- 更新日 : 2025年8月20日
年末調整のアウトソーシングはどこまで依頼可能?費用相場・選び方・注意点を徹底解説
年末調整は、企業の担当者にとって年に一度の大きな負担となる業務です。毎年のように行われる税制改正、特に2025年度の税制改正は年末調整への影響も大きく、担当者の業務をさらに複雑にしています。こうした課題を解決する強力な手段として、年末調整業務のアウトソーシング(外部委託)が注目されています。
本記事では、年末調整のアウトソーシングで得られるメリットから、具体的な業務範囲、費用相場、そして失敗しない委託先の選び方、注意点まで解説します。
目次
年末調整のアウトソーシングが注目される背景
近年、年末調整のアウトソーシング活用が広まっている背景には、企業が抱える共通の課題があります。
1. 複雑化する法改正への対応
年末調整に関連する法令は頻繁に改正されます。特に、2025年度の税制改正では基礎控除や給与所得控除が引き上げられるなど、大きな変更が生じており、専門的知識がなければ、正確な処理は困難です。
こうした法改正のたびに、担当者は最新情報を収集し、給与計算システムの設定変更や手計算での対応を迫られます。もし誤りがあれば、従業員の所得税額に直接影響し、会社の信頼を損なうことにもなりかねません。
2. 従業員からの問い合わせ増加
政府が推進するDXにより年末調整の電子申告が普及しつつありますが、すべての従業員がITツールに習熟しているわけではありません。そのため、「スマホでのやり方がわからない」「e-Taxとの連携はどうするのか」といった個別の問い合わせが担当部署に殺到し、本来の業務を圧迫するケースが増えています。
また、アルバイトやパート、業務委託など多様な働き方が増える中で、それぞれに対応した丁寧な説明も求められます。
3. 慢性的な人材不足
年末調整は、企業の利益に直接結びつく業務(ノンコア業務)ではありません。多くの企業では、限られた人材を、より戦略的な人事施策や制度設計といったコア業務に集中させたいと考えています。
特に、専門知識を持つ人材の採用が難しい中小企業にとって、アウトソーシングは人材不足を補う有効な手段です。繁忙期のためだけに人員を増やすことなく、高品質な業務遂行が実現できます。
年末調整をアウトソーシングするメリット
外部委託をすることで、企業は具体的にどのようなメリットを期待できるのでしょうか。
1. 担当者の業務負担削減
年末調整の期間中、担当者は申告書の配布・回収、膨大な量のチェック作業、問い合わせ対応、計算、還付・徴収業務に追われ、残業が常態化しがちです。アウトソーシングは、こうした一連の作業から担当者を解放します。これにより、担当者の心身の負担が軽くなるだけでなく、空いた時間を活用して、人材育成や組織開発といった、より創造的な業務に取り組むことが可能になります。
2. 専門知識による品質向上とコンプライアンス強化
税制や関連法規は複雑で、毎年のように改正が行われます。専門家でない担当者がすべての変更点を完璧に把握するのは困難であり、意図せず計算ミスや申告漏れを犯してしまう危険性があります。
専門知識を持つアウトソーシング先に委託すれば、税制改正による変更点を踏まえた正確な処理ができます。これにより、税務調査での指摘や追徴課税といった経営上のリスクを回避し、コンプライアンスを強化できます。
3. 従業員満足度の向上
アウトソーシングサービスの中には、従業員専用のヘルプデスクを設置してくれるものもあります。従業員は、申告書の書き方や控除に関する個人的な疑問を、気兼ねなく専門スタッフに質問できます。
また、Webやアプリで簡単に申告できるシステムが提供されることもあり、手続きがスムーズになります。こうしたきめ細かな対応は、従業員のストレスを軽減し、結果として会社への満足度や信頼感の向上に繋がります。
年末調整のアウトソーシングで委託できる業務範囲
年末調整のアウトソーシングと一言でいっても、そのサービス内容は多岐にわたります。自社の課題に合わせて、どこまでの業務を委託するかを検討することが重要です。
フェーズ | 主な業務内容 |
---|---|
準備・回収 |
|
チェック・修正 |
|
計算・データ化 |
|
事後処理 | |
サポート |
|
基本業務だけでなく、オプションとして従業員向けヘルプデスクの設置や、住宅ローン控除の初回チェック、外国籍従業員の対応などを依頼できる会社もあります。
年末調整をアウトソーシングする費用相場
アウトソーシングを検討する上で、最も気になるのが費用でしょう。料金体系と規模別の費用目安を解説します。
料金体系
料金体系は、主に「従業員一人あたりの単価制」と「業務一括での請負制」の2種類に大別されます。
- 従業員単価制
従業員数に応じて「1人あたり〇〇円」という形で費用が設定されます。小規模から中規模の企業で多く採用されており、料金が分かりやすいのが特徴です。 - 一括請負制
年末調整業務全体を一つのパッケージとして料金設定する方式です。大規模な企業や、給与計算など他の業務と合わせて委託する場合に見られます。
従業員規模別の費用目安
あくまで一般的な目安ですが、基本的な申告書のチェックとデータ化を依頼した場合の費用相場は以下の通りです。
- 小規模企業(〜50名)
1人あたり2,000円~4,000円程度。ただし、最低受注料金(例:100,000円〜)が設定されている場合が多いです。 - 中規模企業(51〜300名)
1人あたり1,500円〜3,000円程度。従業員数が多くなるほど単価は下がる傾向にあります。 - 大規模企業(301名〜)
1人あたり1,000円〜2,500円程度。業務内容のカスタマイズ度合いによって大きく変動するため、個別見積もりとなることがほとんどです。
オプション料金
上記の基本料金に加えて、以下のような業務を依頼する場合はオプション料金が発生することが一般的です。
- 従業員向けヘルプデスクの設置
- 住宅ローン控除申告書の初回チェック
- 外国籍従業員の対応
- 源泉徴収票や支払調書の作成・発送
- 給与支払報告書の市区町村への提出代行
自社がどこまでのサービスを求めるかによって総額が変わるため、複数の会社から見積もりを取得し、サービス内容と費用を比較検討することが不可欠です。
年末調整のアウトソーシング先の比較ポイント
数多くの事業者の中から自社に最適な会社を選ぶには、いくつかの重要な視点があります。料金の安さだけで選ぶと失敗に繋がりかねないため、総合的に判断しましょう。
大手か専門特化型か
アウトソーシング会社は、大手から専門特化型まで様々です。それぞれの特徴を理解し、自社の方針に合った委託先を選びましょう。
- 大手企業
システムが充実しており、大規模な組織にも対応できる総合力が魅力。幅広い業務をまとめて委託したい場合に適しています。安心感を重視する企業におすすめです。 - 中小・専門特化型企業
柔軟で小回りの利く対応が期待できます。特定の業種に特化している場合、より深い知見に基づいたサポートが受けられることもあります。コストパフォーマンスを重視する場合や、細かな要望がある場合に適しています。
対応可能な業務範囲と柔軟性
まずは、自社が委託したい業務範囲を明確にし、そのすべてに対応できるかを確認します。イレギュラーな事態が発生した際に、どこまで柔軟に対応してもらえるかも重要な判断材料です。
専門性と実績の確認
委託先に社会保険労務士や税理士といった国家資格を持つ専門家が在籍、または連携しているかは、サービスの品質を担保する上で大きな要素です。また、自社と同じくらいの従業員規模や、同業種の企業での実績が豊富かどうかも確認しましょう。実績が多ければ、業界特有の事情を理解した上で、スムーズな対応が期待できます。
既存システムとの連携
現在、自社で給与計算ソフトや人事管理システムを利用している場合、それらとスムーズにデータ連携ができるかは業務効率に直結します。アウトソーシング先が提供するデータ形式が、自社のシステム仕様に合っているか、事前に必ず確認しましょう。
セキュリティ体制と情報管理の信頼性
年末調整業務では、従業員のマイナンバーを含む個人情報という機密性の高い情報を取り扱います。そのため、委託先のセキュリティ体制は最重要確認項目です。
- プライバシーマーク(Pマーク)
- ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)認証
これらの認証を取得しているかは、客観的な判断基準の一つです。データの管理方法や物理的なセキュリティ対策についても、具体的に確認しましょう。
年末調整のアウトソーシングを依頼する手順
実際にアウトソーシングを導入する場合、どのような手順で進めるのでしょうか。
1. 問い合わせと自社情報の提供
まずは、関心のあるアウトソーシング会社のウェブサイトなどから問い合わせを行います。その際、自社の従業員数、現在の年末調整の運用方法、利用している給与システム、委託したい業務の範囲、解決したい課題といった情報を事前に整理しておくと、その後のやり取りが円滑に進みます。
2. 担当者によるヒアリング
問い合わせ後、アウトソーシング会社の担当者との打ち合わせが設定されます。この場で、自社の具体的な状況や要望を詳しく伝えます。担当者は業務フローや課題を深く理解し、最適なサービスを提案するための情報を収集します。疑問点や不安なことは、この段階で遠慮なく質問しましょう。
3. 提案内容と見積もりの比較検討
ヒアリングの内容を受けて、アウトソーシング会社から具体的なサービス内容の提案書と見積もりが提示されます。委託できる業務範囲、オプション、料金、スケジュールなどが記載されているので、内容を詳細に確認します。複数の会社から提案と見積もりを取り、サービスとコストのバランスを比較検討することが重要です。
4. 業務委託契約の締結
委託先を決定したら、業務委託契約を締結します。契約書には、業務の範囲、双方の役割分担、料金、個人情報の取り扱い、秘密保持、契約期間などが明記されます。特に、個人情報を扱うため、秘密保持契約(NDA)の締結は不可欠です。契約内容は細部までしっかりと確認し、合意の上で締結します。
5. 導入準備と運用スタート
契約後、本格的な運用開始に向けた準備期間に入ります。キックオフミーティングで詳細なスケジュールや運用ルールを確認し、従業員データの連携や、社内へのアナウンスを行います。準備が整い次第、合意したスケジュールに沿ってサービスが開始されます。
年末調整のアウトソーシングでコア業務に集中できる環境を
年末調整のアウトソーシングは、複雑化する法改正やDXへの対応といった現代的な課題を解決し、企業の担当者を煩雑な業務から解放する強力な選択肢です。専門家に業務を代行してもらうことで、負担軽減、品質向上、コンプライアンス強化、そして従業員満足度の向上といった多くの効果が期待できます。
導入を成功させるには、自社が抱える課題を正確に把握し、どこまでの業務を委託したいのかを明確にすることが第一歩です。その上で、本記事で解説した選び方や手順を参考に、セキュリティ、専門性、柔軟性といった複数の視点から委託先を慎重に評価し、最適なパートナーを選びましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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