- 更新日 : 2025年2月27日
社宅とは?メリット・デメリットや制度を作るプロセスを解説
社宅を設けている企業は少なくありません。しかし、従業員に提供される住宅には、社員寮、賃貸住宅、寄宿舎などと呼ばれるものもあります。これらに違いはあるのでしょうか。この記事では、社宅の意義、類似する用語との相違のほか、社宅のメリット・デメリット、導入する際の基本的なプロセスなどについて解説していきます。
目次
社宅とは?
「社宅」とは、企業が従業員の住居にまつわる負担を軽減するために相場よりも安価で貸与する住宅のことです。社宅は福利厚生のひとつとして、高度経済成長期に多くの企業が用意しました。一般的に社宅は家族向けの物件を指すことが多いといえるでしょう。
社宅は、社有社宅と借り上げ社宅に大別できます。それぞれの違いを解説します。
社有社宅
社有社宅とは、企業が所有する社宅です。所有だけでなく、管理や運営も企業主体で実施することが一般的です。
建物一棟丸ごと所有することも多いため、住民全員が社員やその家族となり、親睦を深める手段となることがあります。また、社員の福利厚生目的で運営しているため、賃料が地価や物価高騰の影響を受けにくい点も特徴です。
ただし、老朽化したときの補修や建て替えの費用、固定資産税などの維持管理にかかる費用は、すべて企業が負担しなくてはいけません。また、管理人を配置する場合の費用も企業負担となります。
借り上げ社宅
借り上げ社宅とは、企業が不動産会社から賃貸物件を借り上げ、社宅として利用している住居のことです。一棟丸ごと借り上げるのではなく、物件ごとに借り上げることが一般的で、社員はいくつかの選択肢からライフスタイルや同居人数に合った物件を選べることもあります。
土地や建物を所有する必要はないため、企業側の初期費用や維持管理費用は不要です。また、特定の期間だけ借りられるため、一時的に事業拠点を設けるときにも社宅を準備できます。
しかし、地価高騰などの影響を受け、家賃が値上がりするリスクがある点には注意が必要です。また、オーナー側の事情で長期的に借りられないケースも想定されます。
社宅制度とその他の住宅支援との違い
社員への住宅支援の方法は社宅制度だけではありません。他にも社員寮や寄宿舎、住宅手当などにより住宅支援を実施することがあります。各支援方法の特徴や社宅制度との違いを紹介します。
社員寮との違い
社員寮も社宅と同様、福利厚生の一環として企業が設けるものです。単身者向けを「社員寮」、ファミリー向けを「社宅」と区別することがありますが、企業が用意した従業員用の住宅という意味では同じです。
寄宿舎との違い
寄宿舎は、学校が用意した居住のための施設や、会社が社員の居住のために用意した施設です。
同じ学校や企業に属する多くの人たちが生活を共にしますが、各個人にプライベートな空間が限定されているため、一定の共同生活のルールが設けられているという特徴があります。
住宅手当との違い
住宅手当とは、社員の住居費用の一部をサポートするために支給する手当のことです。社員が住宅ローンや賃貸住宅への家賃を支払っている場合に、基本給などに加算して支払われます。
社宅制度とは異なり、住宅という現物を提供するわけではないため、社員は自分で暮らす場所を見付けることが必要です。また、本来は社員による住宅費用の差を是正することが目的ですが、住宅手当の金額が低い場合は、あまり差の解消にはつながらない可能性があります。
社宅のメリット
社宅のメリットについて、従業員および会社としての立場、それぞれについて考えていきます。
従業員の立場から
従業員の立場からの主なメリットは以下の通りです。
- 物件探しや契約手続きの手間がかからない
- 比較的安い賃料で暮らせる
- 社員や社員の家族とのコミュニケーションが増える
従業員の立場からは、社宅のメリットとして、物件探しや契約手続きの手間が軽減されることが挙げられます。また、社宅は一般的な家賃相場よりも安い賃料で住めるため、経済的負担が軽減されます。さらに、社宅は社員同士のつながりができることもメリットです。
会社としての立場から
会社にとってのメリットは以下の通りです。
- 福利厚生を充実できる
- 節税効果を得られる
- 人材を確保しやすくなる
会社としての立場からは、社宅制度を導入することにより、福利厚生の充実や節税効果が期待できます。通常、社宅制度の有無は求人情報に表記されるため、人材確保にもつながります。遠隔地からの就職もしやすく、「社員のことを考えている」というアピールにもなるため、社宅制度を導入することによって採用にもメリットが生まれるでしょう。
社宅のデメリット
次に同様に社宅のデメリットについてみていきましょう。
従業員の立場から
従業員にとって以下の点はデメリットになる可能性があります。
- 物件を選べない恐れがある
- 退職までに立ち退く必要がある
従業員の立場からは、デメリットとして物件を選べない場合があることが挙げられます。また、退職時には社宅を立ち退かなければなりません。社宅制度があることにより、かえって退職を躊躇してしまう可能性があります。
会社としての立場から
以下の点は、会社にとってデメリットになります。
- 社有社宅の場合は初期費用や維持管理費用が発生する
- 制度導入・管理の事務負担が増加する
社宅制度を導入するためには、少なからずコストが発生します。社有社宅型の場合、物件の取得・維持コストが必要です。また、社宅制度の導入に伴い、人事担当者などの事務負担が増加する可能性がある点にも留意する必要があります。
社宅についての規制や法律はある?
社宅については、法律上は借地借家法が問題となることがあります。一般的には、福利厚生の一環として設けられるものですが、実態は必ずしも一様ではなく、法律関係もそれによって異なります。
実態を厳密に分ければ、①福利厚生の一環と捉えられる場合、②従業員の労務提供と社宅の使用が直結している場合、③一般の賃貸借契約と同一視できる場合、の3つがあるといえるでしょう。
福利厚生の一環と捉えられる場合
通常、社宅と呼ぶ場合が該当します。会社が所有または賃借している家屋を従業員の生活の便宜を図るために福利厚生施設として提供するというものです。
この場合の社宅では、一般の賃貸借契約よりも低額の使用料が設定されています。
最高裁判所は、社宅の使用料が「維持費にも足らない低廉なもの」であって家屋使用の対価たる賃料と目し得るほどのものではないことが認められる事案において、建物賃貸借契約であることを否定しています(最判昭和30年5月13日民集9巻6号711頁)。
後述の賃貸借契約と異なり、借地借家法は適用されず、従業員は退職とともに社宅を明け渡さなければなりません。
従業員の労務提供と社宅の使用が直結している場合
会社が所有する家屋の住み込みの管理人などが該当します。社宅に住むことが雇用契約で定める労務の提供であり、賃貸借契約ではなく、社宅使用契約という特殊な法律があると考えられます。
したがって、借地借家法は適用されず、社宅の場合と同様、従業員は退職とともに社宅を明け渡すことが必要です。
一般の賃貸借契約と同一視できる場合
従業員が世間並みの家賃相当額を使用料として支払っている場合、法的には賃貸借契約であるとして借地借家法が適用されます(最判昭和31年11月16日民集10巻11号1453頁)。
借地借家法は、法的弱者である借主を保護するために契約の一般法である民法で定める賃借権よりも手厚く借主を保護する法律です。契約の期間の満了や更新等の場合も、賃料不払い等がない限り、貸主である会社が明け渡しを求めるのは容易ではありません。
社宅使用について「解雇されたときは雇用契約終了のときから3ヶ月後に当然明け渡しをなす」との特約を設けていても無効とされる可能性が高いでしょう。
社宅制度を導入する流れ
一般的には、会社が社宅を作る場合、社有社宅と借り上げ社宅の2種類があります。それぞれの導入の流れを説明します。
社有社宅の場合
社有社宅の導入の流れは以下の通りです。
- 社宅制度を設計し、社内で同意を得る
- 社宅管理規程と管理担当者を決める
- 物件を取得する
社有社宅は、物件を購入するなどして入手することが不可欠になります。企業が所有するため、不動産会社への敷金・礼金・家賃などが発生しません。また、社外への賃貸も可能であり、新たな収益源としての活用も期待できます 。
借り上げ社宅の場合
借り上げ社宅導入の流れは以下の通りです。
- 社宅制度を設計し、社内で同意を得る
- 社宅管理規程を定める
- 管理担当者を決める
- 物件を選定し、入居手続きを行う
借り上げ社宅は社員以外の入居者もいるため、トラブル防止のためにも管理規約を適切に定めることが必要です。
不動産購入などの初期投資が不要であり、建物や設備の維持管理を考える必要もありません。入居者や目的、居住期間など個別の事情に合わせ、「築浅で構造のしっかりした物件」だけを選ぶなど、柔軟に社宅用の物件を用意できるメリットもあります。
ただし、部屋1件ごとに契約が発生するため、数によっては手続きが負担となるでしょう。また、契約には期間が定められているため、途中解約すれば違約金が生じるケースもあります。
社宅の家賃を経費とする条件
以下の合計額を賃貸料相当額とし、その50%以上を社員から徴収すれば、社宅の費用が給与として課税されず、経費となります。
- その年度の建物の固定資産税の課税標準額×0.2%
- 12円×その建物の総床面積(平米)÷3.3平米
- その年度の敷地の固定資産税の課税標準額×0.22%
参考:No.2597 使用人に社宅や寮などを貸したとき|国税庁
役員社宅の場合
役員が社宅を使用し、なおかつ社宅の費用を経費とする場合は、社宅が「小規模住宅」であるかどうかを判別することが必要です。
小規模住宅とは、以下のいずれかの基準を満たす住宅です。
- 法定耐用年数が30年以下かつ床面積が132平米以下
- 法定耐用年数が30年超かつ床面積が99平米以下
小規模住宅と判断される場合は、上述の社員の社宅と同じ計算方法で賃貸料相当額を求め、その100%以上を役員から徴収すれば、経費となります。
小規模住宅ではなく、なおかつ社有社宅の場合は、次の合計額の12分の1を賃貸料相当額とします。
- 建物の固定資産税の課税標準額×12%(法定耐用年数が30年超のときは10%)
- 敷地の固定資産税の課税標準額×6%
小規模住宅ではなく、なおかつ借り上げ社宅の場合は、賃料の50%と、上記の社有社宅の賃貸料相当額を比較してください。いずれか多いほうの金額を賃貸料相当額とし、100%以上を役員から徴収すれば経費扱いが可能です。
ただし、床面積が240平米を超える住宅や、プール付き物件などの豪華な社宅は、本来支払うべき家賃を賃貸料相当額とします。
社宅のメリット・デメリットや制度導入するプロセスを知っておこう!
社宅の意義、類似する用語との相違のほか、社宅のメリット・デメリット、導入する際の基本的なプロセスなどについて解説してきました。社宅は、福利厚生としては従業員からすれば魅力的であり、採用上のメリットがあることは間違いありません。しかし、会社側としてデメリットがある点もしっかり把握しておくことが大切です。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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