- 更新日 : 2025年1月30日
年次有給休暇の計画的付与とは?時季指定との違いなど
働き方改革では、我が国の長時間労働の是正が課題とされ、残業規制などとともに、年次有給休暇の取得率向上に向け、労働基準法が改正されました。今回は、年次有給休暇のうち、5日を超える分については、計画的に休暇取得日を割り振る計画的付与制度と、事業主の時季指定について詳しく解説していきます。
目次
年次有給休暇の計画的付与とは?
年次有給休暇の計画的付与は、従業員の年次有給休暇の取得率を上げるための制度であり、5日を超える分については、労使協定を結べば、計画的に付与できるという制度です。
通常の有給休暇取得(計画的付与ではない有給休暇の取得)と計画的付与では、取得時季の指定方法が異なります。計画的付与ではない有給休暇は従業員が取得日を指定しますが、計画的付与では労使協定により取得日を定めるため、労働者から個別に取得日を指定することはできません。
計画的付与は義務?
有給休暇の計画的付与は義務ではありません。有給休暇の取得を促すための方法のひとつです。
厚生労働省の「就労条件総合調査」によると、我が国の2019年(令和元年)の年次有給休暇の取得率は52.4%で、政府目標である70%とは大きな乖離がありました。
年次有給休暇は、要件を満たせば、自動的に付与され、取得する際にも上司の承認などは必要ありません。基本的には従業員の申し出た日に、かつどのような理由であっても取得可能です。
しかし、職場の同僚に迷惑がかかるなどの理由で、従業員が取得希望の申出をためらうことが多いという状況がありました。また有給休暇を取得すると評価が下げられるなど、会社の知識不足から来る不適切な運用がされていた事例も報告されています。
そのような状況を改善し、職場における業務との兼ね合いをつけながら、互いに気がねなく、年次有給休暇を取得できる制度として設けられたのが年次有給休暇の計画的付与です(労働基準法39条5項)。
計画的付与日数の具体例
計画的付与が可能な有給休暇の日数は、「年次有給休暇のうち5日を超える部分」です。つまり、付与されている日数から5日を引いた日数が対象となります。
また前年度繰越分がある場合は、繰り越した日数を含めた日数から5日を引いた日数を、計画的付与の対象とできます。
有給休暇の付与日数 (繰越分含む) | 計画的付与ができる日数 |
---|---|
10日 | 5日 |
12日 | 7日 |
20日 | 15日 |
計画的付与と時季指定による付与の違い
計画的付与と時季指定による付与の違いは、以下の4点です。
- 労使協定の要否
- 対象者
- 対象とできる日数
- 従業員への取得希望日の聞き取り
計画的付与 | 時季指定による付与 | |
---|---|---|
労使協定 | 必要(届出不要) | 不要 |
対象者 | 全従業員 | 10日を超える日数が付与される従業員 |
対象とできる日数 | 繰越分を含む日数から5日を超える日数 | 5日 |
従業員への取得希望日の聞き取り | 不要 | 必要 |
計画的付与は、有給の取得率を上げるために会社が一斉に行うものです。従業員に取得時季の希望を聞く必要はなく、また部門の上司などが個別に取得日を変更することはできません。
いっぽう時季指定による付与は、本来従業員が行うべき取得日の指定を、会社が行う制度です。会社は従業員に対し、年5日以上の有給を消化させる義務があります。しかし従業員から有給取得の申し出がない場合、消化日数が5日に到達しません。
そのような場合に、会社側から従業員に取得希望日を聞き取り、会社から取得日を指定して従業員に有給休暇を取得させるのが時季指定による付与です。「時季指定の申し出がない従業員に対して、取得義務である5日をクリアするために会社が代理で時季指定をする」というイメージが近いでしょう。
なお、計画的付与で従業員が取得した日数については、事業主が指定する5日から控除することができます。
年次有給休暇の計画的付与のメリット・デメリット
年次有給休暇の計画的付与には、会社と従業員の双方にメリットとデメリットがあります。導入には準備も必要なので、メリットとデメリットを比較して導入を検討しましょう。
計画的付与のメリット
計画的付与のメリットとして、以下が挙げられます。
【会社のメリット】
- 休暇の取得時季が定められるため、計画的な業務運営ができる
- 取得日数を管理する手間が減る
- 有給取得率が上がる
【従業員のメリット】
- 休暇の予定を立てやすくなる
- 周囲を気にせず有給休暇を取得できる
計画的付与ではあらかじめ取得日を定めておくので、繁忙期の休暇取得によってほかの従業員に負担が偏ったり、急な取得でスケジュールがずれたりといった業務の支障が起きにくくなります。法律で義務づけられた5日以上の取得という要件も満たしやすくなるので、従業員の有給取得日数を逐一管理、把握して取得を促す手間もなくなります。
計画的付与のデメリット
計画的付与のデメリットとして、以下が挙げられます。
【会社のデメリット】
- 労使協定締結の手間がかかる
- 有給休暇の付与日数が足りない対象者に対して、個別対応が必要になる
【従業員のデメリット】
- 自由に使える有給休暇日数が減る
計画的付与は労使協定を締結する必要があるため、業務上の負荷が増えます。また対象とする従業員の有給休暇の付与日数が足りない場合、特別休暇を設けて休暇とするか、休業手当を支払わなくてはなりません。
年次有給休暇の計画的付与の方法
年次有給休暇の計画的付与には、以下の3つの方法があります。
- 一斉付与方式
- 交替制付与方式
- 個人別付与方式
それぞれ、同時に付与する対象が異なります。
一斉付与 | 交替制付与 | 個人別付与 | |
---|---|---|---|
対象と タイミング | 全従業員に一斉付与 | 班やグループごとに付与 | 個人別に計画表などで付与 |
向いている業種 | 一斉に休業できる業種(製造業、製造部門など) | 定休日を増やすのが難しい業種(流通・サービス業、カスタマーサポート部門など) | すべて |
ここでは各方式について、メリットや手続きの注意点など詳細を解説します。
一斉付与方式
一斉付与方式は、その事業所や会社のすべての従業員を対象に同日に付与する方式です。同じ日に付与するため、管理の手間が少なく、また現場での周知もしやすいでしょう。
夏季休暇や年末年始休暇の前後に付与して連休日数を増やしたり、平日を挟む祝日(いわゆる「飛び石連休」)の間を埋める形で付与したりすることで、従業員のリフレッシュを促せます。
一斉付与の場合、入社直後など有給休暇が付与されていない従業員は休暇の残日数が足りなくなる可能性があります。その場合は、対象の従業員に特別休暇を付与するか、休業手当を支払わなければなりません。
交替制付与方式
交替制付与方式は、グループや班などを単位として交替で有給休暇を付与する方式です。事業への影響が少ないため接客業やインフラ関連など、営業を止めることが難しい業種や職種向きの方式といえるでしょう。
なお交替制付与方式を採用する場合は、労使協定にグループごとの付与日を定める必要があります。
個人別付与方式
個人別付与方式は、個人別のカレンダーなどを作成して付与日を指定する方式です。従業員の事情に合わせた付与がしやすく、有給休暇の自由度が減るといった不満につながりにくいでしょう。記念日に合わせた付与など、あらかじめ取得日が決まっている有給休暇の付与として利用できます。
反面で運用業務が煩雑になりやすく、会社側がカレンダーを管理する手間は増えます。個人別付与方式を導入する場合は、専用のカレンダーシステムなど管理が楽にできるような体制を作っておくと良いでしょう。
年次有給休暇の計画的付与を行う上での手続き
導入企業が増えている年次有給休暇の計画的付与制度ですが、実際に導入するにはどのような手続きが必要なのでしょうか。
労使協定の締結・就業規則の変更を行う
計画的付与制度の導入には、就業規則の変更と労使協定の締結が必要となります。
まず、就業規則に「従業員代表との書面による協定により、各従業員の有する年次有給休暇日数のうち5日を超える部分について、あらかじめ時季を指定して取得させることがある」というような規定を設けます。
この条項にある「従業員代表との書面による協定」が労使協定に該当します。従業員の過半数で組織する労働組合がある場合は、その労働組合との書面による協定でも構いません。
常時10人以上の従業員を使用する事業場の場合は、就業規則を変更した場合は、所轄の労働基準監督署に届け出をしけなければなりません。
労使協定において決める項目
労使協定で定める主な内容は、以下の通りです。なお、年次有給休暇の計画的付与についての労使協定は労働基準監督署に届出義務はありません。
1. 計画的付与の対象者
計画的付与の対象となる日数の関係上、年次有給休暇を6日以上付与する従業員であれば、正規・非正規などの雇用形態や勤務形態に関係なく、計画的付与の対象者とすることができます。
ただし、育児休業や産前産後の休業などに入ることがわかっている従業員や、定年退職することが予定されている従業員は対象から外しておきます。
2. 計画的付与の対象となる日数
計画的付与の対象となるのは、年次有給休暇日数のうち5日を超過する部分だけです。
有給休暇のうち最低5日は、従業員が自由な取得を保障することになっています。前年度分の繰り越しがある場合は、繰り越し分の日数を含めて5日を超過する部分が対象です。
なお、パートタイマーのように週の所定労働時間が30時間未満で週の所定労働日数が4日以下などの従業員については、労働日数に応じて年次有給休暇は労働日数に応じて比例付与されます。この場合も5日を超過する部分が計画的付与の対象となります。
3. 計画的付与の実施方式
班・グループ別の交替制付与方式の場合は、班・グループ別の具体的な付与日を定めます。企業もしくは事業場全体の休業による一斉付与方式の場合も、具体的な付与日を定めます。
年次有給休暇付与計画表による個人別付与方式の場合は、計画表を作成する時期とその手続きなどについて定めることになります。
4. 対象となる年次有給休暇を持たない者の扱い
事業場全体の休業による一斉付与方式の場合などは、新入社員の入社のタイミングや勤続年数、所定労働日数等によっては、5日を超える年次有給休暇がないケースもあります。
この場合、そのままであれば計画的付与の対象者とすることができないため、以下のような措置をとることになります。
- 特別休暇を付与する。
- 休業手当として平均賃金の60%以上を支払う(労働基準法26条)。
5. 計画的付与日の変更
計画的付与の日を指定する場合、従業員の時季指定権、使用者の時季変更権はいずれも行使できません。計画的付与日の変更が予定される場合には、労使協定で変更する際の手続きについて定めておきましょう。
年次有給休暇の計画的付与を進める上での注意点
年次有給休暇の計画的付与制度の導入手続きについてみてきましたが、そのほか、どのような注意点があるのか説明します。
従業員が労使協定の締結を拒否したら?
一部の従業員が年次有給休暇の計画的付与制度の導入について拒否した場合はどうなのるでしょうか。
結論から言えば、従業員の過半数の同意があれば、労使協定は有効に締結することができます。したがって、一部の者が反対したとしても、要件を満たした全員が計画的付与の対象となります。
前述のように、付与される有給休暇の日数が5日以下の場合、計画的付与をそのまま適用できず、特別な措置を講じる必要があるので注意しましょう。
労使協定を結ばないまま、計画的付与を勝手に行ったら?
計画的付与制度の導入では、就業規則において労使協定で締結することを規定し、実際にそのルールに従って労使協定を締結することとなっています。
労使協定を締結せず、計画的付与を行った場合、その効力が生じないだけでなく、事業主の時季指定義務において自発的に5日以上の年次有給休暇が取得できない場合、計画的付与日数から控除できないことになります。
年5日の年次有給休暇を労働者に取得させなかったことになれば、結果的に労働基準法39条7項に違反し、30万円以下の罰金に処せられる可能性があります(労働基準法120条)。
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年次有給休暇の計画的付与について知っておこう!
年次有給休暇の計画的付与について、2019年に改正された時季指定義務との関係も含めて解説してきました。
計画的付与制度は、ここ数年で導入企業が急増しています。事業主による時季指定義務とともに年次有給休暇の取得促進では有効な制度です。
年次有給休暇の取得率向上は、働き方改革の一環でもあり、企業としても生産性向上のために積極的に取り組むことを検討すべきでしょう。
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よくある質問
年次休暇の計画的付与とは何ですか?
年次有給休暇の日数のうち、5日を超える部分については労使協定によって付与時季に関する定めをしたときは、その時季に与えることができる制度です。詳しくはこちらをご覧ください。
計画的付与と時季指定による付与の違いについて教えてください。
計画的付与は任意の制度ですが、事業主の時季指定による付与は労働基準法上の義務です。詳しくはこちらをご覧ください。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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