- 更新日 : 2025年3月18日
遅刻早退控除とは?給与計算の方法や注意点について徹底解説
従業員が遅刻や早退をした場合、遅刻早退控除という処理によって給与計算をする場合があります。「減給とは何が違うのか」「手当はどう考えるべきなのか」と悩む場合もあるでしょう。
そこで本記事では、遅刻早退控除とはどのような制度なのかと、給与計算の方法や注意点について解説します。
目次
遅刻早退控除とは?
遅刻早退控除とは、遅刻・早退をした時間分の給与を差し引く処理のことです。法律用語ではなく「欠勤控除」や「勤怠控除」と呼ばれることもあります。労働時間に応じた正確な計算が求められ、実際に働いた時間以上の控除は違法とされています。
また、会社の就業規則によって控除の計算方法が異なる場合があり、適正な勤怠管理と労働基準法にもとづいた適切な給与計算が必要です。
遅刻や早退で減給されるのは別の制度
遅刻早退控除は、働いていない時間分だけ給与から控除する制度であり、減給されるわけではありません。遅刻・早退を繰り返す従業員に対して、会社からのペナルティとして科す制度は一般的に「減給の制裁」と呼ばれており、別の制度です。
減給の制裁を行う場合も、以下のとおり労働基準法によって減給額の上限が定められています。
就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。
1回分の減給額が平均賃金の半額を超えるのは禁止されており、減給額が一賃金支払期における賃金総額の10%を超えることも違反となります。減給処分をする場合は就業規則に記載し、計算方法に注意しましょう。
遅刻早退控除の根拠
遅刻早退控除は、主に以下2点にもとづいた制度です。それぞれの制度について詳しく解説します。
ノーワーク・ノーペイの原則
ノーワーク・ノーペイの原則は、労働者が実際に労働を提供した時間に対してのみ、企業が賃金を支払う義務を負うという給与計算の基本原則です。これは、労働者が働かなければ賃金は支払われないという考え方にもとづいています。
遅刻早退控除は、ノーワーク・ノーペイの原則が根拠となっています。遅刻・早退・欠勤など、労働者が労働を提供しなかった時間や日数に対して、企業は賃金を控除することが可能です。たとえば、始業時間が9時の企業において、10時に出社したら1時間の遅刻となり、その時間分は労働が提供されなかったとして控除の対象となります。
この原則は、正社員・パートタイム・アルバイトなど、雇用形態にかかわらず、すべての労働者に適用されます。
法的根拠
ノーワーク・ノーペイの原則は、以下の民法623条と624条を根拠にしています。
第六百二十三条 雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。
第六百二十四条 労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない。
労働者は約束した労働を提供し、企業はそれに対して報酬を支払うことを定めています。つまり、労働者が実際に働いた時間や成果に対してのみ、賃金を受け取る権利があるということです。労働と賃金の公平な関係を保つために重要な法的根拠であり、遅刻早退控除の処理にも適用されています。
遅刻早退控除の計算方法
遅刻早退控除の計算方法について、計算式や具体例、手当の計算・端数処理・給与明細への記載方法について解説します。
遅刻早退控除の給与計算式
遅刻早退控除額の計算式は以下のとおりです。
「月の給与額」とは1ヶ月間に支払う給与額のことであり、原則は基本給のみを指します。この計算式により、従業員が実際に労働しなかった時間に応じて、給与から適切な金額が控除されます。
遅刻早退控除の具体例
以下条件にもとづく従業員の給与計算方法を紹介します。
- 月給30万円
- 役職手当5万円
- 平均所定労働時間160時間
- 遅刻・早退の合計時間10時間
遅刻早退控除額の計算式に当てはめると、具体的な金額は以下のとおりです。
月の給与額30万円を「ひと月当たりの平均所定労働時間」で割り、「遅刻早退の合計時間」を掛けることで求められます。この従業員の場合は、遅刻早退控除額が18,750円となります。
遅刻早退控除における手当の計算
遅刻早退控除の対象は原則基本給のみですが、就業規則への明記と従業員への周知をすれば、諸手当を含めることも可能です。役職手当・資格手当・住宅手当・家族手当などを含める場合は、その分控除額が多くなります。
同じ条件下の従業員が、手当も含めて遅刻早退控除をする場合の計算式は、以下のとおりです。
諸手当を含まない場合と比べて、控除額が3,125円多いことがわかります。手取り額で考えると、控除対象に手当を含まなければ「総支給額350,000円 – 遅刻早退控除額18,750円 = 331,250円」です。一方で、手当を含むと「総支給額350,000円 – 遅刻早退控除額21,875円 = 328,125円」となります。手当を含めると従業員の手取り金額がより大きく減少する点はきちんと把握しておきましょう。
遅刻早退控除の端数処理
給与計算で控除額を算出する際、1円未満の端数が生じた場合は切り捨て処理を行います。通常の給与計算では、端数は原則として切り捨てないことが定められていますが、遅刻早退控除に関しては例外です。
理由としては、端数を切り上げることによって控除額が増加し、従業員の差し引き支給額が減少してしまうためです。
遅刻早退控除の給与明細への記載方法
遅刻早退控除を行う場合、給与明細には以下のように記載します。
勤怠項目 | 欠勤日数・遅刻回数・早退回数の欄を設けて遅刻や早退の実績を記載する |
---|---|
支給項目 | 欠勤日数・遅刻回数・早退回数の欄を設けて控除額を記載する |
従業員が給与明細を見た際に、控除額について疑問を持たないよう、遅刻や早退の回数・時間数も記載するようにしましょう。
遅刻早退控除を運用する際の注意点
遅刻早退控除を運用する際は、以下5つの注意点について事前に把握し、正しく計算できるようにしておきましょう。
就業規則に遅刻や早退の基準を明記する
早退や遅刻、欠勤の基準やそれに伴う対応は労働基準法で定められていないため、企業ごとに独自のルールを設定する必要があります。遅刻・早退の定義や、早退や遅刻が発生した場合の連絡手段、連絡先まで明確化しておくといいでしょう。
たとえば「始業時刻を5分すぎた時点で遅刻とみなす」「早退や遅刻はメールで直属の上司へ連絡する」といった内容が該当します。具体的に明記することで混乱を防ぎ、従業員とのトラブルも回避できるでしょう。
また「チャットでの報告は認めない」といった規定も有効です。これにより、報告漏れや伝達ミスを防ぎ、情報の一元化を図れます。明確なルール設定は、従業員の責任意識を高めると同時に、企業側の管理体制を強化するうえで不可欠です。就業規則等に明記し、全従業員に周知することで、円滑な職場環境の維持につながるでしょう。
遅刻早退控除の計算方法を定める
早退控除も遅刻控除も、計算方法は労働基準法で定められていません。控除する場合には、金額をどのように計算するかまで企業ごとに決めることが必要です。
一般的に、遅刻・早退の場合は1時間あたりの基礎賃金に、遅刻早退した分の時間数を掛け合わせて算出します。欠勤の場合は1日あたりの基礎賃金に、欠勤日数を掛けて算出します。
遅刻・早退 | 「月の給与額」÷「ひと月当たりの平均所定労働時間」×「 遅刻・早退した時間」 |
---|---|
欠勤 | 「月の給与額」÷「ひと月当たりの平均所定労働日数」×「 欠勤日数」 |
独自のルールを設けて、減算や加算を行うことも可能ですが、必ず1分単位で処理しましょう。
遅刻や早退の控除額は1分単位で計算する(15分単位ではない)
控除は、遅刻・早退・欠勤があった時間分だけ行うことが前提であり、労働が提供された時間分は賃金を全額支払う必要があります。不就労の時間以上に賃金を控除するのは認められず、1分単位で計算するのが義務です。
もし15分や30分単位で切り上げて計算してしまった場合は、労働基準法第24条と第37条の違反に該当し、懲役や罰金が科せられる可能性もあります。
たとえば、18時が終業時間の会社で17時39分に退勤して早退した場合、働かなかった「21分」に相当する給与を控除する必要があります。この場合に17時30分で退勤したとして、「30分」に相当する給与を控除してしまうと、労働基準法に反するため注意しましょう。
遅刻や早退と残業は相殺できない
遅刻・早退による不就労の時間と、残業による所定労働時間以上の労働時間がある場合、相殺できないかと考える人もいるでしょう。しかし、遅刻・早退は控除として計算し、残業は割増賃金を上乗せして賃金計算する必要があります。
たとえば30分遅刻をした日に30分残業をすれば、法定労働時間の1日8時間労働になりますが、相殺して遅刻も残業もなかったことにはできません。就業規則や雇用契約によっては相殺が認められる場合もありますが、基本的には別々に処理する必要があると覚えておきましょう。
時短勤務に遅刻早退控除で計算するケースがある
時短勤務とは、1日8時間の所定労働時間を短縮し、原則6時間労働とする制度です。育児や介護など、家庭の事情を抱える従業員が対象となります。給与計算においては、基本給を改定せず、遅刻早退控除として減額する企業もあるでしょう。
この場合、社会保険料や人事評価への影響を考慮し、適切な処理が求められます。社会保険料は、短縮後の労働時間に応じた給与にもとづいて、標準報酬月額の改定が可能なため、その場合には従業員の負担額が減少します。人事評価においても、時短勤務を理由とした不当な評価とならないよう、配慮が必要です。
遅刻早退控除に関するよくある質問
最後に、遅刻早退控除に関するよくある質問2つを紹介します。
遅刻や早退による控除は有給休暇に替えられる?
原則、遅刻や早退をしたことと有給休暇取得は別の問題と捉えられるため、入れ替えることはできません。ただし、以下の2つを承認しており、就業規則に記載している企業であれば替えることが可能です。
- 時間単位の有給休暇取得
- 有給休暇取得の事後申請
会社の就業規則を確認し、遅刻・早退が有給休暇として消化できるかを判断しましょう。
遅刻や早退をしても給料が減らないケースはある?
以下のような給与体系の会社もしくは従業員の場合、給与の決め方が特殊なため、早退や遅刻をしても控除できず、給料が減らないケースがあります。
- 完全月給制
- 年俸制
- 歩合制
- フレックスタイム制
「完全月給制」や「年俸制」では、あらかじめ一定の給与金額が定められているため、早退や遅刻による給与控除ができません。「歩合制」の場合は、歩合給の部分が成果や売上によって給与が算出されるため、控除の対象外となります。また「フレックスタイム制」では、総労働時間が規定を満たしていればいいため、早退や遅刻という概念がありません。
自社の給与体系を確認し、遅刻早退控除のルールを定めるようにしましょう。また、特殊な給与体系だと従業員自身も遅刻・早退による対処について理解できていない場合もあるため、きちんと説明することも重要です。
遅刻早退控除とは不就労分を給与から控除する制度!正しく理解したうえで計算しよう
遅刻早退控除とは、従業員が遅刻や早退をした時間分の給与を差し引く処理のことであり、ノーワーク・ノーペイの原則や民法623条・624条を根拠にした制度です。原則は月給を平均所定労働時間で割った1時間あたりの基礎賃金に、遅刻早退した分の時間数を掛け合わせて算出します。
ただし、遅刻・早退の基準や遅刻早退控除の計算方法は法律で定められているわけではないため、企業ごとにルールを決める必要があります。一般的な基準や計算方法をベースにしたうえで、遅刻・早退と残業を相殺してもいいか、有給休暇の消化に充てられるかなど、細かいルールを就業規則に記載しておくといいでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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