- 更新日 : 2025年11月6日
社会保険の扶養とは?年収の壁についても解説
配偶者の収入で生活している専業主婦などは、自分では社会保険に加入しなくてもよい場合があります。社会保険被保険者である配偶者の扶養に入ることで、自分自身は社会保険料を納付しなくても健康保険を使えたり、年金を満額で受け取れたりします。年収130万円までの人は扶養に入ることができ、それを超えると扶養から外れます。
目次
社会保険の扶養とは?
社会保険の扶養は、自分自身が社会保険の被保険者にならなくても医療や年金で不利益を被らずに済む制度です。社会保険被保険者の扶養に入ることで、自分が社会保険の被保険者とならなくても、被保険者のように各医療機関で保険診療を受けられたり、国民年金保険料の支払い義務がない第3号被保険者として扱われたりすることができます。定められた要件を満たす場合に社会保険の扶養に入ることができ、要件を満たさなくなった場合は扶養から外れなくてはなりません。
税法上の扶養との違いは?
扶養には「社会保険の扶養」以外に、「税法上の扶養(税の扶養)」があります。税法上の扶養とは、所得税の計算において扶養控除の対象になることを指します。所得税は所得に対してかかりますが、その全額にかかるわけではありません。税金をかけるのが適当ではないものは、所得から控除されます。扶養家族がいる場合も一定額の控除があり、税法上の扶養とは所得税の計算における扶養控除を受けられることを指します。
年収の壁:2025年時点の最新基準
「年収の壁」とは、年収がある一定額を超えると税金や社会保険料負担が増え、手取り収入が減少する境界ラインを指します。扶養を維持できるかどうかの判断基準ともなり、働き方に大きく影響します。
2025年時点で主な「年収の壁」とされる基準額は次の通りです。
※最新の情報は国の公式情報をご確認ください。
100万円の壁(住民税)
年収が100万円を超えると原則として住民税の課税対象になります。非課税でいられるラインが年収約100万円前後にあるため、この額を超えるとわずかながら手取りが減ります(自治体により異なる場合あり)。
103万円の壁 → 123万円へ?(所得税)
年収が103万円を超えると所得税が発生し、配偶者扶養控除から外れるため扶養者(配偶者)の税負担が増えます。
この「103万円の壁」は約30年間変わりませんでしたが、2025年より20万円引き上げられる予定で、そうなると「123万円の壁」となります。つまり年収123万円までは所得税が発生しないため、パート収入の非課税枠が拡大しています。
106万円の壁(社会保険)
年収が約106万円(月収8.8万円)を超えるパート・アルバイトは、一定条件下で自分自身が社会保険(厚生年金・健康保険)に加入しなければならなくなる基準です。
具体的には ①従業員数51人以上の企業に勤務、②週20時間以上勤務、③月額賃金8.8万円以上、④継続雇用見込み2ヶ月超、⑤学生ではない という5要件を全て満たす場合に、配偶者の扶養を外れて本人が厚生年金・健康保険へ加入する必要があります。
この基準を超えるといわゆる「社会保険の扶養」から外れることになり、保険料負担が生じます。
130万円の壁(社会保険の被扶養者資格)
年収130万円未満であれば、上記106万円の条件に該当しない限り配偶者の健康保険の被扶養者として認められる収入上限です。年収が130万円以上になると原則として扶養家族から外れ、健康保険・年金の第3号被保険者資格(保険料負担なしで厚生年金に加入扱いとなる資格)を失います。
※60歳以上や障害者の場合はこの上限が180万円未満に緩和されます。
150万円の壁 → 160万円へ?(配偶者特別控除)
配偶者の年間所得が一定額以下の場合に受けられる配偶者特別控除(扶養者の税負担軽減措置)は、これまで配偶者年収150万円以下で満額の控除が適用されていました。2025年よりこの上限が年収160万円までに拡大予定で、従来より10万円高い収入まで満額控除が受けられるようになります。
配偶者年収が160万円を超えても段階的に控除額が減少し、約201.6万円まで一定の控除が受けられます(201.6万円以上で控除額ゼロ)。
これらの年収の壁を超えるか否かで、扶養内に留まるか社会保険へ加入するか、また扶養者の税負担がどう変わるかが決まります。2025年からは「103万円→123万円」「150万円→160万円」への引き上げといった変更が予定されており、パート収入の非課税枠・控除枠が広がっています。
一方で「106万円」「130万円」の壁については依然存在しており、社会保険料負担発生の境界として注意が必要です。
特に106万円の壁は適用範囲の拡大によって影響を受ける人が増えており、後述のようにさらに見直しが検討されています。
社会保険適用拡大の流れ(2022年以降の変更点)
短時間労働者に対する社会保険の適用拡大は、近年段階的に進められてきました。扶養範囲内で働く人にも関わる重要な改正であり、以下のような段階的拡大が行われています。
2022年10月
厚生年金・健康保険の適用対象が、それまで「従業員数501人以上」の企業から、「101人以上」の企業にまで拡大されました。
従来は大企業のパート従業員のみが106万円の壁の対象でしたが、中堅規模(101~500人)の事業所で働くパート・アルバイトも、要件を満たせば社会保険加入が義務化されました。
2024年10月
さらに適用範囲が広がり、対象企業規模が「51人以上」まで引き下げられました。この結果、中小企業の一部(従業員51~100人)でも、週20時間以上・月収8.8万円以上等の条件を満たすパート従業員は新たに社会保険に加入する必要があります。
2024年10月以降は従業員数51人以上の企業では、該当パート・アルバイトを社保に加入させなければならないルールになっています。
これらの適用拡大により、「106万円の壁」に該当して社会保険に加入しなければならないパート労働者の範囲が大幅に増えました。人事担当者は自社の従業員規模区分が変更対象に該当していないかを確認し、該当する場合は労働者への周知や加入手続きを適切に行う必要があります。
今後の見直し動向
さらに今後の見直し動向として、政府は企業規模要件(51人以上)と賃金要件(月8.8万円以上)を撤廃し、短時間労働者への社会保険適用を一層拡大する方針を打ち出しています。
厚生労働省の社会保障審議会年金部会では、被保険者数「51人以上」の要件を廃止し、従業員50人以下の小規模事業所で働くパートにも他の条件を満たせば社保加入を義務付ける案が有力視されています。
また賃金月額8.8万円以上という要件も廃止する方向で議論が進んでおり、最低賃金の上昇で20時間働けば自動的に8.8万円を超える地域が増えたことなどが背景にあります。
この見直しが実現すれば、「106万円の壁」が事実上なくなる(=収入要件を問わず一定時間働けば社保加入)ことになり、社会保険の扶養として働ける年収上限が大幅に下がる可能性があります。現時点でも、社保の標準報酬月額の下限(5万8,000円/月)に合わせて年収約70万円程度まで壁が引き下げられるとの予測も報じられています。
ただし一度に扶養廃止まで踏み込むのは困難との見方もあり、段階的な措置が取られると予想されています。
いずれにせよ2025年の年金制度改革法案にこれらの適用拡大策が盛り込まれる見込みで、人事担当者は今後の立法動向にも注目しておく必要があります。
年収の計算方法は「社会保険の扶養」と「税法上の扶養」で異なる
社会保険や税法上の扶養に入れるかどうかは年収によって判断されますが、社会保険の扶養と税法上の扶養では以下のように年収の計算方法が異なります。
社会保険の扶養
・雇用保険による失業給付や育児休業給付金、健康保険による傷病手当金などが年収の計算に含まれる。
税法上の扶養
・雇用保険による失業給付や育児休業給付金、健康保険による傷病手当金などが年収の計算に含まれない。
通勤手当や交通費も計算方法が異なる
社会保険の扶養と税法上の扶養では、通勤手当や交通費も年収の計算に含む・含まないが異なります。
社会保険の扶養
・通勤手当や交通費を含んで年収を計算する。
税法上の扶養
・通勤手当や交通費を含まずに年収を計算する。
社会保険の扶養内で働くメリットは?
社会保険の扶養内で働くことには、自分自身に社会保険加入の義務が生じないというメリットがあります。このメリットの内容として、以下の2点が挙げられます。
働いただけ収入が増える
メリットの1つ目は、社会保険料の負担がない分だけ収入が増えることです。社会保険に加入すると自分自身で保険料を支払うことになり、給料から控除されます。そのため手取額が減りますが、扶養に入っていれば社会保険料の負担はありません。給料から社会保険料が控除されないため、働いただけ収入が増えます。
被扶養者としての優遇を受けられる
メリットの2つ目は、被扶養者として優遇を受けられることです。健康保険では被扶養者の数の健康保険証が交付され、各医療機関で保険診療を受けられます。国民年金では、保険料を支払う義務のない第3号被保険者として扱われます。国民年金第3号被保険者である期間は保険料納付済期間とされ、満額の年金を受け取ることができます。
社会保険の被扶養者になる手続きは?
社会保険の被扶養者になるには、所定の手続きが必要です。手続きは被扶養者の扶養者の勤務する会社が行わなければなりません。以下の方法で手続きを行います。
提出書類
・健康保険被扶養者異動届・国民年金第3号被保険者関係届
添付書類
・被扶養者の戸籍謄本(抄本)か住民票の写し
・収入を確認できる書類(退職証明書や雇用保険被保険者離職票の写しなど)
提出方法
・電子申請・郵送・窓口持参のいずれか
提出先
・郵送する場合は事務センター
・窓口に持参する場合は事業所所在地を管轄する年金事務所
提出期限
・事実があった日から5日以内
社会保険の扶養から外れるとどうなる?
年収が基準を超えると、社会保険の扶養から外れる必要があります。扶養から外れた場合は、自分自身で社会保険に加入しなければなりません。社会保険料を支払わなければならなくなり、また扶養手当をもらえなくなることで収入減となる場合もあります。
社会保険料はいくら支払う?
扶養から外れて自分自身で社会保険に加入すると、社会保険料を負担することになります。社会保険料は、給与の約12~15%です。
会社から扶養手当をもらえなくなる?
会社によっては、社会保険の扶養から外れた家族を扶養手当支給の対象外とします。扶養手当は会社が独自に定める給料手当の一つで、支給条件も自由に決められます。社会保険の扶養家族に対して扶養手当を支給する会社では、社会保険の扶養から外れると扶養手当ももらえなくなります。
年収と扶養の関係を示す「○○円の壁」に注意しよう
2025年時点での社会保険の扶養制度に関する最新情報を整理しました。年収の壁の基準変更や適用拡大は、企業実務と働く個人双方に大きな影響を与えます。
人事労務担当者はこれらの変化を正しく把握し、社員への情報提供や制度対応を適切に行うことが求められます。扶養内で働くことのメリット・デメリットも踏まえつつ、従業員が安心して働けるよう支援していきましょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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