• 更新日 : 2025年9月2日

入社書類に不備がある場合の対応方法とは?流れや予防策を解説

入社書類に不備があった場合、どのように対応すればよいのか、迷うことはありませんか。書類の不足や記入ミスは誰にでも起こり得るものですが、対応を誤ると信頼関係の損失や手続きの遅れにつながる可能性があります。

この記事では、入社書類に不備があったときの対応フローから注意点、再提出の依頼方法、不備の予防策まで、現場で役立つ実務の視点から整理しています。

入社書類に不備がある場合の基本的な対応フロー

ここでは、入社書類に不備があった際の基本的な対応フローを解説します。フローに沿って対応することで、入社者の方にも安心して手続きを進められるでしょう。

1. 不備内容の確認と把握

まずは、どのような書類に、どのような不備があるのかを正確に確認します。

  • 書類の種類:
    どの入社書類(例:雇用契約書、基礎年金番号通知書または従来の年金手帳、住民票記載事項証明書など)に不備があるのかを特定します。
  • 不備の内容:
    記載漏れ、誤字脱字、必要書類の不足、有効期限切れなど、具体的な不備内容を把握します。

入社書類の不備に気づいた場合は、提出状況を確認し、書類の種類ごとに不足や誤りをリスト化します。不足内容を明確に把握しておくことで、優先順位を立てた対応が可能です。その上で、本人に連絡を取る前に、社内で対応方法を統一しておくことが大切です。

特に入社日が迫っている場合は、どの書類が未提出かを事前に整理しておくことが、円滑な手続きを進める上で効果的です。電話やメールで連絡する際は、指摘する内容が明確であることに加え、相手の立場に配慮した表現を心がけましょう。

2. 入社者への連絡

不備が判明したら、速やかに本人へ連絡を取ります。連絡方法は、状況に応じて電話やメールを使い分けましょう。

電話での連絡: 緊急性が高い場合や、複雑な説明が必要な場合は電話が適しています。

  • 不備内容を明確に伝える
  • 不足書類や訂正箇所を具体的に説明する
  • 提出期限や提出方法を案内する
  • 質問がないか確認し、不明な点があれば丁寧に対応する

メールでの連絡: 記録を残したい場合や、電話がつながりにくい場合はメールが有効です。

  • 件名で不備があることを明示し、開封を促す
  • 不備内容、提出期限、提出方法を具体的に記載する
  • 添付ファイルが必要な場合は、その旨を伝える
  • 不明点があれば連絡するよう促す

書類の不備対応においては、状況に応じて連絡手段を使い分けることがポイントです。記録を残したい場合はメールが有効ですが、提出の緊急性が高いときは電話での連絡が適しています。郵送が必要な場合は返信用封筒を同封するなど、相手の手間を減らす工夫も大切です。

また、書類の再提出を依頼する際には、相手が安心して対応できるよう、連絡内容に一貫性と配慮を持たせることが求められます。

3. 不備書類の修正・再提出依頼

入社者から修正・再提出された書類は、再度内容をチェックします。

  • 具体的な指示:どの部分をどのように修正・記入すればよいか、具体的に指示します。可能であれば、修正箇所をマークアップしたサンプルを共有するのも効果的です。
  • 提出方法の提示:再提出の方法(郵送、持参、PDFでの送付など)を明確に伝えます。
  • 提出期限の設定:スケジュールに影響が出ないよう、無理のない範囲で提出期限を設定します。

不備が確認された書類は、対象の内定者・入社者に丁寧に説明し、再提出を依頼します。メールで連絡する際は、件名に「入社書類の確認のお願い」と明記し、本文ではどの書類にどのような不備があるのかを具体的に記載します。

また、郵送で提出する場合の宛先や締め切り、添え状の有無についても分かりやすく記載することで、相手の混乱を防げます。やり取りの履歴を残すためにも、可能な限り文書での連絡を基本としつつ、必要に応じて電話でフォローを行いましょう。

さらに、書類の再提出には期限を設けることが重要です。いつまでにどの手段で提出してもらうかを明記することで、相手もスケジュールを立てやすくなります。自社の回答率や業務フローに合わせて適切にリマインドをしましょう。

リマインド時には「ご対応ありがとうございます」といった感謝の言葉を添えることで、相手の心理的負担を軽減できます。複数回の催促が必要な場合でも、常に冷静で丁寧なトーンを維持しながら対応を進めていきましょう。

4. 受領と確認

修正・再提出された書類を受け取ったら、最終確認を行います。

  • 内容の最終確認:すべての不備が解消されているか、漏れがないかを最終的に確認します。
  • 完了の連絡:書類がすべて揃い、手続きが完了したことを入社者に連絡します。これにより、入社者は安心して入社日を迎えられます。
  • 保管:完了した書類は、所定の場所に適切に保管します。

5. 情報共有と記録

社内関係者との情報共有と、一連の対応の記録を残すことも重要です。

  • 関係部署への共有:必要に応じて人事、経理、配属部署など、関係部署に不備対応の状況や完了を共有します。
  • 記録:いつ、どのような不備があり、どのように対応したのかを記録しておくと、今後のトラブル対応や業務改善に役立ちます。

提出漏れが起きやすい入社書類

ここでは、多くの企業で提出漏れが報告される例として挙げられる書類を紹介します。

特に電子申請やオンライン提出が併用される場合、物理的に郵送が必要な書類が抜けやすくなります。チェックリストを用意し、書類ごとに提出状況を記録する運用を取り入れることで、見落としを減らせます。

入社書類の不備を防ぐための予防策

1. 原本とコピーの区別を明確にして誤解を防ぐ

原本とコピーの区別が曖昧なまま対応を進めると、不備や誤解の原因になることがあります。書類によって原本での提出・保管が必要なケースや、コピーでも問題ないケースがあるので、事前に最新の情報を確認することが重要です。

こうした区別がついていないと、必要な場面で書類が使えない、再提出が必要になるといった事態にもつながるため、取り扱いルールを明確にしておくことが大切です。

2. 書類の記入ミスを防いで提出品質を高める

記載ミスや押印の漏れ、書類の文字が読みにくい状態なども頻出する不備のひとつです。特に手書き書類では誤記や記入漏れが起こりやすく、視認性が低い場合には後工程でのミスにもつながります。こうした不備は、事前の見本提示や記入ガイドを提供することで予防できます。

また、提出前に確認を促すチェック欄を設けるなど、自然にセルフチェックを促す工夫も有効です。

3. 提出状況を管理して不備の見逃しを防ぐ

提出書類の管理を属人的に行っていると、対応の抜け漏れや遅れが生じやすくなります。書類管理を仕組み化することで、誰が・いつ・何を提出したかを明確にし、不備や未提出に早期対応できます。

具体的には、スプレッドシートや人事管理システムを活用し、ステータスを一元管理する方法が有効です。視覚的に把握できるように色分けや通知設定を組み合わせることで、対応の効率も向上するでしょう。

4. 入社前後の書類を整理して混乱を防ぐ

入社手続きには、内定段階と入社確定後で必要な書類が異なる場合があります。たとえば、内定承諾書や誓約書、雇用契約書は入社前に、社会保険の資格取得届は入社後に会社が提出します。

提出時期を明確に区別し、それぞれの目的や提出先を案内することが、誤提出や混乱を防ぐカギとなります。タイミングごとの提出物一覧を作成して共有することが有効です。

5. 書類の電子化を活用して不備を防ぐ

紙の書類は記入・提出・管理のいずれにおいてもミスが発生しやすい傾向があります。電子化を取り入れることで、記入ミスの防止や入力漏れのアラート、提出の自動通知などが可能となり、不備の発生率を抑えられることも期待されています。

たとえば、入力必須項目の制御や電子署名の導入により、記入内容の正確性を高められます。加えて、提出状況のリアルタイム確認も可能となるため、対応スピードの向上も期待できるでしょう。

ただし、効果の程度はシステム設計や運用体制によって大きく左右されるため、自社のプロセスで検証した上で導入・運用方法を最適化することが重要です。

6. 本人確認を徹底して書類の誤提出を防ぐ

入社書類の回収では、郵送・代理提出なら身分証や署名照合、オンライン提出なら ID・パスワードや OTP で本人確認を行います。

電子署名・公的個人認証(JPKI)など強固な多要素認証は、マイナポータル経由の行政手続きや犯収法に基づく eKYC(※)など特定オンライン手続きで義務化されています。

一方で、民間企業の入社手続きにおいて、電子署名などは義務化されていません。しかし、本人確認の徹底という意味から、入社手続きにおいても電子署名などを求めることが望ましいでしょう。

この違いを踏まえて、自社の運用基準を策定することが重要です。

(※)eKYC:金融機関や通信事業者などがオンラインで行う本人確認措置

入社書類の不備が業務に与える影響例

入社書類の不備は単なる手続きの遅れにとどまらず、企業運営にさまざまな影響を及ぼす可能性があります。ここでは、実務や信頼性、コンプライアンスなど多方面にわたる影響について説明します。

1. 社会保険や税務手続きに影響が及ぶおそれがある

社会保険の加入手続きや税務処理には、正確な個人情報と関連書類が必要です。入社書類に記載漏れや提出ミスがあると、年金・健康保険の加入に、遅れが出るおそれがあります。

また、雇用契約書の不備は法的なトラブルを招く可能性もあるため、正確性が求められます。こうした業務の正確な処理が滞ると、社内外に不信感を与える結果となりかねません。

2. 内定者や新入社員との信頼に影響を与えることがある

書類の不備対応が遅れたり、不明確な連絡が繰り返されたりすると、内定者や新入社員は企業に対して不安を抱く可能性があります。初期のやりとりは、組織としての信頼を築く第一歩であり、この段階での対応が入社後の定着率にも影響を与えることがあります。

書類対応の丁寧さやフォローの有無は、企業文化の一端として相手に伝わるため、人事担当者の対応が重要な役割を果たします。

3. 業務負荷や管理上のリスクが発生しやすくなる

不備がある書類の確認や再提出の依頼、リマインド対応には多くの工数がかかります。担当者の作業が属人化していると、対応にバラつきが生じ、さらに手間が増える原因にもなります。

また、法定帳簿の作成や保存義務に関わる書類の取り扱いには慎重さが求められます。コンプライアンス違反とならないよう、記録の保管体制や運用ルールを明確にしておくことが、長期的な業務の安定につながります。

入社書類の不備で内定取り消しはできるのか?

入社書類に不備があった場合でも、すぐに内定取り消しにつなげるのは慎重に対応する必要があります。法的な観点や実務上の判断基準を整理し、企業としてとるべき対応を紹介します。

1. 法的リスクを踏まえて内定取り消しを慎重に判断する

内定取り消しは、基本的に「解雇」に準じた扱いとなるため、その正当性が問われます。特に、書類の未提出や不備があったことだけを理由に取り消すことは通常認められません。また、仮に取り消す場合であっても、本人に改善の機会を与えたかどうかが判断材料になります。

仮に争いになった場合、企業側が合理的な理由と十分な説明責任を果たしていなければ、不当解雇と認定されるおそれがあります。したがって、取り消しの判断は極めて慎重に行う必要があります。

出典:労働契約の終了に関するルール|厚生労働省
出典:採用内定の取消|裁判例

2. 正当な理由があるかどうかを判断して対応を進める

内定取り消しは、重大な経歴詐称・健康状態、企業の経営悪化など客観的に合理的で社会通念上相当と認められる事由が理由となり得ます。

書類不備による取り消しの場合であっても、単なる書類不備ではなく、業務上必要となる書類の提出を拒み続けるなど、正当な理由があることが必要となります。ただし、本人の弁明の機会を設けることや、経緯を記録として残すことが不可欠です。

3. 内定取り消しを避けるために丁寧な対応を重ねる

書類不備が発生した場合は、まず相手に対して誠意あるフォローと説明を行い、再提出の猶予を設けることが重要です。明確な提出期限を伝えるとともに、提出方法や不足内容を丁寧に案内し、相手の不安を和らげる姿勢が求められます。

また、複数回にわたって書類不備や無反応が続く場合には、段階的に書面での通知を行うなど、記録を残すプロセスを組み込んでおくと、万一の際にも適切に対応できます。

添え状を活用した誠実な入社書類再提出の対応術

入社書類に不備があった際のやりとりにおいて、添え状を活用することは、相手への配慮や意図の明確化に役立ちます。このセクションでは、添え状の書き方とその活用方法を解説します。

1. 添え状に記載すべき基本構成と人事担当者向けの例文

添え状には、宛名、挨拶、目的、書類の内容、今後の対応、連絡先などの要素を含めるのが基本です。たとえば、書類の再提出を依頼する場合には「先日ご提出いただいた入社書類について、以下の点に不備がございました」と冒頭で用件を明示し、その後に不足内容や提出期限を丁寧に説明します。末尾には「ご多忙のところ恐れ入りますが、何卒よろしくお願いいたします」といった締めくくりの文を添えることで、柔らかい印象を与えられます。

2. 添え状に配慮を込めて前向きな対応を促す

添え状は単に連絡文を添えるだけでなく、相手への配慮や信頼関係の維持に寄与する役割を果たします。たとえば「お忙しい中ご対応いただきありがとうございます」といった言葉を添えることで、相手の状況を尊重する姿勢が伝わります。

また、不備のあったことに対する責めのニュアンスを避け、事実を丁寧に伝えることで、相手も前向きに再提出に応じやすくなるでしょう。やりとりの中で信頼を築き直す意識を持つことが重要です。

入社書類の不備は慌てず正確に進めることが大切

入社書類の不備は、発見したときこそ慌てず、正確に対応を進めることが重要です。単なる事務処理として片付けるのではなく、企業と従業員候補者との信頼構築にも関わる対応です。ミスが起きたときにどう対応するかが、企業の誠実さや信頼性を左右します。

不備が発覚した際に迅速で丁寧な連絡を行い、相手に配慮した言葉選びや段取りの良さを見せることで、安心感や好印象を与えられます。また、対応プロセスを標準化し、属人的な判断に頼らない体制を整えることは、長期的に信頼を積み重ねる基盤となるでしょう。

さらに、こうした不備対応を通じて見えてくる業務上の課題や改善点を社内で共有し、再発防止に活かしていくことで、企業全体の人事力・組織力の底上げにもつながります。


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