- 更新日 : 2025年11月25日
給与計算の業務フローは?毎月の流れから年間スケジュールまで徹底解説
給与計算とは、従業員の勤怠情報に基づき、基本給や各種手当、控除額を正確に算出して給与額を確定し、支払うまでの一連の流れを指します。給与計算の業務フローでは、労働基準法や税法などの専門知識が求められ、法改正にも対応が必要なため、難しいと感じている担当者も多いのではないでしょうか。
本記事では、給与計算が初めての方でも全体像を掴めるよう、給与計算業務の基本的な流れを月次・年次のスケジュールに分けて詳しく解説します。さらに、業務効率化のポイントやよくあるミスまで網羅し、正確でスムーズな給与計算実務の実現をサポートします。
目次
給与計算の基本的な業務フロー
給与計算の業務フローは、毎月繰り返し行う「月次業務」と、特定時期に対応が必要な「年次業務」の2つに大別されます。まずは、給与計算事務の全体像を正確に把握することが、業務をスムーズに進める第一歩です。
給与計算の毎月の業務フロー
毎月決まった時期に行う給与計算(月次業務)は、勤怠データの集計から始まり、総支給額、控除額を算出し、最終的な手取り額を確定して振り込むまでが基本的な一連の流れです。
1. 勤怠データの集計・確認
給与計算の最初のステップは、全従業員の労働時間を正確に把握することです。タイムカードやICカード、生体認証などの勤怠管理システムから、各従業員の出勤日数、欠勤日数、労働時間、時間外労働時間(残業時間)、休日労働時間、深夜労働時間などを集計します。特に、遅刻、早退、有給休暇の取得状況も正確に反映させる必要があります。集計したデータに打刻漏れや申請漏れがないか、必ず従業員本人および管理者の承認を得てから確定させましょう。
2.基本給や各種手当の計算、欠勤控除の計算
勤怠データの集計・確認に基づき、基本給や各種手当の計算を行います。従業員の欠勤により欠勤控除をする場合には、自社の就業規則で欠勤控除の計算方法を確認することが大切です。また、歩合給など、従業員の業績や出来高によって変動する手当の計算、通勤手当(1日単位・月単位)の計算にも注意が必要です。
3.年次有給休暇取得の有無の確認
勤怠データの集計・確認をする際、従業員の年次有給休暇取得の有無を確認します。月給制の従業員の場合は基本給に変動がありませんが、日給制や時給制の従業員が年次有給休暇を取得した場合には、年次有給休暇取得分の賃金を加算するのを忘れないようにしましょう。
4.時間外労働・休日労働・深夜労働の割増賃金の計算
勤怠データの集計・確認に基づき、時間外・休日・深夜労働の割増賃金の計算を行います。時間外労働の上限規制、36協定で定めた時間外・休日労働の時間数を守っているかを確認することも大切です。
5. 総支給額の計算
次に、確定した勤怠データと社内の給与規定に基づき、従業員に支払う給与の総額(総支給額)を算出します。総支給額は、基本給に各種手当と割増賃金を加算し、欠勤控除などを差し引いて計算されます。
- 基本給
月給や日給、時給など、雇用契約で定められた賃金 - 各種手当
- 役職手当、資格手当、住宅手当、家族手当など
- 通勤手当は一定額まで非課税
- 割増賃金
- 時間外手当(残業代):法定労働時間(1日8時間・週40時間)超の労働に対し、通常賃金の25%以上
- 休日手当:法定休日の労働に対し、通常賃金の35%以上
- 深夜手当:22時〜翌5時の労働に対し、通常賃金の25%以上
- 欠勤・遅刻早退控除
欠勤や遅刻、早退があった場合に、給与規定に基づき基本給から控除
6. 社会保険料の計算
総支給額から、健康や年金を保障するための社会保険料を控除します。
社会保険料は会社と従業員で折半して負担し、給与からは従業員負担分を天引きします。主な社会保険の種類は以下の通りです。
| 保険の種類 | 内容 |
|---|---|
| 健康保険料 | 業務外の病気や怪我に備える医療保険 |
| 介護保険料 | 介護や介護予防に必要な費用の給付を受けるために40歳以上の従業員が対象となる保険 |
| 厚生年金保険料 | 老後の生活保障や障害・死亡に備える年金保険 |
| 雇用保険料 | 失業時の給付や育児・介護休業給付の財源 |
健康保険料、介護保険料、厚生年金保険料は、毎年4月〜6月の給与平均から算出される「標準報酬月額」に保険料率を掛けて計算します。雇用保険料は、毎月の給与総額に雇用保険料率を掛けて算出します。これらの保険料率は頻繁に改定されるため、常に最新情報の確認が必須です。
7. 所得税(源泉所得税)の計算
その月の課税対象となる給与額に対してかかる所得税を計算し、給与から天引き(源泉徴収)します。
所得税は、1年間の所得に対して課される税金ですが、会社が毎月の給与から概算額を預かり、従業員に代わって納税します。
- 課税対象額の算出
総支給額から非課税の手当(通勤手当の一部など)と社会保険料の合計額を差し引きます。 - 源泉徴収税額の算出
課税対象額と扶養親族の数をもとに、国税庁が公表する「源泉徴収税額表」から該当する税額を特定します。令和7年度の税制改正により、令和8年1月に支払う給与からは算定方法が変更されます。法改正に伴い所得税額が変更されていますので、注意しましょう。
参考:令和7年分 源泉徴収税額表|国税庁
令和8年分 源泉徴収税額表|国税庁
令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について|国税庁
8. 住民税の確認・計上
前年の所得に基づいて各市区町村が決定した住民税額を、給与から天引き(特別徴収)します。
毎年5月頃に市区町村から送付される「住民税課税決定通知書」に記載された月々の金額を天引きするため、所得税のように毎月計算する必要はありません。
9. その他控除項目の計算
社会保険料や税金以外にも、労使協定に基づき給与から控除する項目があれば計算します。
具体的には、財形貯蓄の積立金、労働組合費、社宅や寮の家賃などが該当します。これらは企業ごとに異なるため、自社の規定を正確に把握しておく必要があります。
10. 控除額合計と差引支給額の計算
算出した全ての控除項目を合計し、総支給額から差し引くことで、最終的な手取り額(差引支給額)を確定します。
この差引支給額が、従業員の銀行口座に実際に振り込まれる金額となります。
11. 給与明細・賃金台帳の作成
計算結果に基づき、従業員へ通知するための給与明細書と、会社で保管義務のある賃金台帳を作成します。
- 給与明細書
支給額、控除額、差引支給額の内訳を記載した書類で、所得税法により従業員への交付が義務付けられています。近年は電子交付も普及しています。 - 賃金台帳
労働基準法で作成と5年間(当分の間は3年)の保存が義務付けられている法定三帳簿の一つです。全従業員の賃金計算の基礎となる情報を記録します。
12. 給与の振込手続き
確定した差引支給額を、定められた給与支払日に従業員指定の銀行口座へ振り込みます。
金融機関の営業日を考慮し、支払日に間に合うよう余裕をもって手続きを行います。総合振込を利用する場合は、振込データを作成し、銀行のシステムにアップロードします。
13. 社会保険料と税金の納付
最後に、従業員から預かった社会保険料と税金を、定められた期日までに国や自治体へ納付します。
- 社会保険料(健康保険料・厚生年金保険料)
翌月末日までに、会社負担分と合わせて年金事務所へ納付 - 所得税(源泉所得税)
原則として、給与支払月の翌月10日までに税務署へ納付 - 住民税
原則として、給与支払月の翌月10日までに各市区町村へ納付。
給与計算の年間スケジュール
毎月の給与計算業務に加えて、特定の時期に発生する年次業務があります。これらは給与計算実務の年間フローとして計画的に進める必要があります。
| 時期 | 主な業務内容 |
|---|---|
| 4月〜6月 |
|
| 6月〜7月 | 労働保険の年度更新 前年度の労働保険料(労災保険・雇用保険)を精算し、新年度の概算保険料を申告・納付します。 |
| 7月 | 社会保険料の算定基礎届の提出 4月〜6月の給与支払額を届け出て、9月以降の社会保険料の基準となる新しい「標準報酬月額」を決定します。 |
| 10月〜12月 | 年末調整の準備と実施 従業員から各種控除申告書を回収し、1年間の所得税の過不足を12月12月に精算します。対象者や控除内容の確認など、準備に時間がかかります。 |
| 1月 | 給与支払報告書・法定調書の提出 年末調整の結果をまとめ、各従業員が住む市区町村へ「給与支払報告書」を、税務署へ「法定調書合計表」などを提出します。 |
| 賞与支払時 | 賞与・ボーナス計算 賞与支給額から、月々の給与と同様に社会保険料と所得税を計算・控除し、支給します。所得税の計算方法が月次給与と異なります。 |
給与計算が難しいと言われる理由
給与計算は、多くの企業で難しい業務だと認識されています。その背景には、主に3つの理由が存在します。
専門知識と頻繁な法改正への対応が必要
給与計算は、労働基準法、所得税法、社会保険各法など、多岐にわたる法律知識が不可欠です。
さらに、社会保険料率や税制は毎年のように改正されるため、常に最新情報を収集し、正確に業務へ反映させる必要があります。このキャッチアップを怠ると、計算ミスによる労働基準法の違反や所得税の追徴課税といった法令違反のリスクに直結します。
計算プロセスが複雑で属人化しやすい
給与計算では、勤怠集計、総支給額の算出、社会保険料、雇用保険料、所得税、住民税など、非常に多くの項目を従業員一人ひとりの状況に合わせて正確に計算しなければなりません。
この複雑さから業務が特定の担当者に集中しやすく、属人化を招く傾向があります。担当者の急な退職や休職が、業務の停滞に直結するリスクを常に抱えています。
1円のミスも許されない
給与は従業員の生活に直結するため、その計算に1円のミスも許されません。
計算間違いは、従業員の会社に対する信頼を大きく損なう原因となります。この「絶対に間違えられない」というプレッシャーに加え、勤怠の締め日から給与支給日までの期間が短いことが多く、担当者にとって大きな精神的・時間的負担となります。
給与計算業務を効率化しミスを防ぐポイント
複雑でミスの許されない給与計算業務を効率化し、正確性を高めるためには、仕組み化とツールの活用が鍵となります。
給与計算ソフト・勤怠管理システムを導入する
給与計算ソフトの導入は、手作業による計算ミスや時間のロスを大幅に削減する最も効果的な方法です。
給与計算ソフトは、勤怠データを取り込むだけで、各種手当、社会保険料、税金を自動計算してくれます。特に、法改正に伴う保険料率や税率の変更にも自動でアップデート対応してくれるため、担当者の負担を大きく軽減します。クラウド型の勤怠管理システムと連携させれば、勤怠集計から給与計算までをシームレスに行えます。
業務フローのマニュアル作成とチェック体制の構築
人為的なミス(ヒューマンエラー)を防ぐためには、業務プロセスの標準化とチェック体制の強化が不可欠です。
「勤怠データは承認済みか」「適用する保険料率は最新か」といった確認項目をリスト化した業務マニュアルを作成し、誰が作業しても同じ品質を保てるようにしましょう。さらに、別の担当者が再確認するダブルチェック体制を構築することで、見落としや勘違いによるミスを格段に減らせます。
専門家へのアウトソーシング
コア業務に集中したい場合や、専門知識を持つ人材が社内にいない場合には、専門家へのアウトソーシングが有効な手段です。
給与計算を社会保険労務士などの専門家に委託することで、法改正への対応漏れや計算ミスを防ぎ、担当者は本来の業務に専念できます。コストは発生しますが、正確性と法令遵守、そして業務負荷の軽減という大きなメリットを得られます。
社内スケジュールの共有
給与計算を円滑に進めるためには、関連部署や全従業員の協力が不可欠です。
勤怠データの提出期限や各種申請書の提出期限など、給与計算に関わる社内スケジュールを明確に定め、全社に周知徹底しましょう。期限を守ってもらうことで、担当者は余裕をもって計算や確認作業にあたることができ、ミスの防止に繋がります。
給与計算の業務フローについてよくある質問(FAQ)
最後に、給与計算の業務フローについてよくある質問をまとめました。
給与計算はいつまでに行うべきですか?
給与計算の確定は、給与支払日の数営業日前までには完了させる必要があります。
具体的には、給与振込手続きの銀行締切日から逆算してスケジュールを立てます。勤怠の締め日から給与支払日までが短い場合は、特に迅速な対応が求められます。
給与計算を間違えてしまった場合の対応は?
給与計算のミスが発覚した場合、速やかに該当の従業員へ謝罪と説明を行い、不足分は即時支給、過払い分は翌月の給与で精算するのが一般的です。
所得税の金額に変更がある場合は、年末調整で精算するケースもあります。また、基本給や各種手当の金額が変更になった場合には、社会保険の手続き(月額変更届など)が必要になることもあります。誠実かつ迅速な対応が重要です。
正確な給与計算フローで、従業員と会社の信頼を守る
この記事では、給与計算の実務フローについて、月次の基本的な流れから年間のスケジュール、そして業務を効率化するためのポイントまで詳しく解説しました。
給与計算は、多くの法律が関わる複雑な業務ですが、一つひとつの手順を正しく理解し、給与計算ソフトのような適切なツールや仕組みを活用することで、ミスなく遂行することが可能です。
正確な給与計算のプロセスは、従業員の生活を守り、会社への信頼を醸成する揺るぎない土台となります。本記事を参考に、自社の給与計算業務のフローを見直し、より正確で効率的な体制を構築するための一助となれば幸いです。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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