- 更新日 : 2025年11月26日
従業員満足度を高めるには?調査方法から分析、具体的な改善策までわかりやすく解説
従業員満足度(ES)は、企業の持続的な成長に欠かせない重要な経営指標です。社員一人ひとりが仕事や職場環境に満足することで、生産性の向上や離職率の低下、さらには顧客満足度の向上といった多くのメリットが期待できます。しかし、その重要性を理解しつつも、「具体的に何をすればいいのかわからない」と感じる経営者や担当者の方も多いのではないでしょうか。
この記事では、まず従業員満足度を高める具体的な方法を解説し、その上で満足度の定義や重要性、効果的な調査・分析の方法まで、初心者の方にもわかりやすく網羅的に解説します。
目次
従業員満足度を高める具体的な方法
従業員満足度は、単一の施策で劇的に向上するものではなく、多角的なアプローチが必要です。ここでは、特に重要となる5つの具体的な方法をご紹介します。自社の状況と照らし合わせながら、取り組みやすいものから検討してみてください。
理念・ビジョンの浸透
企業の理念やビジョンが従業員に浸透していると、自身の仕事が会社の目標達成にどう貢献しているかを実感でき、働きがいや目的意識が高まります。これは給与などの待遇面だけでは得られない満足感につながります。経営層が自らの言葉で繰り返し理念を語り、日々の業務と結びつけて伝えることで、組織全体に一体感が生まれ、従業員の満足度向上に大きく寄与します。
公正な人事評価と報酬
従業員は「自分が正当に評価されているか」を常に意識しています。評価基準が曖昧だったり、上司によって評価が異なったりすると、不満やモチベーション低下の大きな原因となります。評価基準を明確に定め、全社で共有することが重要です。また、評価結果を本人に丁寧にフィードバックする場を設け、納得感を高める努力も欠かせません。その上で、業績や貢献度に見合った適切な報酬を設定することが満足度の基盤となります。
良好な人間関係と職場環境
多くの従業員にとって、職場の人間関係は満足度を左右する大きな要素です。上司や同僚と円滑なコミュニケーションが取れ、互いに尊重し合える風土があるかどうかが重要になります。誰もが安心して意見を言える「心理的安全性」の高い環境を目指しましょう。定期的な1on1ミーティングの実施や、ハラスメント相談窓口の設置など、コミュニケーションを活性化させ、トラブルを未然に防ぐ仕組みづくりが効果的です。
魅力的な福利厚生
福利厚生は、従業員の生活を支え、企業への感謝や愛着を育む上で重要な役割を果たします。法律で定められた社会保険などの「法定福利厚生」に加え、企業独自の「法定外福利厚生」を充実させることが他社との差別化につながります。住宅手当や食事補助といった定番のものだけでなく、スキルアップを支援する研修制度や、心身の健康をサポートする制度など、自社の従業員のニーズに合った魅力的な福利厚生を検討しましょう。
ワークライフバランスの推進
仕事と私生活の調和が取れることは、従業員が心身ともに健康で、長期的に働き続けるために不可欠です。長時間労働の是正や有給休暇の取得促進はもちろんのこと、テレワークやフレックスタイム制度、時短勤務といった多様で柔軟な働き方を導入することが求められます。従業員一人ひとりのライフステージ(育児、介護など)に合わせた働き方を支援する姿勢を示すことで、企業への信頼と満足度は大きく向上します。
従業員満足度とは
従業員満足度を高める方法について解説しましたが、ここで改めて「従業員満足度」とは何か、その定義と関連用語との違いについて正確に理解しておきましょう。言葉の意味を正しく捉えることで、施策の目的がより明確になります。
従業員満足度の定義
従業員満足度とは、英語の「Employee Satisfaction」を略して「ES」とも呼ばれ、従業員が自らの仕事内容、給与、職場環境、人間関係、福利厚生といった会社における様々な要素に対して、どの程度満足しているかを示す指標です。この満足度は、従業員のモチベーションや生産性に直接的な影響を与えるため、経営における重要な管理指標の一つとして注目されています。
従業員エンゲージメントとの違い
従業員満足度とよく似た言葉に「従業員エンゲージメント」があります。この二つは混同されがちですが、意味合いは異なります。
- 従業員満足度:会社や仕事に対する「満足感」。会社から与えられる待遇や環境に対する従業員の感情であり、どちらかというと受動的な指標です。
- 従業員エンゲージメント:会社への「貢献意欲」。従業員が会社の目指す方向性を理解し、自発的にその成功に貢献したいと考える、能動的でポジティブな関係性を指します。
満足度が高くても、必ずしもエンゲージメントが高いとは限りません。「働きやすい環境には満足しているが、もっと頑張ろうとまでは思わない」という状態もあり得ます。企業としては、満足度を土台としつつ、エンゲージメントを高めていく視点が重要です。
従業員満足度が経営にもたらすメリット
従業員満足度の向上は、単に「社員が喜ぶ」だけでなく、企業経営に多くの具体的なメリットをもたらします。コストをかけてでも取り組むべき理由を4つの観点から解説します。
生産性と業績の向上
仕事や職場に満足している従業員は、仕事に対するモチベーションが高く、自律的に業務に取り組む傾向があります。その結果、一人ひとりの業務効率やパフォーマンスが向上し、組織全体の生産性アップにつながります。さらに、従業員が積極的に業務改善や新しいアイデアを提案するようになれば、イノベーションが生まれ、企業の業績向上にも大きく貢献します。
人材の定着と離職率の低下
従業員満足度の高い企業は、従業員にとって「働き続けたい会社」となります。これにより、優秀な人材の流出を防ぎ、離職率を低下させることができます。人材の定着は、採用コストや新人教育コストの削減に直結するだけでなく、組織内に知識やノウハウが蓄積されるという大きなメリットももたらします。特に人材不足が深刻化する現代において、これは極めて重要な経営課題です。
顧客満足度の向上
従業員の満足は、顧客へのサービス品質に反映されるという考え方があります。これを「サービス・プロフィット・チェーン」と呼びます。自社の商品やサービスに誇りを持ち、活き活きと働く従業員は、自然と顧客に対して質の高い対応をするようになります。その結果、顧客満足度(CS)が向上し、リピート顧客の増加や企業の評判アップにつながるという好循環が生まれます。
採用競争力の強化
従業員満足度が高い企業は、社員による口コミや企業の評判サイト(OpenWorkなど)で良い評価を得やすくなります。企業のポジティブな評判は、求職者にとって大きな魅力となり、採用活動において有利に働きます。優秀な人材が集まりやすくなるだけでなく、自社の理念や文化に共感した人材からの応募が増えるため、入社後のミスマッチを防ぐ効果も期待できます。
従業員満足度調査の進め方
従業員満足度を効果的に高めるには、まず現状を正しく把握することが不可欠です。そのための手段が「従業員満足度調査」です。ここでは、調査を成功させるための4つのステップを解説します。
調査目的の明確化
調査を始める前に、「何のために調査を行うのか」という目的を明確にすることが重要です。「離職率が高い原因を探りたい」「新しい人事制度の効果を測定したい」「部署間のコミュニケーション課題を把握したい」など、目的によって質問項目や調査方法は変わってきます。目的が曖昧なままでは、有益なデータを得られず、調査自体が無駄になってしまう可能性があります。
主な調査方法と選び方
調査目的が定まったら、適切な方法を選びます。主な調査方法には以下のようなものがあります。
- アンケート調査:Webや紙媒体で多くの従業員から効率的に回答を集められます。匿名性を確保しやすく、本音を引き出しやすいのが特徴です。
- インタビュー調査:従業員と1対1で対話し、深層心理や具体的なエピソードをヒアリングします。アンケートでは見えない質的な情報を得られます。
- パルスサーベイ:週に1回、月に1回など、高い頻度で簡単な質問(5~10問程度)を繰り返す調査手法です。従業員のコンディションの変化をリアルタイムで把握できます。
結果の分析と課題特定
収集したデータは、分析して初めて価値を持ちます。全体の平均点を見るだけでなく、2つ以上の設問項目を組み合わせて、部署別、役職別、勤続年数別など、属性ごとにデータを比較する「クロス集計」を行うことで、特定の層が抱える課題が浮き彫りになります。例えば、「若手社員の満足度が特に低い」「特定の部署で人間関係の悩みが突出している」といった具体的な課題を発見することが、効果的な改善策につながります。
改善策への活用
調査結果の分析で終わらせず、必ず改善アクションにつなげることが重要です。分析によって明らかになった課題の優先順位をつけ、具体的な改善計画を立てて実行します。また、調査結果の概要を従業員にフィードバックし、「皆さんの声をもとに、このような改善を行います」と示すことで、従業員の信頼感や当事者意識を高めることができます。そして、施策の実行後は再度調査を行い、効果を測定する(PDCAサイクル)ことが大切です。
従業員満足度向上を阻む要因
良かれと思って始めた施策が、なぜかうまくいかないケースもあります。ここでは、従業員満足度向上の取り組みが失敗に終わりがちな3つの要因をご紹介します。これらの落とし穴を事前に理解し、対策を講じましょう。
経営層のコミットメント不足
従業員満足度の向上は、人事部だけの仕事ではなく、全社的な取り組みです。特に経営層がその重要性を理解し、主体的に取り組む姿勢(コミットメント)を示すことが極めて重要です。経営層が関心を示さず、担当部署に任せきりにしてしまうと、施策は形骸化し、従業員も「会社は本気ではない」と感じてしまいます。経営トップ自らが、満足度向上の目的や意義を従業員に直接語りかけることが重要です。
調査だけで改善が伴わない
従業員満足度調査を何度も実施しているにもかかわらず、毎回結果がフィードバックされなかったり、具体的な改善策が実行されなかったりすると、従業員は次第に協力的でなくなります。「どうせ回答しても何も変わらない」という無力感が広がり、「アンケート疲れ」や会社への不信感を招く結果になりかねません。調査を行う以上は、迅速なフィードバックと誠実な改善アクションがセットであると心得るべきです。
従業員の声を反映していない
経営層や人事が「従業員のためになるだろう」と考えて導入した施策が、現場のニーズとずれているケースは少なくありません。例えば、利用者がほとんどいない保養所を維持したり、若手社員が求めていない飲み会を頻繁に開催したりといった例です。施策を立案する際は、アンケートやヒアリングを通じて従業員のリアルな声を十分に吸い上げ、本当に求められているものは何かを見極めることが成功の鍵となります。
人的資本経営と従業員満足度の関係
近年、経営の世界では「人的資本経営」という考え方が主流になっています。これは、従業員をコストではなく、知識やスキルといった資本を持つ「価値創造の源泉」と捉え、積極的に投資していく経営手法です。2023年3月期決算以降、大手企業には有価証券報告書で人的資本に関する情報の開示が義務付けられました。
この流れは、今後中小企業にも大きな影響を与えます。金融機関からの融資や、取引先からの評価、そして採用活動において、「従業員を大切にしているか」が企業価値を測る重要な物差しになるからです。従業員満足度は、この人的資本の状態を示す代表的な指標(KPI)の一つであり、その向上に取り組むことは、社会的な要請に応え、企業価値を高める上でも不可欠と言えるでしょう。
従業員満足度は企業成長の基盤
従業員満足度を高めることは、単なるコストではなく、未来の企業成長に向けた重要な投資です。社員が働きがいを感じ、能力を最大限に発揮できる組織は、変化の激しい時代を乗り越える強固な基盤となります。
この記事で解説したように、まずは理念の浸透や公正な評価、良好な職場環境づくりといった基本的な土台を固めることが大切です。その上で、自社の現状を把握するための調査から始め、従業員の声に耳を傾け、一つずつでも改善策を実行していくことが、企業の持続的な発展につながります。本記事の内容を参考に、貴社の組織づくりにぜひお役立てください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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