- 更新日 : 2025年11月26日
社宅の入居手続きの流れを徹底解説!注意点も紹介
社宅制度は、従業員の生活を支える重要な福利厚生ですが、その入居手続きは分かりにくい点も少なくありません。特に社宅には、企業が物件を所有する「社有社宅」と、市場の物件を借りる「借り上げ社宅」があり、それぞれ手続きの流れに共通点と相違点があります。
この記事では、社宅全般の基本的な流れと、種類ごとの特徴、担当者が押さえるべき詳細なチェックポイントなどを網羅的に解説します。
目次
社宅の入居手続きはどのような流れで進める?
社宅の入居手続きの基本的な流れを7つのステップで解説します。この手続きは、後述する「借り上げ社宅」と「社有社宅」のどちらであるかによって一部内容が異なるため、その違いにも触れながら説明を進めます。
ステップ1. 社内の募集と申請受付
このステップでは、社宅への入居を希望する従業員を社内規程に沿って募ります。まず担当者は、入居資格や費用負担を明記した募集要項を社内イントラネットなどで告知します。それに対し、希望する従業員が入居申請を行うことで、手続きがスタートします。
ステップ2. 入居者の選定
申請者の中から、社宅規程に基づいて入居者を公正に決定します。これは会社の役割であり、担当者は勤続年数や家族構成といった客観的な基準で選定します。
選定プロセスは記録を残し、透明性を担保することが重要です。万が一、選定から漏れた従業員へ説明を求められた際に、客観的な基準に基づいて判断したことを示せるようにしておきましょう。
ステップ3. 入居物件の決定
入居者が決まったら、住む物件を具体的に決定します。社宅の種類によって以下のように役割が異なります。
- 社有社宅:会社が所有する社宅の中から、空いている部屋を従業員に割り当てます。
- 借り上げ社宅:会社の家賃上限などの条件内で、従業員の希望を聞きながら物件を探します。
近年は従業員満足度向上のため、会社が定めた条件内で従業員自身が物件を探せる「自己選択型」が増えています。この方法は従業員の自由度が高い反面、担当者にとっては規程の範囲内かどうかの確認業務が増える点も考慮しておきましょう。
借り上げ社宅で従業員に物件を選んでもらう際は、日当たり、騒音、周辺環境といった生活環境を確認するための「内見時チェックリスト」を渡すと親切です。入居後の「こんなはずではなかった」というミスマッチを防げます。
ステップ4. 契約手続き
物件の利用を法的に確定させるため、契約を締結します。
- 借り上げ社宅:企業が借主となり、貸主と「賃貸借契約」を締結します。入居審査が行われます。
- 社有社宅:従業員と会社の間で「社宅使用契約」などを結びます。
どちらのケースでも、担当者は契約内容を精査し、従業員は指定された書類に署名・捺印をします。
また、借り上げ社宅の契約書では「定期借家契約」でないかを必ず確認してください。定期借家契約は原則更新がなく、契約期間満了で退去が必要となるため、長期的な居住を想定している場合は不向きです。また、契約前に宅地建物取引士から行われる「重要事項説明」には必ず担当者も同席(またはオンラインで参加)し、不利な特約がないかを確認しましょう。
ステップ5. 初期費用の支払い
入居に先立ち、必要な初期費用を支払います。この手続きは主に会社が担当します。借り上げ社宅の場合、会社は敷金・礼金・仲介手数料などを不動産会社や貸主へ支払います。担当者は請求書の内容を精査し、社内フローに沿って経理部門に支払い依頼を行います。
借り上げ社宅の場合、不動産会社からの請求書の内訳は必ず精査しましょう。「消毒代」や「書類作成費」など、交渉次第で不要となる費用が含まれているケースもあります。
ステップ6. 鍵の受け取りと入居
従業員へ物件を引き渡し、新生活をスタートしてもらうための最終ステップです。担当者は物件の鍵を従業員に渡すとともに、各種案内の最終確認を行います。一方、従業員は自身の責任で電気・ガス・水道などのライフラインを開通させます。また、退去時のトラブルを防ぐため、入居時に室内の傷や汚れを写真などで記録し、会社に報告することは、従業員の非常に重要な役割です。
この時、入居時の室内写真の撮影と状況確認書の提出を従業員に徹底してもらいましょう。これを怠ると、退去時に元々あった傷や汚れの修繕費用を請求される「原状回復トラブル」の最大の原因となります。
ステップ7. 社宅管理台帳への登録
入居手続きの完了後、社内の管理システムに情報を正式に記録します。これは会社側の締めくくりの業務です。担当者は、物件情報や入居者情報を速やかに社宅管理台帳へ登録し、初回の給与からの家賃天引きなどに備えます。
給与計算の締日までに登録を完了させないと、初回の家賃天引きが漏れてしまう可能性があります。入居後、速やかに登録作業を行いましょう。
借り上げ社宅と社有社宅とは?
社宅制度には、大きく分けて「借り上げ社宅」と「社有社宅」の2種類があります。どちらの制度を導入しているかによって、手続きの相手方やコスト構造、担当者が行うべき業務が大きく変わるため、まずこの違いをしっかり理解しておきましょう。
借り上げ社宅
借り上げ社宅とは、企業が不動産会社などを通じて、市場にある一般的な賃貸マンションやアパートを法人として契約し、それを従業員に貸し出す(転貸する)制度です。
物件の所有者はあくまで外部のオーナーであるため、契約や交渉は不動産会社など、社外の相手と行うことになります。
企業にとっては、自社で建物を建てる・購入する必要がなく初期投資を大幅に抑えられる点や、全国の物件を対象にできるため転勤にも柔軟に対応できる点が大きなメリットです。従業員にとっても、選択肢が豊富な中から自分のライフスタイルに合った物件を選びやすいという利点があります。
一方で、従業員が入居していない空室期間でも契約が続いている限り家賃が発生し続けるというデメリットも考慮する必要があります。
社有社宅
社有社宅とは、企業が自社で土地や建物を所有し、その物件を従業員に福利厚生の一環として貸し出す制度です。
自社物件であるため、入居手続きや管理は人事部など社内の担当部署で完結します。
企業にとっては、長期的に見れば会社の資産となる点が最大のメリットです。また、利益を目的としないため、従業員の家賃負担を市場価格よりも低く設定し、福利厚生を手厚くしやすいという利点もあります。
しかし、建物の維持管理コスト(修繕費など)や毎年の固定資産税がかかり続けるほか、一度建てると場所を動かせないため、事業所の移転などに対応しづらいというデメリットを抱えています。
このように、両者にはそれぞれ特徴があります。近年では、必要な時に必要な数だけ確保でき、管理の手間も比較的少ない「借り上げ社宅」が社宅制度の主流となっています。
【一覧表】借り上げ社宅と社有社宅の違い
| 項目 | 借り上げ社宅 | 社有社宅 |
|---|---|---|
| 概要 | 企業が市場の賃貸物件を借りる | 企業が自社で物件を所有する |
| 契約相手 | 不動産会社・オーナー | 自社(人事部など) |
| メリット | 物件数が豊富、初期投資が不要 | 家賃を安く設定しやすい、資産になる |
| デメリット | 空室でも家賃が発生する | 維持管理コスト、固定資産税がかかる |
社宅の入居手続きにおける注意点
社宅の入居手続きにおける最大のポイントは、契約内容の確認と社内ルール設定を初期段階で徹底し、将来のトラブルの芽を摘むことにあります。このセクションでは、担当者が特に注意深く確認すべき法務・実務上のポイントを解説します。
共通の注意点
社宅規程の整備と周知
全ての基本となる社宅規程を整備し、従業員に周知徹底することが最も重要です。規程が曖昧だと、不公平感やトラブルの原因になります。社宅規程には、少なくとも以下の項目を盛り込んでおきましょう。
- 適用範囲:正社員のみ、契約社員も含むなど
- 入居資格:勤続年数、役職、転勤者などの条件
- 家賃・共益費:従業員の負担割合と算定基準
- 利用期間:入居できる期間の上限
- 禁止事項:ペット飼育、楽器演奏、又貸しなど
- 遵守事項:善管注意義務、近隣への配慮など
- 退去時の手続き:退去申請の期限、原状回復の範囲など
従業員の費用負担範囲の明確化(給与課税について)
従業員から一定額以上の家賃(これを「賃貸料相当額」と呼びます)を受け取らない場合、会社が負担した家賃と従業員が支払った家賃の差額分が「現物給与」とみなされ、所得税の課税対象となります。非課税とするには、一般的に賃貸料相当額の50%以上を従業員から徴収する必要があります。
賃貸料相当額の計算(小規模な住宅の場合)
賃貸料相当額は、主に以下の3つの合計額となります。
- その年度の建物の固定資産税の課税標準額 × 0.2%
- 12円 × (その建物の総床面積(㎡) / 3.3㎡)
- その年度の敷地の固定資産税の課税標準額 × 0.22%
正確な計算は、経理部門や税理士に確認しながら進めましょう。
借り上げ社宅特有の注意点
トラブルを避けるための原状回復の取り決め
退去時の原状回復については、国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」で明確な基準が示されています。担当者はこの内容を理解し、入居時に従業員へ説明しておくことが重要です。
- 日光による壁紙やフローリングの色褪せ
- 家具の設置による床のへこみや跡
- 画鋲やピンの穴(下地ボードの張替えが不要な程度のもの)
- テレビや冷蔵庫の裏側の壁の黒ずみ(電気ヤケ)
- タバコのヤニによる壁の黄ばみや臭い
- 子供の落書き、壁に開けたネジ穴
- 飲みこぼしなどを放置したことによる床のシミやカビ
- 結露を放置したことで拡大したカビやシミ(善管注意義務違反)
出典:原状回復をめぐるトラブルとガイドライン (再改訂版)|国土交通省
契約形態の確認
契約には更新が可能な「普通借家契約」と、原則更新がない「定期借家契約」があります。契約形態によって従業員の居住期間に影響が出るため、事前に必ず確認しましょう。
複雑な社宅管理はアウトソーシングも有効な選択肢
ここまで解説した通り、社宅の入居手続きや管理は非常に複雑で、専門知識も要求されます。担当者の負担が大きいと感じる場合、これらの業務を専門の代行会社に委託する「アウトソーシング」も有効な選択肢です。
社宅代行サービスとは?
社宅代行サービスとは、企業に代わって社宅に関するあらゆる業務を専門的に行ってくれるサービスです。人事担当者は、煩雑な実務から解放され、より重要なコア業務に集中することができます。
具体的に委託できる業務範囲
代行会社によってサービス範囲は異なりますが、一般的に以下のような業務を委託できます。
- 物件探し、内見の手配
- 賃貸借契約の締結、更新、解約手続き
- 初期費用や毎月の家賃の支払い代行
- 従業員からの問い合わせ対応
- 退去時の立ち会い、敷金精算のサポート
アウトソーシングのメリット・デメリット
| メリット | デメリット |
|---|---|
| 担当者の業務負担を大幅に削減できる | 委託費用(コスト)が発生する |
| 専門知識でトラブルを未然に防げる | 社内にノウハウが蓄積しにくい |
| 全国転勤などにもスムーズに対応できる | 代行会社との連携・情報共有が必要 |
代行会社を選ぶ際のポイント
社宅代行会社を選ぶ際は、以下の点を比較検討すると良いでしょう。
- 実績と経験:自社の業種や規模に合った実績があるか。
- サポート体制:担当者の対応は迅速か、トラブル時のサポートは手厚いか。
- 料金体系:料金は管理戸数に応じた月額制か、手続きごとの従量課金制か。
- 対応エリア:全国対応が可能か、特定のエリアに強みがあるか。
導入を検討すべきタイミング
社宅制度の導入時や見直し時はもちろんですが、運用中の場合は管理戸数が20〜30戸を超えたあたりで担当者の業務負担が急増する傾向があります。そのタイミングでアウトソーシングを検討する企業が多いようです。
社宅の入居に関するよくある質問(FAQ)
Q1. 社宅の物件は、従業員が自分で探しても良いのでしょうか?
これは主に借り上げ社宅の場合に当てはまります。企業の規程によりますが、近年は従業員満足度向上のため、条件内で従業員が自由に物件を探せる「選択型」の制度が増えています。社有社宅では、原則として会社から割り当てられます。
Q2. 社宅の入居を申請する際、どのような理由が必要ですか?
これは両方の社宅に共通します。一般的に、社宅規程で定められた「転勤」「新規採用で通勤が困難な場合」「結婚などライフステージの変化」といった正当な申請理由が必要です。
Q3. 社宅に入居する上で、特に注意すべきルールはありますか?
両方の社宅で、まず会社の「社宅規程」を守る必要があります。その上で、借り上げ社宅の場合は、さらにマンションの管理規約や賃貸借契約で定められたルール(ペット飼育の可否、楽器演奏の制限など)も遵守しなければなりません。
Q4. 借り上げ社宅の契約時、連帯保証人は誰がなりますか?
法人(会社)が契約者となりますが、物件によっては会社の代表者を連帯保証人として求められたり、保証会社の利用が必須であったりします。保証会社の利用料は、会社負担か従業員負担かを事前に規程で定めておくとスムーズです。
Q5. 入居中のトラブル(水漏れなど)は誰に連絡すれば良いですか?
まずは社宅担当者に連絡するのが基本です。その後、担当者から物件の管理会社やオーナーへ連絡します。ただし、夜間・休日の緊急事態に備え、管理会社の緊急連絡先を事前に入居者へ共有しておくと良いでしょう。
社宅入居手続きの流れを正しく理解し、スムーズな対応を目指そう
本記事では、社宅全般の入居手続きの流れを、借り上げ社宅と社有社宅の違いを明確にしながら、担当者が実務で活用できるよう詳細なチェックポイントを交えて解説しました。
担当者は、自社がどちらの制度を運用しているかを正しく理解し、それぞれの手続きのポイントを押さえることが重要です。円滑で丁寧な手続きは、従業員のスムーズな新生活の基盤となり、結果として企業への信頼と満足度を高めることに繋がるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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