- 更新日 : 2025年4月17日
有給休暇を5日取得できなかった場合どうなる?罰則や取得させる方法を解説
年次有給休暇を取得できなかった場合、企業はどのようなリスクを負うのでしょうか。
2019年4月の法改正により、年間10日以上の年次有給休暇が与えられる労働者に対し、企業は年5日の取得を義務づけました。
本記事では、年次有給休暇の取得義務の概要や違反時のリスク、企業が確実に取得させるための方法について詳しく解説します。法律や罰則を理解し、年5日の年次有給休暇取得を確実におこないましょう。
目次
年次有給休暇の5日取得義務とは
2019年4月以降、働き方改革関連法にもとづき、企業は労働者に年次有給休暇を最低5日取得させることが必須となりました。
改正法の目的は、休暇を取りづらい雰囲気や企業文化を見直し、計画的な取得を実現させることです。
近年では休暇への取り組みが、企業の働き方への姿勢や採用ブランディングにも関わってくるため、決して軽視はできません。年次有給休暇を安心して使える環境は、働きやすい職場という印象を与えるでしょう。
以下では、取得義務についてのポイントを解説します。
年次有給休暇が10日以上付与される労働者が対象
5日の休暇取得が義務づけられているのは、年間で10日以上の年次有給休暇が与えられる労働者です。正社員のみならず、派遣社員やアルバイト、育児休業中の労働者も含まれます。
企業側は、付与から1年以内に5日取得できるようサポートしなければなりません。具体的には、取得状況の確認やフォロー体制の構築が必要です。
部署ごとに繁忙期が異なる場合は、それぞれに合わせた取得時季の設定も重要です。
時季指定は労働者の希望を尊重する
企業側が年次有給休暇の時季を指定する際には、労働者の希望を事前に聞き取り、希望を尊重するのが大前提になります。
一方的に休暇日を決めるような対応では、信頼関係が崩れやすく、結果として制度そのものが形骸化するリスクも高まります。
家庭の事情や繁忙期の希望など、労働者側にとっても理由はさまざまです。取得しやすいタイミングを尊重する姿勢が、制度の定着にもつながります。
トラブルを回避するには、企業と労働者が互いの状況をすり合わせながら、納得できる日程を調整するのが大切です。日頃から声かけや希望日のヒアリング体制を整えておきましょう。
労働者自身が請求・取得済みの場合は時季指定ができない
すでに5日の年次有給休暇を自発的に取っている場合、追加で時季を指定できません。
管理簿で誰が何日取得しているのかを定期的に確認し、時季指定が必要な労働者だけを対象に、適切に対応しましょう。
とくに複数の部署をまたぐ企業では、部署ごとに取得状況を把握し、情報を共有しておくと、対応の抜け漏れを防ぎやすいです。
年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存する
企業には、労働者ごとの有給休暇取得状況を記録した「年次有給休暇管理簿」を作成し、3年間保管するよう求められています。
管理簿には、労働者ごとの取得日数や基準日などを記録します。誰がどのタイミングで休暇を取ったのか、正確に把握するためには、記録が欠かせません。
作成方法に決まりはありません。紙ベースでも対応可能であるものの、近年は情報の正確性や検索性を高めるために、デジタルツールを使った一元管理を検討する企業も増えています。
また、労働者名簿や賃金台帳との連携も可能で、労務管理全体の業務効率化にも役立つでしょう。
時季指定に関することは就業規則への記載が必要
企業が年次有給休暇の時季を指定する際には、対象となる労働者の範囲や具体的な指定方法について、必ず就業規則に記載しなければなりません。
理由は、労働基準法第89条において「休暇に関する事項」を就業規則の絶対的必要記載事項と定めているためです。就業規則への記載を怠ったまま時季指定をおこなうと、法的な問題だけでなく、労働者との間に不信感やトラブルを招くリスクもあります。
制度運用の透明性を高め、労働者からの信頼を得るためにも、就業規則に明確なルールを定めて全労働者に周知を徹底しましょう。
年次有給休暇取得の現状
近年、年次有給休暇の取得率は、改善が見られます。
厚生労働省が公表した令和5年の調査によると、令和4年に企業が労働者1人あたりに付与した年次有給休暇は平均17.6日で、実際の取得は10.9日でした。取得率は62.1%に達し、昭和59年以降でもっとも高い水準となりました。
国内企業の間で年次有給休暇取得に対する意識が高まりつつある状況といえるでしょう。
しかし、2024年エクスペディアがおこなった世界11地域11,580名を対象にした「有給休暇の国際比較調査」によると、日本の取得率は11地域中最下位です。ドイツやフランスなどの先進国が有給取得率90%以上を超えるなかで、日本は60%台であり、依然として世界水準には届いていません。
有給取得率の向上は進んでいるものの、国際的な水準に比べると課題が残されているといえます。
有給休暇を5日取得できなかった場合の罰則
企業は労働者に対して、年5日の休暇を取得させないと、罰則の対象となりかねません。
対象者の把握や取得状況の見える化が不十分なまま運用している企業も少なくありませんが、制度だけでなく実態の管理が重要です。
「忙しくて声かけが後回しになっていた」といった状況が、知らぬ間に違反につながることもあります。
また、罰則はもちろん、労働者の不信感や離職リスクといった見えない損失が企業に与える影響も大きいでしょう。
以下では、年次有給休暇を5日取得できなかった場合の具体的な罰則について、解説します。
違反すると30万円以下の罰金が科される
年5日の年次有給休暇を確保できなかった場合、労働基準法第120条にもとづいて、取得させられなかった労働者1人につき30万円以下の罰金が科されることもあり、労働基準監督署から改善に向けて厳しく指導されます。
たとえば休暇の取得を後回しにされて放置したり、休暇を取りづらい空気感で申請を断念させたりするような状態は、管理体制に問題があると判断される可能性が高いです。
休暇取得の状況を日頃から確認し、労働者が安心して休みを取れる体制を整えるのが大切です。
就業規則に規定なしで時季指定をおこなった際も罰則が科される
企業が年次有給休暇の時季指定をする場合、対象者や指定方法をあらかじめ就業規則に規定しておかなければなりません。
就業規則に必要な記載のないまま運用すると、労働基準法第89条に抵触し、30万円以下の罰金が科されるケースもあります。
また、記載のないまま企業が一方的に時季指定をおこなうと労働基準監督署からの是正指導を受けたり、労使トラブルに発展したりするおそれがあります。罰則の対象とならないよう、就業規則で明確なルールを設け、規定どおりに適切に運用しましょう。
書類送検されるケースもある
年次有給休暇の取得に関して悪質な違反があると、企業が書類送検されるケースも少なくありません。
実際、複数の労働者が年5日の年次有給休暇を未取得にもかかわらず「全員が取得済み」とする虚偽の管理簿の提出と陳述をおこなった企業が書類送検されています。
他にも、時季指定を怠り、年5日を取得させていなかった疑いで書類送検されたケースもあります。
年次有給休暇の取得状況に虚偽の報告や隠ぺいがあると、刑事責任を問われかねません。違反を避けるためにも、正確な記録を残し、取得状況を定期的にチェックする仕組みを構築しておくと安心です。
雇用形態別年5回の有給休暇取得義務がある対象者
年次有給休暇を年5日取得させる義務の対象者は、正社員だけではありません。正社員以外の雇用形態も該当します。
雇用形態ごとに、取得義務の対象者を見ていきましょう。
アルバイトや派遣社員
アルバイトや派遣社員などの非正規労働者も、年次有給休暇が10日以上付与されていれば、年5日の取得が必須です。
しかし正社員とは異なり、以下の場合は、付与日数が勤続年数に応じた「比例付与」となります。
- 週の所定労働時間が30時間未満かつ週の所定労働日数が週4日以下
- 年の所定労働日が216日以下勤務の労働者
労働者の希望日に取得させるのが基本であるものの、業務上やむを得ない事情があるときは、企業側から別の日程を指定して変更可能です。労働者と企業双方で十分に話し合い、年5日の取得をしましょう。
退職者
退職予定者についても、残された勤務期間内で、年次有給休暇の取得を完了させなければなりません。しかし労働者が突発的に退職するといった、時間的に休暇取得が困難なケースでは対象外です。
また、労働者から「残りの年次有給休暇をすべて消化してから退職したい」と希望した場合は、希望に沿って取得させる必要があります。未消化分の年次有給休暇を買い取るケースもあるものの、買い取り分は年5日の取得義務に含まれません。
退職予定者とは取得日程を事前に話し合い、計画的な取得を進めておくことが重要です。
育児休業取得者
育児休業から年度途中で復帰した場合でも取得義務は変わらないため、企業は復帰後の業務スケジュールを踏まえた取得計画を立てる必要があります。
育児休業期間は出勤したものと扱われるため、勤務日の8割以上を出勤したという条件を満たしています。年度途中で復帰した場合でも、取得義務の日数に変わりはなく、5日取得させるのが必須です。
年次有給休暇を5日取得できなかった場合、育児休業明けであるのを理由に義務免除とはなりません。ただし、付与日から1年以内の労働日が残り少なく、5日取得させることが不可能な場合は除きます。企業は育児休業から復帰した労働者にも、確実に取得させるよう働きかけましょう。
公務員は対象外
公務員は労働基準法の対象外のため、年5日取得する義務がありません。
代わりに国家公務員法や地方公務員法が適用され、公務員独自の休暇取得ルールにもとづいて運用されています。
令和4年に総務省が発表した資料によると、公務員の年次有給休暇の取得率は国家公務員で約15.5%、地方公務員で約12.6%です。一般企業は約11.9%であるため、公務員のほうが年次有給休暇を取得しやすい傾向です。
公務員は民間企業と法的な位置づけが異なるため、対象外である点を理解しておきましょう。
有給休暇を年5日取得させる方法
年5日の年次有給休暇を確実に取得させるためには、職場ごとの業務体制や人員構成に合わせた柔軟な方法を取り入れることが不可欠です。
リスクを防ぐためには、労働者が確実に休暇を取得できる仕組みづくりをしましょう。
以下では、年5日取得させる方法を解説します。
年次有給休暇計画表を作成する
年次有給休暇を確実に年5日取得させるには、あらかじめ年次有給休暇計画表を作成しておくのが効果的です。計画表があると、職場の雰囲気や周囲への業務負担を気にせず、計画的な取得が可能となります。
計画表は、年次有給休暇が付与される基準日に合わせて作成するとよいでしょう。あらかじめ企業と労働者が年間の休暇取得予定を共有しておくと、業務の調整もスムーズになります。
とくに部署内での業務の偏りを避けるには、チーム全体の取得スケジュールを見える化するのが効果的です。繁忙期とのバッティングを防ぐ意味でも、計画表の活用は重要な管理手段といえます。
基準日を年度初めに統一する
年次有給休暇の取得管理を簡略化するには、休暇付与の基準日を年度初めにそろえる方法が有効です。
異なる基準日では、有給取得率や時季指定の確認作業が煩雑になり、対応が後手に回る可能性もあります。中途入社の労働者の扱いについても、初回の年次有給休暇付与を入社後半年でおこない、その後の付与日を全員一律4月1日に統一すると管理しやすくなります。
基準日が統一されていると、企業がおこなう時季指定もしやすくなり、結果的に法令遵守のための休暇取得を効率的に促せるでしょう。
計画的付与制度を活用する
年次有給休暇を年5日取得させるには、計画的付与制度の導入も効果的です。
計画的付与制度は、労使協定で事前に決めた日に労働者が一斉、もしくはグループごとに年次有給休暇を取る仕組みです。計画的付与制度には3つの方式があります。
- 全労働者が同日に年次有給休暇を取得する一斉付与方式
- 部署や班ごとに交代で年次有給休暇を取得する交替制付与方式
- 労働者の個人的な記念日を優先的に充てる個人別付与方式
3つの方式で付与された休暇日数は、年5日の取得義務に含まれます。
就業規則への記載や労使協定締結は必要であるものの(個人別付与方式の場合は必要ない)、年次有給休暇取得が難しい企業ほど取り入れるメリットが大きいでしょう。
半日・時間単位で付与する
年次有給休暇を年5日取得させるには、半日・時間単位で取得可能にする方法もあります。
半日・時間単位の取得は、休みを取るハードルが下がり、日常的な用事や急用にも柔軟に対応できます。とくに子育て中の労働者や介護との両立をしている人にとって、有効な制度になるでしょう。
しかし注意点として、企業が労働者に対し、希望とは異なる取得方法を強制するのは許されません。労働者の希望を尊重し、柔軟で取得しやすい制度設計を心がけましょう。
企業側から時季指定をおこなう
企業が年次有給休暇の取得時季を指定する「時季指定」は、年5日の休暇取得を確実におこなうために最適な方法です。
以下の場合、時季指定をおこなうとよいでしょう。
- 年次有給休暇の基準日から一定期間が経過した時点で、取得日数が5日に満たない労働者に対して時季指定をする
- 過去の年次有給休暇取得データから取得日数が著しく少ない労働者を把握し、計画的に取得できるよう、基準日に使用者から時季指定する
時季指定の運用にあたっては、直前での通知を避け、数ヶ月前から取得日を提示するのが望ましいです。あらかじめ全体のスケジュールの調整ができる体制をつくると、労働者側の納得感も高まります。
有給休暇に関する法律を理解し、年5日取得を確実におこないましょう
年5日の年次有給休暇取得義務について説明し、違反時のリスクや企業が確実に取得させるための方法を解説しました。
働き方改革関連法が2019年4月に施行され、年間10日以上の年次有給休暇が与えられる労働者には、最低でも年5日の休暇取得が義務づけられています。
人事・総務担当者は法令遵守のもとで、従業員の働きやすさを支える制度運用をめざしましょう。
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