• 更新日 : 2025年11月25日

テレワークの給与計算はどう対応する?勤怠管理方法や在宅勤務手当などの注意点も解説

テレワーク(在宅勤務)の普及に伴い、多くの企業で給与計算業務の見直しが急務となっています。従来のオフィス勤務を前提としたルールでは、勤怠管理や手当の計算で問題が生じやすいためです。

この記事では、テレワークに対応するための給与計算の具体的な変更点、注意すべきポイント、そして業務を効率化するシステムの選び方まで詳しく解説します。

テレワークの導入で給与計算の見直しが必要になる理由

テレワークの導入にあたって、給与計算ルールの見直しが必要です。従業員の勤務がオフィス勤務から在宅勤務に変わることで、労働時間の把握方法、手当の支給基準、経費の扱いなど、給与計算の前提となる条件が大きく変化するためです。

これまでの給与計算は、従業員が決められた時間にオフィスに出社し、退社するという働き方を前提に設計されていました。しかし、フルリモートやハイブリッド勤務など働き方が多様化する現代において、従来のルールでは実態にそぐわないケースや、法的なリスクを生む可能性が出てきます。

1. 従業員の労働時間の把握が難しくなるため

テレワークでは、従業員の労働時間を客観的に把握し、管理することが困難になります。上司が部下の働きぶりを直接確認できないため、自己申告に頼りがちになり、サービス残業や不適切な労働時間管理のリスクが高まるからです。

特に「中抜け時間(業務から一時的に離れる時間)」の扱いや、自己申告制の曖昧さが課題となります。労働基準法を遵守し、適正な給与を支払うためには、勤務実態を正確に記録・管理する仕組みが重要です。

2. 通勤手当や在宅勤務手当の取り扱いが変わるため

勤務形態の変更に伴い、各種手当の支給基準を見直す必要があります。オフィスへの出社頻度が減ることで、これまで一律支給していた通勤手当(定期代など)が実態と合わなくなるためです。

代わりに、在宅勤務に伴って発生する通信費や光熱費を補助するための「在宅勤務手当(テレワーク手当)」を新たに設ける企業も増えています。これらの手当は課税対象になる場合とならない場合があるため、給与計算において所得税法に関する正しい知識が求められます。

3. 給与計算の業務フローの変更が必要となるため

給与計算担当者自身もテレワークを行う場合、従来の業務フローでは対応できなくなります。タイムカードの回収や各種申請書類の提出といった、紙媒体でのやり取りが物理的に不可能になるためです。

そのため、勤怠データの収集から給与明細の配布まで、一連のプロセスをオンラインで完結できるペーパーレス体制への移行が必須となります。これは、給与計算実務のDX(デジタルトランスフォーメーション)とも言えるでしょう。

テレワークに対応した勤怠管理のフロー

テレワークにおける勤怠管理は、客観的な記録に基づいて労働時間を管理することが重要です。従業員の自己申告だけに頼らず、PCログや勤怠管理システムなどを活用し、適正な時間管理を実現しましょう。

1. 勤怠管理のルールを就業規則で定める

まず、テレワーク勤務における勤怠管理のルールを就業規則で明確に定めます。ルールを明文化し、全従業員に周知することで、労使間の認識齟齬を防ぎます。

  • 始業・終業時刻の報告方法
    チャットツール(例:Microsoft Teams、Slack)、メール、勤怠管理システムなど、報告手段とタイミングを統一します。
  • 休憩・中抜け時間のルール
    休憩時間の取得方法や、業務時間中に私用で離席する際の申請・報告ルールを定めます。
  • 時間外労働申請・承認のルール
    残業を行う場合の申請・承認フローを明確にします。無断での残業は原則として認めないなど、厳格な運用が求められます。

2. 客観的な記録が取れるツールを導入する

自己申告と合わせて、客観的な労働時間を記録できるツールの導入がトラブル防止に有効です。これにより、会社(管理職)側で労働時間の実態を正確に把握できます。

  • 勤怠管理システム
    クラウド型のシステムを導入すれば、従業員はPCやスマートフォンアプリから簡単に出退勤の打刻ができます。GPS機能やIPアドレス制限機能を使えば、不正打刻の防止にも繋がります。
  • PCログの活用
    PCのログオン・ログオフ時間を記録し、申告された業務時間と大きな乖離がないかを確認します。これは労働時間を証明する客観的な記録の一つとなります。
  • コミュニケーションツールの活用
    業務用のチャットツール、例えばMicrosoft Teams(マイクロソフト チームズ)やSlack(スラック)のステータス表示や、業務日報の提出を義務付けることも、勤務状況を把握する補助的な手段として有効です。

3. 管理職への教育を徹底する

テレワークでは、管理職のマネジメント手法も変革が求められます。「長時間ログインしているから頑張っている」といった誤った評価を防ぎ、成果に基づいた適切な人事評価を行うための研修が不可欠です。

部下の働きぶりが見えにくくなるからこそ、定期的な1on1ミーティングの実施や、勤怠管理の重要性を再認識させる教育を徹底し、信頼関係に基づいた労務管理を目指しましょう。

テレワークにおける手当の計算方法

テレワークにおける手当は、従来の通勤手当は「実費精算」に切り替え、新たに発生する費用を補填する「在宅勤務手当」の支給を検討するのが一般的です。勤務実態に合わせた見直しは、従業員の不公平感をなくし、モチベーションを維持する上で極めて重要です。

通勤手当の計算方法

テレワークが主体となり出社が週1〜2回程度になった場合、通勤定期代を支給し続けると、実費よりも過大な金額を支払うことになりかねません。これは企業にとってはコスト増、従業員にとっては課税対象額の増加に繋がる可能性があります。

そのため、これまでの定期代支給を廃止し、出社した日数に応じた交通費を「実費精算」する形に変更するのが合理的です。

ただし、この変更は労働条件の不利益変更にあたる可能性があるため、事前に従業員へ十分な説明を行い、合意を得た上で、就業規則(給与規程あるいは賃金規程)の変更手続きを適切に行う必要があります。

在宅勤務手当(テレワーク手当)の計算方法

在宅勤務では、従業員が通信費や光熱費、事務用品費などを自己負担することになります。この負担を軽減するために導入されるのが「在宅勤務手当」です。支給方法によって課税・非課税の扱いが異なるため注意が必要です。

国税庁の見解によると、業務利用分を合理的に計算できる場合は経費として非課税になりますが、計算が難しい場合は給与として課税対象となります。実務上の煩雑さから、多くの企業では「課税対象の手当」として一律支給を選択しています。

在宅勤務手当の課税区分(簡易表)

支給方法内容課税区分
一律支給業務利用分の計算を行わず、月5,000円などを一律で支給課税
実費精算業務利用分の通信費や電気代を合理的に計算して支給非課税
物品支給PCや椅子など業務に必要な物品を会社が支給(従業員所有になる)課税
物品貸与PCや椅子など業務に必要な物品を会社が貸与非課税

テレワークにおける給与計算の注意点

テレワークにおける給与計算では、労働基準法をはじめとする関連法規を遵守することが大前提です。特に労働時間の適正な把握は企業の法的義務であり、厚生労働省が公表しているガイドラインが実務上の重要な指針となります。

厚生労働省の「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」では、労働時間の管理方法や時間外労働の取り扱いについて具体的な考え方が示されています。例えば、テレワークであっても法定労働時間(1日8時間、週40時間)を超えた分については、割増賃金(残業代)の支払い義務が生じます。自己申告だけでなく、PCログなどの客観的な記録と突き合わせ、正確な労働時間を把握・管理することが求められます。

参考:テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン |厚生労働省

テレワークで給与計算を効率的に行うためのステップ

給与計算担当者自身が場所を選ばずに業務を遂行するためには、クラウド型の給与計算システムを導入し、業務フロー全体をデジタル化することが最も効果的です。ここでは、給与計算業務のDXを推進するためのステップを紹介します。

1. 現状業務の洗い出しとペーパーレス化の推進

まず、現在の給与計算に関する一連の業務を可視化し、紙や手作業に依存している部分を特定します。

  • 勤怠データの収集:タイムカード、Excel(エクセル)の勤怠表など
  • 各種申請の受付:紙の残業申請書、休暇届、住所変更届など
  • 承認プロセス:上長による押印
  • 給与明細の配布:紙の給与明細の手渡しまたは郵送

これらの業務をデジタル化し、ペーパーレス化を進めます。特に給与明細の電子化は、印刷・封入・配布の手間とコストを大幅に削減できるため、優先的に取り組むべき施策です。

2. クラウド給与計算システムの選定と比較

ペーパーレス化を実現し、どこからでも安全に給与計算業務を行うには、クラウド型システムの導入が最適です。従来のインストール型ソフトやExcelでの管理に比べ、以下のようなメリットがあります。

  • 場所を選ばずにアクセスできる
  • 法改正や社会保険料率の変更に自動でアップデート対応する
  • 勤怠管理や労務管理システムとAPI連携できる製品が多い
  • 従業員が直接情報を入力・申請できるため、担当者の負担が減る

クラウド型給与計算システムの比較ポイント

比較項目確認すべき内容
機能の範囲勤怠管理、年末調整、Web給与明細、労務手続きなど、必要な機能が揃っているか
連携性現在利用している勤怠管理システムや会計ソフトとスムーズに連携できるか
料金体系初期費用やオプション料金を含めたトータルコスト
サポート体制導入時の設定サポートや、運用開始後の問い合わせ対応(電話、メール、チャット)が充実しているか
セキュリティ個人情報を取り扱うため、通信の暗号化、IPアドレス制限、二段階認証など、対策が万全か

3. セキュリティ対策の徹底

給与情報という機密性の高い個人情報を取り扱うため、セキュリティ対策は最重要課題です。リモートアクセスにおける情報漏洩リスクを最小限に抑えるための対策を徹底しましょう。

  • VPNの利用
    自宅など社外から社内システムにアクセスする際は、必ずVPN(仮想プライベートネットワーク)を経由させ、通信を暗号化します。
  • デバイス管理
    会社が支給したセキュリティ対策済みのPCのみで作業を行う、ウイルス対策ソフトを常に最新の状態に保つといったルールを徹底します。
  • アクセス権限の設定
    給与計算担当者ごとに、業務上必要な情報にのみアクセスできるよう権限を細かく設定します。

テレワークの給与計算に関してよくある質問(FAQ)

最後に、テレワークの給与計算に関してよくある質問とその回答をまとめました。

パート・アルバイトの給与計算は正社員と異なりますか?

基本的な考え方は同じですが、より丁寧な対応が求められます。労働基準法上、パートタイム労働者であっても労働時間の管理や割増賃金の支払いは正社員と同様に適用されます。在宅勤務手当などの各種手当についても、不合理な待遇差が生じないよう配慮し、労働条件通知書や就業規則にルールを明記することが重要です。

無料の勤怠管理ツールやアプリでも対応できますか?

対応は可能ですが、注意が必要です。無料のツールは、セキュリティ対策の脆弱性、サポート体制の不備、法改正への対応遅れなどのリスクが懸念されます。企業の規模や取り扱う情報の機密性を考慮し、信頼性の高い有料のクラウドシステムを検討することをおすすめします。

適切な給与計算体制で、信頼されるテレワーク環境を

本記事では、テレワークへ対応するための給与計算のポイントを解説しました。重要なのは、勤怠管理の客観性を担保し、勤務実態に合わせて手当を見直し、クラウドシステム活用で業務フロー全体をデジタル化することです。

在宅勤務における給与計算は、法的な要請と従業員の公平性を両立させる必要があります。本記事で紹介した対応策を参考に、自社の就業規則や運用体制を見直し、スムーズで正確なテレワーク下の給与計算を実現してください。


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