- 更新日 : 2025年11月4日
諸手当の種類一覧!基本給との違い、税金や勘定科目をかんたん解説
諸手当は基本給とは別に支給される賃金の総称で、法律で義務付けられた法定手当と、会社が任意で設ける法定外手当に大別されます。そのため、残業代の計算基礎や税金の課税対象になるか否かが手当の種類によって変わります。
給与計算を担当する中で「この住宅手当は割増賃金の基礎に含めるべきか」「通勤手当はどこまで非課税なのか」といった疑問もあるのではないでしょうか。
本記事では、各種手当の違いから給与計算、税務、会計処理まで、実務上のポイントをわかりやすく解説します。
目次
諸手当とは?基本給との違い
諸手当とは、基本給とは別に、従業員の特定の状況や職務内容に応じて支払われる賃金の総称です。給与明細を見ると「基本給」と「諸手当」の項目に分かれていますが、どう違うのか、具体的にみていきましょう。
諸手当の読み方と定義
諸手当は「しょてあて」と読み、基本給を補う形で従業員に支払われる賃金全般を指します。これには、時間外労働に対する割増賃金のように法律で支払いが義務付けられているものから、通勤手当や住宅手当のように企業が独自に設ける福利厚生的なものまで、多岐にわたる目的で設定されます。
基本給と諸手当の違い
基本給が年齢や勤続年数、職務遂行能力などに応じて定められる給与の基本的な部分であるのに対し、諸手当は特定の条件や状況に応じて付加的に支払われるものです。
給与は「基本給+諸手当」で構成されており、賞与(ボーナス)や退職金の算定においては、基本給のみを基礎とするか、一部の手当を含めるかなど、企業によって扱いが異なります。
| 項目 | 基本給 | 諸手当 |
|---|---|---|
| 位置づけ | 給与の中心的・基本的な部分 | 基本給を補う付加的な部分 |
| 算定基準 | 年齢、勤続、職能、職務など | 労働時間、役職、扶養家族、勤務地など |
| 変動性 | 比較的安定的 | 支給条件により毎月変動する場合がある |
「一律支給」の諸手当とは何か?
「一律支給」の諸手当とは、特定の条件に該当する従業員全員に、同額が支給される手当のことです。例えば、「全従業員に月額5,000円の食事手当を支給する」「総合職全員に月額20,000円の職務手当を一律で支給する」といったケースがこれにあたります。
全員に同じ金額が支払われるため、給与計算は簡便になりますが、個々の状況を反映しにくい側面もあります。
法定手当と法定外手当の諸手当一覧
諸手当は、労働基準法などの法律で支払いが義務付けられている「法定手当」と、企業が任意で設ける「法定外手当」の2つに大別されます。この分類は、残業代の計算などにも影響するため、正しく理解しておく必要があります。
法律で支払いが義務付けられる「法定手当」
法定手当は、法律で定められた条件を満たした場合に、企業が必ず支払わなければならない手当です。これらは従業員の労働に対する正当な対価として、法律で保護されています。
- 時間外手当(残業手当)
法定労働時間(原則1日8時間、週40時間)を超えて労働した場合に支払われます。通常の賃金の2割5分以上の割増率で計算されます。 - 休日労働手当
法定休日(原則「毎週少なくとも1回」与えられる休日)に労働した場合に支払われる手当です。通常の賃金の3割5分以上の割増率が適用されます。 - 深夜労働手当
午後10時から午前5時までの間に労働した場合に支払われます。通常の賃金の2割5分以上の割増が必要です。時間外労働が深夜に及んだ場合は、時間外割増率(25%)と深夜割増率(25%)を合計した50%以上の割増賃金が発生します。
会社が任意で設定する「法定外手当」
法定外手当は、法律上の支払い義務はなく、企業が従業員のモチベーション向上や人材確保、福利厚生などを目的として独自に定める手当です。その種類は企業の特色や方針によって様々です。
| 手当の種類 | 内容 |
|---|---|
| 通勤手当 | 従業員の通勤にかかる費用を補助する手当。 |
| 住宅手当 | 家賃や住宅ローンなど、住居にかかる費用の一部を補助する手当。 |
| 家族手当・扶養手当 | 配偶者や子など、扶養家族がいる従業員に対して支給される手当。 |
| 役職手当 | 部長や課長といった役職の責任の重さに応じて支給される手当。 |
| 資格手当 | 業務に関連する特定の資格を保有する従業員に対して支給される手当。 |
| 皆勤手当・精勤手当 | 欠勤や遅刻がなかった従業員に対して支給される奨励的な手当。 |
諸手当の支給のルールとは?
法定手当を除く諸手当は、必ずしも全従業員がもらえるわけではなく、支給されるかどうかは就業規則や賃金規程で定められた条件によります。「求人票に住宅手当と書いてあったのに、自分はもらえない」といったケースが起こりえるのはこのためです。
支給ルールは就業規則で定められる
諸手当の支給条件、金額、計算方法といったルールは、就業規則や賃金規程で明確に定めておく必要があります。賃金に関する事項は就業規則の絶対的必要記載事項であり、これを定めずに手当を運用することはできません。例えば、住宅手当であれば「世帯主であること」「賃貸住宅に居住していること」といった具体的な支給対象者の条件を明記します。
諸手当に関するよくあるトラブルと対策
諸手当に関するトラブルは、主に規程の不備や従業員への説明不足から生じます。
支給条件の解釈をめぐるトラブル
一つめは、手当の支給条件の解釈に関するトラブルです。例えば、「家族手当」の支給対象となる「配偶者」の定義が曖昧なために、事実婚や同性パートナーがそこに含まれるのかどうかで従業員と会社の間で見解が分かれるケースが考えられます。
このような事態を防ぐためには、就業規則において支給対象者の定義を具体的かつ明確に定めておくことが不可欠です。さらに、社会通念や家族のあり方も変化していくため、その変化に合わせて定義を定期的に見直すことも求められるでしょう。
手当の一方的な不利益変更によるトラブル
二つめは、会社が一方的に手当を減額・廃止することによるトラブルです。会社の業績悪化などを理由に、従業員の同意を得ずに皆勤手当を廃止したり、役職手当を減額したりするケースがこれにあたります。手当の減額や廃止は、労働条件の「不利益変更」とみなされます。
労働契約法上、不利益変更を行うには、原則として従業員一人ひとりの個別の同意が必要です。同意なく一方的に変更した場合、その変更は無効と判断される可能性があります。したがって、手当の見直しが必要な場合は、労使間で十分に協議し、なぜ変更が必要なのかを丁寧に説明し、合意形成を図るプロセスが不可欠です。
諸手当は給与計算にどこまで含める?
諸手当の種類は、月々の給与計算、特に残業代(割増賃金)の単価に直接影響します。また、賞与(ボーナス)や退職金の算定基礎に含まれるかどうかも、企業の規程によって異なります。
残業代の計算基礎に含まれる手当・含まれない手当
割増賃金の計算基礎となる賃金には、原則としてすべての手当が含まれます。しかし、労働基準法では、個人の事情によって支給額が変わる、労働との直接的な関係が薄い一部の手当を、例外的に算定基礎から除外できると定めています。
| 算定基礎から除外できる手当 | 除外できない手当の例 |
|---|---|
| 1. 家族手当 | 扶養家族の人数に関わらず一律支給されるもの |
| 2. 通勤手当 | 通勤距離に関わらず一律支給されるもの |
| 3. 別居手当 | 役職手当、資格手当、皆勤手当など |
| 4. 子女教育手当 | |
| 5. 住宅手当 | 住宅の形態に関わらず一律支給されるもの |
| 6. 臨時に支払われた賃金 | |
| 7. 1箇月を超える期間ごとに支払われる賃金 |
重要なのは、手当の名称ではなく、その実態で判断される点です。 例えば、「住宅手当」という名称でも、全従業員に一律1万円を支給している場合は、算定基礎から除外できず、割増賃金の計算に含めなければなりません。
賞与(ボーナス)や退職金の算定における諸手当の扱い
賞与や退職金の計算方法は法律で定められておらず、各企業の賃金規程や退職金規程によります。一般的には、基本給をベースに算定する企業が多いですが、「基本給+役職手当」を算定基礎としたり、特定の諸手当を含めて計算したりするケースもあります。
自社の規程がどのようになっているか、正確に把握しておくことが肝心です。
諸手当は課税・非課税?
従業員に支給する諸手当は、原則として給与所得として所得税の課税対象となります。しかし、一部の手当については、社会政策的な配慮から一定の限度額まで非課税となる特例が設けられています。
原則として課税対象となる諸手当
基本給はもちろん、役職手当、資格手当、家族手当、住宅手当など、金銭で支給されるほとんどの手当は給与所得として所得税および復興特別所得税の課税対象です。これらは源泉徴収の対象となります。
一定の限度額まで非課税となる諸手当の代表例
特定の要件を満たす手当については、非課税となる限度額が定められています。この限度額を超えた部分については課税対象となります。
| 非課税となる手当の種類 | 主な要件と非課税限度額(月額) |
|---|---|
| 通勤手当 |
|
| 宿直・日直手当 | 1回につき4,000円(食事の支給がある場合はその価額を控除)まで |
| 出張旅費 | 通常必要と認められる実費相当額 |
特に通勤手当は、多くの企業で導入されており、非課税限度額の管理は給与計算担当者にとって必須の知識といえるでしょう。
参照:通勤手当の非課税限度額の引上げについて|国税庁
参照:No.2508 給与所得となるもの|国税庁
年末調整での注意点
給与計算時に非課税処理を正しく行っていれば、年末調整で特別な対応は不要です。しかし、年の途中で通勤経路が変わり、非課税限度額が変更になった場合など、計算誤りがないか確認することで、追徴課税や還付不足といった事態を防げます。
諸手当の勘定科目と仕訳例とは?
従業員に支払う諸手当は、企業の経費として会計処理を行います。どの勘定科目を使うかは、企業の経理規程によって異なりますが、一般的にはいくつかのパターンがあります。
諸手当に使用される主な勘定科目
諸手当の仕訳には、主に以下の勘定科目が用いられます。
具体的な仕訳例
従業員1名に以下の給与を支給した場合の仕訳例です。
- 基本給:250,000円
- 通勤手当:10,000円
- 住宅手当:20,000円
- 社会保険料:45,000円
- 所得税:8,000円
【仕訳例】
| 借方科目 | 借方金額 | 貸方科目 | 貸方金額 |
|---|---|---|---|
| 給料手当 | 280,000円 | 普通預金 | 227,000円 |
| 預り金(社会保険料) | 45,000円 | ||
| 預り金(所得税) | 8,000円 |
この例では、手当を基本給と合算して「給料手当」で処理しています。企業によっては、通勤手当を「旅費交通費」や「福利厚生費」として別計上する場合もあります。自社の経理ルールに沿った適切な処理を行いましょう。
人事戦略としての諸手当の設計・見直し方法
諸手当は、単なる給与の一部ではなく、企業理念や人事戦略を従業員に伝えるための有効なツールにもなり得ます。従業員のエンゲージメントを高め、採用力を強化するために、戦略的な視点で手当を設計・見直しすることが求められます。
会社の目的に合わせた手当の新設
自社がどのような人材を求め、従業員にどう成長してほしいのかというメッセージを、手当を通じて発信できます。
例えば、全社的にDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進を掲げるのであれば、ITパスポートや基本情報技術者試験といった関連資格の取得者に対する「資格手当」や、学習費用を補助する「スキルアップ支援手当」などを新設することが考えられます。
また、従業員の心身の健康を重視するウェルビーイング経営を目指すのであれば、ジム通いや健康診断のオプション受診などを補助する「健康促進手当」や、ボランティア休暇の取得者に支給する手当などを設けることも、企業文化を醸成する上で有効な一手となるでしょう。
既存手当の見直しのポイント
時代遅れになった手当や、形骸化した手当は、従業員の不公平感につながることがあります。定期的にその目的や効果を検証し、見直しを行いましょう。
- 公平性:
家族手当の支給対象を配偶者に限定している場合、多様な家族形態をふまえ、支給条件を見直す。 - 透明性:
支給基準が曖昧な手当は、従業員の不信感につながる。誰に、どのような基準で、いくら支払うのかを明確にする。 - 運用コスト:
申請や承認のプロセスが複雑な手当は、管理部門の負担が大きい。より簡素な運用ができないか検討する。
公平性と透明性を確保するための運用
手当の制度を改定する際は、従業員への丁寧な説明が不可欠です。なぜ変更するのか、その背景や目的を共有し、理解を得る努力を惜しまないようにしましょう。
改定後のルールは就業規則に明記し、全従業員がいつでも閲覧できる状態にしておくことで、運用の透明性を確保できます。
多様な諸手当を理解し、適切な給与設計で企業成長へ
諸手当は、法定手当と法定外手当に大別され、その種類によって残業代計算や課税の扱いが異なるため、正確な理解が不可欠です。特に、残業代の算定基礎から除外できる手当は名称ではなく実態で判断されること、通勤手当など一部の手当には非課税限度額があることを覚えておきましょう。また、手当の支給ルールは就業規則で明確に定め、トラブルを未然に防ぐ必要があります。会計処理では「給料手当」などの適切な勘定科目を用い、正しく計上しましょう。自社の人事戦略と連動させた諸手当の設計は、従業員の満足度を高め、ひいては企業の成長につながるでしょう。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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