• 更新日 : 2025年4月2日

労災後遺障害の認定基準とは?障害補償給付(障害給付)の受給までの流れと申請の注意点も解説

労災の後遺障害とは、仕事や通勤で負った怪我や病気の治療をした後に、身体や精神に障害が残っている状態を指します。後遺障害を抱える方は、障害等級に該当すると認定された場合、障害補償給付(障害給付)が受けられます。しかし、提出書類に不備があったり、障害の程度を正確に把握できていなかったりすると正しく給付が行われません。本記事では、労災の障害等級の違いや給付を受けるまでの流れについて解説します。

労災の後遺障害とは?

労災の後遺障害とは、業務中や通勤中に負った怪我や病気の治療をしても、身体に何かしらの障害が残っている状態を指します。

労災では、治ったとされる状態は、完全に回復した状態のみをいうのではありません。一般的な医療を行ったとしても、それ以上症状の回復が期待できない状態も入ります。この状態を労災では「治ゆ(症状固定)」といいます。

労災で「治ゆ(症状固定)」と断定されると、治療費や通院にかかる交通費などの補償である「療養補償給付」は受けられません。

治ゆ(症状固定)と判断された後に後遺障害があり、障害等級に該当すると労災の給付を受けることができます。給付の種類は労災が発生した状況で名称が変わります。業務で被災した場合は「障害補償給付」、通勤で被災した場合は「障害給付」です。

障害等級は第1級〜第14級まである

障害等級は14段階に分かれており、等級によって障害の程度や給付の額が異なります。各等級における後遺障害の一部を抜粋し、以下の表にまとめました。

各等級における後遺障害の詳細は、厚生労働省ホームページの障害等級表をご確認ください。

障害等級後遺障害
第1級
  1. 両眼が失明したもの
  2. そしやく及び言語の機能を廃したもの
  3. 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの
第2級
  1. 一眼が失明し、他眼の視力が〇・〇二以下になつたもの
  2. 両眼の視力が〇・〇二以下になつたもの

2-2.  神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、随時介護を要するもの

2-3.  胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの

3.  両上肢を手関節以上で失つたもの

第3級
  1. 一眼が失明し、他眼の視力が〇・〇六以下になつたもの
  2. そしやく又は言語の機能を廃したもの
  3. 神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの
第4級
  1. 両眼の視力が〇・〇六以下になつたもの
  2. そしやく及び言語の機能に著しい障害を残すもの
  3. 両耳の聴力を全く失つたもの
第5級
  1. 一眼が失明し、他眼の視力が〇・一以下になつたもの

1-2.  神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの

1-3.  胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの

第6級
  1. 両眼の視力が〇・一以下になつたもの
  2. そしやく又は言語の機能に著しい障害を残すもの
  3. 両耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になつたもの

3-2.  一耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が四十センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの

第7級
  1. 一眼が失明し、他眼の視力が〇・六以下になつたもの
  2. 両耳の聴力が四十センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの

2-2.  一耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になつたもの

3. 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの

第8級
  1. 一眼が失明し、又は一眼の視力が〇・〇二以下になつたもの
  2. せき柱に運動障害を残すもの
  3. 一手の母指を含み二の手指又は母指以外の三の手指を失つたもの
第9級
  1. 両眼の視力が〇・六以下になつたもの
  2. 一眼の視力が〇・〇六以下になつたもの
  3. 両眼に半盲症、視野狭さく又は視野変状を残すもの
第10級
  1. 一眼の視力が〇・一以下になつたもの

1-2. 正面視で複視を残すもの

  1. そしやく又は言語の機能に障害を残すもの
  2. 十四歯以上に対し歯科補てつを加えたもの

3-2.  両耳の聴力が一メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になつたもの

第11級
  1. 両眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの
  2. 両眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの
  3. 一眼のまぶたに著しい欠損を残すもの

3-2.  十歯以上に対し歯科補てつを加えたもの

3-3.  両耳の聴力が一メートル以上の距離では小声を解することができない程度になつたもの

第12級
  1. 一眼の眼球に著しい調節機能障害又は運動障害を残すもの
  2. 一眼のまぶたに著しい運動障害を残すもの
  3. 七歯以上に対し歯科補てつを加えたもの
第13級
  1. 一眼の視力が〇・六以下になつたもの
  2. 一眼に半盲症、視野狭さく又は視野変状を残すもの

2-2.  正面視以外で複視を残すもの

3.   両眼のまぶたの一部に欠損を残し又はまつげはげを残すもの

3-2.  五歯以上に対し歯科補てつを加えたもの

3-3.  胸腹部臓器の機能に障害を残すもの

第14級
  1. 一眼のまぶたの一部に欠損を残し、又はまつげはげを残すもの
  2. 三歯以上に対し歯科補てつを加えたもの

2-2.  一耳の聴力が一メートル以上の距離では小声を解することができない程度になつたもの

3.  上肢の露出面にてのひらの大きさの醜いあとを残すもの

参考:障害等級表|厚生労働省

等級の「併合」とは?

等級の併合とは、系列が異なる後遺障害が2つ以上ある場合に、重い方の等級を取ることを指します。以下のルールに沿って等級が繰り上げられます。

  1. 13級以上の後遺障害が2つ以上残っている場合、重い方の等級を1級繰り上げる
  2. 8級以上の後遺障害が2つ以上残っている場合、重い方の等級を2級繰り上げる
  3. 5級以上の後遺障害が2つ以上残っている場合、重い方の等級を3級繰り上げる

【障害等級別】給付額の一覧

障害等級の第1〜第7級には「障害(補償)等年金」、第8〜14級には「障害(補償)等一時金」が給付されます。2つの給付制度の違いは、給付額と支払頻度です。

「障害(補償)等年金」は、毎年2月・4月・ 6月・8月・10月・12月に、それぞれの前2ヶ月分の給付が支払われる制度です。一方、「障害(補償)等一時金」では、障害の程度に応じた給付が単発で支払われます。

障害等級第1級から第7級の場合

障害等級第1〜7級に該当する場合は、障害(補償)等年金に加えて、障害特別年金、障害特別支給金が給付されます。

給付基礎日額とは、労災が発生する前の直近3ヶ月に労働者に支払われた平均賃金です。また、算定基礎日額は、労災が発生する前の直近1年間で支払われた特別賃金(ボーナス)を365で割った金額を意味します。臨時に支払われる賃金は含まれません。

障害等級障害(補償)等年金障害特別年金障害特別支給金
第1級給付基礎日額の313日分算定基礎日額の313日分342万円
第2級給付基礎日額の277日分算定基礎日額の277日分320万円
第3級給付基礎日額の245日分算定基礎日額の245日分300万円
第4級給付基礎日額の213日分算定基礎日額の213日分264万円
第5級給付基礎日額の184日分算定基礎日額の184日分225万円
第6級給付基礎日額の156日分算定基礎日額の156日分192万円
第7級給付基礎日額の131日分算定基礎日額の131日分159万円

参考:障害(補償)等給付の請求手続|厚生労働省

障害等級第8級から第14級の場合

障害等級第8〜14級に該当する場合は、障害(補償)一時金に加えて、障害特別一時金、障害特別支給金が給付されます。

障害等級障害(補償)一時金障害特別一時金障害特別支給金
第8級給付基礎日額の503日分算定基礎日額の503日分65万円
第9級給付基礎日額の391日分算定基礎日額の391日分50万円
第10級給付基礎日額の302日分算定基礎日額の302日分39万円
第11級給付基礎日額の223日分算定基礎日額の223日分29万円
第12級給付基礎日額の156日分算定基礎日額の156日分20万円
第13級給付基礎日額の101日分算定基礎日額の101日分14万円
第14級給付基礎日額の56日分算定基礎日額の56日分8万円

参考:障害(補償)等給付の請求手続|厚生労働省

後遺障害が労災認定されるまでの流れ

障害等級が認定されるまでの流れは、5つのステップに分かれています。すべての段階が審査結果を左右する大事なポイントであるため、慎重な対応が求められるでしょう。

1. 医師から「症状固定」と診断を受ける

病気や怪我に対して治療を行い、それ以上の症状改善が期待できない状態を「症状固定」といいます。後遺障害について労災認定を受けるためには、医師から症状固定と診断される必要があります。

また、症状固定と診断された段階で、それまで受けていた治療費(療養補償給付)や休業への補償(休業補償給付)の支給は、ストップする点についても理解しておきましょう。

2. 医師に「障害診断書」を書いてもらう

症状固定と診断されたら、医師に「障害診断書」を書いてもらいましょう。病院が発行する通常の診断書ではなく、「障害診断書」でなければなりません。障害の部位や、障害の状態などを記載する欄があるので、詳細に記入してもらいましょう。

この際、医師に診断書の紙を渡すだけではいけません。医師に正しい診断内容を記載してもらうため、労災を負った本人やその家族が後遺障害の状況を把握し、どの等級に該当するかを判断できる状態にしておきましょう。診断書の内容で等級が左右されるため、医師と積極的にコミュニケーションを取り、過不足のない内容にしてもらう必要があります。

診断書の費用は病院によって異なり、約5,000円〜10,000円です。診断書の発行に対し、労災保険から4,000円の給付を受けられる点についてもチェックしておきましょう。

3. 労働基準監督署長に書類を提出する

必要な書類がすべて揃ったら、所轄の労働基準監督署長に書類を提出しましょう。必要書類には、障害診断書以外にも以下のようなものがあります。

1.各種請求書

業務災害の場合:障害補償給付支給請求書(様式第10号)

通勤災害の場合:障害給付支給請求書(様式第16号の7)

各種請求書は、厚生労働省ホームページの「主要様式ダウンロードコーナー」で取得できます。

1.後遺障害を証明する補足資料

障害診断書の他に、レントゲンやCT、MRIなどの検査結果、医師による意見書などの補足資料を用意しましょう。これらは、後遺障害の状態を明確に示す資料として有効です。診断書の内容に説得性を持たせられるため、提出書類に取り入れましょう。

4. 労働基準監督署によって調査が行われる

労働基準監督署に書類を提出したら、書類の内容にもとづいて調査が実施されます。調査内容は書面審査に加え、被災した労働者本人と地方労災医員(医師)による面談があります。

面談では、提出書類の内容や後遺障害の状態の確認など、書面だけでは判断しきれない後遺障害の詳細について問われるでしょう。書類内容と説明に相違があってはいけないので、労働者本人が後遺障害の状態を正確に把握しておかなければなりません。面談では、迷いなくはっきりと事実を伝える必要があります。

また、調査の一環で、会社や通院した病院に照会を行う可能性があります。医師の回答によって認定結果が左右する場合もあるため、事前に医師とコミュニケーションを取り認識を合わせておくといいでしょう。

5. 審査結果の通知が届く

書面審査と面談を終えたら、審査結果の通知ハガキが自宅に届きます。ハガキには、後遺障害と認定された場合は「支給決定通知兼支払振込通知」、後遺障害と認定されなかった場合は「不支給決定通知」と記載されています。

審査結果に納得がいかない場合、審査機関に再審査の要求が可能です。ただやみくもに不服を申し立てては意味がありません。「障害診断書の内容に不備はなかったか」「必要な検査が抜けていなかったか」などについて調べ直し、あらためて書類を準備する必要があります。

不服申し立ての結果が出るまでに2〜4ヶ月の期間を要し、障害の内容によってはさらに時間がかかるでしょう。再検査や準備期間を含めると、かなりの時間を要する点に留意する必要があります。

後遺障害の労災申請に関する注意点

後遺障害認定の申請は、医師による治療が終わり、症状固定と判断が下りたタイミングで行うのがベストです。以下の注意点に気をつけながら申請手続きを進めましょう。

1. 申請には時効がある

保険給付を受ける権利は、一定の期間行使しない場合、時効を迎えて消滅します。障害補償給付(障害給付)を申請できる期間は、症状固定と診断されてから5年間です。

後遺障害認定を受けたい場合は、症状固定と診断されたらすぐに書類の準備を始め、速やかに申請手続きを行いましょう。

2. 適切な頻度で治療を受けないと認定されにくい

適切に病院で治療を受けなければ、後遺障害認定は下りません。前述した通り、認定されるまでには医師から「症状固定」と診断され、障害診断書を書いてもらう必要があるからです。また補足資料としてレントゲンやCTのデータを提出する必要があります。

通院が面倒で病院に行かなかった場合や、治療の必要がないと独自で判断した場合、怪我や病気は「完治しているもの」とみなされるでしょう。後遺障害認定を受けるには、適切な頻度で治療を受けるのが大切です。

労災の後遺障害認定を受けるには綿密な準備が大切

労災の後遺障害に関する給付は、障害等級によって金額が変わります。健康な時と比べてどの程度の後遺障害があるのか、審査機関が判断できるようにしなければなりません。

提出書類のひとつである「障害診断書」は、後遺障害の状態を判断する上で非常に重要な書類です。医師に任せっきりにするのではなく、積極的に医師とコミュニケーションを取り、過不足のない内容を書いてもらうことが大切です。また、労働基準監督署による調査面談では、後遺障害の詳細が問われます。医師任せにするのではなく、被災した労働者本人が後遺障害について熟知しておきましょう。


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