- 更新日 : 2024年1月19日
リテンションとは?マーケティングや人事施策での意味を解説!
リテンションは人事部門で、人材流出を防ぐ施策の意味で用いられます。労働力不足が生じる中、人材確保のために必須となる課題として注目されるようになりました。リテンションのメリットには離職率低下にともなう採用コスト・教育コストの削減などが挙げられます。具体的には賃金引き上げや福利厚生充実などの方法でリテンションを行います。
目次
リテンションとは?
リテンションはビジネスで、維持・保持の意味で使われる言葉です。マーケティングと人事領域で用いられます。
マーケティングにおける意味
マーケティングでは、顧客を維持する意味でリテンションの言葉が用いられます。顧客数増加の施策として、新規顧客を獲得するのではなく、既存顧客との関係を保つことを指します。既存顧客に対するマーケティングをリテンションマーケティング、既存顧客を対象にした分析をリテンション分析と呼びます。
人事領域における意味
人事領域では人材流出を防ぐ目的で行う対策をリテンションと呼びます。企業活動に必要な労働力を確保するため、今いる従業員の退職を防ぐ施策を指します。具体的には賃金を上げたり福利厚生を充実させたりすることが、リテンション施策に該当します。また働き方改革によるワークライフバランスの推進、ハラスメントの防止といった働きやすい職場環境の整備もリテンション施策に含まれます。
リテンション施策が注目されている背景
リテンション施策は多くの企業に優先して取り組まなければならない課題とされています。すでに具体的なアクションを起こしているところも少なくなく、社会的にも注目されています。リテンション施策が重要視される理由には少子高齢化が挙げられます。労働力人口減少にともない、企業活動に必要な労働者の確保は今後どんどん難しくなります。必然的に新たな従業員を採用するよりも今いる人材の流出を防ぐ方が、人材確保に有効であるとされ、リテンション施策が注目されるようになりました。
リテンション施策を行う目的
リテンションは多くの企業が関心を寄せている、注目度の高い施策です。すでに取り組み、成果を上げている企業も少なくありません。各企業はどのような目的でリテンションを行っているのでしょうか?主要な目的として、以下の3点が考えられます。
優秀な人材流出の抑止
人材流出を防いで労働力を確保につなげることは、リテンション施策実施の目的としてもっとも重要でしょう。とくに新規の採用が非常に困難である優秀な人材は、社外に流出しないように努めなければなりません。優秀な人材の社外流出の抑止は、リテンション施策を行う目的のもっとも重要なものに位置付けられます。
離職率の低下
離職率の低下も、リテンション施策の目的として非常に大切です。離職率が高いと労働環境が整っていない、パワハラやモラハラといったハラスメントがある、長時間労働であるといった問題が生じていると考えられ、ブラック企業とみなされます。社会的に好ましくない企業として認識され、新しい人材獲得だけでなく資金調達や取引先との関係構築などで多くの困難が生じる恐れがあります。社会的信用が損なわれて企業活動に大きな悪影響が生じないよう、離職率の低下を目指すこともリテンション施策の大きな目的と考えられるでしょう。
人的資本経営の観点
リテンション施策は人的資本経営の観点からも求められます。人的資本経営とは人材を資本と捉えて、最大限に活用することで企業の中長期的な発展につなげようとする考えをいいます。貴重なリソースである従業員が辞めてしまうことは、企業にとって大きな損失となることはいうまでもありません。リテンション施策は企業の発展・成長に欠かせない人材の社外流出を防ぐという意味で、人的資本経営の意味でもリテンション施策と結びついています。
リテンション施策を行うメリット
リテンション施策の実施によって、企業には以下のメリットがもたらされると考えられます。
社内へのスキル・ノウハウの蓄積
リテンション施策を行うメリットには、社内へのスキル・ノウハウの蓄積が挙げられます。従業員の退職によって、その従業員が保有する技術や知識が社外に流出します。リテンション施策で人材の定着を図ることで、スキル・ノウハウも社内に留めることができます。
離職率低下による採用コスト・教育コストの削減
リテンション施策には離職率を下げ、採用コストや教育コストを削減するメリットもあります。従業員が退職すると代替要員を新たに採用しなければならなくなります。また新規採用者には業務遂行に必要な教育を行う必要もあり、採用コスト・教育コストがかかります。リテンション施策によって従業員の退職が防げれば、人事にまつわるさまざまなコストの削減が可能になります。
人材戦略の安定化
リテンション施策は企業に人材戦略の安定化ももたらします。企業活動の効率化や企業利益の追求には、適した人材戦略が不可欠です。予想しない従業員の離職は、採用や教育、配置といった人事運営が計画通りに進まなくなります。リテンション施策によって従業員の突発的な離職が防止できれば、安定した人材戦略ができるようになります。
リテンション施策の種類
リテンション施策にはさまざまなものがありますが、大きく2種類に区分されます。手段として直接的に金銭を活用するものと、金銭を用いないものです。
金銭的報酬によるリテンション
金銭的報酬によるリテンションとは従業員の賃金を上げるというように、直接的に金銭を用いる施策を指します。効果は大きいが一時的なものにとどまり、常に新しい施策が求められるというデメリットがあります。
非金銭的報酬によるリテンション
非金銭的リテンションとはワークライフバランスの推進や働きやすい職場づくりというように、金銭以外のものによるリテンション施策を指します。長期的に取り組む施策であり効果はすぐには出ない点がデメリットとされます。
金銭的報酬によるリテンション施策の具体例
リテンション施策として企業はどのようなことを行うのでしょうか?まずは金銭的報酬によるリテンション施策の具体例をご紹介します。
基本給の上昇
基本給の引き上げは、金銭的報酬によるリテンションの代表的な具体例です。一般的に基本給は給料の大部分を占め、引き上げによる大きな効果が期待できます。また基本給は諸手当の計算根拠とされているため給料の全体的な底上げにもつながります。従業員へのインパクトが大きく、リテンション施策として非常に効果的です。
インセンティブ制度の確立
インセンティブ制度の確立も、金銭的報酬によるリテンション施策の1つです。インセンティブ制度とは従業員の業績に応じて、ボーナスのような報酬を支給する制度を指します。基本給の引き上げと同じように分かりやすく、効果的な施策ですが、やはり一時的な効果にとどまるというデメリットがあります。
従業員向けのストックオプション
リテンション施策の具体例には、従業員向けストックオプションも挙げられます。従業員向けストックオプションとは、従業員に企業の株式を購入する権利を付与することをいいます。従業員が自ら自分の企業の株主となることでエンゲージメントが高まります。愛着が強まることで離職を防ぐことができます。
福利厚生の充実化
福利厚生の充実もリテンション施策として重要です。企業が従業員の福利厚生の充実化を図ると、従業員エンゲージメント向上を図ることができます。離職を防止して定着率を高めることができ、人材確保につながります。
非金銭的報酬によるリテンション施策の具体例
非金銭的報酬によるリテンション施策の具体例には、以下が考えられます。
職場環境の充実化
非金銭的報酬によるリテンション施策には、まず職場環境の充実化が挙げられます。職場環境の充実化に欠かせないのが、社内コミュニケーションの活性化です。上司と部下、同僚間で活発にコミュニケーションが行われる、雰囲気のよい職場とすることが大切です。
ワークライフバランスの整備
ワークライフバランスの整備も、非金銭的報酬によるリテンション施策の1つです。働き方改革を推進することで、従業員それぞれが仕事と家庭のバランスを取りながら自分らしい働き方ができるようになります。ワークライフバランスの整備にはフレックスタイム制のようなフレキシブルな労働時間制の採用、在宅勤務・リモートワークの導入が考えられます。
スキルアップ制度の確立
非金銭的報酬によるリテンション施策として、スキルアップ制度の確立も重要です。継続的な教育や研修プログラムを実施して従業員のスキルアップを後押しすることが、離職防止につながります。キャリア開発支援も、スキルアップ制度に含まれます。
キャリアアップのロードマップ作成
キャリアアップのロードマップ作成とは、具体的な将来の目標を持ち、達成に必要なスキルを身につけたり経験を積んだりする道筋を明確にすることを指します。企業は従業員に対して必要な支援を行うことが求められます。具体的にはキャリアの目標設定やスキルの評価基準の策定、キャリアコンサルティングの提供などが挙げられます。
心理的安全性の確保
非金銭的報酬によるリテンション施策では、心理的安全性の確保も重要です。心理的安全性の確保とは、従業員が自由に意見を述べたり、質問をしたり、アイデアを提案したりすることができる環境づくりを指します。円滑なコミュニケーションを促進し、ミスや失敗に対して非難するのではなく学びと成長の機会として受け入れることが求められます。信頼関係を築くために、フィードバックの文化を醸成することも大切です。
エンパワーメント(権限移譲)を適宜行う
エンパワーメント(権限移譲)とは、従業員に対して責任と権限を与え、自己決定力を持たせることです。従業員が自分の仕事に対して責任を持ち、自らのアイデアや判断を活かすことができる環境を整えます。これにより、従業員の働きやすさややりがいを高め、組織のリテンション効果を向上させることが期待できます。
人事労務担当者がリテンション施策でできること
リテンション施策において、人事労務担当者は重要な役割を担います。効果的な導入のための具体的な施策としては、以下のようなものがあります。
社員の中でネガティブなコミュニケーションを取っている人がいないか確認する
リテンション施策には職場環境の改善が欠かせません。従業員が働きやすい職場となるよう人間関係に問題がないか、人事労務担当者には常に気を配っていることが求められます。ネガティブなコミュニケーションを取っている従業員がいれば、ヒアリングをするなどして問題解決に動く必要があります。深刻化しないうちに問題解決が図れるよう、確認の徹底を図りましょう。
社員の声を定期的に聞く
人事労務担当者が社員の声を定期的に聞くこともリテンション施策としては重要です。社員アンケートや定期的なフィードバックセッションを通じて、社員の意見や要望を収集し、改善策を検討することが、従業員の離職防止につながります。社員から聞き出した問題や課題に対して適切な対応を行うことで、社員の満足度やモチベーションを向上させることができます。
勤怠状況に異変がないか確認する
また人事労務担当者はリテンション施策として勤怠状況に異変がないことを確認する役割を担うこともできるでしょう。仕事内容や働き方に対する悩みがあると、遅刻や早退、欠勤が増えることが少なくありません。このような勤怠状況の変化にいち早く気づき、対策することでリテンション施策につながります。
過去の離職者を分析する
過去の離職者の分析もリテンション施策として人事労務担当者ができることの1つです。離職の時季や理由、離職者の特性、離職前の勤怠状況などを分析することで、自社における離職の特徴の把握につながります。分析結果から適切な対策を取ることができれば、離職の減少が図れるでしょう。職場の問題が発見でき、働きやすい、快適な職場づくりの効果も期待できます。
人事労務担当者が行えるリテンション施策
人事労務担当者はリテンション施策以外でも、人材の流出を防ぐことが可能です。次のことが特別にリテンション施策としなくても人事労務担当者が行える人材流出防止策です。
スキルアップ・キャリアアップ支援制度の確立
リテンション施策として人事労務担当者が行えることには、まず、スキルアップ・キャリアアップ支援の確立が挙げられます。終身雇用や1つの会社に長く勤めることをよしとする考えが一般的でなくなり、必要に応じて転職する労働者が多くなっています。このような働き方では、労働者は自分自身で将来の目標に向けてスキルアップやキャリアアップを図らなければなりません。企業には労働者のこうした活動を支援することが求められ、十分な支援体制の整備がリテンション施策としての効果が期待されます。
給与・賞与体系の見直し
人事労務担当者はリテンション施策として、賞与・給与体系の見直しも行うことが可能です。報酬は労働者の働く意欲に直結しているため、賞与・給与制度に対する不満はモチベーション低下を招き、離職へとつながります。従業員が正当に評価されていると感じられるように整備することが大切です。
部署間コミュニケーションの充実化・イベント等の開催
部署間コミュニケーションの充実化やイベントなどの開催も、人事労務担当者ができるリテンション施策の1つです。従業員同士で活発にコミュニケーションが取れている職場は風通しがよく、明るい雰囲気で、快適です。豊かなコミュニケーションを生むため、部署間のやり取りを円滑にしたりイベントを積極的に開催したりすることが、人事労務担当者に求められます。
ワークライフバランス関連の制度を確立
人事労務担当者が行えるリテンション施策には、ワークライフバランス関連の制度確立も含まれます。従業員が仕事とプライベートの両方を充実させるための制度の導入が、従業員エンゲージメントを高めて離職率低下に結びつきます。フレキシブルな労働時間制度やリモートワークの導入、休暇制度の充実など、働き方に関する制度や環境の改善を行い、従業員が仕事とプライベートの両方を実現し、バランスよく過ごせるようにしましょう。
職場の環境整備
職場の環境整備も人事労務担当者が行えるリテンション施策として重要です。離職の発生を防ぐためには、従業員が安全に、快適に働ける職場とすることが大切です。人事労務担当者が意識して働きやすい職場づくりをすることによって、労働環境は大幅に改善されます。従業員の声をよく聞き、設備導入や工夫を行うことが大切です。
リテンション施策に成功した企業事例
リテンション施策に実際に取り組み、成功した企業事例を紹介します。
信州ビバレッジ株式会社
清涼飲料製造業の信州ビバレッジは工場の24時間操業に対して10時間勤務の2交替制を採用しました。週休3日制により年間所定休日は49日増の169日となり、年間残業時間も400時間から60時間へと大幅に削減されるなど、労働時間の短縮を図ることができました。また休憩室の整備、コアタイムのないスーパーフレックスタイム制度の導入などにより柔軟な働き方を実現した結果、離職率1.5%と人材の定着に成功しました。
ソウ・エクスペリエンス株式会社
子どもを育てている従業員に対する支援として子連れ出勤を導入し、各人の事情に合わせた働き方を可能にしました。子育てに限らず従業員の希望に沿った働き方を常に模索し、リモート勤務や週休3日制を導入した結果、優秀な人材の流出防止に成功しています。
積極的にリテンション施策に取り組んで人材の流出を防ごう
リテンションは人事部門で人材確保のために必要とされ、少子高齢化が進んで労働力人口が減少する中、さらに注目度の高まりが予想される施策です。多くの企業が関心を寄せ、すでに取り組んでいる企業も少なくなく、今後も取り組みを始める企業は増え続けるでしょう。現在、人材流出の問題を抱えていない企業も、今後ますます進むことが予想される労働力不足に向けて、リテンション施策を前向きに検討する必要があります。
リテンション施策について、人事労務担当者はさまざまなことができます。そして、リテンション施策以外にも、同様の効果を得ることが可能な施策があります。人材流出防止・人材確保ために積極的かつ柔軟に取り組んでいきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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