- 更新日 : 2025年2月21日
従業員10人未満の場合就業規則の作成は不要!作成時のメリット・デメリットを解説
「従業員10人未満でも就業規則は作成すべき?」「作成しても法的効力はあるの?」
就業規則は従業員10人以上の事業所で義務付けられていますが、10人未満の事業所でも作成することで得られるメリットが多くあります。
一方で、就業規則の作成にはデメリットや注意点も存在します。事業の柔軟性を失うリスクや、作成にかかる時間的コストについても理解しておきましょう。
本記事では、従業員10人未満でも就業規則を作成するメリット・デメリットや作成手順、よくある疑問について徹底解説します。
小規模事業でのルール整備に興味のある方はぜひ参考にしてください。
目次
従業員10人未満の場合就業規則の作成は不要
従業員10人未満の事業所では、労働基準法により就業規則の作成義務はありません。
労働基準法第89条において、従業員10人以上の事業所にのみ就業規則の作成と労働基準監督署への届け出が義務付けられているためです。
ただし、任意で作成することは可能であり、厚生労働省も作成を推奨しています。
就業規則を作成するメリットは、以下のとおりです。
- 労使トラブルの防止:労働条件やルールを明確にすることで、認識のズレによるトラブルを防ぐ
- 従業員の安心感向上:職場のルールが明文化されることで、従業員が安心して働ける
- 業務の効率化:労働時間や休暇取得のルールが明確になり、管理しやすくなる
義務はなくても、就業規則を整備することで、職場の円滑な運営が可能になります。小規模事業所でもルールを明確にし、従業員の働きやすい環境を整えることが重要です。
従業員10人未満での就業規則にも法的効力がある
従業員10人未満の事業所であっても、就業規則を作成し、従業員に周知していれば法的効力を持ちます。
労働契約法や裁判例に基づき、事業主と従業員の間で「職場のルール」として扱われます。
就業規則の法的効力が発生する条件は、以下の通りです。
- 従業員に周知されていること(掲示・配布・データ共有など)
- 内容が合理的であること(労働基準法や労働契約法に違反していない)
- 個別の労働契約と矛盾しないこと
たとえば、従業員5人の会社で就業規則を作成し、全員が内容を理解している場合、その就業規則に基づいた労務管理が有効となります。
小規模事業者であっても、ルールを明確にし、トラブルを未然に防ぐために就業規則を整備することが重要です。
就業規則での従業員の数え方
労働基準法上の「従業員10人以上」に該当するかどうかは、正社員だけでなく一定のパート・アルバイトも含めて計算されます。
従業員の数え方は、事業所単位で行うことが原則です。
【従業員数に含まれる者・含まれない者】
区分 | 含まれる | 含まれない |
---|---|---|
正社員 | 〇 | – |
契約社員 | 〇 | – |
パート・アルバイト | 〇 | – |
役員 | – | 〇 |
派遣社員 | – | 〇 (派遣元の従業員としてカウント) |
たとえば、正社員5人と週30時間勤務のパート3人、週15時間勤務のパート2人がいる場合、「5 + 3+2 = 10名」となり、就業規則の届け出が必要な従業員規模と判断されます。
36協定は10人未満の場合でも届け出が必要
従業員が10人未満の事業所であっても、時間外労働や休日労働を行わせる場合は36協定の届け出が必要です。
労働基準法では、法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて労働させる場合、事前に労使協定(36協定)を締結し、労働基準監督署に届け出ることが義務付けられています。
36協定が必要となるケースは、以下の通りです。
- 法定労働時間を超えて残業させる場合(1日8時間・週40時間を超える労働)
- 休日出勤を行わせる場合(法定休日に労働を命じる場合)
- 特別条項付き協定を結ぶ場合(繁忙期などに一時的に長時間労働が必要な場合)
たとえば、従業員5人の会社でも、繁忙期に1日2時間の残業を命じる場合は、36協定の締結・届け出が必要です。
未届出のまま時間外労働を行わせると、労働基準法違反となるため、事業規模にかかわらず適切な手続きを行いましょう。
参考:**就業規則作成・届出に関する FAQ**|厚生労働省
従業員10人未満で就業規則を作成する4つのメリット
従業員10人未満の事業所では、就業規則の作成義務はありませんが、任意で作成することで多くのメリットがあります。
トラブルを防ぎリスクヘッジになる
就業規則を作成することで、労働条件や勤務ルールを明確化し、従業員間のトラブルを未然に防げます。
とくに、解雇や懲戒処分といった問題が発生した際に、適切な対応が取れる点が大きなメリットです。具体例は以下の通りです。
- 労働時間や休暇のルールが明確になり、労使トラブルを防ぐ
- 解雇・懲戒処分の基準を明記し、企業側の恣意的な対応を防ぐ
- ハラスメントの防止規定を設け、職場環境の健全化を図る
たとえば、残業に関する規定を設けず曖昧な運用をしていると、「サービス残業を強制された」といった問題につながります。
就業規則を作成し、あらかじめルールを明文化することで、リスクを最小限に抑えられます。
労働環境秩序が整い安心感が得られる
就業規則があることで、労働時間や休日、給与などのルールが明確になり、従業員が安心して働ける環境を整えられます。
また、ルールが明確になることで、経営側と従業員の信頼関係も強化されます。就業規則がもたらす効果は以下の通りです。
- 労働条件が統一され、公平な職場環境を実現
- 給与計算や休日の管理が適正になり、トラブルを防止
- 透明性の高い運営で、従業員のモチベーション向上に貢献
たとえば、休日のルールが不明確な職場では、「自分だけ休みが少ないのでは?」という不満が生じる可能性があります。
しかし、就業規則を整備し、公平なルールを適用することで、職場の秩序を保ちつつ従業員の安心感を高められます。
新しい従業員へ方針を明示できる
就業規則は、新しく採用する従業員に職場の方針やルールを明確に伝えるツールとしても活用できます。事前にルールを明示することで、ミスマッチを防ぎ、定着率の向上にもつながります。就業規則が果たす役割は以下の通りです。
- 採用時に職場のルールを明確に共有
- 入社後のギャップを減らし、早期離職を防止
- 従業員が安心して働ける環境を整備
たとえば、就業規則を設けずに採用すると、「休日はどのように決まるのか」「残業はあるのか」といった疑問が生じやすくなります。
しかし、入社前に明確なルールを提示することで、従業員がスムーズに業務に適応でき、結果的に定着率の向上にもつながります。
助成金申請の対象になる
就業規則を作成・整備することで、一部の助成金の申請が可能になります。
とくに、厚生労働省が提供する雇用関係の助成金の中には、職場環境の改善や労働条件の整備を目的としたものがあり、就業規則の策定が要件となるケースがあります。
就業規則の整備が助成金対象となる例は、以下の通りです。
- キャリアアップ助成金(非正規労働者の正社員化を促進)
- 人材確保等支援助成金(職場環境改善に関する取り組み)
- 働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・有給取得促進)
たとえば、「キャリアアップ助成金」では、非正規雇用の労働者を正社員に転換する際、就業規則にその制度を明記することが条件となります。
また、助成金を活用することで、職場の労働環境を改善しながら、コスト負担を軽減することも可能です。
小規模事業者であっても、助成金制度を活用することで、従業員の働きやすい環境を整えられます。
参考:働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース) |厚生労働省
従業員10人未満で就業規則を作成する3つのデメリット
従業員10人未満の事業所において、就業規則を作成することにはメリットがある一方で、いくつかのデメリットも存在します。デメリットを理解したうえで、就業規則の作成を検討することが重要です。
事業の柔軟性が失われる可能性がある
就業規則を作成することでルールが明確になる一方で、事業の変化に迅速に対応しにくくなる可能性があります。
とくに、小規模事業では業務内容や経営方針が頻繁に変わることがあり、厳格なルールが逆に足かせとなることもあります。
- 勤務時間の変更:新規事業の立ち上げで柔軟なシフト運用をしたいが、就業規則で固定されていると変更しにくい
- 給与体系の見直し:業績に応じて報酬体系を変えたいが、就業規則を修正する手間が発生する
- 業務フローの変更:成長過程で仕事の進め方が変わっても、既存のルールが障害になる
こうした課題を防ぐために、小規模事業では「一定の柔軟性を持たせる表現」を取り入れ、必要に応じて簡単に見直せる形で就業規則を作成する工夫が求められます。
事業規模が大きくなった際に見直す必要がある
事業が拡大し、従業員が増えた際には、就業規則を適宜アップデートする必要があります。
従業員10人未満の事業所では義務ではないため、比較的簡単にルールを定められますが、10人以上になると労働基準監督署への届け出が必要となるため、より厳密な規定が求められます。就業規則を見直すタイミングは以下の通りです。
- 従業員数が10人以上に増加(法的義務が発生し、正式な届け出が必要)
- 労働環境の変化(リモートワーク導入やフレックスタイム制の導入)
- 新しい法改正への対応(時間外労働の規制強化やハラスメント対策の義務化)
たとえば、現在は固定給制度で運用していても、事業の成長に伴いインセンティブ制度を導入したくなることがあります。
その際、就業規則に報酬体系の変更が反映されていないと、適切な運用が難しくなります。就業規則は一度作成すれば終わりではなく、定期的な見直しが不可欠です。
時間的なコストがかかる
就業規則を作成するには、内容の検討・作成・周知・運用といったプロセスが必要となり、一定の時間と労力がかかります。
とくに、小規模事業の場合、経営者自身が他の業務と並行して対応することが多く、リソース不足が課題となる可能性があります。
【就業規則作成の主なステップと必要時間】
ステップ | 必要な作業 | 目安時間 |
---|---|---|
1. ルールの策定 | 労働時間・休暇・給与規定などの決定 | 5~10時間 |
2. 文書の作成 | 規則の文章化と整備 | 10~15時間 |
3. 従業員への周知 | 説明会の実施・質問対応 | 3~5時間 |
4. 継続的な運用 | 必要に応じた改定・管理 | 年間5~10時間 |
たとえば、労働時間や休暇のルールを検討するだけでも、多くの法的知識が必要となり、スムーズに進めるのが難しいケースがあります。
時間的コストを抑えるためには、専門家(社労士など)のサポートを活用するのもひとつの選択肢です。
従業員10人未満で就業規則を作成する流れ
従業員10人未満の事業所では就業規則の作成義務はありません。しかし、作成することで職場のルールを明確にし、労使トラブルを防げます。
作成には一定の手順があり、適切なプロセスを踏むことで、円滑に運用できるようになるでしょう。以下に、就業規則を作成する具体的な流れを解説します。
1. 就業規則原案を作成する
まずは、就業規則の原案を作成します。労働基準法を確認し、最低限守るべき規定を網羅したうえで、事業所の実情に合ったルールを明文化することが重要です。
就業規則に盛り込むべき主な内容は以下の通りです。
- 労働時間・休憩・休日のルール(所定労働時間、時間外労働の基準、休日の設定)
- 賃金に関する規定(基本給・手当・支払い方法・昇給の基準)
- 休暇・福利厚生の制度(年次有給休暇、育児・介護休暇、慶弔休暇など)
- 服務規律や懲戒処分の基準(就業上のルール、懲戒の種類と適用基準)
たとえば、労働時間について「始業9:00、終業18:00、休憩1時間」と明記することで、勤務時間の曖昧さをなくし、労使間のトラブルを防げます。
原案作成の際には、事業の柔軟性も考慮し、変更しやすい表現を取り入れるとよいでしょう。
2. 従業員代表に意見書を作成してもらう
次に、従業員代表を選出し、就業規則に対する意見書を作成してもらいます。
労働基準法では、従業員の意見を聴取し、その内容を記載した意見書を添付することが求められています。
【従業員代表の選出方法】
- 従業員の過半数の支持を得る形で代表を決定(投票、話し合いなど)
- 事業主が一方的に指名するのは不可
【意見書の作成ポイント】
- 従業員が納得できる内容になっているか確認する
- 賃金・労働時間・休暇制度などに関する不安点を洗い出す
- 意見を反映できる部分があれば、必要に応じて修正する
たとえば、「休日の振替ルールについてもう少し柔軟にしてほしい」といった意見が出た場合、運用上問題がなければ、調整を行うことで従業員の納得感を高められます。
なお、意見書がない場合、労働基準監督署への届け出が無効になるため、必ず作成しましょう。
3. 労働基準監督署長に届け出を提出し従業員に周知する
最後に、完成した就業規則を労働基準監督署に届け出し、従業員へ周知します。
従業員10人未満の事業所では届け出の義務はありませんが、10人以上になることを想定して、あらかじめ届け出を行うことも可能です。
【届け出の手続き】
- 就業規則と意見書をセットで準備
- 所轄の労働基準監督署に提出(郵送・持参・電子申請可)
- 審査が完了すると受理される(不備があれば修正が求められる)
【従業員への周知方法】
- 社内掲示板や共有フォルダに掲載
- 従業員への説明会を実施し、内容を確認してもらう
- 紙または電子データで従業員に配布
たとえば、就業規則を作成しても周知が不十分だと、従業員がルールを理解せず、トラブルにつながる可能性があります。
社内で明文化されたルールを実際に機能させるためにも、積極的な周知を心がけましょう。
従業員10人未満で就業規則を作成する際によくある疑問
従業員10人未満の事業所では、ルールを明確にすることが重要です。
そのため、義務はなくとも届け出を行うことが望ましいケースもあります。以下に、就業規則作成時によくある疑問について順番に見ていきましょう。
従業員にアルバイト・パートは含まれる?
就業規則の作成義務が発生する従業員数のカウントには、アルバイトやパートも含まれます。労働基準法では、常時使用する労働者が10人以上いる場合、就業規則の作成と届け出が必要です。
今後従業員が増えた場合、速やかに就業規則を整備する必要があるため、注意しましょう。
従業員に役員は含まれる?
役員(取締役・監査役など)は、労働基準法上の「従業員」には含まれません。
そのため、就業規則の作成義務が発生する際の人数カウントにも含める必要はありません。
役員と従業員の違いは、以下の通りです。
- 役員は会社経営に携わる立場であり、労働契約を締結していない
- 就業規則の適用範囲は、基本的に労働者(雇用契約を結んでいる者)に限定される
- 兼務役員(取締役兼任の正社員など)の場合は、業務内容によっては適用対象になるケースもある
たとえば、取締役3人と正社員7人の会社があった場合、役員はカウントされないため「7人」となり、10人未満のため就業規則の作成義務は発生しません。
ただし、従業員が増えた場合や社内ルールを明確にしたい場合は、作成をおすすめします。
就業規則のテンプレート・ひな形は?
就業規則を作成する際、ゼロから作るのは手間がかかるため、厚生労働省が提供するテンプレート(ひな形)を活用するのがおすすめです。
厚生労働省が提供するモデル就業規則の活用方法は以下の通りです。
- 厚生労働省の公式サイトからダウンロード
- 事業所の実態に合わせて内容をカスタマイズ(労働時間、休暇、給与規定など)
- 従業員代表の意見を反映し、適切な内容に調整
- 最終的な文面を確定し、必要に応じて労働基準監督署へ届け出
公式サイト:厚生労働省モデル就業規則
たとえば、小規模事業所向けの就業規則では、シンプルなルール設定が求められます。
モデル就業規則を参考にしながら、必要な項目のみを抽出して作成するとスムーズに進められるでしょう。
従業員10人未満でも就業規則が必要な場合は作成しよう
従業員10人未満の事業所では、就業規則の作成義務はありませんが、社内のルールを明確にすることで労使トラブルを防ぎ、労働環境を整備できます。
また、将来的に従業員が増えた際のスムーズな対応を考えると、早めに作成しておくことが望ましいです。
テンプレートを活用しながら、必要なルールを整備し、円滑な職場運営につなげましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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