裁には以下の2つの上限があります。
- 1回の事案に対する減給額は、平均賃金の1日分の半額を超えてはならない。
- 複数の事案に対する減給を同時に行う場合でも、その総額は一賃金支払期における賃金総額の10分の1を超えてはならない。
このルールにより、不当に高額な減給が行われることを防いでいます。
平均賃金の計算における注意点
平均賃金の算出には、いくつかの例外的なケースが存在します。特に判断に迷いやすい注意点を解説します。
雇入れ後3ヶ月に満たない労働者の場合
雇入れから3ヶ月未満の労働者については、算定期間が「雇入れ後の期間」となります。
このときも、原則は算定事由発生日の直前の賃金締切日が起算点となりますが、直前の賃金締切日から起算したときに、算定期間が1ヶ月(一賃金締切期間)に満たなくなる場合は、算定事由発生日から計算します。
たとえば、賃金締日が末日の会社に4月1日に入社した従業員について、5月10日に算定事由が発生した場合、算定期間は4月1日から5月9日までとなります。この期間の賃金総額と暦日数で計算します。
産前産後休業などの期間がある場合
以下の期間が算定期間の3ヶ月と重なる場合、その日数と期間中の賃金は、算定期間および賃金総額から控除して計算します。
- 産前産後休業、育児・介護休業の期間
- 業務上の傷病による療養のための休業期間
- 会社の都合による休業期間
- 試用期間
これらの期間は賃金が低い、または支払われないため、含めて計算すると労働者の不利益になる可能性があることから、保護する目的で除外されます。
日雇い労働者の場合
日雇い労働者の平均賃金は、これまで解説した3ヶ月の算定期間を適用することが困難なため、厚生労働大臣が定める特別な計算方法を用います。具体的には、本人に支払われた賃金総額や、同じ事業場で同じ業務に従事する労働者の賃金を基に算出されます。
平均賃金の計算方法に関してよくある質問(FAQ)
最後に、平均賃金の計算方法に関してよくある質問とその回答をまとめました。
パートやアルバイトの平均賃金の計算方法は?
パートやアルバイトの方も、原則の計算方法と最低保障額の計算方法の2通りで算出し、金額が高い方を採用します。労働日数が少ない場合は、最低保障額の計算結果が適用されることが多くなります。
ボーナス(賞与)や通勤手当は計算に含めますか?
3ヶ月を超える期間ごとに支払われるボーナス(賞与)は賃金総額に含めません。一方で、通勤手当は非課税分であっても賃金総額に含めて計算します。
試用期間中に休業した場合の平均賃金は?
算定期間のすべてが試用期間である場合は、その期間中の賃金と日数で計算します。ただし、算定期間の一部に試用期間が含まれる場合は、その試用期間中の日数と賃金を計算から控除して算出します。
平均賃金の計算に便利なツールはありますか?
厚生労働省が提供する公式なツールはありませんが、社会保険労務士事務所や勤怠管理システムを提供している企業のウェブサイトで、無料で利用できる「平均賃金計算ツール」が公開されている場合があります。これらを利用すると、数値を入力するだけで簡単にシミュレーションが可能です。
平均賃金の正しい理解が労使双方を守る
本記事では、平均賃金の基本的な定義から、具体的な計算方法、そして休業手当や解雇予告手当といった重要な用途について詳しく解説しました。
平均賃金は、単なる計算上の数字ではなく、労働基準法に基づいて労働者の生活を守るための重要な値です。その算出方法と役割を正しく理解しておくことは、会社にとってはコンプライアンスの遵守、労働者にとっては自身の権利を守ることにつながります。健全な労使関係を築くためにも、 万が一の事態に備え、平均賃金の基本事項をぜひ覚えておいてください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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