- 更新日 : 2025年9月16日
社宅管理の簡易化はどこから?担当者の負担を減らす方法から徹底解説
企業の福利厚生として重要な役割を持つ社宅制度ですが、その管理業務は煩雑で担当者に大きな負担がかかっていませんか?物件探しから契約、入退去の手続き、家賃の管理まで、多岐にわたる業務に追われ、コア業務に集中できないという方もいらっしゃるかと思います。
この記事では、中小企業の経営者や担当者に向けて、社宅管理を簡易化するための具体的な方法を解説します。自社の状況に合った最適な方法を見つけ、業務効率化と従業員満足度の向上を実現しましょう。
目次
社宅管理を簡易化する3つの方法
社宅管理の簡易化には、自社の規模や予算、管理戸数に応じて選択できる複数の方法があります。ここでは、代表的な3つの方法について、それぞれの特徴と導入のポイントを詳しく解説します。
Excel(エクセル)で管理
多くの企業が最初に取り組むのがエクセルでの管理です。
初期投資が不要で、誰でも使い慣れているという利点があります。しかし、管理戸数が増えるにしたがって、情報の更新や検索に時間がかかり、複数ファイルの統合作業も煩雑になります。また、マクロを組める人材がいなくなると、計算式のメンテナンスができなくなるという属人化の問題も深刻です。
エクセル管理は、あくまで小規模な社宅管理の入門編と位置づけ、成長に応じて次のステップを検討していきましょう。
社宅管理システムの導入
社宅管理システムの導入により、物件情報、契約内容、支払い状況などを一元的に管理できます。
クラウド型のシステムなら、どこからでもリアルタイムでデータにアクセス可能で、支払調書の作成もボタン一つで完了します。初期投資は必要ですが、人件費削減効果を考えれば、1~2年以内の投資回収も十分に可能です。
社宅管理代行(アウトソーシング)サービスに委託
社宅管理のすべてを外部委託する方法です。
物件探しから契約、入退去手続き、トラブル対応まで、専門知識を持つプロが対応してくれます。ただし、費用が高額なのと、個人負担額の管理やマイナンバーの収集を請け負っていないサービスもあるため、委託範囲の確認が必要です。
関連記事|社宅代行サービスとは?利用時のメリット・デメリット〜流れを解説
社宅管理を簡易化すべき3つの理由
社宅管理の簡易化は、単なる業務改善にとどまらず、企業の成長戦略において重要な要素です。なぜ社宅管理の効率化が求められるのか、その理由をご紹介します。
担当者の負担が増大
社宅管理業務には、物件の選定、契約手続き、家賃の徴収と支払い、修繕対応、更新手続きなど、多岐にわたる作業が発生します。
特に、複数の拠点を持つ企業では、拠点ごとに異なるファイルで管理していることも多く、情報の統合だけでも膨大な時間がかかるなど、担当者の残業時間増加や本来のコア業務への影響が深刻化しています。
人為的ミスによるトラブルのリスク
手作業による管理では、個人負担額の計算ミスや支払い漏れ、契約更新の見落としなど、様々なミスが発生するリスクがあります。
例えば、社内規定に基づく複雑な計算が必要な個人負担額の算出では、電卓での手計算によるミスが起きやすく、従業員との信頼関係にも影響を与える恐れがあります。また、エクセル管理では計算式のメンテナンスができる人材が限られ、担当者の異動や退職により業務が停滞するケースも見られます。
働き方の多様化に伴う社宅制度の変化
リモートワークの普及や転職市場の活性化により、社宅制度に求められる要件も変化しています。
フレキシブルな勤務地選択、短期間での入退去対応など、従来の画一的な管理方法では対応しきれない状況が増えています。また、優秀な人材確保のための福利厚生充実という観点からも、スムーズで柔軟な社宅提供体制の構築が求められています。
関連記事|社宅とは?メリット・デメリットや制度を作るプロセスを解説
【方法別】社宅管理の簡易化で失敗しないためのポイント
社宅管理の簡易化方法を選ぶ際は、単純にコストだけで判断するのではなく、複数の観点から総合的に検討することが大切です。ここでは、失敗しない選び方のポイントを3つの切り口から解説します。
コスト(費用)で比較する
エクセル管理は初期費用ゼロですが、人件費という見えないコストがかかります。
コスト比較では、削減できる業務時間を金額換算することも重要です。例えば、年間100時間の業務削減は、時給3,000円換算で30万円の価値があります。
対応可能な業務範囲で比較する
エクセルは基本的な情報管理のみ、システムは契約管理から支払い処理まで幅広く対応、アウトソーシングは物件探しやトラブル対応まで含む包括的なサービスが可能です。
自社でどこまでの業務を効率化したいのか、将来的な拡張性も含めて検討しましょう。特に、24時間対応の入居者サポートが必要な場合は、アウトソーシングが有効です。
自社の企業規模や社宅の戸数で選ぶ
管理戸数10戸未満ならエクセル、50戸以上ならシステム導入、500戸以上ならアウトソーシング、といったように、規模で判断するのもよいでしょう。
ただし、成長企業の場合は、将来の拡大を見越して早めにシステム化することも検討すべきです。また、全国に拠点がある企業は、地域ごとの不動産事情に詳しいアウトソーシング会社の活用も選択肢となります。
社宅管理の簡易化によるメリット・デメリット
社宅管理を簡易化することで、社宅制度そのものの運用も大きく変わります。効率的な管理体制を構築することで得られるメリットと、注意すべきデメリットについて、最新の動向を踏まえてご紹介します。
メリット:福利厚生の充実による採用力強化と節税効果
効率的な社宅管理により、企業は従業員に対してより充実した福利厚生を提供できます。
社宅は、従業員から「賃貸料相当額の50%以上」を徴収していれば原則課税されません。従業員にとっては、給与として受け取るよりも手取りが増え、企業側も給与を上げるよりも税負担を軽減できます。また、スムーズな社宅提供は採用競争力の強化にもつながり、優秀な人材の獲得と定着に貢献します。
管理が簡易化されれば、より柔軟な社宅制度の設計も可能になります。
デメリット:管理コストの発生と社員間の不公平感
システム導入やアウトソーシングには当然コストがかかります。
また、社宅を利用する従業員と利用しない従業員の間で不公平感が生じることもあります。住宅手当との併用や、地域による格差など、制度設計には細心の注意が必要です。
管理を簡易化しても、これらの課題は残るため、公平性を保つための工夫が求められます。
社宅制度を廃止する企業が増えている
リモートワークの普及により、転勤や単身赴任が減少し、社宅の必要性が低下している企業もあります。また、管理の煩雑さから、社宅制度を廃止して住宅手当に切り替える動きも見られます。
しかし、適切な管理体制を構築すれば、社宅制度は依然として有効な福利厚生です。簡易化により管理負担を軽減することで、制度の継続が可能になります。
出典|株式会社トランストラクチャ 社宅制度の現状~物価差補填システムとしての意味合い~
社宅管理に関連する法改正とトレンド
2025年現在、社宅管理を取り巻く法制度は大きく変化しています。インボイス制度や電子帳簿保存法など、新たな対応が必要となる法改正について、社宅管理の観点から詳しく解説します。
インボイス制度
居住用の社宅家賃は原則「住宅の貸付け」で非課税のため、インボイスの有無にかかわらず仕入税額控除の対象外です。
一方、別契約で徴収する駐車場代や居住用以外(店舗・事務所等)の賃貸は課税取引となり、インボイス対応が必要です。2025年現在は経過措置期間中ですが、2029年10月以降は控除が完全に廃止されるため、早めの対策を考えましょう。
関連記事|インボイス制度を図解でわかりやすく解説!制度対応においてのチェックポイントや注意点は?
電子帳簿保存法
2024年1月から電子取引データの保存が完全義務化され、社宅の賃貸借契約書や請求書の管理方法も大きく変わりました。
電子データで受け取った契約書は、紙に印刷して保管することができなくなり、一定の要件を満たした電子保存が必要です。クラウド型の社宅管理システムを導入すれば、電子帳簿保存法に対応した形で契約書類を管理できるため、法令遵守と業務効率化を同時に実現できます。
関連記事|電子帳簿保存法とは?2024年からの改正内容・対象書類を簡単に解説
「借り上げ社宅」の動向
近年、社有社宅は減少する一方、企業が物件を借り上げて従業員に転貸する「借り上げ社宅」は維持もしくは微増傾向にあります。
理由は、社有社宅と比べて初期投資が不要で、柔軟な運用が可能なためです。ただし、転貸借契約の管理、原状回復費用の負担、入退去時の手続きなど、特有の管理業務が発生します。
借り上げ社宅に特化したシステムやサービスも登場しており、効率的な管理体制の構築が可能になっています。
出典|株式会社トランストラクチャ 社宅制度の現状~物価差補填システムとしての意味合い~
社宅管理の簡易化は企業の持続的な成長を後押しする
社宅管理の簡易化は、単なる業務効率化に留まりません。
ノンコア業務の負担を軽減することで、人事や総務の担当者は、採用戦略や制度設計といった、より企業成長に直結するコア業務に集中できます。また、スムーズな社宅提供は従業員満足度を高め、優秀な人材の確保と定着にも繋がります。自社の規模や課題に合った簡易化の方法を選択し、管理体制を最適化することが、今後の企業発展の基盤となるでしょう。
2025年の今、インボイス制度や電子帳簿保存法への対応も含め、社宅管理のデジタル化は避けて通れない課題です。エクセル管理から脱却し、システム導入やアウトソーシングを活用することで、法令遵守と業務効率化を両立できます。
まずは現状の課題を整理し、段階的な改善計画を立てることから始めてみてはいかがでしょうか。
※ 掲載している情報は記事更新時点のものです。
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