• 更新日 : 2025年6月23日

雇用保険料とは?2025年の法改正における変更点についても解説

雇用保険とは?

雇用保険制度は失業時などに生活と雇用を安定させることを目的とした公的保険制度で、原則として労働者を1人でも雇用する事業所に適用されます。雇用保険制度の目的や対象者、給付内容など、雇用保険料の背景となる制度を解説します。

雇用保険の目的

雇用保険制度は政府管掌の強制保険であり、労働者の生活および雇用の安定や再就職の促進を目的としています。労働者が失業した場合や育児休業を取得した場合などに「失業等給付」および「育児休業給付」を支給し、労働者の生活保障を行います。さらに、失業の予防や雇用機会の増大、労働者の能力開発といった雇用安定・能力開発の二事業を実施することで、雇用環境の改善にも取り組む包括的な制度です。

このように雇用保険は、失業時のセーフティーネット機能と在職中の労働者支援の両面を持つ社会保険制度となっています。

雇用保険の対象者

雇用保険の適用対象者は、原則として週の所定労働時間が20時間以上であり、31日以上引き続き雇用される見込みのある労働者です。これら2つの条件を満たす場合、正社員だけでなくパートタイム労働者や契約社員であっても被保険者として雇用保険に加入しなければなりません。一方で、昼間学生(在学中の学生・生徒)は原則として雇用保険の被保険者にはなれないと法律で定められています。

このため、アルバイトなどで働く大学生や高校生などは、週20時間以上働いていても在学中である限り雇用保険は適用除外となります。ただし、夜間学部の学生や卒業見込みで就職活動中の学生など、一部例外的に適用されるケースもあります。

要件を満たす労働者を一人でも雇用する事業所は強制適用事業となり、事業主は労働者の意思に関係なく雇用保険へ加入手続きを行う義務があります。

雇用保険の給付内容と種類

雇用保険では、さまざまな給付金が設けられており、労働者の状況に応じて支給されます。その代表が基本手当(いわゆる失業手当)です。被保険者が失業した際に、再就職活動中の生活を支えるため一定期間支給される給付金で、離職理由や雇用保険の加入期間に応じて所定給付日数(90日〜最大360日)が決定されます。基本手当を受給するためには後述するように一定の被保険者期間が必要ですが、倒産・解雇などやむを得ない理由で離職した場合は給付条件が緩和され手厚い支援が受けられます。

このほかにも、再就職手当(早期に再就職した場合に基本手当の一部を一時金で支給)、就業促進手当(就職支援の各種手当)、教育訓練給付(資格取得やスキルアップのための費用の一部補助)、高年齢雇用継続給付(60歳以上65歳未満で賃金が低下した場合の補填給付)などが用意されています。

さらに、育児や家族の介護で休業する場合には育児休業給付金や介護休業給付金が支給され、休業中の収入減を補償します。育児休業給付金は子どもが1歳(一定条件下で最長2歳)になるまで育休取得者に支給され、休業開始時賃金の67%(180日経過後は50%)が給付される制度です。

一連の給付に必要な財源こそが雇用保険料であり、在職中に労働者と企業が拠出した保険料が失業時や休業時の手当として活用される仕組みになっています。

雇用保険料の仕組み

雇用保険料の負担は、労働者と事業主の双方に課される点に特徴があります。労働者は給与から雇用保険料が天引きされ、事業主もそれとは別に一定割合の保険料を負担します。雇用保険料を誰がどのように負担するのか、労使負担の内訳や仕組みについて説明します。

労働者と事業主の双方による保険料負担

雇用保険料は労使折半で負担する部分と、事業主のみが負担する部分に分かれています。主に失業等給付や育児休業給付に充てられる部分については労働者と事業主が同率を負担し、雇用安定事業・能力開発事業(いわゆる「雇用保険二事業」)に充てられる部分は事業主のみが負担します。

2024年度時点では、一般の事業における雇用保険料率1.55%の内訳は失業等給付分0.8%、育児休業給付分0.4%、二事業分0.35%となっており、失業等給付と育休給付の計1.2%分を労使で折半(各0.6%ずつ)し、二事業分0.35%を事業主が全額負担する構造でした。このように労働者も事業主も保険料を支払うことで、双方が協力して制度を支える仕組みになっています。

事業主のみが負担する「雇用保険二事業」とは、失業の予防や労働者の能力開発向上、雇用機会の拡大などを目的とした事業の財源です。在職者向けの職業訓練への助成金や、中小企業の雇用管理改善への支援策、雇用調整助成金(景気悪化時に従業員を休業させる企業への助成)などが挙げられます。二事業は労働者個人への直接給付ではなく主に事業主支援の形で行われるため、その費用は事業主側のみが追加で負担するという区分になっています。

保険料の負担割合は法律で定められており、料率改定時にも原則として労働者負担分と事業主負担分が同時に見直される仕組みです。

労働保険としての位置付け

雇用保険は、労災保険(労働者災害補償保険)とともに「労働保険」と総称されます。労災保険料は全額事業主負担であるのに対し、雇用保険料は労使双方で負担する点で異なります。労働保険料(労災+雇用)は原則として事業主がまとめて管理し、年度ごとに報告・納付します。事業主は毎月の給与支払時に労働者負担分を控除し、自社負担分を加えて積み立て、年に1度「年度更新」という手続きで管轄の労働局(労働基準監督署)や金融機関へ申告・納付します。

この際、労災保険料と雇用保険料を合算して納付することとなります。したがって、事業主は労働者から預かった雇用保険料を適切に管理するとともに、自らの負担分も含めて確実に納付する責任があります。万一、加入手続きや保険料納付を怠った場合、後日まとめて徴収されたり、延滞金が課されたりする可能性もあるため注意が必要です。

雇用保険料の計算方法

雇用保険料の計算方法はシンプルで、基本的には対象となる賃金総額に雇用保険料率を乗じて求めます。ここでは、雇用保険料率の意味や賃金の範囲、計算式と計算例について解説します。

雇用保険料率とは

雇用保険料率とは、雇用保険料を算出するための賃金に対する割合(パーセンテージ)です。料率は厚生労働省告示等により毎年度見直されるのが一般的で、通常は毎年4月1日から改定されます。業種ごとに料率が異なる場合もあり(後述の最新料率参照)、例えば失業リスクの高い建設業や農林水産業などでは一般の事業よりも料率が高めに設定されています。

もっとも、料率は情勢に応じて変更される可能性があるため、企業の担当者は厚生労働省からの発表に注意し、改定があれば給与計算システム等に速やかに反映する必要があります。

保険料の計算対象となる賃金の範囲

保険料の計算対象となる賃金の範囲にも注意が必要です。雇用保険料は、労働者に支払われるほぼすべての賃金に対して課されます。対象となるのは毎月の基本給だけでなく、各種手当や残業代、そして賞与にも及びます。計算は税金や社会保険料を差し引く前の支給額(額面金額)に対して行い、通勤手当非課税分も含む)や残業手当なども含めた総額がベースとなります。

一方で、労働者の退職時に支払われる退職金や結婚祝い金など、性質上一時的で雇用の対価とみなされないものは保険料の対象外です。賃金のどこまでが計算対象になるかについては厚生労働省から詳細が示されていますので、企業担当者は就業規則上の各手当が含まれるか確認しておくとよいでしょう。

雇用保険料の計算式と端数処理

雇用保険料の計算式は以下の通りです。

雇用保険料額 = 賃金総額 × 雇用保険料率

 

賃金総額には基本給、各種手当、残業代、賞与などが含まれます。毎月の給与総支給額が20万円で雇用保険料率が0.6%の場合、労働者負担分の雇用保険料は 200,000円 × 0.006 = 1,200円 となります。事業主も同額(+事業主のみ負担する二事業分)を負担するため、会社負担分も1,200円(+α)という計算になります。

実際の計算では端数処理のルールにも従います。計算結果が1円未満の端数(小数点以下の金額)を生じた場合は、原則として50銭未満切り捨て、50銭以上切り上げで1円単位に調整します。現在は通貨として銭の単位は使われませんが、計算上は賃金額によって1円未満の端数が出ることがあるため、この四捨五入ルールが適用されます。

例えば計算結果が1,200.4円であれば1,200円に、1,200.5円であれば1,201円にそれぞれ調整されます。通常の給与計算ソフトやエクセル等では自動的に処理されますが、手計算する際には念頭に置きましょう。

雇用保険料の計算例

それでは、具体的なケースで雇用保険料を計算してみます。例:月給30万円、年間賞与50万円の労働者(一般の事業、2025年度料率適用)について算出してみましょう。2025年度の一般事業の雇用保険料率は労働者負担0.55%、事業主負担0.90%(詳細は次章参照)です。この場合、まず毎月の給与にかかる雇用保険料は以下のようになります。

  • 労働者負担(毎月の給与):300,000円 × 0.55% = 1,650円
  • 事業主負担(毎月の給与):300,000円 × 0.90% = 2,700円

    給与支給時には、労働者の手取りから1,650円が控除され、事業主は自らの負担分2,700円と合わせた計4,350円を積み立てます(労使計2,700 + 1,650円)。次に賞与50万円に対しても同様に計算します。

    • 労働者負担(賞与支給時):500,000円 × 0.55% = 2,750円
    • 事業主負担(賞与支給時):500,000円 × 0.90% = 4,500円

      賞与時には労働者の賞与から2,750円が控除され、事業主負担分4,500円と併せて合計7,250円が保険料として納付準備されることになります。年間トータルでは、この労働者について給与分の保険料が (1,650円+2,700円)×12ヶ月 = 52,200円、賞与分が7,250円となり、合計59,450円を会社が取りまとめて労働保険として納付する計算です。

      なお実際の保険料納付は前述のとおり年1回の申告で行われますが、計算自体は毎月の給与・賞与ごとに正確に行って蓄積しておく必要があります。

      2025年の法改正で雇用保険料はどう変わる?

      雇用保険料率は景気や雇用情勢、制度改正に応じて変更されることがあります。2025年(令和7年度)は最新の改定が行われた年度であり、労使双方の負担率に変更が生じました。ここでは2025年4月現在の雇用保険料率と、直近の法改正に関する情報を解説します。

      2025年度の雇用保険料率

      厚生労働省の発表によれば、令和7(2025)年4月1日から令和8(2026)年3月31日まで適用される雇用保険料率は以下の通りです。

      • 一般の事業(農林水産・清酒製造、建設業以外の業種): 労働者負担 0.55% (5.5/1000)、事業主負担 0.90% (9/1000)
      • 農林水産業・清酒製造業: 労働者負担 0.65% (6.5/1000)、事業主負担 1.00% (10/1000)。
      • 建設業: 労働者負担 0.65% (6.5/1000)、事業主負担 1.10% (11/1000)

        いずれの業種も、事業主負担分には前述の雇用保険二事業の拠出分が含まれており、一般の事業と農林水産・ 清酒製造の事業で3.5%、建設業で4.5%が事業主のみの負担分となっています。上記の料率改定により、一般の事業では労働者・事業主とも失業等給付分の負担率が0.05ポイント引き下げられました(前年度0.60%→0.55%)。

        例えば月給20万円の労働者の場合、月々の本人負担額は前年度1,200円から1,100円へと減少し、企業負担額(+二事業分含む)は前年度1,900円から1,800円に減少する計算です。このように2025年度は労使双方の負担が若干軽減される措置となっています。

        今回の料率改定は、近年の雇用保険財政の動向を踏まえたものです。新型コロナウイルス感染症の影響が落ち着き、雇用情勢が改善して基金収支が好転したことから、雇用保険料率を引き下げる判断が行われました。雇用保険料率の引き下げは実に2017年度以来8年ぶりであり、財政悪化により高止まりしていた保険料率がようやく下がる形となっています。

        一方で、育児休業給付や雇用安定二事業に充てるための財源については依然として一定の確保が必要とされており、育児休業給付のための保険料率(労使計0.4%)および二事業分(事業主計0.35%または0.45%)は据え置きとなりました。つまり、失業等給付にかかる部分のみが引き下げられ、他の部分は従来通り維持されています。

        雇用保険料率の推移と最近の主な改正

        雇用保険料率は景気や失業率だけでなく、雇用保険財政の状況に応じて見直されます。直近では、2022年度および2023年度に料率の引き上げが段階的に実施されました。背景には新型コロナウイルス感染拡大に伴う失業等給付の増大や、雇用調整助成金の特例措置による給付金支出の急増で財源が逼迫したことがあります。

        2022年4月にそれまで労使計0.9%(一般事業)の料率が0.95%に引き上げられ、同年10月にはさらに1.35%へ大幅に引き上げられました。その後2023年4月には1.55%へと引き上げられ、労働者負担0.6%・事業主負担0.95%(一般の事業の場合)という水準になっていました。この一連の料率上昇は、コロナ禍で急増した失業給付・助成金支出に対応する財源確保のため、雇用保険法の改正を経て行われたものです。

        上述のような緊急的な引き上げを経て、2024年度後半以降は雇用保険財政が改善基調となり、2025年度から料率を引き下げる環境が整いました。2023年度決算における積立金残高の回復により、法改正を要することなく失業等給付分の料率を引き下げることが可能となりました。その結果が2025年度料率の0.1%(0.1ポイント)引き下げです。

        なお、育児休業給付に関しては近年の男性育休取得の増加もあり財政基盤を強化する必要性が指摘されていますが、当面は現行水準の保険料率内で賄う措置が取られています。

        雇用保険に関する改正の見通し

        今後の見通しとして、政府は2028年度までに雇用保険の適用範囲をさらに拡大し、パートタイム労働者のうち週20時間未満の短時間労働者にも段階的に加入対象を広げる方針を示しています。適用対象拡大に伴い、給付対象者も増える可能性があるため、中長期的には保険料率への影響も考慮する必要があるでしょう。また景気変動や失業率の状況によっては、将来的に再び料率が見直されることもありえます。

        厚生労働省から毎年度公表される「雇用保険料率のお知らせ」等を確認し、最新情報を把握することが大切です。

        雇用保険料を正しく理解し万一に備えよう

        雇用保険料は労働者と企業が共同で支える社会保険料であり、失業や育児休業といった局面で貴重な給付をもたらす原資です。雇用保険制度の目的や対象者、給付内容を正しく理解することで、在職中はもちろん退職時や休業時にも適切な対応ができるでしょう。

        2025年時点では料率の変更が行われており、企業の人事担当者は最新情報を踏まえた給与計算と確実な加入手続きが求められます。また、個人の方も、自身の雇用保険加入状況や受給資格を把握しておくことで、いざというときスムーズに給付を受けられます。雇用保険料は日々の給与明細では小さな金額かもしれませんが、それが集まることで大きな支えとなり得ます。

        将来の安心のために、そして万一の際のセーフティーネットを有効に機能させるために、雇用保険料への理解を深めておきましょう。知って備えることで、雇用保険という制度を最大限に活用し、働く皆さまの生活と雇用の安定に役立てていただければ幸いです。

        よくある質問

        雇用保険料とは?

        事業主と労働者が負担し、労働の対償として労働者に支払う賃金総額に雇用保険料率をかけて計算します。詳しくはこちらをご覧ください。

        雇用保険法改正で雇用保険料はどう変わる?

        雇用保険料率の引き上げが行われ、雇用保険料の負担が大きく増えます。詳しくはこちらをご覧ください。


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