• 更新日 : 2025年8月6日

労働保険の加入条件や義務、手続きをわかりやすく解説

労働保険の加入は、労働者を雇用するすべての事業者に求められる法的な義務です。とはいえ、「うちはアルバイトだけだから不要」「加入手続き方法がわからない」などといったこともあるでしょう。

本記事では、労働保険の加入条件・義務・手続きについて、わかりやすく解説します。

労働保険の加入条件とは?

労働保険は、労働者の生活と安定を支えるため、農林水産の事業の一部以外の、雇用形態にかかわらず労働者を1人でも雇用すれば企業に加入が義務付けられています。

ただし、週の所定労働時間が20時間未満の短時間労働者や31日以上の雇用見込みがない労働者、一部の学生、労働者性を持たない役員などは雇用保険の対象外となる場合があります。

労働保険(労災保険+雇用保険)とは

労働保険とは、「労災保険」と「雇用保険」の2つの総称を指します。事業主は、正社員やパート、アルバイトなど労働者を雇用する場合、原則としてこの2つの保険に加入することが義務となります。

労災保険は、業務中や通勤途中のけがや病気、死亡などに応じて給付される制度です。一方、雇用保険は、労働者が離職した際に失業手当や再就職支援、育児休業、介護休業を取得した場合に給付を行います。

この2つの保険は、「労働保険」としてまとめられ、加入や申告、納付などの事務手続きが一括で行われるようになっています。

出典:労働保険制度|厚生労働省

労働保険の加入は義務?違反した場合

労働保険は、「労働者災害補償保険法」および「雇用保険法」によって、労働者を雇用するすべての事業主に対して加入と保険料の納付が義務付けられています

未加入、または虚偽の申告をした場合、行政指導や監督署の是正指導に加え、以下のような罰則も科される可能性があります。

保険料をさかのぼって徴収される

保険料は最大で2年分さかのぼって徴収され、10%の追徴金も発生します。例外として、給与明細などで保険料控除(天引き)の事実が確認できる場合は、2年以上さかのぼって徴収されるというケースがあります。

延滞金が発生する

納付期限の翌日から3ヶ月を経過する日の翌日以降は年14.6%を上限とし、特例基準割合に基づき変動する利率が適用されます

悪質な場合は罰金が科される

6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科される場合があります。さらに、未加入状態では労災事故が発生した際に、事業主が国が負担すべき給付費用を肩代わりすることになり、大きな損害を被るケースも少なくありません。

出典:労働保険とは、加入の手続き、年度更新、労働保険料の延納|厚生労働省

労働保険の加入対象にならないケースもある?

労働保険は原則としてすべての労働者が対象ですが、働き方や事業形態によっては対象外となる場合もあります。

労災保険の対象外となるケース

労災保険は、正社員・パート・アルバイトなどの雇用形態にかかわらず、原則すべての労働者が対象です。ただし、働き方や事業形態によっては対象外となる場合もあります。

代表的な対象外のケースは次のとおりです。

  • 事業主本人(個人事業主)で従業員を雇っていない場合
    → 一人親方など特定の場合には労災保険の特別加入制度を利用できます。
  • 家族従業者のみで運営されている農業・林業・水産業などの一部特定業種
    → 特定の場合には労災保険の特別加入制度を利用できます。
  • 法人の代表取締役など、労働者性を持たない役員

雇用保険の対象外となるケース

雇用保険は、労災保険と異なり、働き方・契約内容・雇用期間の見込みによって明確な条件が設けられています。

以下の条件をいずれも満たさない場合、原則として雇用保険の加入対象外になります。

  • 週の所定労働時間が20時間未満の労働者:短時間就労者(パートタイマー)など
  • 継続で31日以上の雇用見込みがない労働者:日雇い労働者や短期契約の労働者など
  • 学生および生徒:夜間学部や通信制の在学者、定時制課程の在学者、卒業後も勤務する予定の学生などは雇用保険の対象となる場合もある
  • 会社の役員:労働者としての実態がある場合は加入対象となる場合もある

これらの条件に該当しない限り、正社員はもちろん、パートタイマーやアルバイトであっても、原則として雇用保険の加入対象となります。

労働保険の加入手続き

労働保険の手続きは、労働者を雇用した日から10日以内に、労働基準監督署やハローワークへ必要書類を提出して行います。流れと提出先を理解したうえで、期限に間に合うよう手続きを進めましょう。

労働保険の手続きの流れ

労働保険の加入手続きは、労災保険と雇用保険の両方に関する届出を行い、概算保険料を納付する流れで進みます。手順は以下のとおりです。

  1. 保険関係成立届を提出する(労災保険)
    事業所を設置し、労働者を雇用した日の翌日から10日以内に、所轄の労働基準監督署に「保険関係成立届」を提出します。これは、事業所が労働保険の適用事業となったことを届け出るものです。
  2. 概算保険料申告書を提出する
    保険関係成立届を提出する際、またはその後速やかに、所轄の労働基準監督署またはハローワークに「概算保険料申告書」を提出し、概算保険料を納付します。これは、その年度の保険料を事前に概算で納めるものです。提出期限は労働者を雇用した翌日から50日以内です。
  3. 雇用保険適用事業所設置届を提出する(雇用保険のみ)
    雇用保険に関しては、所轄のハローワークに「雇用保険適用事業所設置届」を設置した翌日から10日以内に提出します。これにより、事業所が雇用保険の適用事業所として登録されます。
  4. 雇用保険被保険者資格取得届を提出する(雇用保険のみ)
    従業員を雇用した際には、その従業員が雇用保険の加入条件を満たす場合、資格取得した日翌月10日までに所轄のハローワークに「雇用保険被保険者資格取得届」を提出します。

手続きが遅れると過去にさかのぼって保険料を徴収されることがあるため、注意が必要です。

労働保険の提出先

労働保険に関する届出の提出先は、保険の種類によって異なります。

  • 労災保険の届出先:事業所の所在地を管轄する労働基準監督署
  • 雇用保険の届出先:事業所の所在地を管轄する公共職業安定所(ハローワーク)

事業所の所在地によって所轄が異なるため、事前に最寄りの労働基準監督署・ハローワークを調べておきましょう。厚生労働省や各都道府県労働局の公式ホームページに情報が掲載されています。

労働保険の加入に必要な書類一覧

労働保険の加入手続きに必要な主な書類は以下のとおりです。

書類名保険種別提出先備考
保険関係成立届労災保険労働基準監督署事業開始・労働者雇用後10日以内に提出
労働保険概算保険料申告書労災保険・雇用保険 共通労働基準監督署年間の見込み賃金に基づいて保険料を納付
雇用保険適用事業所設置届雇用保険ハローワーク雇用保険の適用事業所登録に必要
雇用保険被保険者資格取得届雇用保険ハローワーク加入条件を満たす従業員が対象
法人登記簿謄本共通(法人向け)労働基準監督・ハローワーク法人設立の確認書類(写し可)
事業主の住民票共通(個人事業主向け)労働基準監督・ハローワーク事業主本人の確認資料
賃金台帳・出勤簿共通労働基準監督保険料算出の根拠資料として提出を求められる場合あり

その他、事業内容によって追加書類が求められる場合があります。

これらの書類は、厚生労働省やハローワークのウェブサイトからダウンロードできます。

出典:主要様式ダウンロードコーナー (労働保険適用・徴収関係主要様式)

労働保険の加入で注意したいポイント

労働保険の加入手続きは多岐にわたるため、いくつか注意すべきポイントがあります。これらのポイントを押さえ、スムーズな手続きと適正な保険料の納付に努めましょう。

期日厳守を心がける

労働保険に関する各種届出や保険料の納付には、それぞれ提出期限や納付期限が定められています。例えば、保険関係成立届は事業開始後10日以内、雇用保険被保険者資格取得届は雇用保険の資格取得の事実があった日から翌月10日以内が、原則の提出期限です。これらの期日を過ぎると、延滞金の発生や、行政指導の対象となる場合があります。

電子申請を活用して手続きを効率化する

提出書類が多く、手続きの煩雑さにお悩みであれば、電子申請(e-Gov)を活用しましょう。

厚生労働省が提供する「電子政府の総合窓口(e-Gov)」では、労働保険の各種届出がオンラインで行えます。メリットは以下のとおりです。

  • 基本24時間提出可能(※システム保守作業が入る時間帯は提出不可)
  • 郵送・窓口提出の手間を削減
  • 届出内容の控えや受付通知をすぐ確認できる

特に年度更新の時期は窓口が混雑するため、電子申請の活用で手続きの効率化を図りましょう。

参考:労働保険関係手続の電子申請について|厚生労働省e-Govポータル|厚生労働省

労働保険の加入状況を定期的に見直す

事業の拡大や従業員の増減に応じて、労働保険の加入内容を見直すことが求められています。例えば、以下のようなケースは注意が必要です。

  • 新しく従業員を雇った(雇用保険の資格取得届を忘れずに)
  • 労働時間が増えて雇用保険の加入条件を満たした
  • 従業員が退職した(資格喪失届の提出が必要)

これらのケースを十分に把握せずに放置すると、未加入や過少申告となり、後日まとめて追徴されることになります。定期的に労働者の雇用状況・労働時間・給与を確認し、保険の適用範囲に抜け漏れがないかを確認しておきましょう。

保険料の計算を正しく行う

労働保険料は、賃金総額に保険料率を乗じて計算します。この賃金総額には、基本給だけでなく、通勤手当や残業手当、賞与なども含まれることを理解しておきましょう。

賃金総額の算定を誤ると、保険料の不足や過払いが生じ、後に追徴金が発生することもあります。厚生労働省の公式ホームページで最新の保険料率を確認し、計算を正しく行いましょう。

参照:厚生労働省:労働保険料について

年度更新を忘れない

労働保険は加入時だけでなく、毎年6月1日から7月10日にかけて「年度更新」の手続きが必要です。これは、前年度の確定保険料を精算し、当年度の概算保険料を申告・納付する手続きです。

年度更新を怠ると、延滞金や追徴金が発生するだけでなく、雇用保険の各種給付に影響が出るリスクもあります。

特に労災事故が起きた際に、「未納で給付が遅れる」という問題につながるため、労働保険は加入後の継続管理も義務ということを意識しましょう。

また、2020年4月に資本金または出資金1億円超の法人は、労働保険の手続きにおける電子申請が義務化されました。「労働保険料年度更新申告書」は従来どおり送付されますが、電子申請でも詳細内容を確認し、期日までに必ず手続きを行いましょう。

労働保険の加入条件と申請方法を正しく押さえよう

労働保険の加入は、働く人の安心を支えます。正社員はもちろん、パートやアルバイトでも条件を満たせば対象となるため、事業を始める際には速やかに手続きすることが必要です。

特に年度更新を忘れたり、書類の提出が遅れたりすると、給付トラブルや延滞金の原因にもつながります。

電子申請の義務化対象となる法人は、紙の提出が認められない点にも注意しましょう。加入の有無は助成金申請にも影響します。労働保険制度の仕組みをしっかり理解することが重要です。さらに加入状況を定期的に見直すことが、従業員の信頼と安定した経営につながります。


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